ACTION取組み

東大・平尾教授とひも解く繊維リサイクルの今~第3回・法律とリサイクルと消費者と~

事例 佐久本太一シリーズ インタビュー 繊維リサイクル
目次

東大・平尾教授に「繊維リサイクル」についてお話を伺うインタビューも、第3回となりました。 前回ご紹介したように、私たちにとっていちばん身近なリサイクル品はペットボトルですが、ペットボトルや容器包装のリサイクルの仕方は容器包装リサイクル協会が国と調和を取りながら、「リサイクルとして認める基準」を設けています。

ところが衣服のリサイクルに関する法律は2022年8月時点では存在しません。ファッショントレンドの移り変わりの速さなどから衣服の廃棄サイクルが早まっている以上、法規制を待たずとも衣服の回収・衣服のリサイクル技術開発を進めていく必要があります。 

では、具体的に必要なのは一体どのような行動なのでしょうか。

第1回・第2回はこちらから >>


東大・平尾教授とひも解く繊維リサイクルの今~第1回・循環型ファッションの実現は課題だらけ?!~|サスティナビリティハブ

私たちの誰もが毎日身に着ける衣服。“衣服という資源が、使用後のリサイクルによって再び製品や原料に生まれ変わる循環型社会を作りたい” という思いを抱いた日揮ホールディングス株式会社の佐久本がワーキンググループを率いる東京大学の平尾教授に、循環型社会作りにおける衣服特有の課題をテーマに掲げ、お話を伺いました。(全四回)

sustainability-hub.jp

og_img

東大・平尾教授とひも解く繊維リサイクルの今~第2回・リサイクルの先輩ペットボトル今昔物語~|サスティナビリティハブ

国内で、もっともリサイクルが進んでいる製品といえば、ペットボトル。そのリサイクル先はさまざまで、ふたたびペットボトルになるものもあれば、実は今回のテーマである「衣服」の原料であるポリエステル糸に生まれ変わるものもあります。 今回の記事では、ペットボトルのリサイクルを例に、お話を伺います。

sustainability-hub.jp

og_img


平尾雅彦教授
 
(写真右)平尾先生プロフィール

東京大学 先端科学技術研究センター 教授 工学博士

ライフサイクルアセスメントを通じて、消費と生産パターンの変革を目指した研究をおこなっている。製造・輸送・回収・リサイクルの技術から、生産者や消費者への情報提供、社会制度の設計などのフレームワークづくりも。 サイクリングと、愛犬(長野県天然記念物の川上犬)との散歩が趣味。学生時代には、キャンピング自転車で岐阜県大垣から島根県出雲までを走破。

(写真左)聞き手:佐久本太一 

日揮ホールディングス株式会社 サステナビリティ協創部

沖縄県出身。学生時代は木質バイオマス分解菌の遺伝子分析や、次世代シーケンサーを用いた菌叢解析などを研究。2019年に日本エヌ・ユー・エス株式会社に入社後、日揮ホールディングス株式会社 サステナビリティ協創部に出向し、廃繊維・廃プラスチックの資源循環ビジネス開発を担当。ダイビングとプロレス観戦が趣味。故郷の沖縄でも資源循環を達成し、美しい自然を守るのが夢。一緒に達成する持続可能なパートナーも募集中。   

リサイクルに出すときのコストは誰が負担する?

平尾雅彦教授
 

―自動車や家電は、定められた「リサイクル法」に従ってリサイクルが進められていますが衣服には現在リサイクルに関する法規制はありませんよね。今後、繊維リサイクルの社会実装を考えた時には律を作っていかないといけないのでしょうか? 

平尾教授:現状では「リサイクル」は、コスト的に見合わないことが多いんです。というのもリサイクル製品の方が新品より価格が高くなりがちなんです。さらに品質的にも、リサイクル後の品の方が劣りがち。消費者としては、品質が良くないのであれば少なくとも安く買いたいですよね。けれど売る側は「これだけリサイクルにコストがかかっているから、高く買ってもらわないと困る」となり、消費者と売る側でギャップが生まれます。各個別リサイクル法は法律により、その差分の負担者を明確にするという大事な役割を担っています。しかし家電も自動車も容器包装も全て、リサイクルコストの負担の仕組みは異なります。


―家電だと、捨てるときにリサイクル券を消費者が購入しますよね。 

平尾教授:家電は消費者が直接廃棄するので、クーラー1台を捨てるだけでも幾らか払わないと処理業者は引き取ってくれません。もちろん引き取ってもらわなければ捨てる場所がないので、家電を廃棄する際には費用を払わざるを得ないという仕組みです。 自動車は、あまり知られていないかもしれませんが実は、車を買ったときに必ずリサイクルコストを払わせられているんです。 


―自動車の場合は、購入金額にリサイクル代が含まれているということですか? 

平尾教授:新車を買うとリサイクル券がついてきます。中古で売るときにはその券も一緒に売る制度になっていて、廃棄する際には、そのリサイクル券によってリサイクル費用を賄うことになります。 つまり自動車は購入者が、家電は排出者が、「リサイクル費用」を負担しているということです。そして容器包装は、製造企業がリサイクル費用を負担しています。品物によって負担者が違うため、仕組みが少し分かりにくいかもしれませんね。 


―確かに「あなたはこのリサイクル代を負担しています」というメッセージは、大々的には出されていませんね。 然るべきコスト負担を反映させた制度を実装するには、サプライチェーンに関わるステークホルダー全員を巻き込んでいかない難しそうですが、どうでしょうか。 

平尾教授:法律的には「消費者を動かす」というより、事業者が各自の事業を進めていく上で「経済的に不利なところをカバーしていく」というのが1番大事なポイントですね。たとえば自動車だと、自動車メーカーとリサイクル事業者は別の事業体です。リサイクル代は自動車の購入時にその販売店で処理されていく仕組みなので、リサイクル事業者は自動車メーカーから独立して運営されています。 一方で家電リサイクル法では、ほとんどが家電メーカー自身が持っているリサイクル業者がリサイクルしています。そのため、消費者がお金を出すのは納得できるところですよね。 

ケミカル?マテリアル?リサイクルに出したあとの処理方法 

ゴミの収集と焼却_イラスト平尾教授:リサイクルがどのようにおこなわれているか、調べてみると面白いんですよ。 私が住んでいる目黒区では容器包装リサイクル法のもと回収されたプラスチックは、とある製鉄企業工場に運ばれます(2022年度)。回収されたプラスチックはコークス炉に放り込まれケミカルリサイクル*に利用されますが、ケミカルリサイクルの場合はそれなりに汚い廃プラスチックも原料にできるため「どの程度のプラスチックまでを資源ごみとして出すのがふさわしいか」まで考えると、より興味深く捉えられるのではないでしょうか。 

入札の結果、たまにマテリアルリサイクル*事業者が落札してマテリアルリサイクルで再生される年があります。その時は、「マテリアルリサイクルしやすいプラスチックはどれなんだろう?」と思いを巡らせます。年によってリサイクル法が違うので毎年調べ、その年の分別行動を変えているんです。 

*ケミカルリサイクル:コークス炉におけるケミカルリサイクルは、石炭と一緒にコークス炉に加熱することによって、コークス・炭化水素油・コークス炉ガスへとリサイクルする手法。 

*マテリアルリサイクル:廃プラスチックをプラスチックのまま原料にし、そこから新たな製品を作るリサイクル方法。


―興味深いですね。自分の住んでいる地域で回収されたプラスチックがどのようにリサイクルされるかは調べたら分かるものなのでしょうか? 

平尾教授:容器包装リサイクル協会の入札の落札先は発表されているので、ぜひ調べてみてください。私はプラスチックが日本製鉄のコークス炉に放り込んで蒸し焼きにされるのを実際に見ていますが、一般では、その先でどのような製品としてリサイクルされるかまでは流石にわからないかもしれません。そこまで調べるのは変な人だと言われますけれども。日本中に1人しかいないんじゃないのと言われました(笑) 。


―でも、もしその情報がしっかりと見える形で開示されていたならば、平尾先生と同様の行動をしたいと思う人がいるかもしれませんよね。 

平尾教授:私みたいに変なことまでやらなくてもいいですが(笑)、「なんでこれは日本製鉄に行くんだろう?」・「なんでリサイクルになるのだろう?」と考えるきっかけになると良いです。 私たちが分けたプラスチックがどこで処理され、そのあと一体何になっているのか知ることは、とても大事なことだと思いますよ

焼却?リサイクル?どちらも担うジレンマ

平尾教授:日本では、環境省が大型焼却炉にもリサイクルにも補助金を出しています。 目黒区内にも、最新鋭の焼却工場がもうすぐ出来上がります。高級な発電機がついているので、高カロリー(石油由来のプラスチックが多く含まれているほどよく燃える)のゴミが来れば来るほど「サーマルリサイクルによってより多くのエネルギーに転換できる!」と関係者の方々は息巻いていますよ。 石油から作られているプラスチックは元来、非常に高カロリーなため、プラスチックが多いほど温度が上がってよく燃えるんです。つまりそれに比例して生み出すエネルギー量も増えます。プラスチックがいっぱい入っているゴミは、ここでは“いいゴミ”として扱われますね。 


―おもしろいですね。エネルギー量で見ると、たしかにそのように考えることもできますよね。 

平尾教授:しかし、「プラスチックがいっぱい入っているゴミ=いいゴミ」という扱われ方は。リサイクルとは逆行する*わけです。分別の観点だけで見ても、焼却工場側は「分別しなくていい」、一方リサイクル事業者側からは「しっかり分別しましょう」。真逆のことを言っていますが、これは環境省がリサイクルと廃棄物処理という両面どちらも担当していることに起因しています。 

*編集部注:サーマルリサイクルは、日本ではシェアが大きいリサイクル方法とされていますが、欧州などではその環境負荷からリサイクル方法とみなされていません。 


―LCAで考えても、何でもかんでもモノへとリサイクルすれば環境負荷を削減できる…というわけでもありません。サーマルリサイクル*で燃料化した方が環境に良い場合もありますよね。 

平尾教授:ありますね。モノへのリサイクルばかりが注目されている世の中ですが、燃料としてサーマルリサイクルした方が環境負荷を削減できる廃棄物もいっぱいあるんです。 

*サーマルリサイクル:使い終わったプラスチックをガスや油、固形燃料に変えたり、燃やした際の熱を発電や蒸気として利用する方法。


―同じものさしを用いて比較し判断しないと、トータルとして何が達成できたか分からなくなってしまいますね。 

平尾教授:今までも手法別にLCAで評価して、どちらがいいかを議論してきました。でも、ペットボトルを「ボトル」として再生する方がいいのか、「繊維」にする方がいいのかというのは、必ずしも簡単に決まらないと感じています。 (※詳細は前回の記事を参照)

消費者の行動が繊維リサイクルを「本当の循環型社会」にする

佐久本太一
 

―今回のメインテーマ「衣服」は、廃棄後にどのように処理されているかとても不透明だと感じるのですが、平尾先生としてはいかがですか? 

平尾教授:衣服が燃やすゴミとして出されるとただ燃やされるだけですが、衣服の分別はある程度知識を持った上でも、”これが最適だ”とは言い切れません。ちなみにリサイクルの視点からいうと、ポリエステル素材であればたとえ下着でもいいのでリサイクルに出して欲しいと思います。しかし実際の回収となると「リユース観点」が主なため、下着はダメだというところがほとんどです。繊維は回収の事業者によってビジネスモデルが違うので、各々が欲しいと言う衣服の定義がちょっと違うんですよ。 


―たとえば、回収のルートがアパレルの店頭なのか、自治体の行政なのかでも、選別や回収のスキームが違ってきますよね。自治体やアパレル側も、どういった形での回収が適切なのか?という疑問があるかもしれませんし、リサイクル業者や平尾先生のような研究者の方に道を示していただくことも必要なのかもしれません。 

平尾教授:議論して決めていくパートは学者の役割ではないと感じてしまいますが、いろいろな産業の方、サプライチェーンに関わる方々が、手持ちの駒や課題をすべて出し合った上で「全体として環境負荷が下がるやり方を提案すること」は学者も一緒にできると考えています。  繊維リサイクルにおいては特に、消費者が動かないと「本当の循環型社会」は来ないと思っています。

ちなみにもともと私は、繊維の研究としてはリサイクルではなく洗濯の研究を先にやっていたんです。洗濯の影響は衣類を構成する繊維によって変わるため、繊維のライフサイクルも見なくてはいけませんでした。日本国内のペットボトルと繊維製品の供給量を調べるといずれも60~80万トンで同じくらいだったんですよ。これをどう思うかはその人次第かもしれませんが、しかしペットボトルは全体の9割くらいが回収されているのに対し、繊維の回収割合は全体の4割程度。繊維製品の回収率を上げるには、やはり消費者の行動と認知を広めることが非常に重要だということです。


ーいずれはペットボトルと同じよう、繊維リサイクルが認知・実装される未来を目指したいですね。次回は、日揮ホールディングスが共同研究を進めている衣服のリサイクルにまつわるお話を伺います。 本日はどうもありがとうございました。

(第4回に続く) 

平尾 雅彦 | Masahiko Hirao
東京大学先端科学技術研究センター 教授
平尾 雅彦 | Masahiko Hirao

東京大学先端科学技術研究センター 教授。工学博士。 昨今、持続可能な社会をどう実現していくか、というテーマにますます社会の耳目が集まるようになっている。環境負荷をいかにして地球1個分に収めていくか、様々な技術開発がなされていく中、ライフサイクルアセスメントを通じて未来技術を見極め、消費と生産パターンの変革を目指した研究を行っている。製造・輸送・回収・リサイクルの技術から、生産者や消費者への情報提供、社会制度の設計など多岐にわたるフレームワークづくりを行っている。 趣味はサイクリングと愛犬の散歩。学生時代には、キャンピング自転車で岐阜県大垣から島根県出雲までを走破。愛犬は長野県天然記念物の川上犬。

ピックアップ記事

資料ダウンロード

サステナビリティに関する各分野の要素技術の説明資料、
事例紹介資料、サービス紹介資料などをダウンロードできます。

ダウンロードはこちら