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EVを「本当にエコ」にするには?~ライフサイクル CO2排出量を考える~

身近なサステナビリティ カーボンニュートラル
目次

昨今、自動車分野で求められている CO2削減。電気自動車に関するニュースを目にすることも多くなりましたが、果たして従来のガソリン車やディーゼル車の代わりに「電気自動車(EV)」を導入すれば、自動車における CO2削減問題は解決するのでしょうか。 

そこで今回は、電気自動車の製造~廃車までのライフサイクルに関するCO2排出量を紹介しながら、電気自動車はエコだといえるのか、また「本当にエコ」な乗り物にするためには今後どうすればいいのかを考えていきます。

CO2排出源の16%は自動車分野

地球温暖化に及ぼす影響が最も大きいといわれる、温室効果ガス。2015年にパリ協定が採択されたことにともない、日本政府は「2050年カーボンニュートラル宣言」を発表しました。各産業においても、  CO2をはじめとする温室効果ガスの削減が急務となっています。 

自動車のCO2排出量出典:経済産業省「「次世代蓄電池・次世代モータの開発」 プロジェクトに関する 研究開発・社会実装の方向性」(最終アクセス 2023/8/23)

 2019年度における日本のCO2排出量(11億800万トン)の内訳を見ると、運輸部門からの排出量が18.6%を占めています。そのうち、自動車分野からの排出量が16%を占めており、自動車産業の環境対策が見直されている要因の1つです。

電気自動車は本当にエコ?

充電中のEV自動車

ガソリン車に変わるエコな車として注目されているのが、「電気自動車(EV:Electric Vehicle)」です。電気の力のみで走行するため、 CO2などの排気ガスを一切排出しないことから環境に優しい車といわれています。 

では、電気自動車の製造から廃車までのライフサイクルにおけるCO2の発生量はどうでしょうか。下のグラフは、日本国内における電気自動車ガソリン車のライフサイクル(製造から廃車までの全過程)で発生するCO2量を示しています。

国内における電気自動車とガソリン車のライフサイクルCO2排出量の比較

電気自動車のCO2発生量が走行中も増加している理由(のグラフが右肩上がりな理由)は、日本国内の電力が火力発電に依存しているためです。エコだといわれている電気自動車も、火力発電に依存している電力を充電して走るため結果として間接的にCO2を排出していることになっています。

また電気自動車製造時のCO2発生量は、ガソリン車の製造時に比べて多いこともわかります。これは、電気自動車に搭載されているリチウムイオン蓄電池製造時に排出されるCO2が多いためです。

このように日本国内の電力事情を考慮し製造から廃車までのライフサイクルでCO2排出量を考えると、走行距離によって電気自動車の方がガソリン車よりCO2を排出量が多くなる場合があります。

(参照:石崎 啓太, 中野 冠 2018「内燃機関自動車,ハイブリッド自動車,電気自動車,燃料電池自動車における車内空調を考慮した量産車両LCCO2排出量の比較分析」,『日本機械学会論文集』 p.18-50, 一般社団法人日本機械学会、「Estimation of CO2 Emissions of Internal Combustion Engine Vehicle and Battery Electric Vehicle Using LCA」) 

【4選】電気自動車を本当にエコにするためには

走行中の車

では、電気自動車が「本当にエコである」といえるようにするためには、どのような方法があるのでしょうか。 

1.電源構成(電気が作られる方法)の低炭素化

先述した通り、国内で電気自動車のCO2排出量が高いのは、日本の電源構成が火力発電に依存しているためです。つまり、再生可能エネルギーの利用も含めた電源構成の低炭素化を進めることが必要だといえます。

2.蓄電池製造時のCO2排出量削減  

電気自動車の蓄電池を製造する時にCO2をの排出を削減する方法も考えられます。既に日本でも様々な検討が開始されていますが、蓄電池の製造に必要なレア・レースの生産過程における技術開発の課題から、実用化までにはしばらく時間がかかりそうです。 

(参照:経済産業省「次世代蓄電池・次世代モータの開発」プロジェクトに関する研究開発・社会実装の方向性

3. 部品の製造も含めたサプライチェーン全体での低炭素化

部品の製造も含めたサプライチェーン全体での低炭素化が進めば、電気自動車を製造する際のCO2削減が期待できます。

既に様々な製造工場において、工場の省エネ化や再生可能エネルギーによるグリーン電力の利用、またサステナブル素材の活用など、CO2を排出量削減に向けた具体的な検討がされています。

(※下記の記事では。脱炭素の定義から国内外の現状、脱炭素化に向けた具体的な取り組みまで紹介しています。あわせてご覧ください。)


脱炭素とは?必要性や世界各国の目標などの基礎知識から国・自治体・企業での取り組みまで解説|サステナビリティハブ

2050年カーボンニュートラルの実現に向け、脱炭素の取り組みが各国で進められています。今回は、脱炭素の定義や各国の目標や世界のCO₂ 排出量削減の推移といった基礎知識から、脱炭素社会を実現するための日本の長期的な方針と課題、具体的な取り組み事例まで詳しくご紹介します。

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4.電気自動車の蓄電池再利用促進 

電気自動車の普及に伴って、中古の蓄電池が多く余るといわれていることをご存知でしょうか。中古蓄電池は再生可能エネルギーの貯蔵等に使用することができます。そのため、多くの中古蓄電池が再利用されることによって、再生可能エネルギーの普及が促進され、電気自動車充電時のCO2排出量削減につながることが期待されます。 

まとめ

「電気自動車はエコである」と信じていた方も多いのではないでしょうか。環境に優しい買い物をする際には商品そのものの情報のみならず、その商品のライフサイクル(製造から廃車までの全過程)にも考慮する必要があります。

電気自動車が「本当にエコ」な乗り物になるためには、発電そのものの低炭素・脱炭素や、蓄電池の再利用促進が必要です。今回の電気自動車の例のように、今まで当たり前として考えてきたことを見直してみると、新しい発見につながるかもしれません。

また、下記の記事では水素を燃料とする「燃料電池車(FCV:Fuel Cell Vehicle)」に注目し、そのライフサイクルにおけるCO₂排出量から「究極にサステナブルな水素」とはどんな水素なのかを考えています。興味のある方はあわせてご覧ください。


燃料電池車(FCV)のライフサイクルCO₂から水素のサステナビリティを考える|サステナビリティハブ

水素(H₂)は、環境負荷の少ないサステナブルな燃料の一つと言われています。しかし、水素の製造方法によっては、環境にやさしいと言えなくなってしまう場合もあります。 今回は、水素を燃料とする燃料電池車(FCV:Fuel Cell Vehicle)のライフサイクルにおけるCO₂排出量から「究極にサステナブルな水素」とはどんな水素なのか考えてみましょう。

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サステナビリティハブ編集部
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