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テクノロジー プラント

2025.02.04

前編【プラント建設の未来を支える技術者たち #02】プロセス設計〈エチレン〉のエキスパート

前編【プラント建設の未来を支える技術者たち #02】プロセス設計〈エチレン〉のエキスパート

目次

    海外におけるプラント・施設の設計・調達・建設を事業の柱とする日揮グローバルでは、幅広い分野の技術エキスパート*が事業の根幹を支えています。彼らの持つさまざまな専門技術はプラント建設を通したエネルギーや化学製品の供給だけでなく、サステナブルな社会を実現するうえでも欠かせないものです。 そこでサステナビリティハブでは、チーフエンジニア*の方々に専門技術や最新トピックなどをお伺いしながら技術知識を深めていく、新しい連載をスタートしました。第2回目となる今回のテーマは、「プロセス設計」です。是非ご覧ください。(インタビュアー:サステナビリティハブ編集部)

    * エキスパート制度は、日揮ホールディングス、日揮コーポレートソリューションズ、日揮グローバル、日揮が対象
    * チーフエンジアは、チーフエキスパートとリーディングエキスパートの総称

    プラント建設を支える「プロセス設計」とは?

    ――初めに、山本さんが専門にされている「プロセス設計 」とはどのような業務なのか、教えていただけますか。

    「プロセス設計」というのは、簡単に言えば「どのような原料が、どのような工程を経て、製品が出てくるのか、という一連の流れをつくること」です。決めなければいけないことは、各プロセスにおける温度や圧力、物質やエネルギーの入出量のバランス、使用する機器・設備など多岐にわたります。こうした情報をダイアグラムと呼ばれる概念図にまとめるのですが、これを見れば、工程の流れや主要な機器・設備、プロセスの条件といった概略がわかるようになっています。この概念図をもとに、具体的なプラントの設計図をつくっていくわけです。

    ――なるほど、プラントをつくる上でのベースになるのが「プロセス設計」なのですね。

    はい、その通りです。プロセス設計は基本設計とも言われていて、これをもとに「配管設計」や「計装設計」といった詳細設計がおこなわれます。

    そもそも「プロセス設計」は一般的にはあまり馴染みのない仕事かもしれませんね。同じ巨大建造物をつくる業態として建設業がありますが、建設業と我々のようなエンジニアリング業の大きな違いは、プロセス設計をおこなう点です。そうした意味で、「プロセス設計」は、エンジニアリング会社の根幹を支える技術ともいえます。

    ――プロセス設計にあたっては、どのような知識が必要になりますか。また、プロセス設計の肝となるのは、どういったところでしょうか。

    圧力、温度、流量といったプロセスにおける諸条件を決めていくので、化学の知識が必要になりますね。今はソフトウェアを使ってこうした数値を計算していますが、PCが入る前まではかなりの部分を手計算でおこなっていました。

    プロセス設計の肝は、お客様に対する「保証値」を決めるところです。例えば「ある商品を年間100トン作ります」と言った時に、「100トン」が保証値になり、その量が必ず製造できるようにしなければならないわけです。それを可能にするのが、プロセスエンジニアだと思っています。

    ――山本さんはプロセス設計の中でも特にエチレンプラントを専門とされているそうですが、「プロセス設計」と一口に言っても、プラントの種類によって求められる知識などは変わってくるものなのでしょうか。

    そうですね、プロセス設計の場合は、プラントの種類によって必要とされる知識や経験が大きく異なるため、対象分野ごとに専門性を高めていくことになります。

    エンジニアリングは基本的に、横糸と縦糸のマトリックスで表すことが出来ます。横糸はプロセスエンジニアリング、シビルエンジニアリング、配管エンジニアリングといった機能で、縦糸は医薬品、石油精製、LNG、アンモニア、エチレンといった対象分野です。プロセス設計では、この「対象分野」が他の機能に比べて重要視されます。

    技術の宝庫⁉ エチレンプラントの特徴とは?

    ――ここからは、山本さんが専門とされているエチレンプラントについてお伺いしていきます。初めに、「エチレン」とはどのような製品なのか教えていただけますか?

    エチレンは石油化学産業において非常に重要な基礎原料です。ポリエチレン、塩化ビニル、エチレングリコールなど、多くの石油化学製品の原料になっており、これらの製品は、日常生活で使われるプラスチック製品や繊維、洗剤などに広く利用されています。
    エチレンは石油化学製品の生産において欠かせない存在であり、その重要性から「石油化学のコメ」と呼ばれています。

    ――ほかのプラントと比べると、エチレンプラントにはどのような特徴があるのでしょうか?

    エチレンプラントの分解炉の運転温度は860℃と高温で、エネルギーを融通するスチームの圧力は12MPa、低温精製系の運転温度は-160℃にまで至り、温度や圧力の高低差が大きいことが特徴として挙げられます。また、大型回転機、大型加熱炉、大型機器といった幅広い種類の機器・設備が使われているのも特徴といえます。

    このように「エチレンプラントには、プラントエンジニアリングにおけるほぼすべての要素技術が集結している」と言っても過言ではなく、エチレンプラントは「プラント技術の宝庫」と称されることもあります。その分、エンジニアは非常に幅広い技術に精通している必要があり、かつて「エチレンプラントのEPCは FCC(リファイナリ)プラントと並んで難しい」とおっしゃっていた先輩エンジニアもいらっしゃいました。

    エチレンプラントの最新動向

    ――エチレンプラントを取り巻く状況は今、どうなっているのでしょうか。エチレンの需要の変遷とあわせて教えていただけますか。

    世界のエチレンの需要はGDP(Gross Domestic Product:国内総生産)と相関関係にあることが知られており、近年はGDP の伸びの1.5 倍のスピードで成長しています。豊かになればプラスチック製品の需要が増えるのは当然のことで、1990 年以降は年間約4%で需要が拡大していて、今後も同様に拡大していくと見通しています。

    ――世界的にプラスチックのリサイクルを推進する流れにありますが、エチレン製造やエチレンプラントの建設に与える影響はどの程度のものになると考えていますか?

    プラスチックを始めとする化学製品は、我々の生活を豊かにしてくれるものであり、必要不可欠なものです。しかし、マイクロプラスチックによる海洋生態系への影響から悪者になっている側面があります。一方で、プラスチックのリサイクルは技術的・経済的な観点から、需要を満たすほど大きくは伸びないと見ています。

    OECD Global Plastics Outlookによると、世界のプラスチックの消費量は2019年の4億6000万トンから2060年には12億3100万に増加すると予想されていますが、リサイクルされる割合は、2019年は9%ですが、2060年では17%程度までの上昇と予測されています。今後もエチレンプラントの案件は数多くあると考えています。

    ――エチレンプラント関連で、最近の注目のトピックスがあれば教えてください。

    現在のエチレンプラントは、ナフサやエタンを水蒸気とともに熱分解してエチレンを得る「スチームクラッキング(水蒸気分解)」と呼ばれる製造方法が主流となっています。ですが近い将来、石油精製の稼働低下によるナフサの供給減少、LNG需要の低下によるエタンの供給減少が進み、原油から直接エチレンを得る製造方法が導入されるようになってくると思います。

    すでに中東のSaudi AramcoやSABIC、中国のSINOPE、CNOOCやHENGLIなどが、LTCやL2Cと呼ばれるLiquid To Chemicalの技術を導入しようとしており、2030年代には北米でもこうした流れが顕著になってくるはずです。

    ――エチレン製造では多くのCO2が排出されるそうですが、それに対してどのような対応がなされているのでしょうか。

    マッキンゼーのレポート「プラスチックが気候変動に与える影響」によると、プラスチックはほとんどの用途において代替品よりも二酸化炭素の総排出量が少ないとされています。ですが、その原料は石油由来であり製造工程で大量のCO2を排出していることは事実で、最もCO2を排出しているのはエチレンプラントです。

    そこで最近では、プラスチックの製造過程の脱炭素化を図るため、プラスチックをリサイクルして製造したナフサやバイオマス由来である「バイオナフサ」を原料とした「マスバランス法」を取り入れる企業も出てきました 。 一方で、これらの原料は価格が高くその割にエンドユーザーへの訴求力に欠けているという課題があると聞きます。
    他には、バイオエタノールからエチレンを製造する方法も導入されようとしていますが、これまでの製造方法に比べるとコストが高いうえ、製造過程で他の石化原料を得られないことが難点となっています。

    また、エチレンの製造工程で大量のCO2を排出する分解炉を電化する開発を多くの企業が進めています 。しかし、開発には相当の年数を要すること、仮に開発できても莫大な電力をどのように安定供給するのかという問題があります。そのため、10~20年後も今のスチームクラッキングという製造法が主流なのではないかと考えています。

    ――脱炭素化に向けて様々な技術開発がおこなわれているものの、コスト面や技術面などの課題が多く、広く普及するまでには至っていないのですね。現状では、エチレンプラントの脱炭素化を進めるために、どのような方法が考えられますか?

    これから新設される装置については、ブルー水素燃焼、低CO2排出の工夫をした分解炉やコンプレッサーの電化といった技術を取り込んでいくことを考えています。既存設備については、分解炉での水素燃焼や分解炉から排ガスからのCO2回収の導入といったオプションを検討していく必要があるでしょう。

    まとめ

    今回の記事では、エチレンプラントの「プロセス設計」のチーフエンジニアに、専門技術や最新トピックスなどについて話を聞きました。インタビュー後編の次回記事では、仕事のやりがい、プロセス設計のチーフエンジニアとして活躍するに至った経緯や、休みの日の過ごし方など、よりプライベートに近い内容についてお伺いします。

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    サステナビリティハブ編集部

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