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EVを「本当にエコ」にするには?~ライフサイクル CO2排出量を考える~

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目次

自動車分野で求められている CO2の削減。では従来のガソリン車やディーゼル車に代えて、電気自動車(EV)を導入すれば、その問題は解決するのでしょうか。 

今回は、電気自動車の製造から廃車までのライフサイクル CO2排出量をご紹介しながら、電気自動車はエコだと言えるのか、また「本当にエコ」な乗り物にするためにはどうすればいいのかを考えます。

CO2排出源の16%は自動車分野

出典:経済産業省「「次世代蓄電池・次世代モータの開発」 プロジェクトに関する 研究開発・社会実装の方向性」(最終アクセス 2022/12/9)

 地球温暖化に及ぼす影響が最も大きいと言われる温室効果ガス。2015年にパリ協定が採択され、日本もそれに伴い「2050年カーボンニュートラル宣言」を発表しました。各産業においても、 CO2をはじめとする温室効果ガスの削減が急務となっています。 

2019年度における日本の CO2排出量(11億800万トン)の内訳を見ると、運輸部門からの排出量が18.6%を占めています。その内、自動車分野からの排出量が16%を占めており、自動車産業の環境対策が見直されています。

電気自動車は本当にエコ?

ガソリン車に変わるエコな車として、現在電気自動車(EV:Electric Vehicle)が注目されています。電気の力のみで走行するため、 CO2などの排気ガスを一切排出しないことから、環境に優しい車であると言われています。 

一方、電気自動車の製造から廃車までのライフサイクルにおける CO2の発生量はどうでしょうか。下のグラフは、日本国内における電気自動車とガソリン車のライフサイクル(製造から廃車までの全過程)で発生するCO2量を示しています。

電気自動車のCO2発生量が走行中も増加している理由(茶のグラフが右肩上がりな理由)は、日本国内の電力が火力発電に依存しているためです。電力を充電して走る電気自動車は、CO2を間接的に排出していることになるのです。

また、電気自動車製造時の発生量がガソリン車に比べて多いのは、電気自動車に搭載されるリチウムイオン蓄電池製造時に排出される CO2が多いことが理由です。

同様の結果は、ドイツのフォルクスワーゲン社の調査からも出されています。

日本国内の電力事情を考慮し、製造から廃車までのライフサイクルで CO2排出量を考えると、走行距離によって電気自動車の方がガソリン車よりCO2排出量が多くなる場合があるのです。

(参照:石崎 啓太, 中野 冠 2018「内燃機関自動車,ハイブリッド自動車,電気自動車,燃料電池自動車における車内空調を考慮した量産車両LCCO2排出量の比較分析」,『日本機械学会論文集』 p.18-50, 一般社団法人日本機械学会、「Estimation of CO2 Emissions of Internal Combustion Engine Vehicle and Battery Electric Vehicle Using LCA」) 

電気自動車を本当にエコにするには

電気自動車が、本当にエコであると言えるようにするためには、以下のような方法があります。 

1.電源構成(電気が作られる方法)の低炭素化

国内で電気自動車のCO2排出量が高いのは、国内の電源構成が火力発電依存になっているためです。つまり、再生可能エネルギーの利用も含めた電源構成の低炭素化が必要です。

2.蓄電池製造時のCO2排出量削減  

電気自動車の蓄電池を製造する時にCO2の排出を削減する方法が考えられます。

既に日本でも様々な検討が開始されています。しかし、蓄電池の製造に必要なレア・レースの生産過程における技術開発の課題から、実用化までにはしばらく時間がかかりそうです。 

(参照:経済産業省「次世代蓄電池・次世代モータの開発」プロジェクトに関する研究開発・社会実装の方向性

3. 部品の製造も含めたサプライチェーン全体での低炭素化

部品の製造も含めたサプライチェーン全体での低炭素化が進めば電気自動車を製造する際のCO2削減が期待出来ます。

 既に様々な製造工場において、工場の省エネ化や再生可能エネルギーによるグリーン電力の利用、またサステナブル素材の活用など、CO2排出量削減に向けた具体的な検討がされています。



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4.電気自動車の蓄電池再利用促進 

電気自動車の普及に伴って、中古の蓄電池が多く余ると言われています。中古蓄電池は再生可能エネルギーの貯蔵等に使用することができるのです。

多くの中古蓄電池が再利用されることによって、結果的に再生可能エネルギーの普及が促進され、電気自動車充電時のCO2排出量削減につながることが期待されます。 

まとめ

 「電気自動車はエコである」と信じていた方も多いのではないでしょうか。環境に優しい買い物をする方法を考えるとき、商品そのものの情報のみならず、その商品のライフサイクル(製造から廃車までの全過程)にも考慮する必要があります。

電気自動車が「本当にエコ」な乗り物になるためには、発電そのものの低炭素・脱炭素や、蓄電池の再利用促進が必要です。今回の電気自動車の例のように、今まで当たり前として考えてきたことを見直してみると、新しい発見につながるかもしれません。

サステナビリティハブ編集部
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