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何を選ぶ?どう捨てる?衣服とサステナビリティの本当の話

佐久本太一シリーズ 身近なサステナビリティ
目次

皆さんは普段、衣服を買う際にどのような基準で選んでいますか?デザインや機能性、着心地など、優先順位は人それぞれですよね。近年はファストファッションの普及などにより、高機能・高品質な商品も、比較的に安価で手軽に購入できるようになりました。 

しかし手軽に洋服をゲットできるということは、「その商品を手放すまでのサイクル」も加速しがちだということです。では、サステナビリティという視点から見た時、私たちは衣服に関してどのような選び方をしていくべきなのでしょうか? 

そこで今回は、衣服と衣服のリサイクルにまつわる正しい知識を解説していきます。

私たちがまだ知らない、アパレルとサステナビリティの話 

「環境問題」と「ファッション」。一見あまり関連性のないキーワードに見えますが、実は全世界の温室効果ガス排出量の8~10%は衣服産業由来という事実をご存知でしたか?

この20年で世界における衣服の生産量は以前の2倍にも膨らみ、反対に、1着あたりの着用期間は半分程度に減ったという報告もあります。これは、廃棄された衣服が急増していることを示しています。日本においても廃棄された衣服のうち68%は、リサイクルの道を辿るとなく可燃ごみ・不燃ごみとして処分されてしまっています。 

衣服を捨てなければ環境に優しい? 

では衣服の廃棄量を減らせば、環境問題が解決するのでしょうか。まず廃棄時以外に、衣服が環境に与える負荷について考えてみましょう。 

一般的に衣服の製造は、原料の調達から生地の生産、ボタンやファスナーなどの部品との組み合わせなど、実際の製品になるまでのサプライチェーンが長く、多岐にわたるのが特徴です。そのため各工程で発生する負荷を積算するだけでも環境負荷が大きいのです。従って衣服は、生産段階の各サプライチェーンで環境負荷を減らす努力も重要となります。

石油由来のポリエステル繊維は本当に悪なのか? 

石油由来のポリエステル繊維の衣服は、扱いやすさや加工の自由度の高さ、速乾性などの機能面から人気があります。しかしポリエステル繊維を洗濯した際の摩擦などにより発生する、「マイクロプラスチック」は海の生態系を乱す要因の1つです。海洋に流入するマイクロプラスチックの総量のうち、約35%が繊維由来であるとの報告もあり、その影響は無視できません。

一方でポリエステル繊維は腐敗することがなく、天然素材と比較すると品質が安定しています。衣服としての役目を終えた後も、素材を分解して繊維などの製品、エネルギー源であるオイルやガスにもリサイクルできます。 

このように石油由来の人工物であるポリエステル繊維も、環境に対して悪であるとは言い切れないところがあるのです。  

繊維の種類を正しく知ろう!メリットと課題も 

ではサステナブルという観点から見た際、衣服を購入するときどのような製品を選ぶのが良いのでしょうか。ここでは繊維の種類にフォーカスしながら解説します。

「オーガニックコットン」は環境にも良いって本当?

衣服によく使われるコットンは「Thirsty crop(サースティークロップ=喉が渇いた作物)」と呼ばれるほど、生産の際に大量の水を要する農作物です。またデリケートな植物なため、世界で最も大量の殺虫剤が必要だといわれています。コットンの栽培のために散布した殺虫剤はそのまま地域の生活用水に流れ出し、環境はもちろん作業者の健康にも影響を及ぼしているとの報告もあります。 

一方、オーガニックコットンをはじめとする「サステナブル・コットン」は、綿花の栽培に際して一定期間殺虫剤や農薬を使用しないこと、子供を労働させないことなどの基準をクリアしたものです。 従来のコットンより割高になることもありますが、サステナブルな衣服を作ることができる点で注目が集まっています。 

 


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商品の製造や販売において注目されている「サステナブルな素材」。 今回はサステナブル素材の種類や、環境問題、商品事例まで紹介。サステナブルな素材で作られた商品を購入したい方も、サステナブルな商品開発をしたい方も、是非参考にしてみてください。

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「ウール」の意外な環境負荷を知っていますか?

では、日本の冬には欠かせない天然繊維「ウール=羊毛」は、環境に優しいのでしょうか。

ウールは皆さんもご存知の通り保温性が高いうえ通気性に優れているため、世界中の寒い地域で愛されています。廃棄後も最終的に生分解されるため、ポリエステルのように海洋に流れ出る心配もありません。

しかしライフサイクル全体で考えてみると、羊の飼育に伴って排出されるCO2や水の使用量も考慮する必要があり、環境負荷が高いのも事実です。

ウールの生産から廃棄までのライフサイクルで発生する環境負荷 

現在では、既存のウール製品をリサイクルした「再生ウール」の製品も生産されており、サステナブルな素材として需要が高まっています。

「リサイクル繊維」は持続可能? 

最近では、ペットボトルをリサイクルした「ポリエステル繊維」の衣服も多く見かけるようになりました。

ペットボトルはポリエステルで作られているため、糸の形に紡げばポリエステル繊維として再利用することができます。これは、サステナブルな循環サイクルが成立しているようにも見えますが、実はまだ解決すべき課題も。現在のペットボトルの回収量では、流通しているポリエステル繊維のすべてをリサイクル繊維へ置き換えることはできないのです。

さらにペットボトル以外の廃ポリエステル製品は回収システムも充分に整備されていないため、コストが高くなってしまうのが現状です。

リサイクル繊維で作られた衣服は、使用後さらに繊維商品へリサイクルすることは技術的に難しい場合が多く、廃棄するしかありません。繊維の循環サイクルを完成させるためには、「再度同レベルの繊維製品にリサイクルできる技術」の開発が不可欠なのです。

リサイクルを含む循環サイクルは、自国内での完結が求められる傾向にあります。現在、廃プラスチックなどの特定の廃棄物を国外へ輸出することは「バーゼル条約」により規制されています。今後は古着も対象となる可能性があり、古着を国外に輸出して活用することができなくなる恐れも。プラスチックだけではなく衣服に関しても、自国内で廃棄された製品を適切に処理していくシステムを早急に整える必要があります。

※資源循環に関して興味がある方は、『サステナビリティハブ』を運営する日揮ホールディングスが手掛ける「資源循環事業」をぜひご覧ください。 

【実践編】繊維の循環型社会の実現に向けてできること

一部地域では、ごみの分別回収の1つに「衣類」があるところもありますが、ほとんどの地域では、古着は不燃ごみか可燃ごみとして回収されています。繊維の循環型社会を実現するために、私たちがすぐに取り組めることは何でしょうか?   

1.REDUCE:廃棄を減らす 

ファストファッションの普及により、機能性やファッション性の高い衣服が手頃な値段で購入できるようになりましたが、一方でそれが我々の「衣服の所持サイクル」を短くし、廃棄量を増やす要因の1つであることも否めません。さらには大量消費を見越した過剰生産により、売れ残った衣服の廃棄も課題となっています。 

そこで衣服の廃棄を減らすアイディアのひとつに、衣服を毎月レンタルすることができる「サブスクリプションサービス」があります。 

「airCloset(エアークローゼット)」は、プロのスタイリストが選んだ服を毎月レンタルすることができるサービスで、レンタル期間が終了したあとは使用済みの衣服を返却し、クリーニングして再度使用されます。 ちなみに気に入ったアイテムは買取も可能です。廃棄を減らしながら様々なファッションを楽しむことができるサービスを利用することも、環境への配慮に繋がります。 

 >airCloset 公式サイト

2.REUSE:人に譲る・再生させる 

サイズアウトの早い子どもは、兄弟や親戚の「おさがり」を着用する機会も多くありました。最近ではフリマアプリの利用者も増えており、新品に近い状態の衣服をリーズナブルに購入することができます。 

また、着なくなった衣服を染め直したりリメイクしたり、サイズを直すことによって、新しく蘇らせることもできます。普段はおもに洗濯でお世話になることの多いクリーニング店でも、色あせを修正したりスーツのサイズを調整するなど、リペアサービスをおこなっている店舗もあるので、近隣の店舗について調べてみるといいかもしれません。

3.RECYCLE:繊維リサイクルのルートに乗せる 

サステナブルな視点から見た際は、「REDUCE」・「REUSE」を経て衣服としての役目を終えても、なるべく廃棄ではなくリサイクルにまわしたいものですよね。しかし、衣服を資源として回収している自治体は残念ながら限られています。 そこで、衣服を購入した店舗に設置されている「回収ボックス」を利用するのはどうでしょうか。 

(画像提供:H&M)

大手アパレルブランド・H&Mは、2013年から店頭で衣服を回収する取り組みを行っています。ブランドや衣服の状態を問わず持ち込むことができ、回収された衣服は、まだ着用できる衣類は古着として販売され、着用できないものはリメイクされたり、清掃用のウエスとして再利用されます。そのいずれにも満たないものは裁断され、再生繊維や 断熱材などの原料として使用されます。

またH&Mで古着の回収に協力すると、デジタルクーポンやポイントがもらえる嬉しいインセンティブも。このような衣服回収の取り組みは、ユニクロやZARA、パタゴニアなど多くのブランドで実施されています。着古した衣服をゴミ袋に入れる前に、近くに衣類回収ボックスのサービスがないか調べてみてはいかがでしょうか?

まとめ

廃棄量の増加やマイクロプラスチックの問題、サプライチェーンの環境負荷など、衣服にまつわる課題はまだ多くあります。

ファストファッションの普及などにより、衣服の消費スピードが加速している今、衣服の生産から消費、そして使用後の回収、再生まで、すべての段階でのサステナビリティについて改めて考え、循環サイクルを作っていく必要があります。

日揮グループでは、サステナブルなサプライチェーン構築に向け、帝人株式会社、東京大学に加え、衣料品サプライチェーンを構成するイオン株式会社や株式会社チクマ、株式会社エアークローゼット、更には家政学の知見を有する共立女子短期大学、環境NPOのグリーン購入ネットワークも含めたワーキンググループとともに繊維リサイクルの研究を進めています。 

取り組みに関して質問や知りたい内容がある場合は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

※2022年4月にリリースした「持続可能な繊維産業のエコシステム構築に向けた産学連携ワーキングループの報告書」がダウンロードできます。

報告書ダウンロード

佐久本 太一 | Taichi Sakumoto
日揮ホールディングス株式会社 サステナビリティ協創部
佐久本 太一 | Taichi Sakumoto

沖縄県出身。学生時代の研究テーマは木質バイオマス分解菌の遺伝子分析や、次世代シーケンサーを用いた菌叢解析など。2019年に環境コンサルティングを手がける日本エヌ・ユー・エス株式会社に入社後、現在は日揮ホールディングス株式会社 サステナビリティ協創部にて廃繊維・廃プラスチックの資源循環ビジネス開発を担当。趣味はダイビングとプロレス観戦。故郷の沖縄でも資源循環を達成し、美しい自然を守るのが夢。一緒に達成する持続可能なパートナーも募集中。

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