前編【プラント建設の未来を支える技術者たち #10】タンクのエキスパート
目次
海外におけるプラントの設計・調達・建設工事を担う日揮グローバルでは、幅広い分野の技術エキスパート*が事業の根幹を支えています。彼らの持つさまざまな専門技術は、プラント建設だけでなく、サステナブルな社会を維持する上でも欠かせないものです。
そこでサステナビリティ ハブでは、チーフエンジニア*の方々に、専門技術や最新トピックなどを解説してもらうインタビュー記事を連載しています。
第10回となる今回のテーマは、「タンク」。石油やガスを安全に貯蔵するために欠かせない設備です。入社から20年以上、多くのEPCプロジェクトのタンク設計・建設に携わり、最近ではタンクの国内規格策定にも参画しているチーフエンジニアの岩田晃一さんに、タンクエンジニアとしての業務概要や、最新技術動向などについて聞きました。(インタビュアー:サステナビリティ ハブ編集部)
*EPC:Engineering(設計)・Procurement(調達)・Construction(建設)の頭文字をとったもので、主にプラントやインフラ等の建設プロジェクトにおいて、設計から建設までを一気通貫で請負う方式のこと
*エキスパート制度は、日揮ホールディングス、日揮コーポレートソリューションズ、日揮グローバル、日揮が対象 *チーフエンジニアは、チーフエキスパートとリーディングエキスパートの総称

日揮グローバル エンジニアリング本部 メカニカルエンジニアリング部
チーフエキスパート 岩田晃一
2003年の入社以来、一貫してタンクのEPCを担当。2006年からおよそ1年半、インドネシアのLNGプラント建設現場に赴任しLNGタンク建設の現場監督を経験。2011年に海外企業派遣制度を活用して米国最大のタンクメーカーに出向し詳細設計の知見を習得。近年は国内外の規格団体にも所属し、液化アンモニアタンクの規格制定や石油タンクの規格改定にも従事。2025年よりチーフエキスパート。趣味は柔道、ランニング。
EPCプロジェクトにおけるタンクエンジニアの役割とは?
タンクの種類と役割
――本日はよろしくお願いいたします。タンクエンジニアのお仕事について伺う前に、まず「タンク」とは何なのか?という基本的なところを教えていただけますか。
タンクとは、ごく簡単に言えば「液体を溜めるための大きな容器」です。気体を溜める球形タンクもありますが、基本となるイメージは、円筒形の巨大な水槽のようなもので、本質的には水を溜めるバケツや桶と変わりません。ただし、貯蔵量が非常に大きいので、安全対策は極めて重要です。

プラントで使用されるタンクは、「何をどのような状態で保管・処理するか」によって、大きく3つに分類されます。
1つ目は「常圧タンク」。原油やガソリンなどのいわゆる石油、水あるいは化学薬品など、常温常圧で液体であるものの貯蔵に使用します。
2つ目は「球形タンク」で、高圧力下で液化したLPGやCO2の貯蔵、あるいは都市ガスやプラント運転に使用する窒素や酸素を気体のまま中圧域で一時貯蔵するために使用されることが多いです。「なんで球体なのか?」と疑問に思う方もいるかもしれませんが、風船を膨らますと球体になるのと同じで、高圧を保持するのに最も自然で理想的な形状が球形だからです。球形にすることで構造不連続部がなくなり、また内圧によって球殻(球形を作る鋼板)に生じる応力を均一に分散できるため、構造上の弱点がなくなります。
3つ目は「低温タンク」です。極低温下で常圧のLNG(液化天然ガス)やLPG(液化石油ガス)を大容量で安定して貯蔵するために使用され、天然ガスの液化基地や受け入れ基地、ガス火力発電所などに多く設置されています。
――1プラントあたり、いくつくらいのタンクを設計するのでしょうか?
設置するタンクの数はプラントの種類によって大きく変わります。エネルギー用の石油を貯蔵するプラントであれば、タンクが20基、30基と並びますし、発電用のプラントであれば、必要なタンクは2基だけということもあります。化学系のプラントは、直径4m~5mで高さが5m~6m程度の小さいタンクが化学薬品の種類の数だけ必要になります。プラントの目的に応じて、それぞれに最適なタンクを設計します。
タンク設計のプロセス
――タンクエンジニアは、EPC(設計・調達・建設)役務を一気通貫で担当するそうですが、具体的にはどのフェーズでどんな業務をするのでしょうか?
まず、EPC役務の前段階であるFS(フィジビリティスタディ)では、タンクの形状や機能の検討・判断をします。例えばLPG貯槽であれば、容量や貯蔵圧力などから、球形が良いのか平底円筒の二重殻タンクが良いのかを検討します。LNG貯槽の場合は、低温の二重殻タンクというところからさらに、金属二重殻にするか、PCフルコンテインメントタンク(コンクリート外槽と金属内槽の組み合わせ)にするか、といったところまで検討します。
圧力が高すぎると形状が制限されますし、一定以上に大きくなると物理的に建設が難しくなります。そのため、お客様の要望が現実でない場合は「2基に分割して1基当たりの容量を半分にしましょう」というような提案をすることもあります。
――設計段階では、何を検討しますか?

設計の最初期では、タンクの最終的な直径と高さを決める「容量検討」をおこないます。その際、運転に必要とされる容量に対してどれだけの余裕を持たせるか、建設予定地の地盤の強さは十分あるか、といった要素も考慮します。
――地盤の強さは、事前に分かるものなのですか?
はい、土木担当者に調査してもらい、タンクを配置可能な場所を確認します。もし地盤が弱ければ、地盤改良や杭打ちが必要になり、かかる費用が大きく変わってきます。そのため、見積もり段階で設置場所を決めておく必要があります。
その後、基本設計でタンクの発注や詳細設計に必要な条件を固め、詳細設計で設計の妥当性を判断し、製作性や建設性なども確認します。妥当性の確認というのは、「発注先の業者が計算した鋼板の厚みが、地震などの想定条件に対して本当に十分なのか?」といった検証をすることです。また、「液体の出し入れの勢いや流量にタンクの付属設備が適しているか」、「プラント側の計器類や電気設備と正しく接続できるか」なども、専門部署と連携しながら確認します。
さらに「図面上では成立していても、現場で溶接しようと思ったら手が届かない」、「検査ができないような構造になっていないか」といった製作上のリスクも、この段階でできる限り潰しておきます。
――設計して終わりではなく、タンク建設のフェーズでもプロジェクトにかかわるということですが、どのようなことをするのでしょうか?
建設が始まると、施工ミスやトラブルの連絡が入ってくることもあります。その際、そのまま使えるのか、補修が必要なのかといった技術的な判断を下します。また、現場状況に応じて発生した施工方法の変更についても、その妥当性を検討したうえで承認します。
タンクのトラブル対応とは
――タンクの分野で起こりうる不具合やトラブルというと、具体的にはどのようなことですか?
施工時の歪みや、施工後のタンクのへこみです。
タンクは、大きいものでは直径100m・高さ30mにもなる巨大な構造物ですが、使用する鋼板の厚みは5~50mm程度と非常に薄いのが特徴です。タンクの直径100mに対し板厚が50mmの場合、その比率t/Dは0.0005となり、350mlのアルミ缶*と比べても桁違いの薄さです。
*350mlのアルミ缶は、直径66mmで板厚が0.1mm程度でt/Dが0.0015
この巨大なタンクを、数mm~十数mmという非常に厳しい許容誤差の範囲で、溶接して組み立てるのは非常に難しい作業です。そのため少しのミスで鋼板がゆがんでしまったり、許容誤差を超えてしまったりします。このとき、安易に熱を加えて補修しようとすると変形がさらに酷くなることもあるため、非常に慎重な判断が求められます。
また、建設中の養生が不適切で、昼夜の気温差でタンク内が減圧状態になり、タンクを座屈させてしまうなどのトラブルも起こることがあります。

他にも、直径100m規模のタンクになると、角度の出し方を0.5度間違えただけで、100m先で配管の接続位置が大きくズレてしまうといったトラブルもあります。その場合はお客様に事情を説明し、繋いでしまった部分をブラインドフランジでふさいで新しく付け直すなどの対応を提案します。事前に注意喚起しても起きてしまうのが現場の難しさですが、それを防ぐのも私たちの役目ですね。
タンク技術の最新動向
液化アンモニア貯槽として注目される「地上式メンブレンタンク」
――近年、「地上式メンブレンタンク」が注目されていると聞きました。メンブレンタンクとはどのようなタンクなのでしょうか。
「メンブレンタンク」は、PCコンクリート製のタンクの内面に液圧で潰れない強度を持った保冷層を設け、その上に1mm~2mm厚のステンレスシートを張り付けた構造のタンクです。ステンレスシートには一定間隔でヒダがついており、これが熱収縮を吸収することで、熱応力*が発生しないように設計されています。おもに、LNGや液化アンモニアなどの極低温液体を安全に貯蔵する目的で使われています。
*熱応力:温度変化によって膨張・収縮が繰り返される材料に対し、材料内部に発生する力
メンブレンタンクのコンセプト自体は40年ほど前からあり、LNG船での実用化が先に進みました。陸上利用についてはエンドユーザーの警戒感もあって、日本国内の地下タンクなど一部を除いてなかなか普及してきませんでした。従来のPCフルコンテインメントLNGタンクで特に問題がなかったため、新しい技術にチャレンジする必要性が薄かったという背景もあります。
――それが今、液化アンモニアを貯めるタンク技術として改めて注目されるようになったというわけですね。
はい。液化アンモニアの需要拡大が見込まれるなか、100,000㎥クラスの大型貯槽の必要性が高まっています。一般的な炭素鋼製タンクは大型化が難しいだけでなく、アンモニア応力腐食割れの課題がありました。一方、メンブレンタンクは大容量化に適していて、ステンレスを使用するため腐食割れの懸念もありません。そのため、液化アンモニアの貯槽の有力な選択肢として期待されています。2025年に液化アンモニアの国内規格が電気事業法に認証されたことで、地上式メンブレンタンクの建設が可能になりました。国内のアンモニア需要拡大に対応する準備が整ったといえます。
私は10年ほど前からこの技術に注目し、社内でも土木部門と連携してリスクや技術的課題を解決し、現在では「いつでも案件に対応できる」体制を整えています。今は案件が本格的に動き出すのを待っている状態です。
――メンブレンタンクの規格策定にも参画されているそうですね。
はい。「ISO TC67 AHG3」という、水素・アンモニアのサプライチェーン全体に関する規格を扱うワーキンググループの中で、液化アンモニア貯槽に関する報告書作成などの議論に参加しています。
国内では、液化アンモニアの規格が存在しなかったため、クリーン燃料アンモニア協会が中心となって民間規格を作成し、それを電気事業法に認めてもらうという動きがありました。私は専門家として参加し、従来のPCフルコンテインメント型の規格に加えて、メンブレンタンクの規格を作成する作業にも協力させていただきました。

現状では、水素社会実現に向けた実験設備用のアンモニアや、石炭火力発電での混焼燃料用アンモニアなど、国内での需要が先行すると見ています。日本の商習慣では、電力会社等がタンクだけを専門業者へ別発注するケースも多いのですが、当社としてもEPC全体をパッケージとして提供することを視野に入れ、関連案件の動向を注視しています。
新材料や、液化水素の貯蔵についての検討も進んでいる
――タンクの領域で、他にも新しい動きはありますか?
新しい材料の検討も進んでいます。LNGタンクの材料は通常「9%ニッケル鋼」というレアメタルを使用した高価な材料でほぼ固定されているのですが、ニッケル量を減らし、代わりにマンガンを増やした代替材料が使えないかといった内容です。業界が実績を重視するため導入には時間がかかりますが、鉄鋼メーカーが開発した新材料について、タンクメーカーと協力しながら溶接性などの確認を進めています。
また、液化アンモニアの次の動きとして、「絶対零度に近い温度の液化水素をどうやって貯蔵するか」という大きな課題もあります。ステンレスで対応できるのか、従来のLNGタンクのような平底円筒形でよいのか、あるいは真空断熱という全く別の技術を用いなければ極低温を保持できないのか。現在、産官学連携でさまざまな研究や検討がおこなわれており、当社としてもどの技術が主流になるかを見極め、適切なパートナーと連携していく方針を探っています。

まとめ
今回の記事では、タンクのチーフエンジニアに、プラント建設におけるタンクエンジニアの業務の概要や重要なポイント、最新技術などについてお伺いしました。インタビュー後編では、エンジニアとしてのキャリアを振り返っていただきながら、転機となったプロジェクトや仕事哲学、趣味のお話などについて幅広くお伺いします。ぜひあわせてご覧ください。
