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バイオプラスチックとは?基礎知識から今後の動向まで解説

バイオマス サステナビリティ入門
目次

我々の周りで使用されているプラスチック。利便性が高いことから、生活のあらゆる場面で活躍しています。しかし、地球温暖化や海洋プラスチック問題を背景に、近年過度なプラスチック依存や使い捨てプラスチックの使用が問題視されています。

そこで近年、欧州などを中心に世界規模で導入が期待されているのが、「バイオプラスチック」です。今回はバイオプラスチックの基礎知識から認証制度、今後の動向まで詳しく解説していきます。

バイオプラスチックとは

バイオプラスチックとは、「バイオマスプラスチック」と「生分解性プラスチック」の総称です。

現在身の回りのプラスチック製品は、ほとんどが化石燃料由来です。つまり、近年ではプラスチックリサイクルが促進されているものの、リサイクルされずに廃棄され、それが単純焼却されています。もしくはたとえ燃焼処理で熱回収されたとしても、CO2が大気中に排出され、地球温暖化を加速させる要因となってしまっています。

またプラスチックの一部は、廃棄後にリサイクルや焼却処理をされていないものが自然界で分解されず、マイクロプラスチックなどとして滞留してしまうため、生態系に悪影響を及ぼしてしまっている事態にも繋がっています。

バイオプラスチックはこれらの環境問題解決に向けた、一つの手段であると言えます。

化石燃料由来プラスチックの燃焼処理は、大気中のCO2を増やすため、地球温暖化を加速させています。 

 

多くのプラスチックは分解性を持たないため、生態系に影響を与えています。 

バイオプラスチックの種類  

環境問題の解決でも注目を集めているバイオプラスチックは、「バイオマスプラスチック」と「生分解性プラスチック」の2種類に大きく分けることができます。

バイオマスプラスチック

バイオマスプラスチックとは、原料にバイオマスを使用したプラスチックのことです。有名なものとしてバイオマスポリエチレン(PE)などがあります。

自然界に存在する植物などのバイオマスは、成長過程で大気中のCO₂を吸収しています。そんなバイオマス由来のプラスチックは最終的に焼却されても、そこから排出されるCO₂は原料である植物が吸収した分と相殺されます。自然界を利用したカーボンリサイクルのため、「カーボンニュートラル」が成立します。 

このように、プラスチックの製造原料に化石資源ではなくバイオマスを使用することによって、全体としてCO₂排出量が抑制されます。すでに、コンビニのレジ袋やペットボトル、包装容器などにもこのバイオマスプラスチックが一部流通しています。



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生分解性プラスチック

生分解性プラスチックは、堆肥化施設などの土壌環境に置くと数か月間かけて微生物が分解して土に還る、サステナブルなプラスチックです。有名なものとしてポリ乳酸(PLA)などがあります。原料としては、化石燃料由来とバイオマス資源由来の2種類があります。

一般的なプラスチックは海洋や土壌において分解されることはなく、プラスチックとして留まり続けます。このプラスチックごみ問題を解決すべく、コンポストや土壌、海洋などで生分解して自然に還る「生分解性プラスチック」が今注目されています。 

下図のように、「バイオマスプラスチック」は、「原料にバイオマスを使用しているプラスチック」を示し、「生分解性プラスチック」は、「自然界で分解されるというプラスチック」を示しています。また、下図において緑塗と青塗の重なり合うところは、バイオマスプラスチックと生分解性プラスチックの両方の機能を有しています。

(補足)緑塗、青塗を総じて「バイオプラスチック」。そのなかでも、緑塗が「バイオマスプラスチック」、青塗が「生分解プラスチック」。

出典:NPO法人国際環境経済研究所「 プラスチック資源循環とバイオプラスチック中編:バイオプラスチックとは何か 」(最終アクセス2022/12/9 )

環境への貢献という視点から見ると、特に「バイオマスプラスチック」は脱炭素対策として、「生分解性プラスチック」は自然界に滞留してしまうプラスチック対策として有効だといえます。

バイオプラスチックの現状と課題 

世界のプラスチックの総製造量は年間約360,000千トン(2018年)で、そのうちバイオマスプラスチックの製造能力は約1,200千トン(0.33%)、生分解性プラスチックの製造能力は約900千トン(0.25%)となっています。

バイオプラスチックの製造能力は、年々上昇傾向にある一方、普及においてはいくつかの課題も存在します。

課題1:コスト 

1つ目は、コストが高い点です。バイオプラスチックの種類にもよりますが、ものによっては化石燃料由来のプラスチックに比べて2~3倍程度高価になってしまいます。これは、原料であるバイオマスの調達コストが高価なことや、製造量が少ないため生産スケールメリットが出せないといったことが原因として挙げられます。

課題2:機能性・品質

 2つ目の課題は、機能性や品質の担保の難しさです。「化石燃料由来と同等のプラスチックの機能を、バイオプラスチックでも担保できるかどうか」はユーザーにとっても重要なポイントになります。

いくらバイオプラスチックの方が環境的に良いとはいえ、機能面で劣ってしまえば企業やユーザーが使用を敬遠したり、受け入れるまでに時間がかかることに繋がってしまい、バイオプラスチックそのものの普及を妨げてしまいます。

課題3:原料の確保

3つ目の課題は、バイオマスプラスチックの原料の確保です。将来的に、バイオマスプラスチックだけではなくバイオマス燃料の需要も拡大していくと予想されていますが、それに伴い、バイオマス原料の確保が次第に困難になっていく可能性があります。

課題4:原料の種類

4つ目の課題は、バイオマスプラスチックの原料の種類です。原料バイオマスは大きく「可食」と「非可食」に分けられますが、バイオマスプラスチックの原料にトウモロコシや小麦、キャッサバなどのような「可食」用バイオマスを使用してしまうと、食糧との競合を引き起こしてしまう可能性があるため注意が必要です。

今後地球全体では人口の増加によって農作物の需要は拡大していきます。したがって、食糧不足による貧困問題を避けようとすると、やはりバイオマスプラスチックの原料としては「可食バイオマス」ではなく「非可食バイオマス」が好ましいのです。

バイオプラスチックと企業の取り組み

バイオプラスチックの普及には、原料の調達から製造、輸送など消費者へ行き着くまでのサプライチェーンの確立が必要不可欠です。以下に、バイオプラスチックに関わる企業の取り組みの一例を紹介します。

三井化学

三井化学は石油化学プラントを運転して、プラスチックの原料となる化学品や樹脂などを生産しています。マスバランス方式という認証手法を導入して、保有している大阪の石油化学プラントの原料に一部バイオマス由来の「バイオナフサ」を使用しています。

(参照:三井化学「三井化学大阪工場にてバイオマスナフサからのプラスチック・化学品製造開始へ」)  

出典:三井化学「日本初、バイオマスナフサによるバイオマスプラスチック製造を開始します」(最終アクセス2022/12/9) 

 マスバランス方式を導入することにより、石油化学プラントで製造された各製品への「バイオマス使用度の割り当て」を自由に決めることが可能になります。製品ユーザーのバイオマス使用度や原料価格のニーズに柔軟に対応することができ、最終的にはサプライチェーン全体としてバイオマス導入のハードルが下げられるというメリットがあります。これがバイオマスプラスチックの普及につながるのです。 

カネカ

カネカは海洋でも分解する「PHBH」という生分解性ポリマー素材を生産しています。

PHBHは土中だけでなく、これまで難しかった海水中での生分解が可能な素材で、2017年には海水中で生分解する認証「OK Biodegradable MARINE」も取得しています。これは海洋プラスチック問題を解決に貢献する画期的な技術と言うことができます。

PHBHを利用した製品の例

参照:カネカ「カネカ生分解性バイオポリマー Green Planet®︎でなぜ世界が健康になるの? 」(最終アクセス2022/12/9)

特に欧州では、使い捨てプラスチック削減に向けて各種規制が強化されており、PHBHの販売は急拡大していく見込みです。グローバル展開している多数のブランドホルダーでもストロー、レジ袋、カトラリー、食品容器包装材など、幅広い用途でのPHBHの導入に向けた検討が進んでいます。カネカは今後グローバル規模で拡大する需要に応えるため、  現在兵庫県のプラントでPHBH年間約5,000トンの生産に加え、2024年1月には年間15,000トンの増強生産を計画しています 。

サントリー

サントリーグループは、米国バイオ化学ベンチャー企業と進めてきた植物由来原料100%使用ペットボトルの開発に成功し、試作品を完成させました。

サントリーグループは、2030年までにグローバルで使用するすべてのペットボトルに、リサイクル素材あるいは植物由来素材のみを使用し、化石由来原料の新規使用をゼロにすることで、100%サステナブル化を目指しています。

植物由来素材のペットボトル開発については、ペットボトル原料の30%を構成する「モノエチレングリコール」を植物由来原料で生成した、植物由来原料30%のペットボトルを2013年から「サントリー天然水」に導入しています。残りの70%を構成するテレフタル酸の前駆体「パラキシレン」を、植物由来素材から生成すべく、2012年から米国バイオ化学ベンチャー企業と植物由来原料100%使用ペットボトルの共同開発を開始しました。

パラキシレン製造の原料は、食料用原料のサプライチェーンに影響が出ないよう、非可食のウッドチップのみから生成しています。サントリーグループは2030年までにすべてのペットボトルをリサイクル素材あるいは植物由来素材にすることを達成すべく、今後植物由来原料100%使用ペットボトルの早期の実用化を目指しています。 

サントリーが試作した植物由来原料100%使用ペットボトル 

 

バイオプラスチックの認証制度

さて、バイオプラスチックにもさまざまな認証があることをご存じでしょうか?


 

実際の商品に記載された認証マークには、製品中に含まれるバイオマスの割合の数字が記載されていることもあります。小売業等の会社をはじめ、SDGs、ESG推進などを目的に、さまざまな企業が認証プラスチックの販売に力を入れています。

皆さんの身の回りにある、コンビニやスーパーなどのレジ袋を見ると、レジ袋にはこの認証マークが入っていることが分かると思います。2020年7月1日より日本政府は全国的にレジ袋の有料化を義務付けましたが、バイオマス素材含有割合が25%以上のレジ袋は有料化の対象外となっています。ただし、日本全体のプラスチック使用削減の目的達成のために、有料化対象外のレジ袋も有料にするコンビニなども存在しています。

バイオプラスチックの今後の動向

環境省は、経済産業省、農林水産省、文部科学省と合同で、バイオプラスチック導入ロードマップにて、「2030年までに、バイオマスプラスチックを最大限200万トン導入することを目指す」という目標を掲げました。  

(参照:環境省「バイオプラスチック導入ロードマップ」) 

今後、環境省が具体的にどの種類のバイオマスプラスチックをどの程度導入させるかなど、いかに明確かつ具体的なガイドラインを示していくかどうかに注目が集まっています。

出典:環境省「 バイオプラスチック導入ロードマップ 」(最終アクセス2022/12/9)

 また、環境省は補助金制度として“脱炭素社会を支えるプラスチック等資源循環システム構築実証事業(補助事業)”を設けるなど、技術的な側面からバイオプラスチックの普及を積極的に促しています。

まとめ

バイオプラスチックとは、バイオマスプラスチックと生分解性プラスチックの総称で、地球温暖化や自然界に滞留してしまっているプラスチック問題の解決手段の一つです。

今後、私たちの身の回りにもさらにバイオプラスチックは普及していくことが予想されます。バイオプラスチックの普及には製造側・販売側のみならず、消費者の意識や行動も大切です。一般消費者としてプラスチック製品を購入する際には、認証マークの有無やプラスチックの表記をチェックするなど、「何を使っていてどのようにできているのか」の過程を意識してみてはいかがでしょうか。

日揮グループは、バイオプラスチックの製造に関する独自の技術開発のほか、植物由来のプラスチック代替素材を製造するスタートアップへの出資や他企業とのパートナリングによるサプライチェーンの構築により、循環型社会の構築に積極的に貢献しています。


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梅田 曉惠 | Kyoe Umeda
日揮ホールディングス株式会社 サステナビリティ協創部
梅田 曉惠 | Kyoe Umeda

三重県生まれ。浄土真宗のお寺で生まれ育つ。シドニー工科大学留学。東京工業大学大学院修士課程卒業。大学院時代の研究テーマは木質バイオマスの半炭化・ガス化特性。日揮入社後、プロセスエンジニアリング部門にて製油所やガス化プラントなどのプロセス設計の経験を経て、現在はサステイナビリティ協創部でバイオケミカルユニットを担当。趣味はブレイクダンスとサウナ。

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