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化石燃料に代わり注目される「バイオマス燃料」とは?種類や事例を紹介

カーボンニュートラル
目次

カーボンニュートラルや循環型社会の実現に向けて、「バイオマス燃料」が注目される機会が増えてきました。 

今回の記事では、バイオマス燃料の概要から種類、それぞれの特徴までを解説していきます。バイオマス燃料の種類ごとによる活用事例も紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。 

バイオマス燃料とは

バイオマスの種類_イラスト

バイオマス燃料とは、動植物から生まれた生物資源(バイオマス)でつくる燃料のことです。 

化石燃料と同様、バイオマス燃料を使用(=燃焼)した際にもCO₂は発生しますが、植物由来のバイオマス燃料の場合、植物の成長過程において「光合成」によりCO₂を吸収して育つという特徴があります。そのため、燃焼時に発生するCO₂と相殺され、「バイオマス燃料の使用時にCO₂は発生しない」とみなされます。

京都議定書においても、バイオマス燃料は化石燃料に代わるカーボンニュートラルな燃料として扱われており、利用拡大が期待されています。 またバイオマス燃料はそのまま燃焼したり、ガスにして発電に利用することもできます。 

※ 化石燃料(石油、石炭、天然ガス等)は、動植物などの死骸などが堆積してできたという説もありますが、再生するのに極めて長い年月を要すること、また再生が極めて困難と考えられることから、化石燃料はバイオマス燃料とは別物と考えられています。 

バイオマス燃料の種類

つぎに、代表的なバイオマス燃料の種類について見ていきましょう。

バイオマス燃料の種類_図表


製造方法種類利用方法
木質バイオマスバイオマスを薪、チップ、ペレットなどに加工する 固体燃料/液体燃料/気体燃料 ボイラーの燃料、発電燃料、化学原料、エタノール など
バイオエタノールバイオマスを発酵・蒸留する 液体燃料ガソリンの代替燃料
バイオディーゼルバイオマスメタノールと化学反応(メチルエステル化)させる 液体燃料軽油の代替燃料
バイオガス微生物の働きでバイオマスをメタン発酵させる 気体燃料発電燃料

1.木質バイオマス

木質バイオマスとは、樹木の伐採や造材の際に発生した枝や葉などの林地残材、製材工場などから発生する樹皮やおが屑などのほか、住宅の解体材や街路樹の剪定枝などを加工して、燃料にしたものです。加工方法によって大きく、①薪、②チップ系、③ペレット系の3種類に分けられます。 

木質バイオマスはボイラーの燃料としてそのまま使用できるほか、チップ・ペレット化した場合は熱分解し、発電の燃料や化学原料としても利用できます。また木質バイオマスを発酵させることで、エタノール等も製造できます。 

しかし木質バイオマスの資源は点在していることも多く、安定的な原料調達が課題とされています。バイオマス資源が豊富な林地残材は収集に手間がかかり、運送コストが高くなることもあります。木質バイオマスの安定供給に向け、燃料用途での森林利用や広葉樹・早生樹の活用など、新たな取り組みに向けた議論がおこなわれています。 

2.バイオエタノール

トウモロコシ畑_画像

バイオエタノールとは、サトウキビやトウモロコシ、木材などのバイオマスを微生物によって発酵・蒸留することで製造する液体燃料のことです。基本的にはお酒を作る工程と一緒で、ガソリンの代替燃料として利用されています。 

海外では主な原料にサトウキビやトウモロコシなどの「糖質原料」、またトウモロコシや麦などの「でんぷん質原料」が用いられることもありますが、日本では食物問題との競合を避けるために、非可食バイオマス(例:バガス(サトウキビの絞りかす)、黒液、建築廃材など)を原料に製造されています。 

しかし非可食バイオマスからバイオエタノールを製造する場合、技術的なハードルが高くなります。そのためバイオエタノールの国内需給率は極めて低く、ほぼ全量をブラジルからの輸入(サトウキビ由来)に依存しています。 

3.バイオディーゼル

フラスコに入ったオイル_画像

バイオディーゼル (BDF) とは、植物性油脂をメタノールと化学反応(メチルエステル化)させ、温水洗浄や脱水を行うことで精製される液体燃料のことです。軽油の代替燃料として利用されており、燃費や走行性能も軽油とほぼ同等といわれています。 

海外では主に菜種油やパーム油などが使用されていますが、バイオエタノールと同様、日本国内では食物問題との競合をさけるために廃食用油を原料にしています。 製造過程の副生物として、未反応の廃食用油、カリウムやメタノール、アルカリ触媒等が高濃度含まれる、グリセリン廃液が発生します。

バイオディーゼル生産量の約20%相当のグリセリン廃液が発生するケースもあり、適正処理や再資源化が課題となっています。

4.バイオガス

バイオガスプラント_画像

バイオガスとは、家畜や排泄物・食品残渣等などのバイオマスを、微生物の働きによりメタン発酵させて製造する気体燃料で、主に発電燃料として使用されています。 

バイオガスによる発電規模は、平均で約400kW程度(一般家庭の約100世帯分の発電量ほど)と比較的小規模です。そのため、主に地産地消のエネルギーとしての活用が期待されています。 発生したガスは一般的にメタン60%、CO₂40%、不純物として微量の硫化水素やアンモニアを含みますが、硫化水素は腐食性が高く有毒なため、脱硫設備で除去し、メタンの純度を90%程度に高めたのちに燃料として利用します。

製造過程で残る発酵残渣(消化液)の一部は、肥料としての二次利用が可能な場合もあります。一般的な液肥と比べると臭気も少なく、窒素・リン酸・カリがバランス良く含まれるとして、有効活用が期待されています。

バイオマス発電について詳しく知りたい場合は以下の記事をお読みください。


バイオマス発電とは?種類やメリット、課題まで解説|サスティナビリティハブ

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一方、二次利用できない発酵残渣(消化液)については、産廃処理が必要性などの課題もあります。 

またこれまでご紹介した4種類のバイオマス燃料のほか、技術開発の進歩により、木質バイオマスによる液体燃料の製造、廃食用油から製造するジェット燃料(SAF)の製造など、従来とは異なるバイオマス燃料の利用方法も検討されています。 

バイオマス燃料のメリットと課題

バイオマス燃料のメリット

バイオマス燃料のメリットとして、主に以下の5点が挙げられます。   

  • カーボンニュートラルな燃料である  
  • 地域の未利用資源を有効的に活用でき、循環型社会の形成や地域活性化、新産業創出に繋がる  
  • 太陽光や風力に比べ、安定的な出力と液体燃料化ができる   
  • 発電や熱利用だけでなく、液体燃料、化成品原料、素材など 幅広い用途がある 
  • バイオマス燃料を石炭発電用のボイラーで混焼する場合は、既存設備をそのまま有効活用できる  

ちなみにバイオエタノールを自動車に混ぜて使う際、既存のエンジンで車を動かせるという活用方法も存在します(※混合率が低い場合に限ります)。

バイオマス燃料の課題

次に、バイオマス燃料の課題を見ていきましょう。 

一般的にバイオマス資源は一か所に大量に存在しているのではなく、薄く広く顕在しているため、収集や運搬コストが高くなります。そのため、コスト低減に向けて効率的な収集運搬や地域活用システムの構築が必要です。  

また、食料の供給や既存の用途(化粧品原料や燃料など)と競合する可能性もあります。解決のためには多段階(カスケード)利用や、食料/バイオマス資源としてどちらでも利用できる稲わらや木質等のセルロース系、廃棄物系原料などの有効活用が重要といえます。  

第1章の冒頭でも説明した通り、バイオマス燃料は、ライフサイクル全体で考えると動植物が吸収したCO₂を排出しているためカーボンニュートラルと考えられますが、カーボンフリーではなく、輸送や加工時に排出されるCO2も総合的に見て、CO2低減を目指さないといけない点も覚えておきたいポイントです。

日本は、バイオエタノールの大半を世界有数のバイオエタノール大国であるアメリカやブラジルから輸入していますが、 バイオエタノールを生産する工場のCO₂発生量もゼロではありません。また海外からのタンカー輸送時にもCO₂が発生します。これらの生産段階で排出されたCO₂は、バイオエタノールを利用した際のCO₂発生量としてもカウントする必要があるほか、輸入にかかわる関税などのコスト発生などバイオマス燃料の積極的な導入には未だ課題も見受けられます。  

バイオエタノールについて考えると、課題はそれだけではありません。 自動車のエネルギー効率を示す指標に、「 Well to Wheel(ウェル トゥ ホイール)」というものがあります。これは、走行時のCO₂排出量のみを考えるのではなく、油田から原油を採掘して燃料を生成するまでに排出されるCO₂量も考慮すべきという考え方で、 CO₂排出量を客観的に評価する必要があるという考えのもと生まれた言葉です。 例えば、電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)は環境にやさしい自動車だとされていますが、燃料となる電気や水素を生成する際に燃焼や電気分解をすればCO₂が発生します。 

トヨタは、自動車の燃料として何がベストかを考える際に「Well to Wheel 」の概念を重要視しています。ガソリンとバイオエタノールを比べた際、バイオエタノールの方が発熱量が小さいため、同じ走行距離の場合はガソリンよりバイオエタノールの方が消費量が多くなることに。 

以上の点から、「油田から燃料になるまでの過程も考えると、総合的なCO₂発生量は本当にバイオエタノールの方が少ないのか」という問題意識も出てきており、これもバイオマス燃料に関する課題の1つといえそうです。 


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【5選】バイオマス燃料を活用している事例

最後にバイオマス燃料の活用事例を、燃料の種類ごとに紹介します。

1. 石川県小松市

石川県小松市では、温浴施設にて利用されてきた重油ボイラーを木質バイオマスボイラーに転換しました。木質バイオマスの燃料としては、杉や檜などの未利用間伐材を使用。1ヶ月平均15トンのCO₂の実現に成功しています。 

(参照:林野庁木材利用課「木質バイオマス熱利用・熱電併給事例集」) 

2. 沖縄バイオ燃料事業

さとうきびの主要生産地である沖縄県において、可能な限り沖縄県産さとうきび糖蜜由来のバイオエタノールを活用することで、バイオエタノール3%直接混合ガソリン(E3)を製造して県内のサービスステーションに供給し、E3の本格的な普及と自立商業ベースによる供給体制の確立を促進する事業が実施されました。沖縄県内のガソリン供給量の1割を超えるシェアを獲得するなどの成果を収めましたが、バイオエタノールの調達などコスト面が課題となり、事業は終了しています。 

(参照:宮古毎日新聞社「バイオエタ事業化 今年度で実証事業終了」) 

3. 日揮グループ

バイオエタノール製造工程と実証設備_図と画像
 
日揮グループは食糧と競合せず、CO₂削減効果の高い非可食バイオマスを原料とする2G(第2世代)バイオエタノール製造技術を開発しました。 バガス(サトウキビの絞りカス)や稲わら、廃菌床などの農産・工業廃棄物、木質軽原料をもとに、バイオ化学品やバイオエタノールとして活用できます。国内外での商業化に向けて、実証や開発を進めています。 

■詳細はこちらからご確認ください。

4.エコERC

エコERCは、北海道帯広市に位置する従業員11名の企業ですが、十勝管内を中心とした公共施設などで、使用済みや賞味期限切れの天ぷら油などの植物性廃食用油や、飲食店および食品工場などから排出された廃食用油を回収しています。集めた廃食用油では、軽油の代替材料として利用されるバイオディーゼルを製造しています。 

(参照:株式会社エコERC「バイオディーゼル燃料」) 

5.あべのハルカス

メタン発酵設備_画像出典:近鉄グループホールディングス「あべのハルカスの環境取組み」(最終アクセス 2022/12/21)

日本一高い高層ビル(※)として知られるあべのハルカスは、レストランの厨房から出る生ごみから、熱や電気をつくるメタン発酵設備「メタファーム」を開発しました。建物内で完結させる形で、バイオガス発電を実施しています。 高層ビルでは日本初の試みとなっており、ビル内で処理することで処理にかかるエネルギーを削減することで、CO₂削減にも貢献しています。 ※2022年12月現在 

まとめ

今回は、動植物(バイオマス)由来燃料であるバイオマス燃料についてご紹介しました。皆さまの参考になれば幸いです。 

サステナビリティハブ編集部
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