サステナブルな社会の実現に向けた日本の取り組みと、繊維・アパレル産業に求められること

サステナブルな社会の実現に向けた日本の取り組みと、繊維・アパレル産業に求められること

目次

    昨今は環境に配慮しつつ経済成長を目指す政策が進められ、さまざまな取り組みに挑戦する企業も増えています。「2050年カーボンニュートラル宣言」や「GX(グリーントランスフォーメーション)」などの言葉を耳にしたことがある方も多くなったのではないでしょうか。

    今回は、こうした動きがみられる背景を詳しく振り返るとともに、循環型の取り組みに課題がある5分野の1つに挙げられている「繊維・アパレル業界」の現状、また課題などを解説します。

    地球温暖化と我が国の取り組み

    1980年代以降、地球温暖化の原因となる温室効果ガスの排出削減が指摘されるようになり、日本でも環境問題への関心が高まりを見せ始めました。1992年に開催された地球サミット(環境と開発に関する国際会議)では、先進国と開発途上国が課題を共有し、持続可能な開発の実現を目指す「環境と開発に関するリオ宣言」が採択されています。こうして世界の共通認識として広がったのが、「持続可能な開発」という考え方です。

    1999年版「循環経済ビジョン」

    国内では1999年に、環境と経済の両立を目指す「循環経済ビジョン」が策定されました。その背景には、地球規模における環境意識の高まりに加え、資源確保や廃棄物の処分問題などといった国内的な背景がありました。これらの課題を解決しつつ循環型の経済システムを構築するために必要性が示されたのが、「リデュース(Reduce:廃棄物の削減)、リユース(Reuse:再使用)、リサイクル(Recycle:再利用)」の頭文字を取った「3R」の取り組み、そして循環型経済や環境ビジネスを作り出すことの必要性です。

    2020年版「循環経済ビジョン」

    1999年版「循環経済ビジョン」によって3Rは広がったものの、循環型経済への取り組みや環境ビジネスは、なかなか生まれませんでした。こうした状況を受け、およそ20年後に経済産業省は新たに、2020年版「経済循環ビジョン」を公表し、そのなかで以下の3つの方向性を示しました。

    • 循環性の高いビジネスモデルへの転換
    • 市場・社会からの適正な評価(投資家や消費者の意識変化を考慮)
    • レジリエントな循環システムの早期構築(経営環境を脅かす不安定な外部要因にも耐えうるレジリエント(回復力、復元力)な循環システムの構築)

    ここでは、3Rから循環型経済への取り組みを進める必要性が改めて示されており、循環型の取り組みが進んでいない分野としては「プラスチック・繊維・CFRP(炭素繊維強化プラスチック)・バッテリー・太陽光パネル」の5つが挙げられています。

    政府も循環型経済への取り組みを強化

    さらに2020年10月には温室効果ガスの排出削減を実質ゼロにする「2050年カーボンニュートラル宣言」が発表され、続けて示された「グリーン成長戦略」では、エネルギー関連や輸送・製造関連など、経済と環境における好循環を生むための政策、また、成長が期待される分野の実行計画が示されています。そして2021年には、より一層の脱炭素を促進する目的のもと、「改正地球温暖化対策推進法」が成立しました。

    (※こちらの記事では、カーボンニュートラルとは?という疑問解消のため、言葉の定義から、実現に向けた日本の取り組み、課題まで詳しく解説しています。


    (※また、「脱炭素」について解説し、脱炭素の定義から国内外の現状、脱炭素化に向けた具体的な取り組みまで紹介しています。


    このように、政府はこれまで以上に地球環境や経済問題に取り組んでいく姿勢を強く打ち出すようになりました。

    背景には世界的な環境意識の高まりに加え、低迷が続く日本経済の起爆剤として、DX(デジタルトランスフォーメーション)・GX(グリーントランスフォーメーション)を推奨していることがあります。GXとは、クリーンなエネルギーの活用により産業構造自体を変えていこうとする取り組みです。それにより日本企業の高付加価値化を進め、世界的な拡大が見込まれる循環型経済の市場での優位性を確保する狙いがあります。

    繊維業界の現状と環境配慮設計

    2020年版「経済循環ビジョン」では、循環型の取り組みが進んでいない5分野の1つに繊維業界が挙げられました。

    「循環経済ビジョン2020」における繊維業界の位置づけ

    繊維業界の循環型ビジネスへの取り組みが進んでいない背景には、どのようなものがあるのでしょうか。先述した2020年版「経済循環ビジョン」では以下の課題が指摘されています。

    • 常に供給過多の傾向がある
    • 循環型ビジネスモデル、高付加価値化の検討が進んでいない
    • 3Rへの取り組みが進んでいない

    そしてこれらの改善のために、デジタル技術を活用した産業の高付加価値化や、繊維のリサイクル(「廃PETボトル由来の再生繊維の導入」「リサイクルしやすい単一素材の機能性繊維の開発」「繊維to繊維のリサイクル技術の開発」などの推進)などが提案されています。

    「環境配慮設計」とは

    繊維業界におけるリサイクルをより一層進めるための施策として、「環境配慮設計」があります。これは商品の製造から使用、リサイクルまでの各段階において、「環境に配慮したプロセス」を導入するものです。

    たとえば、設計・開発のなるべく早い段階で環境への影響を考慮し、リサイクルを前提とする素材を選ぶと、のちのリサイクルがおこないやすくなります。またそれに続く製造段階においても、染色で使う水の使用量削減や縫製の工夫により、資源の有効活用・長寿命化を図ることが可能となります。

    (※下記の記事では、サステナブル素材の種類や、環境問題、商品の例を紹介してます。


    繊維業界の循環型経済への取り組みと課題

    では、日本の繊維業界が挑戦する新しい試みにはどのようなものがあるのでしょうか。

    繊維業界の注目施策

    ここでは、繊維業界における注目施策をいくつか紹介します。 日本化学繊維協会によると、繊維製品のリサイクルには以下のようなものがあります。 (参照:日本化学繊維協会ホームページ「環境にやさしい繊維」

    マテリアルリサイクル

    廃棄品を粉砕もしくは融解し、廃棄品の物質特性をかえないまま次のリサイクル品の原料とする方法。

    清掃用の布として利用するウエス、布から繊維を綿状にほぐして再利用する反毛、溶解してプラスチックのような成形品の原料とする再溶解などがあります。また、回収されたペットボトルの一部はポリエステル繊維として生まれ変わり、衣類・繊維製品へとリサイクルされています。

    加工の段階において材料の物質的な品質が低くなってしまう場合は、未使用・未加工の原材料(バージン素材)を混ぜることもあります。マテリアルリサイクルのメリットは安価にリサイクルできること、そしてデメリットはリサイクル品の品質が不安定になる場合があることです。また、あくまで機械的なプロセスとなるため、工程がシンプルである反面、染料や不純物の除去等は難しいことも特徴のひとつです。

    ケミカルリサイクル

    回収した合成繊維製品を分子レベルで分解し、素材を精製した後に化学合成・再製品化する手法。

    例えば回収されたナイロンやポリエステルなどの化学繊維を分解、精製することで他の物質に変換、もしくは元原料として再び利用することができます。

    メリットには①異素材を除去したことから高品質の安定したリサイクル品を生産できることや、②石油由来の新品(バージン品)に限りなく近い品質の実現 が挙げられ、デメリットにはリサイクル工程が複雑であることから、処理プロセスが比較的高コストになる点が挙げられます。

    サーマルリカバリー(熱回収/サーマルリサイクル)

    焼却時に発生する熱を、発電・電力供給や地区暖房、産業利用などに再利用する手法。

    繊維製品をそのまま燃やさずに金属などを取り除いた後、他の廃棄物と混ぜて固形燃料化してから利用する場合もあります。これによりメリットには、廃棄物からエネルギーを回収して再利用できる点、また、受け入れ原料の制限がほとんどない点が挙げられます。

    しかしEUでは、廃棄物は循環せず消費されて終えることを理由に、この手法は”リサイクル”と見なされていません。先進国を始め、リサイクルでなくサーマルリカバリー/熱回収として差別化されつつあるため、今後は衣服の焼却は出来る限り減らすことを要求されていく流れにあります。

    (※さらに詳細や現状の課題などを知りたい方は、インタビュー形式で東京大学の平尾教授に「循環型社会作りにおける衣服特有の課題」について伺った連載記事もご覧ください。


    また、ポリエステル繊維でできた製品を「繊維to繊維」にリサイクルする技術も注目されています。そもそも衣料品は、機能性の観点から天然繊維と化学繊維の混紡が主流のため、「繊維to繊維」の実現に向けては課題が多いのが実情ですが、製品のトレーサビリティや化学処理による分離技術の確立などを通して、多くの検証が進められています。

    さらに生産工程では、省エネの推進や再生可能エネルギーの活用などによる脱炭素化の推進のほか、デジタル技術を活用したスマートファクトリー化、需給予測による生産量の調整、ロス削減などの取り組みもおこなわれています。

    (※「サステナビリティ」という視点から見た時、私たちは衣服をどのように選ぶのが良いのでしょうか?そのヒントとなる、衣服や衣服のリサイクルにまつわる正しい知識を詳しく解説していきます。)


    新しい取り組みには課題も

    しかし、新しい取り組みには課題もあります。たとえば、使用済みの衣料品の分別は手作業に頼っているケースが多く、繊維を構成する素材も多様なことから、単一素材への分離が難しく、リサイクルには困難さが伴います。

    そのため、コストや時間がかかることが課題です。さらにペットボトルや古紙のように、消費者の中で「リサイクル原料になりうる」という意識がまだ醸成されていないために回収が進みにくいことや、事業者による回収にコストがかかることも課題として挙げられます。

    このような課題を解決するためには、回収段階での自治体や事業者、消費者の負担を減らすことが重要です。

    さらに、環境配慮設計を意識した製造はもちろんのこと、衣料品を構成する繊維の組成がしっかり示される表示手法にしたり、認証の仕組みを作ったりすることも効果的です。関わるすべての人たちにとっての負担を軽減しつつ、より効率的にリサイクルが進められる仕組みが重要だといえそうです。

    繊維・アパレル業界の循環型経済への取り組み事例

    サステナブルな社会を意識したビジネスモデルの構築に向けて、繊維・アパレル業界でもさまざまな企業が新しい挑戦を続けています。

    ユニクロ

    日本発のファストファッションブランドであるユニクロは、「RE.UNIQLO」プロジェクトを展開しています。店舗で回収した使用済みの衣料品を分類し、リユースできるものは難民キャンプや被災地への緊急災害支援などに活用し、それ以外のものについては燃料や防音材として加工したり、素材を再生できるものは服から服へ再生したりするという取り組みを進めています。

    良品計画

    良品計画は、商品の開発段階から効率的な資源の活用を意識しており、繊維製品のリサイクルプロジェクト「ReMUJI」を展開しています。使用済みの衣料品を回収した上で、「染めなおし」「洗いなおし」「つながる服(服と服をつなぎあわせてリメイクする取り組み)」などを行い、アップサイクル(使用済みの衣料を新しい繊維に再生する)が難しい場合もリサイクルにつなげる取り組みを行っています。

    ZARA

    スペインのインディテックス社が展開するブランド「ZARA」も、繊維リサイクルを積極的に進めています。衣料品そのものの寄付に加え(例:赤十字や中華環境保護基金会、救世軍など) 、中古品として販売された場合にはその売り上げが非営利団体の資金源となったり、これらのプロセスにおいてで社会的弱者の雇用を促進したりするなど、社会や地域への還元を意識した取り組みを展開しています。

    このように、多くの企業が自社の事業特性を生かしつつ、サステナブルな未来に向けた挑戦をしています。

    (※以下の記事では企業がサステナビリティに取り組むべき理由や、企業が求められるサステナビリティについて解説しています。 


    新しい企業連携の取り組み

    さらに、業界全体としてサステナブルな社会の実現を推進していこうとする動きもみられます。

    2021年8月に設立された「ジャパンサステナブルファッションアライアンス(JSFA)」は、個社では対応しきれないサステナブル・ファッションに関する課題解決に向けた取り組みを行っている、企業連携の仕組み(プラットフォーム)です。アパレル産業に関わる企業が加盟し、「2050年カーボンニュートラル」と「適量生産・適量購入・循環利用によるファッションロスゼロ」を掲げながら情報共有、政策提言などをおこなっています。こうした取り組みにより、社会全体の関心喚起や制度の整備が進むことが期待されています。

    まとめ

    今回は、サステナブルな社会の実現に向けたアパレル業界の現状や課題、また、新しい挑戦などについてご紹介しました。自社の循環型経済への取り組みについて考える参考になれば幸いです。

    古川 雅敏|Masatoshi Furukawa

    古川 雅敏|Masatoshi Furukawa

    株式会社RePEaT 技術統轄CTO。日揮ホールディングスサステナビリティ協創オフィスで資源循環ビジネスプログラムマネージャーを務め、RePEaT社の立ち上げに関わる。同社設立時に技術統括CTOに就任し、現在は主に社外との技術的協議を担当している。