2024.01.23
プラスチック問題の意外な真実を学ぶ!~リサイクルの現状や課題を解説~ 【中級編】
目次
持続可能な未来の実現のため、様々な業界において注目されているプラスチックのリサイクル。今回は前回のインタビューの中級編として、プラスチックのリサイクルにまつわる国内外の現状や課題などを、東京大学の中谷 隼 准教授に分かりやすく教えていただきました。(インタビュアー:日揮ホールディングス 佐久本太一)
日本と海外を比較①:ゴミの分別の違い
アメリカやヨーロッパ・オーストラリア・カナダなどには「MRF(Material Recovery Facility)」と呼ばれる資源回収施設があります。MRFでは、集められた廃棄物の中からプラスチックや新聞・雑誌などの紙類、金属やビンなどの「リサイクルが可能な資源」を選別しているんです。
ペットボトルに関しては”品目”として分別回収する現行の方法が、より効率的なのは間違いないでしょう。今後、モラルが欠けた人々が増えた場合などには検討する必要があるかもしれませんが、現段階の日本において「選別施設で初めて仕分ける手法」は必要ないと考えます。
ですが可能性としては、「ペットボトル以外のプラスチックとして1度分別されたものをさらに細かく分け(例:ポリエチレンやポリプロピレン、PETなど)、それぞれのリサイクル業者に渡す」という流れの検討はあるかもしれません。人の目では分類できないような樹脂の種類を基準にし、「これはケミカルリサイクルに、これはマテリアルリサイクルに」というように、MRFの1つ先の「ソーティング施設」のようなものが検討される可能性はゼロではないでしょう。
日本と海外を比較②:「サーキュラーエコノミー」に対する認識の違い
日本と最近のヨーロッパでは、リサイクルの見方が異なっています。まずリサイクルという仕組みは、「”ゴミになったもの”を”ゴミでないもの”にした。そのあと、それを”有効なもの”として新たに使うことができた」というように「1周回って完結したもの」です。
日本において初めの半周(⇒ゴミをゴミでないものにすること)は、対策が非常によく進んできたパートです。20世紀に施行された容器包装リサイクル法(2000年)や循環型社会形成推進基本法 (2001年)のなかでも、「ゴミを集めて分別し、使えるものへ形を変えるところまで」は非常によく考えられていました。しかし残念なことに、残りの半周(⇒ゴミでないものを有効なものにすること)には、あまり力を入れられなかったんです。
たとえば、以前リサイクル業者に「リサイクルしたプラスチックの用途」を尋ねた際の回答は、「おもにプランターやパレットを作るときの増量剤や車止めに使っている」でした。これら(プランター・増量剤・車止め)は非常に安価な物で、リサイクルの処理費用とリサイクルによってできたものの価格のバランスが良くないことは明らかです。しかし、このようなアンバランスな比率に対して、問題意識を持っている人はほとんどいませんでした。
まさしくこれが「日本とヨーロッパがそれぞれ理想とするサーキュラーエコノミー」の1番の違いといえます。 ヨーロッパでは、サーキュラーエコノミーの本質を「価値ある原料にすること」に見出しています。環境対策という目的ももちろんあるのですが、これによって経済活動を回すことを最重要視しているんです。
海洋プラスチック問題とプラスチックのリサイクル問題は別
「リサイクルで海を守る」は間違い?
廃プラスチックのリサイクルが衆目を集めた契機として、前回の記事ではウミガメの事例を出しました。この事例をきっかけに、社会では「プラスチックのリサイクルで海を守る!」というイメージが定着していますが、実は「リサイクル」と「海」の2つをイコールで結ぶのは正しいとは言えません。
プラスチックが海に流れ着いてしまう主な理由は、「ゴミが正しい処理ルートに乗らないこと」です。例えば「ゴミのポイ捨て」がそれにあたります。つまり解決策は「ゴミをゴミ箱に正しく捨てる」というシンプルなもので、海洋ゴミの解決策と「リサイクル」に直接的な関係があるわけではないのです。
綺麗な海にゴミが浮遊している映像や、プラスチックのストローが刺さったウミガメの動画など、「海×ゴミ」はインパクトが大きく、メディアなどでも多く取り上げられ、「プラスチックのリサイクルを頑張ると魚が助かります!」といった趣旨の報道を目にすることもあります。
しかし実際に環境省は「海洋プラスチックごみ対策アクションプラン」として、以下の8点を掲げています。
このように海洋プラスチックごみの対策にはプラスチックリサイクル以外も多く挙げられていることから、「海洋ゴミの問題」と「プラスチックのリサイクル」は、イコールで結び付ける関係ではないことがわかります。
最も危惧するのは、環境に良いことをしたいという善意が結果として間違った方向に進む可能性があることです。実際に「海を守るためにはリサイクルをせずに燃やすと良いのでは?」という意見も出てきていますが、果たしてプラスチックを燃やすとどうなるでしょうか。石油が主な原料であるプラスチックは、焼却処理をするとCO2が排出されます。
つまり、「海洋プラスチック=プラスチックのリサイクル問題」としてしまうと、こうした重要な環境課題を無視する議論が生まれるキッカケになりかねないのです。
あくまでも海洋ゴミはプラスチック問題の1つであり、プラスチックにまつわる課題はほかにもあります。プラスチックの原料は決して無限ではないため、必要以上のプラスチック使用は「資源の枯渇」につながるという課題もあります。
何をするとどの問題解決に結びつくのか、なぜこのような問題が発生し、それがどのようにプラスチックと関係しているのか、そういった部分を噛み砕きながら取り上げてもらい、一般消費者にも正しい知識が広まればいいと思っています。
海洋プラスチックの発生源となる国の9割が発展途上国
ゴミ処理施設やリサイクル施設の整備が整っていない発展途上国では、ゴミの適切な収集や処分が困難であることから、湖や川・海に廃棄物がそのまま捨てられて海洋汚染が深刻化しています。「サイエンス(Science Advance)」(2021年)によると、河川から海洋に流出するプラスチックの発生源である国の上位10か国は、ブラジル以外のすべてが「アジアの発展途上国」です。主に発展途上国で起こっている「海洋ゴミ問題」を、日本などの先進国が同じ目線に立ちながら議論をすることには、多少のズレを感じます。
もちろん、先進国における海洋プラスチック問題が重要でないわけではありません。しかし「土俵を分けて考えること」は重要です。我々(日本)が「プラスチックの環境問題といえば海洋ゴミだ!」という認識を持って議論をしている間にも、世界はどんどん次の問題へと歩みを進めているのが現状です。
気が付いた時には日本だけが海洋ゴミについて語っている…という状況にならないためにも、こういった意識を大切にしたいですね。
海外(発展途上国)におけるプラスチックの健康被害
自然発火や野焼きで発生する有害物質
「プラスチックが与える人間への健康被害」も、我々が考えなくてはならない問題の1つです。 発展途上国の一部には、埋め立て処分場や路上に「ウェイスト・ピッカー(ゴミを拾う人)」と呼ばれる人たちがいます。彼らはゴミの中から、ペットボトルやビン・缶などの有価物を見つけて回収し、これらを売ることで生計を立てています。なかには埋め立て処分場を住まいとしている人もいるだけでなく、回収してきた電線などから有用な銅などの金属を取り出すため、いわゆる「野焼き」といわれる管理されない状況で廃プラスチックが燃やされることもあり、健康被害が懸念されています。
非営利の国際人権組織(NGO)である「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は2017年に、レバノンでの「野焼きにおける健康問題」を明らかにしています。廃棄物の野焼き時に発生する煙を、持続的かつ高頻度に吸うことで住民が健康被害に晒されている、という内容でした。
国際的な条約議論の場において、「プラスチック汚染」や、英語では「プラスチックポリューション(plastic pollution)」という言葉が使われており、これらの言葉が持つ「範囲」は現在どんどん広がっています。今後も重要議題として扱われ続けるのではないでしょうか。
サーマルリサイクルは”リサイクル”ではない?
日本におけるサーマルリサイクル・サーマルリカバリーの認識
日本政府としても「サーマルリサイクルは正確にはリサイクルではない」という認識を持っているようです。小泉元環境大臣は記者会見で、「日本で『サーマルリサイクル』と呼ばれていることは国際社会とのギャップであり、これはリサイクルではない。我々はサーマルリサイクルという言葉を使わずに、サーマルリカバリーと使うようにしている。」と話していました。 (参照: 環境省「小泉大臣記者会見録(令和3年1月29日(金)10:33~11:02於:環境省第1会議室)」)
とはいえどサーマルリカバリーが有効な手法であることは間違いありません。” 効率の悪いものは出来る限り減らしながら理想像に近づける”という姿勢がベストではないでしょうか。
サーマルリカバリー(サーマルリサイクル)は幅が広い
サーマルリカバリーの課題・問題点の1つには、「サーマルという言葉の幅」が広すぎることが挙げられます。日本でのサーマルリカバリーやそれに近しいものの具体例として、以下があります。
- セメント産業がセメント炉に廃プラスチックを入れる
- 製紙会社が燃料として廃プラスチックを使用する
- 鉄鋼業が還元剤の代わりに廃プラスチックを使うケミカルリサイクル
実はこれらは、環境負荷の削減という観点から見るとかなり優秀です。石炭をたくさん使用していた代わりに廃プラスチックを採用すると、「熱量あたりのCO2排出量」は石炭より少なくなるからです。 一方で「焼却炉でプラスチックを燃やし、その際に出た熱を温水プールで使う」というケースもありますが、この目的のために温水プール施設を新たに建設しても、それは「サーマルリカバリー」になります。
サーマルリカバリーを推進しない人たちは、こうした熱回収が非効率であると指摘しており、反対にサーマルリカバリー推進派は、セメントや製紙会社など、「実際に廃プラスチックを有効に使っている人たち」が評価しています。このように「サーマルという言葉の幅が広すぎるゆえ、多角度からの見方ができてしまうのが「サーマルリカバリー」の問題点でしょう。そのためすべてを一括りにして判断せず、中身をしっかり見極めながら議論することが重要だと思います。
プラスチックにおける「ライフサイクルアセスメント」の課題
物の価値を決めるのは、実は難しい
LCAの技術的な視点で言うと、リサイクルの評価の最たる課題は「引き算」です。環境負荷を定量的に評価する際には、①リサイクルをおこなった時の負荷と、②それによって回避された負荷で差し引きをおこない、「このくらい環境負荷の削減効果があった」という分析をします。この「差し引き」の部分において、恣意的な設定の上に評価が成り立ってしまうことがあるのです。
たとえば、マテリアルリサイクルでパレットの原材料を1㎏作った際、強度がバージンプラスチックで作る場合よりも低下していたとしましょう(※使用済みの製品を有効活用するため)。良質とは言いづらいですが、増量剤としての機能をしっかりと果たせるのであれば、それは「バージンの製品(新品素材から作られたもの)と同等」とみなされてしまいます。たとえ重さが1kgだとしても、強度が劣っていれば、新品の1kgと同じ価値であるとは言い難いですよね。
大きな影響があるわけではないものの、LCAにて評価された情報の受け取り手には、「本当は存在しているかもしれない品質の差」が見えにくい点でしょうか。
「リサイクルをすることで環境負荷が減るんだ!」と、これは LCAによる環境負荷の評価として間違っていないかもしれませんが、もしかするとリサイクル後の製品のほうが耐久性が弱い・脆い・美しくないという場合も、(製品・サービスによっては)あるかもしれません。
課題解決のためにできること
解決のための議論はされていますが、決定打がなく明確な答えは出ていないのが現状です。個人的には、目的と調査範囲の設定時に「複数の条件」を用意することがベストだと思っています。
「リサイクル」といっても、マテリアルリサイクル・ケミカルリサイクルなど方法は1つではなく、かといってどれが1番偉いという優劣もありません。 どのような場面でどの手法を採択するかなど、役割分担を決めるという視点に立って「適材適所」を意識していくと、さらに建設的な議論になるのではないでしょうか。