コミュニケーションの質がサービス品質を左右する!? 事例も紹介

コミュニケーションの質がサービス品質を左右する!? 事例も紹介

目次

    企業が将来にわたって成長し続けるためには、いかに顧客から信頼を獲得し維持できるかが重要であり、そのためには品質の良い商品やサービスを安定的に供給する必要があります。

    高品質な商品・サービス作りに欠かせない要素のひとつが、「コミュニケーションの質」です。今回は、コミュニケーションの質と品質の関係性について考えてみましょう。

    品質向上の鍵となる「コミュニケーションの質」

    商品やサービスの品質向上に取り組む際、多くの場合は、5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)の徹底や技術のレベルアップ、生産現場のムリ・ムダの見直しなど、「人材育成」や「仕組みや環境の見直し」にフォーカスするのではないでしょうか。ですが、これらと同等に重要な要素があるのを知っていますか。それは「コミュニケーションの質」です。

    コミュニケーションの質は人と人との関係性の深さに比例するもので、関係が深いほどコミュニケーションを取りやすくなり、自身やチームの目的を達成しやすくなります。そしてコミュニケーションの質を高めるためには、伝える力だけでなく、相手の意図や考えを受け取る双方向のやりとりが必要です。

    人間関係が組織の成功に与える影響については、こちらの記事をご覧ください。


    コミュニケーションの質【4つのレベル】

    チームのコミュニケーションの質は、高めようとしてすぐに高められるものではありません。現状のコミュニケーションの質はどの程度かを把握し、段階を追って対策を進めていくことが大切です。

    まず、コミュニケーションの質を次のように4つのレベルに大別し、それぞれの段階で人間関係の質を深めるために何ができるかを考えていきましょう

    レベル1:挨拶もしないくらいの他人の関係

    レベル2:簡単な挨拶くらいならする関係

    レベル3:近状を話し合う関係

    レベル4:冗談を言い合えるくらいの関係

    レベル1の関係では、業務連絡をすることで関係の質が上がり、相手への関心が生まれるかもしれません。

    レベル2の関係では、業務以外のことを話してみるとお互いを知ることができ、関係の質の向上が期待できます。

    レベル3では、相手を思いやる言葉をかけることでお互いに信頼関係が構築され、自ずと主体的行動がとれるようになるでしょう。

    レベル4の関係になれば、相手の想いを察し合えるようになり、協働・共創につながるでしょう。

    質の低いコミュニケーションが品質の低下を招く

    質の低いコミュニケーションは、円滑な業務を阻害する要因のひとつです。コミュニケーションを取りにくい環境や、質問や意見をしにくい環境では、コミュニケーションの質が低下し、商品やサービスの品質も低下する傾向があります。

    その一例として、建設業における事例をご紹介します。次の表は、建設コンサルタント協会が「建設業における品質低下の要因(問題点)」について、作業段階や場面ごとにまとめたものです。

    建設業における品質低下の要因出典:建設コンサルタント協会「令和3年建設コンサルタント白書」

    品質低下の要因として次の8つの問題点が挙げられていますが、その対応策を見ると、顧客やメンバーとの間で5W1Hを明示した適切なコミュニケーションがおこなわれていれば、防ぐことのできる問題が多いことに気づくのではないでしょうか。裏を返せば、“品質低下の原因の多くはコミュニケーション不足によって生じている”ともいえます。

    1.設計条件の決定時期の遅れ

    対応策:設計条件決定時期と発注者要件を明確にする

    2.工程計画と実工程の乖離

    対応策:工程上のポイント・作業量の見極めをする

    3.体制計画における人員不足

    対応策:適切な人員配置をおこなう、モチベーションアップを図りメンバーの力を最大限に発揮させる

    4.担当者の孤立

    対応策:担当者への声掛けと課題の共有で悩みを解消する

    5.発注者に対する受け身の対応

    対応策:発注者への積極的なアプローチをおこなう

    6.メンバー個々の進捗把握が難しい

    対応策:業務の節目や日々の会話で進捗を報告する

    7.課題が不明確なままの作業

    対応策:気軽なコミュニケーションで“課題の見える化“をする

    8.リスクを抱えたままの作業

    対応策:作業の優先順位をつけてリスクに対応する

    コミュニケーションの質が低く業務連絡もしづらい環境下では、要件や意図が不明瞭になり、顧客やメンバーとの間で認識に齟齬が生まれやすくなります。さらに、メンバー個々の状況や能力を把握できないため、役割分担や連携にも課題が生じます。こうした問題が重なることで、作業の遅れやミスや欠陥の見落とし、スタッフの意欲の低下などを招き、サービスや商品の品質低下につながってしまうのです。

    【業界別 事例紹介】「コミュニケーションの質」を高める施策

    「コミュニケーション」はどの業界でも共通して必要なものです。コミュニケーションの質が向上すると、生産性向上やメンバーのエンゲージメント(企業への愛着)の向上につながるだけでなく、メンバーのアイディアや能力が掛け合わされてイノベーションが生まれるきっかけにもなり得ます。

    ここでは、「製造業」「広告業」「システム開発」における、「コミュニケーションの質を高めるための企業事例」をご紹介します。

    製造業

    製造業は、多種多様なバックグラウンドの人材が集まり、短期間で人が入れ替わる傾向があることから、「互いを知らない関係で仕事をする」という状況が生まれやすいという特徴があります。そのため、十分な人材育成やノウハウの共有がされにくく、業務スピードの低下やミスにつながるリスクがあります。

    また、製造現場は、「騒音で会話を聞き取れない」「工場が広すぎて指示を出しにくい」など、コミュニケーションが取りづらい環境でもあるため、コミュニケーションの質の低下は、納期遅れや想定外の在庫整理、原材料の不足により計画通りに製造ができないなどのトラブルにつながる可能性があります。

    短時間で複雑な開発・製造をスムーズに進めるためには、従業員同士の密なコミュニケーションが必要です。コミュニケーションの質を向上することができれば、生産効率の向上も期待できるでしょう。

    【事例紹介】大和鋼管工業

    栃木県さくら市の鉄パイプメーカー「大和鋼管工業」は、コミュニケーションの質の向上のため、グループトークソリューションツール「BONX」を製造現場と倉庫管理に導入しました。また、スマホを全員に配布し同じツールを使用することで、コミュニケーションの効率アップを図っています。

    これらの施策によって、コミュニケーションが円滑になり、さらに従業員の移動時間のムリ・ムダが抑えられたことで、生産性が向上したといいます。また、正確でタイムリーな意思疎通ができるようになったことで手戻りが減り、従業員の負担が軽減して、仕事の質の向上につながりました。

    広告業

    プランナー・プロデューサー・デザイナー・コピーライター・ディレクター・カメラマン・モデルなど様々な分野の専門家が関わってひとつのものを作り上げる広告業界では、コミュニケーションの質がアウトプットの品質に大きく影響します。

    コミュニケーションの質が上がり、クリエイター間の情報交換・伝達がスムーズになれば、お互いが意図を正しく汲み取り、制作物に反映できるようになるでしょう。また、役割分担が明確になることで、捗状況を把握しやすくなり、ムダな工程が減る効果も期待できます。

    【事例紹介】サイバーエージェント

    インターネット広告事業を展開する「サイバーエージェント」は、イノベーションを起こすためには社内の活性化が重要と考え、セクションを横断したつながりを強化するために、コミュニケーションツールを活用した「自己紹介リレー」などをおこない、コミュニケーションを活性化する活動に力を入れています。

    また、2005年より実施している上司との「月イチ面談」により、上司と部下の人間関係が深まり、離職率が低下する効果があったといいます。

    システム開発

    システム開発は多様なエンジニアからなるチームを編成し、パートナー会社とも連携して遂行していきます。また、プロジェクト組織形態になるため、お互いの背景を知らない人同士が集まりやすい傾向があります。

    知識のレベルや得意分野異なる人たちが、共に複雑な製品を完成させるためには、情報を言葉で表現してきちんと伝え、正確に共有するためのコミュニケーションが重要です。コミュニケーションの質が高まり、関係性が深まればミスを共有しやすくなり、お互いの苦手な面を理解してフォローし合える環境が作れるでしょう。

    【事例紹介】サイボウズ

    ソフトウェア開発を手掛けるサイボウズの現在の離職率は3%ほどですが、かつては28%だったといいます。人材確保や経営維持が大きな課題となったことが、働きやすい職場を目指すきっかけになりました。

    現在は、基本は在宅勤務で必要なときだけ出社するハイブリッドワークを実施していることから、社内コミュニケーション円滑のために「仕事Bar」「ザツダン制度(1on1ミーティング)」「部活動」「分報(社内版X)」などを実施しています。

    「仕事Bar」とは、仕事の話をする場所や飲食代を会社が負担する制度で、リラックスした雰囲気のなかで仕事の話ができ、新しい制度についても仕事Barで他の従業員から意見を聞き、制度に反映できるなどのメリットがあるといいます。

    コミュニケーションの質を向上させる“感謝のメッセージ”

    九州大学大学院の池田浩准教授は、自律的なチームを生み出すためには「感謝」の感情が重要だといいます。

    例えば企業内には、事務用品の補充や公共スペースの掃除や整理整頓、迅速なメール返信やタイムリーな進捗報告など「やって当たり前」だと捉えられる仕事が少なくありません。そのような仕事ほど感謝の気持ちを伝えることで、メンバーのモチベーションアップにつながります。感謝をする側もされる側も他者の視点を持てるようになり、協力行動や先取り行動を積極的に取れるようになって、結果的に組織全体の生産性向上につながるというのです。

    組織の「感謝し褒め合う」文化を醸成し、コミュニケーションの質を向上するために有効なのが「感謝のメッセージ(サンクスカード)」です。

    サンクスカードとは相手に感謝の気持ちを伝えるために贈るカードのことで、多くの企業で導入されています。ここではサンクスカードを導入している2社の事例をご紹介します。

    日本航空(JAL)グループ:サンクスカード

    日本航空(JAL)グループは2006年より、従業員の何気ない気配りや励ましなどの身近な行動に対して感謝の気持ちを伝える「Thanks Card(サンクスカード)」を導入しています。「安全で快適な空の旅を提供するためには、ひとり一人がお互いを理解し合い、最高の状態でバトンを引き継ぐこと」が大切であり、そのためには褒め合う文化の醸成が必要と考えています。手書きのカードで感謝の気持ちを伝えることで、連帯感を育て良質なコミュニケーションが生まれる土壌を築く効果が期待できるといいます。

    ザ・リッツカールトン東京:ファーストクラス・カード

    ザ・リッツカールトン東京では、自分を手助けしてくれた、あるいは部署を超えて協力をしてもらったとき、その相手に感謝と賞賛の気持ちを込めて渡す「ファーストクラス・カード」を導入しています。

    もらった枚数、渡した枚数は人事評価に結びついており、従業員のモチベーションの向上につながっているのだといいます。また、従業員同士の連携や助け合う風土が養われ、結果的にお客様へのホスピタリティにも活かされています。

    紹介した事例にもあるように、感謝や賞賛を示しながら相手を肯定することは、受取り手の「自分はチームに必要とされている!」「自分の頑張りが認められている!」という自己肯定感やモチベーションを高めるだけでなく、「自分を理解してくれている」という安心感にもつながるでしょう。

    従業員同士のコミュニケーションが自然と活性化し職場の居心地も良くなれば、エンゲージメントの向上や離職率の改善にも期待できるのではないでしょうか。

    コミュニケーションの質を高める工夫

    最後に、職場でのコミュニケーションの質を高める方法についてご紹介します。

    コミュニケーションの機会を増やす

    質のよいコミュニケーションであっても、従業員同士の接点が少なければ、関係の質の向上にまではつながりにくいでしょう。そこで大切になるのが、コミュニケーションの機会を増やすことです。

    メンター制度(先輩社員が若手社員を個別に支援する制度)を導入したり、定期的にランチ会や社内イベントを開催したりして、年齢や部署間を超えた従業員同士の接点の場を創出する方法があります。

    従業員同士が交流しやすい環境をつくる

    各従業員の座席を指定せずに好きな席で働ける「フリーアドレス」や、上司と部下が1対1でおこなう「1on1ミーティング」の導入のほか、従業員同士が気軽にやり取りできる「コミュニケーションツール」の活用などが挙げられます。

    建設現場におけるコミュニケーションアプリについてはこちらの記事をご覧ください。


    まとめ

    コミュニケーションの質の向上は、互いに適切な情報を伝えられる関係性の構築に寄与するだけでなく、メンバーのモチベーションを高め、結果として商品やサービスの品質にも影響を与えるでしょう。さらに品質の向上は、企業イメージのアップや顧客からの信頼度を高めることにもつながります。

    この記事で紹介した事例やツールを参考に、企業の規模や事業内容、職場環境に適した方法で、コミュニケーションの質を高める取り組みを始めてみてはいかがでしょうか。

    サステナビリティハブ編集部

    サステナビリティハブ編集部

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