【わたしの仕事と日常 #02】パーム油の搾油廃液からバイオメタンをつくる(仕事編)

【わたしの仕事と日常 #02】パーム油の搾油廃液からバイオメタンをつくる(仕事編)

目次

    日揮ホールディングス(以下、日揮HD)では、サステナビリティ関連の新事業の創造を担うため、2019年10月にサステナビリティ協創部(現サステナビリティ協創オフィス)を創設しました。今回の記事では、サステナビリティ関連の新規事業の創出に向けて奮闘する11年目社員に、その事業や業務の内容、やりがいを感じる瞬間などについて話を聞きました。(インタビュアー:サステナビリティハブ編集部)

    新事業「パームオイル搾油廃液からのバイオメタン製造」とは?

    ――松尾さんは現在、SCOでどのような業務に携わっているのでしょうか。 

    インドネシアやマレーシアの基幹産業であるパームオイル搾油工場で生じる廃液から、天然ガスの代替燃料となる「バイオメタン」を製造し、同国のクリーン燃料需要家に供給する新規事業開発にプログラムマネージャーとして携わっています。

    ――なぜ今、パームオイルの搾油廃液からバイオメタンを製造する新事業への取り組みを進めているのでしょうか。事業を取り巻く状況とあわせて、詳しく教えていただけますか。

    パームオイルの製造を基幹産業とするインドネシアやマレーシアでは、パーム油の搾油廃液からCO2の25倍の温室効果を持つとされるメタンガスが発生し、その多くが大気放散されていることが社会課題となっています。

    一方、世界ではネットゼロに向けた取り組みが活発化する中で、GHG(温室効果ガス)を排出しない「ゼロエミッション燃料」や、ライフサイクルでGHGを出さない「バイオ燃料」への期待が高まっています。ですが、カーボンニュートラルに向けた企業の取り組みは、まだまだ価値に対してコストが見合っていないと判断されているのが現状です。

    そこで我々は、燃料確保とGHGゼロ排出の両立を目指す需要家に対して、コストパフォーマンスの高いバイオメタンを供給することを目標に据え、事業開発をおこなっています。加えて、メタンガスを回収しバイオメタンとして利用することでメタンガスの大気放出を抑制し、カーボンニュートラル社会への道筋をつけることも、この事業の目標です。

    ――本事業では、日揮のどのような既存技術や知見が生かされているのでしょうか。

    この事業は、メタンガスを回収してバイオメタンに転換して終わりではなく、バイオメタンをクリーンエネルギー需要家に届けることができて初めて実現します。方法はいくつかありますが、我々は、転換したバイオメタンをLNG化石資源由来の天然ガスと混ぜて既存のパイプラインで「バイオLNG」として供給する方法を考えています。新たに専用のパイプラインを構築すれば多額の投資が必要になりますが、既存のパイプラインを使用することでその必要がなくなり、コストを抑えることができるためです。

    当社は長らく、数多くのLNG液化天然ガス処理プラントのEPCに携わってきたため、この分野において世界的に見てもトップクラスの技術力やノウハウがあります。事業を進める上で、この技術力・経験が大きなポイントになっています。

    ――松尾さんはこの事業において、どのような業務を担当されているのでしょうか。

    本事業は、現地の国営石油会社(PGN社)、大阪ガス、INPEXとのコンソ―シアムで開発しているものですが、私は4社コンソーシアムの統括プログラムマネジャーとして、最終投資決定に至るまでの道筋を立て、実行をリードする役割を担っています。

    具体的には、事業戦略・ビジネスモデルの立案、原料サプライヤーの開拓・交渉、顧客開拓・交渉、サプライチェーンの実効性の検証(設備投資、ロジスティクスなど)、経済性の検討、法商務的な側面からの検討もおこないます。業務内容は「事業実現に向けて必要な全てのこと」と言っても良いくらい、多岐にわたります。

    今後、最終投資決定がなされた際には、事業の中核を担い、早期黒字化に向けた立ち上げをリードする予定です。

    業務における苦労とやりがい

    ――業務を進める上で、苦労したことや大変だったことを教えてください。

    コンソーシアムを組む4社のベクトルが常に同じ方向を向くように、4社間の意思のすり合わせや調整をし続ける必要があるのが最も大変なところです。ですが、各社のノウハウやリソースを事業開発に効率よく生かし事業を前に進めていくためには、各社の思惑が一致していることが非常に重要なので、この作業は絶対に欠かせません。

    コンソーシアムは、1社でも「自社だけが汗をかいて頑張っている!」「割り勘負けしている!」と不満を抱く構造に陥ると、とん挫してしまう可能性が高くなります。そこで、パートナー間の契約関係で事前に不明な部分を潰しておくのが定石ですが、契約でカバーしきれない部分は運用でカバーする必要が出てきます。日々共通利益の認識をすり合わせておくことで、4社でバランスよく業務を担当しようというマインドのもと、進めることが出来るのです。そのためには、事業を統括する当社がリーダーシップを発揮して検討指針を示すことと、時には各社に口酸っぱく言い続けることが重要だと考えています。

    ――リーダーシップを発揮するために意識していることはありますか。

    「リーダーシップを発揮すること」を特に意識したことはありません。それよりも大事なのは「仕事を前に進めたいという強い気持ちがあるかどうか」ではないでしょうか。自分にとって心地よいスピード感でプロジェクトを進めるためには自ら旗を振る必要が出てくることもあり、それが結果的に“リーダーシップを発揮している”という状態になっているのだと思います。

    これは当社の特徴と言っても良いのですが、「とにかく仕事を前に進めたい、仕事が前に進まないと苦痛」という人が非常に多い。自画自賛になってしまいますが、「日揮の人がいると必ず話がまとまる」と、他社さんから頼りにしていただいている理由の一つだと思っています。同時に、プラントで用いない技術についてはまだまだ足りないしか知らないという視野の狭さが短所でもあるので、自分も含め、もっと勉強して視野を広げていく必要を感じています。

    ――業務を遂行するにあたって様々な知識を調べながら実践していらっしゃることと思います。習慣的におこなっていることなどありましたら、教えていただけますか。 

    日頃から意識的にGX・サステナブル関連の情報収集をしています。我々の商品は「GHG排出を削減するソリューション」であって、何か実態のある便益を扱っているわけではありません。さらに言えば、我々のお客様は日々コンマ数パーセントの原価削減に取り組む製造業のお客様ですが、その方々に対して大幅なコストアップを強いるソリューションでもあります。「GHGを削減することの価値」を高く感じて頂けるための提案をおこな行うには、日々目まぐるしく変化するGX・サステナブルのトレンドや顧客ニーズが発生する文脈を知っておく必要があります。

    また、「こういうピースとピースがあれば、事業として成立するだろう」というアイディアは常に頭の中にストックしています。すると、その中のピースが情報として入ってきた時に、即時につなぎ合わせて提案できるのです。このようにして誰よりも早くビジネスの種を掴んできたことが、自分のビジネススキルを押し上げてくれた実感があります。だからこそ、その時点においては直接的に求めている情報ではなくても、あえて時間を使って幅広く収集するようにしています。

    ――SCOでの仕事のやりがいを感じるのはどんな時ですか。 

    何も描かれていない真っ白のキャンバスにビジネスモデルを描き、各要素を自由自在に組み替えながら、最初はおぼろげだった事業構想を具現化していく過程にやりがいを感じます。例えば、私が今おこなっている「パーム搾油廃液からのバイオメタンの製造事業」は、パーム産業から出てくるメタン、メタンを精製する技術、回収したメタンを既存の天然ガスパイプラインに注入する技術など、我々が事業の情報収集をする中で見つけたピースを、各社とアライアンスを組みながら繋げていき、サプライチェーンの形にしたものです。

    SCOの仕事は“ビジネスの総合格闘技”と呼ぶのがふさわしく、そこに技術集団である当社の技術や知見をエッセンスとして加えることで、他社には出せない付加価値を提供できるのが醍醐味だと感じています。

    まとめ

    今回の記事では、サステナビリティ関連の新規事業「パーム搾油廃液からのバイオメタンサプライチェーンの構築」の実現に向けて奮闘する日揮HDの社員に、仕事の内容ややりがい、新規事業開発の面白さなどについて聞きました。学生時代や、プライベートの過ごし方などについてのインタビュー後半は、こちらをご覧ください。


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    サステナビリティハブ編集部

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