繊維リサイクルとは?方法や日本・海外の現状、最新技術を分かりやすく紹介
繊維リサイクル
地球温暖化対策として、2015年の国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で採択されたパリ協定を機に、世界ではカーボンニュートラルへの動きが加速しています。日本でも持続可能な社会を目指すため、「SDGs」や「サステナブル」といったキーワードが注目されるようになりました。
そんな中、我々の生活に欠かせない「衣服」にまつわるアパレル業界においても、環境問題への取り組みがおこなわれつつあります。全世界の温室効果ガス排出量の8~10%は衣服産業由来。世界における「衣服の生産量」はこの20年で以前の2倍に膨らんだ反面、ファストファッションの普及により「1着あたりの着用期間」は、以前の半分程度に減ってしまいました。短いサイクルで衣服の消費がおこなわれることで、温室効果ガスの排出もそれに比例して増えている状況です。
そこで今回は「衣服のリサイクル」に焦点を当て、手法や現状、どのくらいの量がリサイクルされているのか、また今後のトレンドや最新技術などを詳しくご紹介します。
繊維リサイクルの方法とは?
昨今のリサイクル手法は大きく3つに分類することができます。今回のテーマである「繊維リサイクル」も、この手法に準じて処理されることが多く、それぞれの特徴をご紹介していきます。
マテリアルリサイクル
マテリアルリサイクルは廃棄品を粉砕もしくは融解し、廃棄品の物質特性を変えないまま、次のリサイクル品の原料とする方法です。代表的な例はペットボトルのリサイクルで、繊維製品でいえば以下のようなリサイクルがおこなわれています。
- 古着をばらして布状にしたあと「雑巾」や「工場での油拭き用布(ウエス)」にする
- 布から繊維をわた状にほぐし自動車の防音材にする
- 合成繊維100%の布は洗浄・粉砕・溶解し、ボタンやファスナーなどの成形材に再利用する
加工の段階において材料の物質的な品質が低くなってしまう場合は、未使用・未加工の原材料(バージン素材)を混ぜることが一般的です。
マテリアルリサイクルのメリットには「リサイクルが安価にできること」が、デメリットには「リサイクル品の品質が不安定になる場合があること」が挙げられます。またあくまで機械的なプロセスとなるため、工程がシンプルである反面、染料や不純物の除去等は難しいことも特徴のひとつです。
ケミカルリサイクル
ケミカルリサイクルは、素材を分子レベルで分解し、精製した後に化学合成・再製品化する手法です。例えば回収されたナイロンやポリエステルなどの化学繊維を分解・精製することで他の物質に変換、もしくは元原料として再び利用します。
ケミカルリサイクルのメリットには「異素材を除去して高品質の安定したリサイクル品を生産できること」、また「石油由来の新品(バージン品)に限りなく近い品質を実現できること」が挙げられ、デメリットには「リサイクル工程が複雑であることから、処理プロセスが比較的高コストになること」が挙げられます。
サーマルリカバリー(熱回収/サーマルリサイクル)
サーマルリカバリー(熱回収/サーマルリサイクル)は、衣料を可燃ごみと一緒に焼却し、その際に発生した熱を発電・電力供給や地区暖房、産業利用などに再利用する方法です。繊維製品をそのまま燃やさず金属などを取り除いた後、他の廃棄物と混ぜて固形燃料化してから利用する場合もあります。
これにより、「廃棄物からエネルギーを回収し再利用できる点」、また「受け入れ原料の制限がほとんどない点」がメリットとなります。 しかしEUでは、廃棄物は循環せず消費されて終えることから、この手法は”リサイクル”と見なされていません。先進国を始め、リサイクルでなくサーマルリカバリー/熱回収として差別化されつつあるため、今後は衣服の焼却は出来る限り減らすことを要求されていく流れにあります。
日本と海外の繊維リサイクルの現状
このように3つの手法で実施されている「繊維リサイクル」ですが、本章では繊維産業の環境負荷を低減する手段として広く普及している「ペットボトルから繊維のリサイクル」に注目してみましょう。実際にリサイクルされている量や現状、またEUにおける最新の動きをご紹介します。
国内における繊維リサイクルの状況
衣類のマテリアルフローの現状認識(2020年)出典:国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「第1回 繊維製品の資源循環システムの検討会 繊維製品の資源循環システムの構築に向けた技術開発について」(最終アクセス 2023/7/4)
環境省が2020年に実施した調査では、年間81.9万トンの衣料品が家庭から手放されていますが、そのうちの51.2万トンはごみとして焼却・埋め立て処分され、一部はサーマルリカバリーとして活用されています。マテリアルリサイクルとケミカルリサイクルの合計は12.3万トンと全体の15%程度ですが、その大半がウエスやフェルトとしてカスケード利用されるもので、「繊維 to 繊維」のリサイクルは全体の1%未満しかありません。
国内におけるプラスチックから繊維にリサイクルされる割合
次に、リサイクル体制が特に確立されているといわれているペットボトルに注目してみましょう。 廃棄物となったペットボトルは新しいペットボトルに再生されるだけでなく(「ホリゾンタルリサイクル」)、食品トレーや卵パックなど多様な物にリサイクルされていますが、ペットボトルから「繊維」にリサイクルされる割合はどのくらいなのでしょうか。
ペットボトルのリサイクル先実績の推移 出典:日本容器包装リサイクル協会「再商品化製品販売実績 年次推移 PETボトル」(最終アクセス 2023/7/4)
上記のグラフによると、国内のペットボトルの全体リサイクル量は約20万トンに及び(2021年)、そのうちの約30%(約5万トン)が繊維に活用されています。 具体的には、ペットボトル由来の再生繊維から作られた布団やカーテン、白衣や体操服などの商品が、学校・オフィス・病院といった様々な場所に導入されています。
EUの繊維リサイクルの状況
EUは2022年3月に、繊維の持続可能な循環型活用に向けた方針である「持続可能な循環型繊維戦略」を打ち出しました。(参照:【EU】持続可能な循環型繊維製品のための戦略の公表 )
この方針内で目標として掲げられているのは、EU域内で販売される繊維製品を「リサイクル可能で耐久性を持ったもの、リサイクル済み繊維を大幅に使用したもの、さらに危険な物質を含まずに、労働者の権利などの社会権や環境に配慮したものにする(※2030年まで)」という内容です。
たとえば、2次元QRコードのような「デジタル製品パスポート」の導入のもと、製造元・使用材料・リサイクル性・分解方法などの情報が読めるようにするなど、生産事業者に対して情報の開示を要求する動きが見られています。そのほかでは、製品の耐久性や再利用などの衣服等の設計・製造要件を定めた「エコデザイン要件」も提言され、リサイクルも見据えた製品設計が求められるようにもなりました。
EUではこのように、繊維リサイクルの実現に向けて生産事業者を巻き込んだ制度の構築が始まっています。
求められる最新の繊維リサイクルには何がある?
経済産業省は、2022年に「2030年に向けた繊維産業の展望(繊維ビジョン)」を発表しました。今後の新市場開拓や、サステナビリティとデジタル化に向けた方向性を整理し、資源循環の取り組み強化を掲げています。 (参照:METI/経済産業省「2030年に向けた繊維産業の展望(繊維ビジョン)」)
そのため次世代技術や、クローズドループ・リサイクル(品質を維持した材料で廃棄物を再生産して製品に転換する技術)などが期待されていますが、具体的にはどのような技術・取り組みが求められているのでしょうか。
リサイクル原料の回収を高度選別技術で効率化
繊維原料用途の衣類リサイクルの原料を効率的に回収するためには、機械化による高効率な高スループット選別技術が求められます。
繊維原料用途のリサイクル原料を効率的に回収するための高度選別技術の開発 出典:国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「第1回 繊維製品の資源循環システムの検討会 繊維製品の資源循環システムの構築に向けた技術開発について」(最終アクセス 2023/7/4)
例えば、繊維分別のための識別技術、裁断・付属品の除去の機械化も重要です。国内における数十万トン規模の廃繊維はすべて手作業で選別しているという現状があり、混紡品などの複合素材の高度識別、またボタンなどの付属品の除去(手作業)も課題となっています。
そのため繊維リサイクルの拡大には、選別のための機械化をはじめとする様々な技術が必要になってくるでしょう。
(※以下は、日揮ホールディングスと東京大学、帝人などと共に設立したワーキンググループを率いていらっしゃる東京大学の平尾教授に、「循環型社会作りにおける衣服特有の課題」についてインタビュー形式でお話を伺った連載記事です。ぜひご覧ください。)

高品位な繊維原料への再資源化技術における開発(綿・PETの例)
高品位な繊維原料への再資源化技術の開発(綿・PETの例) 出典:国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「第1回 繊維製品の資源循環システムの検討会 繊維製品の資源循環システムの構築に向けた技術開発について」(最終アクセス 2023/7/4)
次に、高品質な繊維原料への再資源化を実現するために開発された、新しい技術を見てみましょう。
綿成分(セルロース)では、反毛*作業をおこなった後に再紡糸する方法や(マテリアルリサイクル)、回収・選別した衣類からセルロースを集めてMMCF(人工的に製造されたセルロース繊維)に紡糸する方法があります(ケミカルリサイクル)。 またPET成分では、重合している高分子物質を分解させる「解重合」によるケミカルリサイクルの方法などがあります。
*反毛…毛織物や毛糸のくずをほぐして繊維とすること。
リサイクル手法の融合によるシナジーの創出
マテリアルリサイクル・ケミカルリサイクル・サーマルリカバリーは、それぞれ異なる手法ですが、これらを組み合わせると、資源の効率的な利用や環境負荷の軽減といったシナジーが期待できるといわれています。
例えば、マテリアルリサイクルで得られた繊維は品質が低くなってしまうというデメリットがありますが、ケミカルリサイクルを併用することで高品質な製品を生成できるようになります。さらに、ケミカルリサイクルの処理コストが高いというデメリットについても、マテリアルリサイクルやサーマルリカバリーを組み合わせることで、コスト軽減が期待できます。
さらに単一のリサイクル方法を実施しているリサイクル業者やメーカーは、他の手法でリサイクルをおこなっている会社と協業することで、シナジーを生むサービス提供が可能になるかもしれません。企業競争力の強化につながる見込みもあるため、検討する価値を見出すこともできそうです。
回収される衣類には、多様な繊維成分・染料や加工剤をはじめとする不純物が含まれています。リサイクルの効率を上げるためにはそれらを分離するプロセスも必要であり、対象とされている繊維以外の分離プロセスが求められています。
(※下記の記事では、「サステナブルファッション」について分かりやすく解説しております。ぜひご覧ください。)

循環型サプライチェーン構築と実際の取組み
ここまでは「繊維リサイクル」を多角的に見てきましたが、繊維リサイクルの活性化をはかるためには全体プロセスを包括する、「循環型のサプライチェーン」が重要でしょう。 製品のライフサイクルが「循環型」になっていると、本来は廃棄予定だった物が再利用やリサイクルに回されることとなり、新たな原材料に関わる資源の節約や、製造工程におけるエネルギーなどの削減に繋がります。
繊維リサイクル(衣料品)における循環システムの全体イメージ 出典:製造産業局 生活製品課「繊維製品の資源循環システムをめぐる現状と課題」(最終アクセス 2023/7/4)
繊維リサイクルにおける循環システムのイメージは上記の通りです。
まず消費者は、購入した衣料品に対して補修やリペアといった方法を採りながら、可能な限り長く着用することが望まれます。その次のアプローチには古着市場などでのリユースや家族・友人への譲渡もあり、さらにその後は破棄(回収)され、分別・リサイクルへ回ります。
(※個人で出来る衣服のリサイクル方法について分かりやすく紹介した記事がこちらです。私たちが取り入れやすい、身近な「リユース・リサイクル」について解説しています。)

リサイクルでは、前章で紹介したマテリアルリサイクルにより産業資材等に活用されたり、あるいはケミカルリサイクルにより”繊維to繊維”としてリサイクルされたりして、衣料品として再び市場に流通していく流れが求められています。
反対に生産事業者は、消費者がこのような対応がとりやすいような設計(環境配慮設計)を進めていく必要があるといえるでしょう。 一連の流れにおいては(環境配慮設計~リサイクル)、各プロセスで今以上のコストが発生するものの、上記のサプライチェーンを通した連携や効率化を積極的におこなっていくことでコストの低減が図れると考えられています。
(※下記では、循環型の取り組みに課題がある5分野の1つに挙げられている「繊維・アパレル業界」の現状、また課題などを解説しています。ぜひご参考にしてください。)

まとめ
今回は、繊維リサイクルの方法・現状から最新の技術についてご紹介しました。皆さまのご参考になりましたら幸いです。

株式会社RePEaT 技術統轄CTO。日揮ホールディングスサステナビリティ協創オフィスで資源循環ビジネスプログラムマネージャーを務め、RePEaT社の立ち上げに関わる。同社設立時に技術統括CTOに就任し、現在は主に社外との技術的協議を担当している。