後編【プラント建設の未来を支える技術者たち #10】タンクのエキスパート
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海外におけるプラントの設計・調達・建設工事を担う日揮グローバルでは、幅広い分野の技術エキスパート*が事業の根幹を支えています。彼らの持つさまざまな専門技術は、プラント建設だけでなく、サステナブルな社会を維持する上でも欠かせないものです。
そこでサステナビリティ ハブでは、チーフエンジニア*の方々に、専門技術や最新トピックなどを解説してもらうインタビュー記事を連載しています。
今回は、第10回となる「タンク」チーフエンジニアへのインタビュー後編です。日揮グループのタンク分野を長年にわたり支え、メンブレンタンクの国内規格策定にも取り組んできたエキスパートである岩田晃一さんに、エンジニアとしてのキャリアや大事にしている仕事の哲学、オフの日の過ごし方などについて聞きました。(インタビュアー:サステナビリティ ハブ編集部)
*エキスパート制度は、日揮ホールディングス、日揮コーポレートソリューションズ、日揮グローバル、日揮が対象
*チーフエンジニアは、チーフエキスパートとリーディングエキスパートの総称

日揮グローバル エンジニアリング本部 メカニカルエンジニアリング部
チーフエキスパート 岩田晃一
2003年の入社以来、一貫してタンクのEPCを担当。2006年からおよそ1年半、インドネシアのLNGプラント建設現場に赴任しLNGタンク建設の現場監督を経験。2011年に海外企業派遣制度を活用して米国最大のタンクメーカーに出向し詳細設計の知見を習得。近年は国内外の規格団体にも所属し、液化アンモニアタンクの規格制定や石油タンクの規格改定にも従事。2025年よりチーフエキスパート。趣味は柔道、ランニング。
現地駐在したインドネシアのLNGプロジェクトがキャリアの転機に
――岩田さんはどのようなきっかけで、タンクエンジニアとしてのキャリアをスタートされたのでしょうか?
入社時にタンクグループに配属されたのがそもそものきっかけです。同じ機械エンジニアリング部の中でも花形だった圧力容器グループではなかったことに少しショックを受けたのを覚えています(笑)。しかも配属当初、タンクグループにはローテーションで来ている方を除くと中堅や若手がおらず、私の直近の先輩が約30歳上という状況でした。先輩は多くを語らない職人肌の方で、技術の知識も私とは厚みがまるで違います。教えていただいた内容をきちんと理解するには、質問する前に自分で調べておくことが欠かせませんでした。技術的な会話が何とか成り立つようになるまで、かなりの時間がかかったように思います。 色々と大変でしたが、この30年分のギャップを埋めるのも私の使命だと思い、今までやってきました。

――タンクエンジニアとしてキャリアを重ねてこられた中で、特に転機となったプロジェクトはありますか?
入社4年目に経験したインドネシアのLNGプロジェクトです。会社の現場研修システムでインドネシアのジャングルのど真ん中にある現場に、タンク建設の現場監督という立場で派遣されたんです。当初は6カ月の予定で着任しましたが、会社から駐在延長を要請され、結果的に1年半の駐在となりました。
このプロジェクトでは、タンクの発注先だった国内トップクラスのタンク専門会社のエンジニアの方が、現場でタンク建設の陣頭指揮をとっていました。右も左も分からない状態だった私に、たくさんのことを教えてくださったのが、この方でした。年齢が近かったこともあって意気投合し、本来ならタンクメーカーが元請けのEPCコントラクターには教えないようなことまで、ざっくばらんに教えていただいたんです。タンク設計の背景から建設工法、工程管理、過去のトラブル事例、タンクエンジニアリングの面白さまで、日々の業務やオフの時間を通じて吸収させてもらいました。
本社で設計しているだけでは身につかない、建設や設計にフィードバックできる生きた知識を大量に持ち帰ることができ、先輩と私の間の30年分の知見の余白を埋めることにもつながりました。そのため帰国後は一気にできることが増え、「私にはここで存在意義があるんだ」と初めて実感できました。「これからもタンク一本で浮気せずにやっていこう」と思えた、まさに転機となるプロジェクトでした。現地でお世話になったタンクエンジニアの方とは今でも良い関係が続いていて、困った時には技術的な相談にも乗っていただいています。

プラント建設コストの過半を占めるスケールの大きさが、タンクの醍醐味
――EPC*プロジェクトにはさまざまな専門技術分野が関わってきますが、その中でも特にタンク分野の面白さはどういったところにありますか?
タンクの魅力のひとつは、扱う金額や規模の大きさです。LNGタンクは1基で200億~300億円規模になり、プロジェクトの総工費の半分近く以上をタンクが占めるケースも少なくありません。背景には、タンクの材料である9%ニッケル鋼*が高価なこと、大規模な地盤改良を含む土木工事が必要なケースが多いこと、そして約3年という長期にわたる建設期間で膨大な人件費がかかることがあります。プロジェクトの中で一番シビアな部分を担っているという自負はありますね。
*EPC:Engineering(設計)・Procurement(調達)・Construction(建設)の頭文字をとったもので、主にプラントやインフラ等の建設プロジェクトにおいて、設計から建設までを一気通貫で請負う方式のこと
*9%ニッケル鋼は、-196℃の超低温でも高い靭性を維持するため、LNGタンクの材料として使われている。
また、タンクのシステムには土木、電気、計器などさまざまな要素が絡み合っているので、それを全体最適の視点でまとめていく必要があります。これが難しくもあり面白くもあるところです。
――仕事をしていてやりがいを感じるのはどのようなときですか?
莫大なエネルギーを安全に貯蔵できるタンクを、決められた予算と期間内でつくり上げる――その技術を成立させることは、大きなやりがいにつながっています。
何らかの事情で担当者やリードエンジニア(LE)の変更が必要になったとき、業務を引き継ぐことがよくあります。その経緯を整理し、変更の影響を出さずに業務を軌道に乗せてプロジェクトを完遂までもっていく過程には、割とやりがいを感じます。ここで失敗すると、前任LEの評価にまで悪影響が出てしまうので責任重大です。
自分が役に立っていると分かりやすく実感できるのは、やはりトラブル対応を任されているときでしょうか。
規格要求の真意を見定め、最適な設計に落とし込む
――エンジニアとして大切にしている価値観や仕事の姿勢はありますか。

若手の頃に当時のチーフエンジニアだった大先輩から教わった「仕様書や規格要求の裏にある物理現象を正しく理解すること」を大切にしています。これは、「物理現象とお客様からの要求仕様は分けて考えるべきだ」ということです。
例えば、仕様書や国際規格で「鋼板の厚みは最低10mm」と指定されていたとします。でも、実際に計算してみると必要な厚みはそれ以下で、「10mm」という数字の背景には「建設時の施工性を保つため」という理由が隠れていることがあります。これを分かっていれば、仮に建設後に何らかの理由で厚みが8mmになってしまった場合でも、「要求値は下回ったが、計算上は問題なく、つくりなおす必要はない」と柔軟な判断ができます。
逆に、数字の根拠が純粋に強度面なのであれば、わずかでも要求を下回れば大きな事故につながる可能性があるため、厳格に守る必要があります。このように、要求の真意を見定めて設計を進めるように心がけています。
――後進育成や技術伝承、チームづくりの面で、意識して取り組まれていることがあれば教えてください。
近年は、プロジェクトの大型化や新規分野への事業進出に伴って、タンク専門でやっていく中堅・若手エンジニアが減ってきています。そのため、昔のように“カバン持ち”として専門家に張り付いて「職人の背中を見て覚える」ような、経験の中で自然に身につける育成は難しくなっています。
そこで代わりに、社内定例会でタンク設計や建設の具体的事例や過去のトラブル事例を発信したり、暗黙知をデータベース化して共有したりすることで技術伝承につなげようとしています。もちろん、知識として持っているからといって、実際の現場で同じようにできるわけではありません。その部分は、講義や1対1の指導でカバーしています。
最近は、幅広く事業に携わっていくジェネラリスト志向の人材が多いですが、その中から一つの技術を突きつめたいと思う人が出てきてくれることを期待しています。同時に、タンクメーカーと対等に渡り合えるエキスパートを会社として育成していく必要性も強く感じています。
ランニングと柔道で仕事の疲れをリフレッシュ
――プライベートでは、どんな時間や活動を大切にされていますか? リフレッシュや発想転換につながる趣味や習慣があれば教えてください。
どんなに忙しくても、昼休みのランニングと週末の柔道は継続するようにしています。入社2年目くらいの頃、体重が98㎏まで増えてしまい、「このままではまずい」と思って昼休みに走り始めたのがきっかけです。仕事が忙しい時期でも、昼に走ることで精神的なストレスも一度リセットできる。それを体験してからというもの、20年以上、昼のランニングを習慣として続けています。 柔道は学生時代から続けていて、週末は横浜の武道館に通って練習しています。ただ走るのはしんどいですが、「柔道の練習として走っているんだ」と思うことで、ランニングへのモチベーションを保っています(笑)。ランニングと柔道、この2つができていれば、心身ともにしっかりとリフレッシュできますね

――今後、挑戦してみたいことや実現したいことはありますか?
地上式メンブレンタンクの実装です。社内での技術検討をおこない、社外での規格編纂にも携わってきましたが、まだ実際のEPC案件での経験はありません。ぜひ他社よりも先に、実プロジェクトで実現させたいです。
また、私は比較的若い年齢でチーフエキスパートに就任させていただいたのですが、任期付きのポジションでもあり、50代以降のキャリアパスをどう築いていくかという課題も感じています。先日、アメリカの石油学会(API)のタンク設計規格を議論する「Aboveground Tank Sub-Committee」への参加を申し込みましたが、これも将来を見据えた取り組みのひとつです。 ニッチな技術の世界を突き詰めた先に、どのようなポジションや社内外のつながりをつくれるのか、それを示すことで後輩エンジニアの “道しるべ”のひとつになれたらいいなと考えています。

まとめ
今回の記事では、タンクのチーフエンジニアに、キャリアを振り返っていただきながら、転機となったプロジェクトや、仕事哲学、趣味のお話などについて幅広くお伺いしました。
プラント建設におけるタンクエンジニアの業務内容や、注目が集まっている「地上式メンブレンタンク」の技術動向についてお伺いしたインタビュー前編はこちらをご覧ください。
日揮グループのチーフエンジニアの詳細は、こちらをご覧ください。
