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カーボンニュートラルとは?意味や取り組みをわかりやすく解説

カーボンニュートラル サステナビリティ入門
目次

世界各国で地球温暖化対策が本格化するなかで、「カーボンニュートラル」という言葉が多く取り上げられるようになりました。言葉は耳にしたことがあっても、具体的な意味まではわからないという方も多いのではないでしょうか。 

今回はカーボンニュートラルの言葉の意味から、実現に向けた日本の取り組み、課題まで詳しく解説します。

「カーボンニュートラル」の意味とは? 

カーボンニュートラル

はじめに「カーボンニュートラル」とは何を指す言葉なのか、その意味を解説するとともに、世界的にカーボンニュートラルが求められるようになった背景についてご紹介します。 

温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすること

カーボンニュートラルとは「温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすること」を意味する言葉です。

温室効果ガスとは、CO₂のほかにメタンや一酸化二窒素、フロンガスなど、太陽光で温められた熱の一部を吸収して地表付近を温める性質を持つガスのこと。これらのガスは濃度が高くなりすぎると地球温暖化を引き起こす原因となるため、世界各国が排出量削減に取り組んでいます。しかし人類が地球で生活を営む以上、排出を完全になくすことはできません。

そこで「排出量」と「森林などによる吸収量・技術活用による除去量」を均衡させてその差をゼロに、つまり “ニュートラル” の状態にすることが目指されているのです。 

2020年10月、当時の菅内閣総理大臣が所信表明演説でこの言葉を用い、「2050年までにカーボンニュートラルの社会を目指すこと」を国会で正式に宣言しました。これを機に日本のメディアでは「カーボンニュートラル」という言葉が頻繁に用いられるようになり、今では世の中に広く定着しつつあります。

カーボンニュートラルが求められる理由

なぜ今、カーボンニュートラルが求められるようになったのでしょうか。

一番の理由は、地球規模で平均気温が上昇し続けていることです。気象庁の統計によると、日本の平均気温は1898年の統計開始以来100年あたり1.28℃の割合で上昇していることが分かっています。また世界の平均気温も、19世紀半ばと比較して約1℃上昇しました。 

(参照:気象庁「日本の年平均気温」、IPCC「第6次評価報告書」) 

このままでは平均気温が上昇を続けて気候変動が加速し、災害の頻発や農作物の収量低下など、深刻な被害をもたらすと予想されています。

これを受け、2015年には「パリ協定」が採択され、以下の長期目標が掲げられました。 

  • 世界的な平均気温上昇を産業革命以前にくらべて2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求すること 
  • 今世紀後半に温室効果ガスの人為的な発生源による排出量と吸収源による除去量との間の均衡を達成すること 

これらを達成するために、日本を含む120以上の国と地域が「2050年カーボンニュートラル」を宣言しているのです。 

カーボンニュートラルの課題と問題点 

カーボンニュートラルは世界各国が実現を目指す一つのゴールではありますが、様々な課題や越えなければならないハードルがあることも事実です。課題として挙げられる4つの観点をご紹介します。 

基準設定・検証が難しい

先進国の場合、国内には既に交通インフラなどが整備されているため、温室効果ガスの排出量は減少傾向にありますが、開発途上国ではインフラ整備のために排出量が増加する傾向があります。 

また人件費の安さなどから、先進国の企業が開発途上国に生産拠点を置いているケースも。この場合、他国へ輸出される製品の生産過程で排出された温室効果ガスが、生産拠点となる開発途上国の排出量として計算されてしまうことにつながります。 

排出基準を数値で表すことは難しく、基準が曖昧で不平等であればあるほど、その検証も不平等なものとなってしまいます。カーボンニュートラルを実現するためには、「各国が」ではなく「世界全体で」どれだけ排出量を削減できたかに目を向け、協調していくことが求められています。

再生可能エネルギーはコストが高い

カーボンニュートラル実現に向けて、CO₂を排出しない「再生可能エネルギー」の活用に注目が集まっていますが、その普及に向けてはコストをはじめとした多くの課題があります。

特に日本は国土が狭く、再生可能エネルギーの発電に適した土地が限られているほか、台風や地震といった災害も多いため、設備の維持や修理に多額のコストがかかります。また屋根や屋上、山間部の斜面などのスペースを活用するにあたっては、専用の架台などが必要となりイニシャルコストが増大します。このような理由から、日本における再生可能エネルギーの発電コストは海外にくらべて高く、電気料金が割高になるリスクがあるなど、発電事業者・消費者に選ばれる電力源になるには時間がかかると言えるでしょう。



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再生可能エネルギーは電力量が安定していない 

電力量の不安定さも、再生可能エネルギーの普及における課題の一つです。 

太陽光発電や風力発電などの発電量は、季節や天候、立地などの条件によって大きく変動します。例えば、ソーラーパネルに雪が積もってしまうと十分な発電量が得られないため、豪雪地帯では冬季の発電効率が低下します。また時間帯によって日陰ができる場所でも、発電効率が低下する傾向があります。 

この時需要と供給のバランスが崩れれば、大規模な停電などにつながりかねません。電力不足時にはほかの発電で不足分を補ったり、蓄電池などを活用した電力システムの最適化を行ったりと、工夫が求められます。 

日本のカーボンニュートラルに向けた取り組み 

様々な課題や問題点があるなかでも、カーボンニュートラルの実現に向けた具体的な取り組みが行われています。ここからは、日本の削減目標と取り組みについてご紹介します。

2030年:2013年度比で46%削減

2021年4月、政府はカーボンニュートラルの実現に向けた中期的な目標として「2030年度に2013年度比で温室効果ガス排出46%削減、更に50%の高みに向けて挑戦を続けていくこと」を打ち出しました。 

これを達成するための具体的な対策として、エネルギー基本計画を見直し非化石エネルギーを拡大させる方針を決定。将来的に再生可能エネルギーを主力電源とするために、FIT・FIP制度の運用によるコスト削減や、地域住民の理解を得るための安全対策の強化に取り組んでいくとしています。



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2050年:カーボンニュートラルの実現

2030年をターゲットとした目標はあくまでも中期目標であり、最終的な目標は2050年までにカーボンニュートラルを実現することです。この目標をクリアするために、カーボンニュートラル実現に向けた民間企業のイノベーションを促し、日本の経済成長と環境保全の好循環を生み出そうと策定されたのが「グリーン成長戦略」です。 

温室効果ガスの排出削減に不可欠な産業を「エネルギー関連産業」「輸送・製造関連産業」「家庭・オフィス関連産業」の3つに分類し、それぞれの産業を細分化し14の重要分野を設定しました。これらの分野ごとに2050年までの工程表を作成して、1.研究開発 2.実証 3.導入拡大 3.自立商用 の4段階を整理し、カーボンニュートラルに向けた実行計画を実施していくとしています。

カーボンニュートラルを実現するために必要なこと 

カーボンニュートラルを実現するためには、温室効果ガスの「排出量削減」と「吸収源の保全や強化」が欠かせません。国や企業が連携しながら様々な取り組みを進めています。

省エネルギーの推進

最も身近で手軽にできるのが、エネルギー資源を効率的に使うこと=省エネルギーの推進です。

照明や空調などの電源をこまめに切ることはもちろんですが、省エネ性能の高い製品に買い替えることも有効な対策の一つ。断熱性能の高い二重ガラスを採用したり、屋根や壁などに遮熱塗料を塗布したりすることも空調効率アップにつながります。

エネルギーの低炭素化

発電・使用時のCO₂排出量をできる限り削減するために、石油や石炭といった従来型のエネルギーから脱却し、再生可能エネルギーへの切り替えを進めることも重要なポイントです。太陽光や風力といった定番のエネルギー以外にも、木屑や可燃ゴミを燃やす際の熱を利用するバイオマス発電や林農資源を活用した再生可能エネルギーも存在します。

CO₂の吸収・回収・貯留・有効利用 

温室効果ガスの排出を完全にゼロにすることは不可能なため、排出量を抑えるだけでなく、吸収したり処理したりしていく取り組みも重要です。具体的にはCO₂を吸収する植林活動や森林管理などが挙げられます。 

また、廃プラスチックのガス化・油化、繊維リサイクルなどの方法でも温室効果ガスの回収や有効利用が可能です。 

まとめ 

カーボンニュートラルとは「温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」こと、すなわち排出量と吸収量・除去量を均衡させ差し引きゼロにすることを指します。 

カーボンニュートラルを実現するためには、「省エネルギーの推進」「エネルギーの低炭素化」「CO₂の吸収・回収・貯留・有効利用」の3つの取り組みが必要であり、国や地域・企業が様々な取り組みを進めています。 

これらの技術的な取り組みによりCO2削減の努力を続けることはもちろん必要であり、今後の技術イノベーションにも期待したいと思います。一方で、このような技術的な取り組みだけで、年間12億トン(人口当たり10トンCO2/人)を排出しているCO2をゼロに出来るのだろうかという疑問とエネルギー多消費型の生活様式や社会構造をそもそも見直すべきであるという議論(技術論を超えた議論)が最近出てきていることも付け加えておきます。

サステナビリティハブ編集部
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