2024.01.16
プラスチックは洗うべき?分別は意味ある?リサイクルのよくある疑問を専門家が解説!【初級編】
目次
持続可能な未来の実現のため、様々な業界において注目されているプラスチックのリサイクル。最近では大手アパレル会社がリサイクル素材からつくった服を販売したり、TV・雑誌等でプラスチック問題が取り上げられたりと、プラスチックリサイクルにまつわる話題を目にする機会が増えたのではないでしょうか。
しかしプラスチックは現代の生活に当たり前の存在であるからこそ、ふと立ち止まると「知らないこと」があると気が付くかもしれません。
そこで今回は「プラスチックのよくある疑問」について、東京大学の中谷 隼 准教授に分かりやすく教えていただきました。(インタビュアー:日揮ホールディングス 佐久本太一)
プラスチック問題やリサイクルが注目されたのはいつから?
2015年に、プラスチックのストローが鼻に刺さったウミガメの動画が話題になったのはご存知でしょうか。南米コスタリカで調査をしていた研究者グループが発見したのですが、この動画をキッカケに一般社会でも「プラスチック問題が深刻になっている。影響が海にまで及んでいる。」と認識され始めました。
それまでの日本においては、「プラスチック問題=海ゴミ」という認識を持っている人は非常に少なかったと思います。以前は一般的なプラスチックの問題として認知されていたのは、「ダイオキシン」でした。
まさにそのダイオキシン問題が背景の1つとなり、日本のプラスチックリサイクルが始まったわけです。焼却処理の次の候補として浮かびやすいのは「埋め立て処理」ですが、日本の国土は狭いため、埋め立て処分場を増やすには限界があります。そうなると、そもそも処分するゴミの量を減らさないといけない➡そのためには何ができるのか?ということで「プラスチックのリサイクル」へ目が向けられました。
そして1997年には、家庭から排出される容器包装廃棄物(PETボトル・缶・プラスチック製容器包装等)のリサイクルが義務付けられた 「容器包装リサイクル法」が施行されました。
さらに90年代後半から2000年にかけてクローズアップされ始めたのは、「地球温暖化」の問題です。私は2000年代の中頃からプラスチックの環境影響に関する研究を始めましたが、当時のプラスチックの問題は「①埋め立て処理ができない。②燃やすと温室効果ガスが出る。③そのまま使い捨てを増やすと化石資源をたくさん使うことになる。」という3つの観点でした。
しかし残念なことに、一般社会や専門家が集まる学会においてもこの問題はあまり注目されなかったんです。プラスチックの発表をしたのは私と私の学生のみだったのでひとつのセッションにならず 、その他大勢として扱われることもありました。地球温暖化がクローズアップされた流れで・・・ということも少しは期待していたのですが(笑)。
ですので、世間一般が「プラスチックの環境問題」や「プラスチックのリサイクル」に注目するようになったのは、2015年のウミガメの動画以降といえるでしょう。
プラスチックの分別は意味がないって本当?
温室効果ガスの排出を減らすには、燃やすよりリサイクルをした方が良いので、プラスチックの分別に意味はあります。
プラスチックごみは、肉や魚のトレーなどによく使われている「容器包装プラスチック*」と、バケツ・ハンガーなど、プラマークのない「製品プラスチック**」に大別されますが、「容器包装プラスチック」は適切に分別した方が環境に良いといわれています。
リサイクルをすることで温室効果ガスが減り、化石資源消費も減少することは数値として明らかになっており、令和3年度はプラスチック製容器包装リサイクルによって184万トンのCO2排出を削減できたと示されています。 (参考:日本容器包装リサイクル協会「環境負荷削減効果 プラスチック製容器包装」 )
(*容器包装プラスチック…食べ物や製品を包んである、プラスチック製の容器や包装のこと。 プラスチック製容器包装マーク(プラマーク)が付いている。 / **製品プラスチック…プラマークのない、プラスチックだけで作られた製品。容器包装プラスチックに当てはまらないプラスチック類(例:バケツ・保存容器など )
しかし左図の「製品プラスチック」は、右図の「容器包装プラスチック」と比べてリサイクルが本当にベストなのかどうかは、手探りなところがあるんです。しっかりとした数値的根拠がまだなく、制度やスキームなどについても未検討な部分が多くあることがその理由です。ですので、今後さまざまな取り組みをおこなっていくなかで、”この方法が最適である”という形が作られてくるのではないでしょうか。
プラスチックは洗ってから捨てるべき?
洗うことでプラスチックが綺麗になれば、そのあとのリサイクル工程などが進めやすくなる場合があります。そのため洗うこと自体は良いのですが、「お湯を使うこと」はお勧めしません。
お湯を出すには電気やガスなどのエネルギーを使うため、環境への影響が大きいからです。ちなみに水で洗う時と比べ、環境への影響は大体15倍になる試算も出ています。
(出典:環境科学会誌 新保 雄太, 中谷 隼, 栗栖 聖, 花木 啓祐 「家庭における廃棄物発生抑制行動のライフサイクル評価」2012 年 25 巻 2 号 p. 95-105)
たしかに水を使う場合、浄水施設や下水処理施設でエネルギーが消費されるので環境負荷はゼロではありません。しかし「リサイクルのために水で軽く洗う時の影響(温室効果ガス)」をおよそ【1】と設定したとき、「水で洗わずに可燃ゴミとして廃棄・焼却された場合の環境影響」はおよそ【40】です。
つまり、40の環境影響を避けるために1の温室効果ガスを出すことは(=水で洗うこと)そこまで大きな問題でないと思っています。お湯で洗うとなると反対に環境負荷が増えてしまうこともあり得るので、使うなら「水」が良いでしょう。 (出典:環境科学会誌 新保 雄太, 中谷 隼, 栗栖 聖, 花木 啓祐 「家庭における廃棄物発生抑制行動のライフサイクル評価」2012 年 25 巻 2 号 p. 95-105)
【4選】プラスチックのリサイクルにまつわる、本当の話
1.「海洋プラスチック問題」と「プラスチックのリサイクル問題」は別である
1つ目は、「海洋プラスチックとプラスチックのリサイクル」は全く同じ問題ではないということです。プラスチックごみが海洋プラスチックになってしまうのは、基本的に「ポイ捨て」が原因です。ゴミ箱に捨てられず、不法に投棄された一部は自然界において分解されずにマイクロプラスチックなどとして海に滞留します。
つまり、日本のようにゴミの回収スキーム・処理技術が整っている国では、しっかりとゴミ箱にさえ捨てれば「海洋ゴミ」へ繋がることはありません。大事なのはやはり、「ゴミはゴミ箱へ」ですね。
2.ペットボトルのキャップはなぜ分別するの?
ペットボトルのキャップは、「ボトルを捨てる前に外し、プラスチックごみとして出す」という方法が一般に知れ渡っています。しかし実はキャップは、ペットボトルのリサイクル工場でも綺麗に分けることができます。ペットボトル本体とは比重が異なる素材で作られているため、そのなかに紛れていても「比重選別」が可能なんです。
目的の1つに、「中身をカラにしてから出す・最後まで飲み干す」というメッセージがあるそうです。キャップをつけたままだとドリンクが残った状態で捨てることができますよね。時間が経つとニオイや汚れが落ちにくくなり、リサイクル後の製品の品質低下を招いてしまいます。
また、リサイクルの工程において「ペットボトルを潰しやすくする目的」もあります。キャップが無い方がペットボトルを潰しやすいからです。
3.正しいペットボトルの潰し方
リサイクル工場で使われているペットボトルを潰すための破砕機には、「回転する歯」が備わっています。ペットボトルがねじられてしまっていると固くなって破砕しにくいんです。ペットボトルを捨てる際はひねらず、横から潰して平らにするのがベストです。
4.バイオマスプラスチックのすべてが分解されるわけではない
プラスチックにまつわる環境問題の解決手段の1つとして、「バイオプラスチック」が注目を集めています。「バイオプラスチック」は「バイオマスプラスチック」と「生分解性プラスチック」の総称で、これにおいて誤解されやすいことがあります。
(【関連記事】バイオプラスチックの基礎は以下の記事で解説しています。あわせてご覧ください。)
「バイオマスプラスチック」は原料にバイオマスを使用しているプラスチック、「生分解性プラスチック」は自然界で分解されるプラスチックですが、「バイオマスプラスチックは、生分解性プラスチックと同様に全種類が分解される」と思われがちです。しかしそれは間違いで、バイオマスプラスチックでも分解されないものがあるんです。
この図では「バイオマスプラスチック」は緑色、「生分解性プラスチック」は水色で分けられていますが、分類からも分かる通り、「バイオプラスチック」でも分解されないプラスチックが存在します。(※4分割の左上)
1番の懸念点は「ポイ捨てに繋がってしまうこと」です。「自然に分解されるのなら、その辺に捨てても問題ない」と思われ、ポイ捨ての助長に繋がる恐れがあります。主にヨーロッパなどの国外において問題視されているものの、日本においても正しい知識が広まって欲しいと思います。