燃料アンモニアがサステナブルな世界を作る?注目される理由と可能性
カーボンニュートラル サステナビリティ入門
世界規模で脱炭素が叫ばれる中、従来の化石燃料に代わる次世代燃料に注目が集まっています。
特に資源が乏しく、化石燃料の調達も輸入に頼らざるを得ない日本において、次世代燃料の開発と実用化は急務となっています。そこで注目されているのが、水素やアンモニアなどのCO₂を排出しないカーボンフリーな燃料です。 この記事では、水素とアンモニア、特に燃料アンモニアにフォーカスして解説していきます。
カーボンフリーな次世代燃料、水素とアンモニア
燃焼時にCO₂を発生しない燃料として、まず水素(H₂)が挙げられます。水素はさまざまな原料から作ることができ、燃やしても発生するのは水のみなので、CO₂排出量を減らすには理想的なエネルギーのように見えます。
しかし、気体である水素を大量に海上輸送するためには、液体水素や有機ハイドライド、アンモニアなど運びやすい液体に形を変える必要があり、さらにそれを水素として利用する際には、また水素を取り出したり、気体に戻さなくてはなりません。燃焼時だけではなく、気体から液体などに変える時や、輸送時に排出するCO₂も含めたサプライチェーン全体のCO₂排出量を考えると、課題が残るのが現状です。
燃料アンモニアとは
水素と並んで、次世代燃料の一つとして注目を集めるアンモニア。次に、燃料アンモニアについて詳しく見ていきましょう。
燃料アンモニアの基礎知識
アンモニアは燃焼時にCO₂を排出しませんが、従来の化石燃料を原料とした場合、その製造工程にてCO2を排出してしまいます。そこで、製造工程にてCO₂を排出しないように工夫されているのが燃料アンモニアで、サプライチェーンにおいて、カーボンフリーな燃料として注目を集めています。
そもそもアンモニアとは、常温・常圧では気体で、刺激臭があるのが特徴の無機化合物。人間の体内にも存在しますが、同時に大量に摂取すると人体に害を与える物質でもあります。現在は、食品添加物や医薬品・肥料の原料として利用されており、日本で利用されるアンモニアの約8割が国内で生産されています。
燃料アンモニアの特徴
出典:戦略的イノベーション想像プログラム「 エネルギーキャリア 」(最終アクセス2022/09/05)
アンモニアは水素と同様に、燃焼時にCO₂が発生しません。さらに、合成・液化して輸送するため水素に比べて輸送が容易なうえ、それを再度気体に変えたりする必要がなく、そのまま直接燃やして発電などに利用することができます。
つまり、燃料アンモニアは化石燃料の代替燃料としてそのまま活用することができるのです。さらに、アンモニアは既に合成・液化・輸送までの商業サプライチェーンが構築されているため、すぐにでも導入することが可能です。
また、アンモニアは水素のエネルギーキャリア(貯蔵・輸送媒体)としても活用できます。アンモニア(NH3)は窒素(N)と水素(H)で構成されている化合物。アンモニアを液化して輸送し分解することで、高純度の水素を作り出すことができます。アンモニアは、液体水素や有機ハイドライドなどの他の水素キャリアと比べ、輸送時の体積あたりの水素量が最も大きく、取扱技術も確立されていることから、有力な水素キャリアとしても期待されています。
このように次世代を担うカーボンフリーな燃料として、アンモニアに注目が集まっています。
カラーアンモニアの種類
「ブルーアンモニア」「グリーンアンモニア」など、色の名前がついたアンモニアの名前を耳にする機会も増えてきました。それぞれの製造工程で発生するCO₂排出ルートによって、呼び分けています。
例えば、従来のようにCO₂を排出する化石燃料を使用して製造されるのが「グレーアンモニア」です。化石燃料を使用していながらも、工程で排出するCO₂を回収・貯蔵(CCS)・利用(CCU)することにより全体の排出量を抑えることができるのが「ブルーアンモニア」。そして再生可能エネルギーから製造される「グリーンアンモニア」、その他にもターコイズ、ピンクなど色の名前がついた種類があります。
燃料アンモニアの利用方法3つ
では実際に、燃料アンモニアはどのように利用されているのでしょうか。代表的な利用方法3つをピックアップしてご紹介します。
火力発電の燃料としての利用
まず1つ目に、火力発電の燃料としての利用が挙げられます。
現在は、既存の火力発電所においての石炭ボイラーへの混焼が実証試験されており、今後はアンモニア専焼での発電を目指しています。混焼するアンモニアの割合を拡大することで、火力発電所で排出されるCO₂の削減率を向上させることを目標に、国の支援を受けながら技術開発が進められています。
船舶の燃料としての利用
船舶用ディーゼルエンジンで高いシェアを持つMAN社(ドイツ)やバルチラ社(フィンランド)では、従来の重油・ディーゼルの代替燃料として燃料アンモニアを利用する技術開発が進められています。
アンモニアは液化水素よりエネルギー密度が高いため、輸送効率は高くなる一方、可燃範囲が狭く窒素酸化物(NOxなど)を生成しやすいなどの課題があり、更なる研究開発が必要です。
燃料電池への利用
燃料電池は水素と酸素を反応させることで、燃焼を伴わずに電気エネルギーを生み出すことができる装置で、代表的なものに、家庭用の燃料電池としてPanasonicなどが提供している「エネファーム」があります。
アンモニアは水素に比べて輸送しやすいことなどから、燃料電池に使用する水素をアンモニアに置き換える技術の開発も進んでいます。
今ご紹介した3つの利用方法以外にも、様々な場面で燃料アンモニア活用の動きが進んでいます。アンモニアにはさまざまな可能性が秘められているのです。
燃料アンモニアの課題
燃料アンモニアの活用は、脱炭素を目指す社会にとって有効な選択肢です。しかし導入にあたっては、大規模サプライチェーンの確立がハードルとなっているのが現状です。
燃料アンモニアを商用発電に利用するためには、大量のアンモニアを生産する必要があります。しかし、化石資源の乏しい日本でブルーアンモニアを利用する場合には、天然ガスが豊富で価格が安い海外でアンモニアを製造して輸入せざるを得ません。同時に、アンモニアを製造する際に排出したCO2を処理するため、CCUSの施設も建設する必要があります。
また、燃料向けのグリーンアンモニアを製造する場合は、大規模な再生可能エネルギー由来の電力が必要となります。しかし、日本では現状、大量かつ安価に再生可能エネルギーを供給することは難しいため、オーストラリアや中東などの再生可能エネルギーに向く地形・天候に恵まれた海外で製造し、輸入するのが現実的な手段です。
このように、ブルーアンモニア、グリーンアンモニアを製造・利用するためには、グローバルサプライチェーンの確立が鍵となるのです。

しかし一方で、再生可能エネルギーと水があれば、たとえ小規模だとしても商業化の可能性があるのが、このグリーンアンモニアの製造です。日揮グループでは、グリーンアンモニアのバリューチェーン実証に成功しており、次回の記事でその取り組みについて詳しくご紹介します。
まとめ
アンモニアをカーボンフリーな「燃料」として捉えてみると、脱炭素の切り札の一つになる可能性が見えてきます。ただし現在は、カーボンフリーなアンモニアの製造方法や、製造した燃料アンモニアの利用方法に課題もあります。 それらの課題を解決するために、現在国や企業、研究機関によって製造、利用(燃焼)などサプライチェーンの全ての領域でさまざまな取り組みが進められているのです。
政府の掲げる2050年カーボンニュートラルを実現するためには、21年度から始まった2兆円規模のグリーンイノベーション基金などの大型技術開発プロジェクトで成果を出していくことが必要となります。 皆さまのご参考になれば幸いです。
参考サイト:アンモニアによって未来はどのように変わっていくのかなど、「燃料アンモニアの豆知識」を図解と共に解説しているこちらのページもぜひご覧ください。
また、燃料アンモニアに関する「よくある質問と回答」を分かりやすくまとめ、詳しく解説しています。水素のエネルギーキャリアの有望な候補である燃料アンモニアへの理解をより一層深めてみてはいかがでしょうか。