後編【プラント建設の未来を支える技術者たち #02】プロセス設計〈エチレン〉のエキスパート

目次
海外におけるプラント・施設の設計・調達・建設を事業の柱とする日揮グローバルでは、幅広い分野の技術エキスパート*が事業の根幹を支えています。彼らの持つさまざまな専門技術はプラント建設を通したエネルギーや化学製品の供給だけでなく、サステナブルな社会を実現するうえでも欠かせないものです。 そこでサステナビリティハブでは、チーフエンジニア*の方々に専門技術や最新トピックなどをお伺いしながら技術知識を深めていく、新しい連載をスタートしました。第2回目となる今回のテーマは、「プロセス設計」。インタビュー後半となる本記事では、キャリアパスや転機となった出来事、プライベートの過ごし方などについて話を聞きました。(インタビュアー:サステナビリティハブ編集部)
* エキスパート制度は、日揮ホールディングス、日揮コーポレートソリューションズ、日揮グローバル、日揮が対象
* チーフエンジアは、チーフエキスパートとリーディングエキスパートの総称

プロセス設計のチーフエンジニアの業務とは?

――現在、山本さんはプロセス設計のチーフエンジニアとして社内外で活躍されていますが、技術エキスパートを目指すようになったきっかけは何だったのでしょうか。
当社のエチレンプロジェクトは、1958 年3 月に完成した住友化学・大江の年産1.2 万トンから始まり、これまでに45 件のプロジェクトを完工*してきました。
*世界のエチレンプラントの生産量1億8千万トン(年間)のうち、日揮グループが建設したプラントは約7%を占める(2024年11月現在)。
この間、65年以上にわたって、エチレン関連の技術と専門知識が脈々と受け継がれてきたわけです。10年ほど前から、退職されていく諸先輩方に、「後はよろしく」と言われるようになり、エチレン関連の技術・知識を次世代に繋げていくのが自分の役割だと考えるようになりました。それがチーフエンジニアの職を意識し始めたきっかけです。
――技術伝承やエンジニア育成において、特に大事にしていることはありますか?
「形式知」の部分は、出来る限り文書やマニュアルで残し、データベース等で検索できるようにしています。難しいのは、「暗黙知」をどう伝えていくか、という点です。経験や直感に基づいていて言葉で表現しづらい知識なので、例えば成果物に対してコメントがある場合、どのように考えたのかを話し合い、その中で見方や考え方を伝えていく、といったことをしています。
エンジニアの育成という面では、結果を求めるのではなく、多少うまくいかないことは承知のうえで、「まずやらせてみて、考えさせる」ようにしています。「思考する」ということが何より重要だと思っています。
――技術開発にも力を入れているとお伺いしましたが、具体的にはどのような内容なのでしょうか?
ひとつは、ETBプロセス(エタノールからのブタジエン製造)で、開発アドバイザーとしてプロセス部内のみならず、サステナビリティ協創オフィス*や茨城県大洗にある技術研究所への技術サポートをおこなっています。
*サステナビリティ関連の新規事業創出を担う日揮HD内の部門
もうひとつは当社が三菱ケミカルと共同開発したDTP®*プロセス を用い、「CO2から合成したメタノールからプロピレンを経由してe-fuelやポリプロピレン製造する」というコンセプトで、PR活動や一連のチェーンを構築する開発支援です 。
*DTP®:Dominant Technology for Propylene productionの略で、メタノールからプロピレンを製造するプロセス。
そのほかにも、新興技術であるEtE* やSAF*のプロセスを使ったお客様の事業化計画の支援や技術動向の収集や評価もおこない、新規案件の獲得を目指しています。
* EtE:Ethanol to Ethyleneの略で、バイオエタノールからエチレンを製造するプロセス
* SAF:Sustainable Aviation Fuelの略で、廃食用油や、サトウキビ・トウモロコシなどの非可食部分、間伐材、都市ごみ、微細藻類といった生物資源を原料としてつくられた航空燃料
――従来技術の伝承と、新規技術の開発を同時に進めているわけですね。
そうですね。世の中がサステナブルなプロセスを求めていますから、これまで受け継いできた技術をしっかりと次世代に伝えていくだけでなく、新しい技術を獲得していくことも同じくらい重要だと考えています。
――多岐にわたる業務の中で、やりがいを感じるのはどのような時ですか?
技術エキスパートとしての今の立場でいえば、トラブルの相談があってそれがうまく解決できた時ですね。プロセス設計のエンジニアとしては、プラントが稼働して100%の製品が出た時に達成感を感じます。ですがやはり、お客様から「ありがとう」という言葉をいただいた時が一番嬉しいですね。
プロセス設計エンジニアとしてキャリアを築く

――山本さんは入社後、どのようなキャリアパスを歩んでこられたのでしょうか。
1992年に入社してからずっと、エチレンプロジェクトを中心にプロセス設計に従事してきましたが、その途中途中で、国内外で色々な経験をさせてもらいました。入社5年目には石油精製の会社に出向してプラントの運転を勉強させてもらいましたし、中国に1年間滞在し、現地の会社と一緒にプロセス設計をおこなったこともあります。欧州や中東での駐在も経験しました。これまでにかかわったプロジェクトは数十にのぼります。先日、サウジアラビアに出張した際に、過去に手掛けたプラントを12年ぶりに目にしたのですが、感慨深かったですね。
――30年以上にわたるエンジニア人生において、印象に残っているエピソードがあれば教えてください。
約30年前にプラントのスタートアップに立ち会うために中国に駐在した時に、初めてエチレンプラントを見学させてもらいました。ずらりと並んだ分解炉、そびえ立つ蒸留塔、巨大なコンプレッサー、極低温ドラムの液面計で流体が気化していくのを見た時の衝撃は忘れられません。その時に「この装置を担当したい!」と強く思ったのを覚えています。
プライベートの過ごし方
――プライベートの時間はどのように過ごしていますか。最近の関心ごとや、趣味などがあれば教えてください。
昔から70年代ロックが好きで、CDを聴いて過ごすことが多いですね。特に好きなのはキング・クリムゾン。社内の音楽好きが集まって飲み会をする機会もあり、楽しいですよ。家でのリラックスタイムにお酒を飲むのも好きで、最近はコニャックの飲み比べをしています。ヘネシー、マーテル、レミー・マルタン、クルボアジエが世界4大コニャックとして有名ですが、他にもさまざまなブランドがあり、最近のお気に入りは「ABK6(アベカシス)」です。
――ワークライフバランスはとれていると感じますか?仕事と家庭の両立において、特に意識していることがあれば教えてください。
「24時間戦えますか?」をキャッチフレーズとするような時代を若手エンジニアとして過ごしたので、その頃の働き方については何も言えませんが、50代となった今は、仕事もプライベートも良いバランスで楽しめています。定年後は、これまで出張で訪れて素敵な場所だなと感じたロンドンやオランダ、ベルギーなどに妻を連れて行きたいと思っています。
今後の展望:コア技術の発展と新興技術の社会実装を目指して

――最後に、プロセス設計の技術エキスパートとしての今後の目標を教えてください。
「プロセス設計はプラントエンジニアリングビジネスの根幹なので、ブラックボックス化、アウトソーシングさせず、当社のビジネスに欠かせないコア技術として温存し、発展させて欲しい」と諸先輩方に言われてきました。これを推進・継承するのも私の役目だと思っています。
プロジェクト面では、まだ次世代のエンジニアに伝えきれていないことがあるので、最低あと1つ、出来れば2つ、エチレンプロジェクトを遂行したいという思いがあります。また、新興技術のSAFやEtEのプロジェクトにも従事し、社会実装することで当社のコア技術として確立したいですね。
まとめ
今回の記事では、「プロセス設計」のチーフエンジニアに、キャリアパスや転機となった出来事、プライベートの過ごし方などについて話を聞きました。プロセス設計技術の概要や最新トピックについて聞いたインタビュー前半や、エチレンプラントの低炭素化技術については、下記の記事をご覧ください。
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