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脱炭素とは?必要性や世界各国の目標などの基礎知識から国・自治体・企業での取り組みまで解説

カーボンニュートラル サステナビリティ入門 事例
目次

私たちの経済活動や日常生活にともなって排出される温室効果ガスは、気候変動の原因のひとつになっています。そのため、世界各国ではその削減に向けて様々な取り組みが進められています。

今回は、温室効果ガス排出量の削減のために注目されている「脱炭素」について解説し、脱炭素の定義から国内外の現状、脱炭素化に向けた具体的な取り組みまで紹介します。 

「脱炭素」とは 

工場から排煙が出ているはじめに脱炭素の定義と、取り組みが求められるようになった背景について解説します。

温室効果ガスの排出を「実質ゼロ」にする取り組み

脱炭素とは、『二酸化炭素などの温室効果ガスの排出を「実質ゼロ」にする取り組み』(カーボンニュートラル)のことです。

私たちが生活し、経済活動をおこなううえで、温室効果ガスの排出を完全になくすことはできません。その前提にもとづいて生み出されたのが「カーボンニュートラル」の概念です。「実質ゼロ」には、森林などによる「吸収量」、さまざまな技術活用による「除去量」を高め、温室効果ガスの排出量と吸収量・除去量の双方を均衡させることで「排出を実質ゼロにする」という意味が込められています。


カーボンニュートラルとは?意味や取り組みをわかりやすく解説|サスティナビリティハブ

世界各国で地球温暖化対策が本格化するなかで、「カーボンニュートラル」という言葉が多く取り上げられるようになりました。今回はカーボンニュートラルの言葉の意味から、実現に向けた日本の取り組み、課題まで詳しく解説します。

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温室効果ガスには、CO₂、メタン(CH4)、一酸化二窒素(N₂O)、フロン類など複数の種類がありますが、温室効果ガスの総排出量において、CO₂の占める割合が76%と最も高いことから、温室効果ガス削減の取り組みでは、主にCO₂排出量の削減に重点が置かれています。

脱炭素化が求められている理由

全世界で脱炭素化が求められるようになった背景には、地球温暖化の進行があります。近年では気候変動が原因とみられる自然災害も頻発し、その結果、農作物収量の不安定化による食糧危機が起こるリスクも表面化してきました。また、気候変動による主なリスクとして、沿岸・島しょ部での海面上昇や、都市部での洪水・豪雨、陸や海の生態系の損失、水不足やインフラ機能の停止なども指摘されています。

このような事態の深刻化を防ぐため、世界が一丸となり、温室効果ガスの排出削減に取り組む必要性が認識されてきています。  

脱炭素に向けた世界の動向

人々が地球を支える

脱炭素にむけて世界が動き出したきっかけとなったのが、2015年のCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)において採択されたパリ協定です。米国や中国といった主要排出国を含む159の国と地域が参加し、「産業革命後と比較して世界の気温上昇を2℃以内に抑える」という長期目標が設定されました。これを機に、かつて掲げられていた「低炭素社会」以上となる「脱炭素社会」の実現を、世界共通のゴールとして目指すようになったのです。

その後、世界各地で洪水や熱波などによる被害が増加したことや、科学的な知見の蓄積により、2℃目標では不十分という考えが広がりました。こうした背景により2021年のCOP26において気温上昇を1.5℃にとどめる努力を追求することが合意されています

世界各国の目標

脱炭素社会の実現に向けて各国が掲げるCO₂排出量の削減目標は次の通りです。

目標
日本
 ・2030年までに▲46.0%(2013年度比)
 ・2050年カーボンニュートラル(法定化)
アメリカ
 ・2030年までに▲50~52%(2005年比)
 ・2050年カーボンニュートラル(大統領公約)
イギリス
 ・2030年までに少なくとも▲68.0%(1990年比)
 ・2050年カーボンニュートラル(法定化)
EU
 ・2030年に少なくとも▲55%(1990年比)
 ・2050年カーボンニュートラル(長期戦略)
中国
 ・2030年頃にCO2排出量のピークを達成
 ・2030年までにGDPあたりのCO2排出量を▲60~65%(2005年比)
 ・2060年カーボンニュートラル(国連演説)

* アメリカはトランプ政権時にパリ協定から離脱していましたが、バイデン政権発足直後の2021年2月に復帰し、同時に目標は、以前の「2005年比▲26〜28%」から、「2050年カーボンニュートラル」へと、より厳しい水準に見直されています。

各国が表明した中期目標は様々ですが、カーボンニュートラルの実現に向けて、「電化」・「水素化」・「CCUSの活用」を進めていくことや、「革新的なイノベーションが欠かせない」という点では共通しており、長期的な政策の方向性は世界各国で一致しています。

(参照:資源エネルギー庁「脱炭素を巡る世界の動向」)


CO₂排出量削減に向けて注目されるCCS・CCUSとは?基礎知識を解説|サスティナビリティハブ

2050年カーボンニュートラルの実現に向け、世界各国においてCO2排出量を削減するための対策が進められています。CO2排出量を削減する方法には、「1.低炭素化技術や再生可能エネルギーなどを導入することでCO2の排出量自体を減らす」方法、もしくは「2.排出されたCO2を回収して大気中のCO2濃度を増加させない・減少させる」方法があります。 この記事では、2つ目の「2.排出されたCO2を回収して大気中のCO2濃度を増加させない」方法をテーマに、回収技術が求められる背景と、近年注目されているCCS・CCUSという概念について解説します。

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一方で、中期目標の達成にはCO₂排出量の大幅な削減が必要であることから、各国はそれぞれの産業構造の特徴に応じて、必要な部門に重点的に追加の対策を講じようとしています。

各国の2050年目標達成に追加的に必要なCO2削減量の部門別比率グラフ出典:資源エネルギー庁「脱炭素をめぐる世界の動向」(最終アクセス 2023/5/12)

例えば、中国や日本では、産業部門におけるCO₂排出量が最も多いため、産業の脱炭素化に向けた政策に重点が置かれています。また、国土面積が広く自動車大国であるアメリカでは、運輸部門の脱炭素化が鍵になります。EUは他国と比較すると民生部門(*)の割合が高いことから、既存の住宅やビル等の省エネ改修を促す規則・制度や資金支援の取り組みがおこなわれています。

*民生部門は家庭部門と業務部門(企業の管理部門等のビル、ホテル、百貨店、病院など)の2部門で構成

世界全体のCO₂排出量

では、各国の取り組みを受けて、世界全体のCO₂排出量はどのように推移しているのでしょうか。

2020年は、新型コロナウイルスの流行による経済活動の停滞を背景に電力需要が低下し、 CO₂の排出量は前年比で5.8%減少しました。2021年は、経済活動の回復によるエネルギー需要の拡大を受け、前年比で6%増加し、さらに翌年の2022年には、前年比0.9%増の36.8Gtに達し、史上最高値を記録することとなりました。しかし、国際エネルギー機関(IEA)は、「再生可能エネルギー発電の発展* やクリーンエネルギー技術の導入により、予測値の3分の1に留まった」とも述べています。

* 世界の再生可能エネルギー発電の伸びは2021年に過去最大となり、2022年は前年の90%に達しています。

CO₂排出量の増加に歯止めをかけるという意味において、各国の取り組みは一定の成果を出しているといえそうです。一方で、化石燃料由来のCO₂排出量は依然として増加傾向にあることから、IEAはクリーンエネルギーへの転換のさらなる加速を呼び掛けています。

(参照:国際エネルギー機関「Global Energy Review 2021」、同「CO2 Emissions in 2022」)

メタン排出量の削減に向けた取り組み

近年、温室効果ガス総排出量の約16%を占め、CO₂の約28~84倍の温室効果があるとされているメタンについても、排出量の削減に向けた動きが加速しています。バイデン大統領が2021年に「EUとともに2030年までにメタン排出量を2020年比で少なくとも30%削減する」ことを宣言し、各国へこの目標への参加を呼びかけたことがきっかけとなりました。同年に開催されたCOP26、2022年のCOP27を経て、現在150ヵ国以上が世界協定に調印しています。

メタンのおもな排出源は、石油や天然ガスのプラントからの漏出や、牛のゲップや稲作などの農業起源だといわれており、各国では、エネルギー部門と農業部門に対するメタン排出に向けた規制案の策定が進められています。

脱炭素に向けた日本の長期的ビジョン

日本の温室効果ガス排出量グラフ出典:環境省「2020年度温室効果ガス排出量 概要版」
(最終アクセス 2023/5/12)

日本は2050年までに脱炭素社会を実現するため、「CO2排出量を2030年度までに2013年度比で46%削減する」という中期目標を掲げています。様々な取り組みの結果、日本の温室効果ガス排出量は、2013年の14億900万トンをピークに減少を続け、 2020年の排出量は11億5,000万トンで、2013年比で18.4%、前年比では5.1%の削減に成功しています。

(参照:地球環境研究センター「日本国温室効果ガスインベントリ報告書 2022年」)

このように温室効果ガスの排出量は減少を続けていますが、2050年までに排出量実質ゼロを実現するには、さらなる取り組みが必要です。そこで政府は、「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略(2021年10月22日)」を閣議決定し、排出源対策において「エネルギー」「産業」「運輸」「地域・くらし」の各部門と、「吸収源対策」において、長期的ビジョンを次のように示しました。

エネルギー

日本の温室効果ガス排出量のうち約85%を占めるのが、火力発電をはじめとしたエネルギー起源のCO₂です。そのため、エネルギー部門における対応は特に重要だと考えられています。

エネルギー起源CO₂排出量の削減に向けては、「エネルギー供給の低炭素化」と「省エネルギー化」の2本柱で対策を進め、「エネルギー供給の低炭素化」では、再生可能エネルギーや原子力発電といった非化石電源比率の引き上げや、低炭素燃料への転換などを積極的に進め、2030年には非化石電源比率を59%まで引き上げることを見込んでいます

産業

産業部門から排出される温室効果ガスの大部分は、発電および熱発生にともなうエネルギー起源のCO2です。そのため、「徹底した省エネによるエネルギー消費効率の改善」に加え、「熱需要や製造プロセスそのものの脱炭素化」が重要になります

また、多くの産業分野においては「技術・経済的な観点から、現実的に採用できる既存の代替プロセスが存在しない」という課題があります。そのため、これまでの技術の延長線上にはないイノベーションを通じて、新たな生産プロセスを確立し、「脱炭素化ものづくり」の実現を目指しています。

加えて、国内での排出量が増加傾向にある「代替フロン」においても、国際的な枠組みである「モントリオール議定書キガリ改正」に基づき、代替フロンの生産量・消費量を段階的に削減するとともに、「グリーン冷媒(*)機器」の普及を進めることで、2050年に向けてさらに消費量を削減していく予定です。

* ノンフロンや地球温暖化係数(GWP)の低いCO₂やアンモニアなどの代替ガス

運輸

運輸部門からのエネルギー起源二酸化炭素排出量の内訳グラフ出典:環境省「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」(最終アクセス 2023/5/12)

運輸部門からのエネルギー起源CO₂排出量の約86%を占めるのが、自動車です。一方で、次世代自動車(*)の新車販売台数は、全体の約4割にとどまっているため、ガソリン車・ディーゼル車から電動車への転換」が、運輸部門のキーポイントになっています

* ハイブリッド自動車(HV)、電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド自動車ハイブリッド自動車(HV)、燃料電池自動車(FCV)、クリーンディーゼル自動車


燃料電池車(FCV)のライフサイクルCO₂から水素のサステナビリティを考える|サスティナビリティハブ

水素(H₂)は、環境負荷の少ないサステナブルな燃料の一つと言われています。しかし、水素の製造方法によっては、環境にやさしいと言えなくなってしまう場合もあります。 今回は、水素を燃料とする燃料電池車(FCV:Fuel Cell Vehicle)のライフサイクルにおけるCO₂排出量から「究極にサステナブルな水素」とはどんな水素なのか考えてみましょう。

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地域・くらし(*)

人口減少・少子高齢化が進行する日本においては、地域資源を持続可能な形で活用し、都市と農山漁村のネットワークにより、地域経済を活性化させながら脱炭素を目指しています。

*「地域・暮らし」には、エネルギー起源CO₂排出量のうち、家庭部門、業務・その他部門、農林水産業、建設業およびそれらと一体的に促進するエネルギー転換部門および都市構造を含む。また、メタン・一酸化二窒素のうち、農業分野および廃棄物分野を含む。

吸収源対策

日本の国土の7割を占める森林は、温室効果ガスの吸収源として重要な役割を果たしている一方、人工林の高齢級化にともない、森林によるCO₂吸収量は減少傾向で推移しています。

そこで、「森林吸収源対策」を中心に、「農地への炭素貯留」、「都市の緑地保全と創出」、「自然環境における生態系の保全と再生」、「大気中からのCO₂直接回収」の5つの視点で対策を進めていく方針です。


森林再生パートナー活動 ~人と地球の豊かな未来づくりのため〜|サスティナビリティハブ

SDGsの15個目に掲げられている「陸の豊かさも守ろう」の目標達成に向け、世界各国で様々な取り組みが進められています。 国土面積の約2/3を森林が占める森林大国・日本においても森林の減少を食い止め、持続可能な自然を守ることはとても重要です。 その中で、企業はどのように貢献できるのでしょうか。今回は日本の森林の現状や森林分野における企業の取組事例、また実際の活動についてご紹介します。

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脱炭素の実現に向けた日本の課題

お椀状にした両手の中で育つ木

エネルギー起源のCO₂排出量が全体の約85%を占め、そのうち産業部門からの排出量が約4割を占める日本において、脱炭素社会に向けたCO₂排出量の削減の鍵を握るのが、「エネルギー供給の脱炭素化」と「産業の脱炭素化」です。これらの実現に向けて解決していかなければならない課題を詳しく見ていきましょう。

再生可能エネルギーの主力電源化

2050年カーボンニュートラルを実現するためには、再生可能エネルギーの主力電源化が欠かせません。政府は再生可能エネルギーの導入を最優先で進め、2030年には再生エネルギーの電源構成比率を22~24%に引き上げることを目標としています。

一次エネルギー供給と電源構成比率グラフ出典:資源エネルギー庁「2020-日本が抱えているエネルギー問題(後編)」(最終アクセス 2023/5/12)


再生可能エネルギーとは?メリットと課題、推進の取り組みを解説|サスティナビリティハブ

環境に優しくクリーンなエネルギー源として期待されている「再生可能エネルギー」。再生可能エネルギーの導入は、今多くの企業に注目されている取り組みの一つです。今回は、再生可能エネルギーの基礎知識からメリットと課題、推進するための取り組みまで詳しく解説します。

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しかし国内の再生可能エネルギーの大半を占める太陽光発電や風力発電には、

  • 出力が天候をはじめとした自然条件に左右されるため、「調整力」となるほかの電源が必要
  • 平地が少ないという国土の特徴により、導入可能な地域が限られている
  • 需要地に送電するために、送電網の整備が必要になるケースがある
  • 災害などが発生した際に、電力システムの安定性を保つのが難しい
  • 普及に向けては、農業や漁業などとの共存をいかに図るか、地域からの理解をいかに得るか、といった社会的な制約も存在する

など、安定供給の面で課題があります。

(参照:資源エネルギー庁「2050年カーボンニュートラルに向けた我が国の課題と取組」)

こうした課題に対応するため、調整力としての蓄電池や水素の活用や、送電網に関するマスタープランの策定を進めていく予定です。また、立地制約の克服に向けては「次世代型太陽電池」、「浮体式洋上風力発電」といった革新技術の開発も期待されています。

※水素の活用についての詳しい解説や、太陽光発電への取り組みについては、下記をご覧ください


水素とアンモニアの本当の話 ー第1回- 水素エネルギーとは|サステナビリティハブ

水素、アンモニアの導入に向けたその後の動向を織り交ぜながら、水素、アンモニアの導入を考える際に重要と思われる問題について解説します。

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日揮グループの太陽光発電への取り組み〜確かな実績と技術力で「脱炭素化」に貢献〜|サスティナビリティハブ

脱炭素への取り組みが地球規模での課題となった近年、先進各国は再生可能エネルギー(再エネ)の主力電源化に舵を切っています。日本においては、そのリードタイムの短さとFIT制度*における買取価格の高さから、「太陽光発電」が10年来の再エネ普及を牽引してきました。 日揮グループの太陽光発電普及に関する取り組みは、2000年初頭の建築系プロジェクトにおける省エネ・創エネ提案から始まりましたが、医薬品工場や病院向けの太陽光パネルの屋上設置において実績があります。 そこで今回は、「日揮グループの太陽光発電への取り組み」のこれまでとこれからを詳しくご紹介していきます。

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火力発電の脱炭素化

火力発電は、電力の安定供給や電力レジリエンスを支えてきた重要な供給力であるとともに、再生可能エネルギーの調整力としての機能も持っています。そのため、安定供給を確保しつつ、再生可能エネルギーの供給源としての機能をいかに脱炭素電源に置き換えていくかが鍵となります。

火力発電の脱炭素化に向けて、現時点では、燃料そのものを燃焼時にCO₂が発生しないという特徴を持つ「水素・アンモニア」に置き換えることや、排出されるCO₂を回収・貯留・再利用する「カーボンリサイクル」、排出されたCO₂に水素を添加しメタンに変える「メタネーション」が、最も実現性の高い選択肢だと考えられています。

2050年ガスのカーボンニュートラル化の実現に向けた姿

2050年ガスのカーボンニュートラル化を実現する新技術によるガスの構成グラフ出典:資源エネルギー庁「ガスのカーボンニュートラル化を実現するメタネーション技術」(最終アクセス 2023/5/12)

水素およびアンモニア発電については、2050年には電力システムの中の主要な供給力・調整力となるよう、技術的な課題の克服を進める必要があり、政府は民間企業と連携しながら、技術開発・実証の支援を積極的に進めています。


燃料アンモニアがサステナブルな世界を作る?注目される理由と可能性|サスティナビリティハブ

世界規模で脱炭素が叫ばれる中、従来の化石燃料に代わる次世代燃料に注目が集まっています。 特に資源が乏しく、化石燃料の調達も輸入に頼らざるを得ない日本において、次世代燃料の開発と実用化は急務となっています。そこで注目されているのが、水素やアンモニアなどのCO₂を排出しないカーボンフリーな燃料です。 この記事では、水素とアンモニア、特に燃料アンモニアにフォーカスして解説していきます。

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製造業の脱炭素化

産業部門のエネルギー起源CO2排出量構成比グラフ出典:環境省「2020年度(令和2年度)温室効果ガス排出量(確報値)について」(最終アクセス 2023/5/12)

2020年の産業部門のCO₂排出量を見ると、製造業からの排出が全体の約9割を占めていることが分かります。そして、2050年カーボンニュートラルを実現するためには、特に製造プロセスで大量の熱エネルギーを必要としながらも、経済的・熱量的・構造的な理由で完全な脱炭素化が難しい鉄鋼業、化学工業、セメント製造業からのCO₂排出量削減をどのようにして達成するのかが喫緊の課題となっています。

そのため、さらなる省エネ化とCO₂排出量の低減に向けて革新的な技術開発が求められており、現時点では、製造プロセスで排出されるCO₂を回収・貯蔵する「CCS/CCUS」、回収したCO₂を水素と反応させてメタンにする「メタネーション」、そしてそのメタンを製造用の熱エネルギーとして再利用する方法などが、有力な選択肢として考えられており、技術開発が進められています。

また、各業界においては、脱炭素化された新しい製造プロセスの実現に向け、次のような技術開発への取り組みがスタートしています。

製鉄業

鉄鉱石の還元プロセスにおいて使用するコークスの一部を、コークス製造時に出るメタンから取り出した水素で代替する「水素還元製鉄」。

化学工業

製造工程で発生するCO₂と、光触媒によって水から取り出した水素を活用し、プラスチックなどの原料となる化学品を合成する「人口光合成」。

セメント製造業

コンクリートの製造過程で原料に液化したCO₂を混ぜ込み、それにより生成される炭酸カルシウムの効果で強度を高めた「低炭素コンクリート」。コンクリートなどの廃材からカルシウムを取り出し、セメントの製造工程で発生するCO₂を吸着させて「炭酸塩(CaCO3)」にすることで、セメントの主原料である石灰石の代替(人口石灰石)を生成する「CO₂回収型セメント」。

脱炭素の実現に向けた取り組み

2050年までの脱炭素社会の実現に向けて国が示したビジョンや施策の方向性を受け、具体的にはどのような取り組みがおこなわれているのでしょうか。 国・地域・企業の3つの視点から解説します。

国の取り組み

法案を策定している

脱炭素社会の実現に向けて、日本ではどのような取り組みがおこなわれているのか、6つの事例を紹介します。 

1.地球温暖化対策の推進にまつわる法の整備

2021年に成立した「改正地球温暖化対策推進法」は、脱炭素社会の実現に向けた取り組みやイノベーション・投資を加速させると共に、地域における再生可能エネルギーの活用、また、企業の脱炭素経営を推進するための法律です。

具体的には、「地域の再生可能エネルギーを活用し、脱炭素化を促す事業に対する認定制度の整備・導入の促進」や、「温室効果ガスの排出量情報をオープンデータ化し利便性を向上する取り組み」などが施策として挙げられています。 

2.地域脱炭素ロードマップの策定

「地域脱炭素ロードマップ」とは、「地方からはじまる、次の時代への移行戦略」をキーメッセージとして、「脱炭素化を国全体として取り組むうえで2030年までに集中しておこなう内容」を示したものです(2021年6月策定)。

ロードマップに記された脱炭素の具体策とその工程のうちの1つとして、「2030年度までに少なくとも100か所以上の『脱炭素先行地域』をつくる」が掲げており、自家消費型太陽光発電や省エネ住宅、電気自動車の普及といった重点施策を全国各地で実施する方針を示しています。

3.脱炭素化ガイドラインの策定

環境省は、企業による脱炭素化への取り組みを促進するため「中小規模事業者のための脱炭素経営ハンドブック」を作成・公開しました。さらに、「TCFDに沿った気候リスク・機会のシナリオ分析支援事業」や「サプライチェーン全体の脱炭素化に向けた支援事業」「中長期の温室効果ガス削減目標に向けた支援事業(中小企業向け)」なども実施し、企業の脱炭素化を積極的に支援しています。

(参照:環境省「脱炭素経営の広がり」)

4.グリーンファイナンスの推進

脱炭素経営へ取り組む企業に対する資金面での支援として、環境省では「地域炭素投資促進ファンド事業」や「グリーンボンド発行促進体制整備支援事業」など、環境に良い効果を与える投資への資金提供を実施しています。「令和4年度財政投融資計画」では、これらの支援事業を実施する機関へ200億円の予算が計上されました。

5.カーボンプライシングの検討

「カーボンプライシング」とは、「CO2に一定の価格をつけ、排出者の行動を変容させる政策手法 」のことです。

CO₂の排出量に応じた「炭素税(地球温暖化対策税)」を徴収する、企業ごとに一定の排出量上限枠を定め、上限を超過した場合は、企業間で排出権を売買する「国内排出量取引」を実現するといった方法があります。 


インターナルカーボンプライシングとは?導入事例や価格の目安を解説|サスティナビリティハブ

インターナルカーボンプライシングは企業内部で独自に設定・使用する炭素価格のことで、自社の経営を低炭素、脱炭素にシフトしていくためのツールとして注目されています。この記事ではインターナルカーボンプライシングの基礎知識、導入方法や企業による事例について解説します。自社での導入を任された方や、インターナルカーボンプライシングを導入している事業者向けに自社ソリューションを提案したい方は、是非参考にしてみて下さい。

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6.国際協調

脱炭素社会の実現は地球規模の課題であることから、日本が単独で取り組むだけでなく、国際的な温暖化対策協議の場へ参画するなど、世界と歩調を合わせ、具体的な方向性を共有しています。  

また、「二国間クレジット制度」(Joint Crediting Mechanism:JCM)の活用も、積極的に推進しています。これは、途上国と協力しながらCO₂排出削減に取り組み、その成果を両国で分け合う制度です。

日本が途上国に対し、温室効果ガス削減の技術や製品、システム、サービス、インフラ等の普及や対策実施をおこない、その結果削減されたCO₂排出量が、日本の削減目標達成に活用される仕組みです。各国との調印を着実に進めており、現在は25か国との調印をおこなっています(2022年11月時点)。

地域の取り組み

街中を走るEVバス

脱炭素社会を目指した具体的な取り組みは、市区町村といった地域単位でもおこなわれています。

1.ゼロカーボンシティの表明

ゼロカーボンシティは、脱炭素社会の実現に向け、「2050年二酸化炭素実質排出量ゼロ」に取り組むことを表明した地方公共団体のことです。

2023年1月時点では、46都道府県、500以上の市区町村がゼロカーボンシティの表明をおこない、環境省の支援を受けながら脱炭素化の取り組みを進めています。 

ゼロカーボンシティを表明した地域出典:環境省「地域脱炭素」(最終アクセス 2023/5/12)

各都道府県および市区町村が実施している具体的な取り組みの内容については、環境省が取りまとめた「2050年二酸化炭素排出実質ゼロに向けた取組等」で確認することができます。 

2.脱炭素先行地域の創出

国が策定した「地域脱炭素ロードマップ」で具体的な施策として提示されている「脱炭素先行地域」の創出が進められています。地元企業と連携し、再生可能エネルギーによる発電設備の導入や省エネ住宅の普及促進や、EVおよびプラグインハイブリッド車の積極導入などを、地域の気候特性も加味しておこないます。地域の脱炭素モデルを作り、全国に広げる役割を担うことが最終的な目標です。 

企業の取り組み

4人のビジネスパーソンがオフィスで会議

脱炭素社会の実現にあたっては、国や自治体だけでなく、民間企業の協力や連携も欠かせません。 ここでは企業による取り組みを見ていきましょう。

1.国際的なイニシアティブへの参加

RE100とは、企業が「自らの事業の使用電力を100%の再生可能エネルギーでまかなうこと」を目指す、国際的なイニシアティブのことです。日本はこのイニシアティブに77社が参画しており、1位のアメリカに次ぐ数字となっています。


RE100とは?意味・読み方や国内外の加盟企業をわかりやすく解説|サスティナビリティハブ

再生可能エネルギーのさらなる拡大が求められている今、「RE100」という再生可能エネルギー拡大を目指す、国際的なイニシアティブへ加盟する企業が増えてきました。 今回は「RE100」の基礎知識として覚えておきたい内容を紹介するとともに、日本と世界の加盟企業、企業がRE100に加盟するメリットや加盟方法についても解説します。

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またそれ以外にも、科学的な観点のもと企業が設定した、温室効果ガスの排出目標と達成に向けた国際イニシアティブ、SBTがあります。日本からは350社が参画しており、これはイギリスと並ぶ世界第1位(2022年12月時点*)です。

(*参照:環境省「脱炭素経営の広がり」、同「企業の脱炭素経営への取組状況」) 

現在、ESG投資は世界の投資家から注目されており政府も推進している立場にあります。企業が脱炭素経営に取り組むことは、持続可能な成長を遂げられる企業であるとステークホルダーにアピールし、企業価値を高める意味合いもあるといえます。

2.設備・技術の導入

太陽光発電などの再生可能エネルギー発電設備の導入や、ビル内の電力監視とエネルギー消費内訳を分析し、ピーク時間帯の消費電力を削減する技術を導入を通して、脱炭素化を進める企業もあります。

さらに身近な方法としては、屋根や外壁へ遮熱性の高い塗料を塗布し空調効率を高める、二重ガラスを採用し断熱性を高めるといった設備の改善も効果的です。

3.オフィス環境や業務の見直し

拠点ごとのCO₂排出量の可視化やペーパーレス化、LED照明導入、センサーによる照明・空調の制御、照度や室温設定の見直しなど、オフィスの脱炭素化につながる取り組みは多岐に渡ります。 

なお、各業界における具体的な取り組み事例については、こちらの記事をご覧ください。 


【4つのメリット】カーボンニュートラルに企業が取り組む理由とは?|サスティナビリティハブ

環境問題の文脈で注目を集める「カーボンニュートラル」。今回は、カーボンニュートラルに企業が取り組む意義と具体的な取り組み事例を解説。さらに、取り組みを進める手順もあわせてご紹介します。

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まとめ 

脱炭素とは、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出「実質ゼロ」を目指す取り組みのことです。

日本では「2030年度までに46%削減(2013年度比)、2050年に脱炭素社会の実現を目指す」ことが目標として掲げられており、それに向けて国、地域、企業が様々な可能性を模索しながら、脱炭素の取り組みを進めています。 皆さまのご参考になりましたら幸いです。

サステナビリティハブ編集部
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サステナビリティに関する情報を、日本から世界に発信していきます。

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