海に浮かぶ液化天然ガスの生産設備・FLNGを建造する|事例や今後の展望

海に浮かぶ液化天然ガスの生産設備・FLNGを建造する|事例や今後の展望

目次

    大海原に浮かぶ巨大なプラント、FLNG。大水深域においては世界にまだ4基しかないFLNGとはどんな設備なのでしょうか。

    今回は、世界のエネルギー界を牽引する大きな可能性を秘めたFLNGの基礎知識からメリット、実際のFLNG建造プロジェクトまで詳しく解説します。

    FLNGの今後を含めてその可能性を探ってみましょう。

    「FLNG」とは

    FLNGは海に浮かぶ液化天然ガスの生産設備

    FLNGプラント

    FLNGを英語にすると「Floating Liquified Natural Gas」。つまり洋上に浮いている(Floating)、液化天然ガス(Liquified Natural Gas)の生産・貯蔵・出荷設備を指します。

    天然ガスはメタンが主成分の化石燃料で、地下から採掘されます。石油や石炭と比較して、燃焼する際に、地球温暖化の原因とされるCO2(二酸化炭素)や、大気汚染や酸性雨の原因になるNOX(窒素酸化物)の排出が少なく、SOX(硫黄酸化物)を排出しないことから、比較的環境に優しい燃料とされています。過渡期にある再生可能エネルギーの供給を補完する位置づけにおいて、注目を浴びている燃料です。

    天然ガスは液化すると体積が約1/600となり、長距離輸送・大量貯蔵が可能になります。FLNGで生産・貯蔵された液化天然ガスはLNG運搬船に出荷され、各国に届きます。

    天然ガス(LNG)について、詳しくはこちらをご覧ください。


    FLNGが生まれるまで

    世界各地に分布する油ガス田のうち、その多くは埋蔵量が少ない中小規模の油ガス田で、ほとんどが海洋に存在します。通常のLNGプラントは海底から近くの沿岸部まで海底パイプラインを引き、陸上で天然ガスを液化処理して出荷します。しかし、長距離の海底パイプラインは敷設するための材料費や工事費などの開発費用がかかってしまう問題があります。そのため陸地から遠すぎる油ガス田や中小規模の油ガス田は「ストランデッドガス田」と呼ばれ、開発が躊躇されていました。

    1980年代から、海底パイプラインを引かずに油ガス田の海上に船を浮かべ、船上で採掘・処理・出荷を完結させる構想は提案されていましたが、その当時は実用化に向けた課題が多く、実際に採用されたのは2011年になってからでした。

    FLNGの特徴とメリット

    FLNGのメリットは、長距離の海底パイプラインの敷設がなくなることによる開発費用の低減にくわえ、陸上プラントに比べて建造時の環境への負荷が低いことや中小規模の油ガス田の開発促進があります。

    油ガス田の開発は未開拓の僻地で行われることが多いため、そうした土地に陸上プラントを建設する場合、森林伐採などにより自然環境に影響を与える恐れがあります。一方、FLNGプラントの場合は現地での作業がほとんど不要となり、環境への負荷が軽減されます。またFLNGプラントは名前の通り海に浮いているため、設備を他地点へ転用することが可能となり、洋上中小規模油ガス田の開発スキームとしても注目されています。

    もちろんFLNGプラント特有の課題もあり、冷却用の海水利用に伴う腐食の対策問題や、甲板上に機器を設置するため混み合った設計になることから、船上で可燃性ガスが漏洩し爆発するリスクなどの問題があります。しかし開発費用や性能に関しては陸上プラントと遜色なく、安全性についても最大限配慮した設計が実現できるため、プロジェクトの性質によってはFLNGプラントが大いに活躍することが期待できます。

    世界のFLNGプラント建造プロジェクト

    現在大水深の外洋域で稼働しているFLNGは4基のみで、外洋に設置するFLNGは波の影響を強く受けて大きな揺れが続くため、技術的難易度が特に高いものです。それらの「トップサイド」と呼ばれる船上の高度な機器の、設計・建造の実績を持つ企業は世界でも日揮グループとフランスのテクニップエナジーズ社の2社に限定されています。

    ここでは2つのプロジェクトを取り上げ、FLNGプラントの計画から建造の事例を紹介します。

    日本企業初のFLNGプラント|マレーシア PFLNG2プロジェクト

    FLNGプラント

    顧客名 

    ペトロナス社(マレーシア国営石油公社) 

    場所 

    マレーシア サバ州沖合 

    EPCIC(設計・調達・建設・据付・試運転)コントラクター

    日揮グループ他

    最終投資決定/生産開始 

    2014年/2021年 

    LNG生産キャパシティ 

    1.5 mmtpa *

    *mtpa : million tonnes per annum(百万トン/年)の略。生産単位を表す。

    マレーシア国営石油会社であるペトロナス社はエネルギー需要の増加を背景に、同国サバ州の沖合ガス田に向けて世界で3基目となるFLNGプラントを計画しました。日本企業初となるFLNGプラント建造プロジェクトとして日揮グループのコンソーシアムが遂行。本プロジェクトは世界初となる水深約1,000メートルを超える深海ガス田にFLNGプラントを建造する、技術的な難易度が高いものでした。FLNGの建造ではトップサイドと船体に分かれ、あらかじめトップサイドのほとんどの設備を陸上でブロック状に先組みし、船上でこれを統合するモジュール工法が採用されています。

    アフリカ地域初のFLNGプラント|モザンビーク コーラルFLNGプロジェクト

    FLNGプラント

    顧客名 

    コーラルFLNG社

    場所 

    モザンビーク共和国沖コーラルガス田

    EPCIC(設計・調達・建設・据付・試運転)コントラクター 

    日揮グループ・欧州企業他

    最終投資決定/生産開始 

    2017年/非公開

    LNG生産キャパシティ 

    3.4 mmtpa

    アフリカ近海では多くの未開発の中小規模の海底油ガス田が存在し、FLNGプラントを含む多数のプロジェクトが計画されています。コーラルFLNG社はモザンビークの沖合にあるガス田向けにアフリカ地域初、世界では4基目となるFLNGプラントを計画しています。2014年に日揮グループを含む3グループにFEED役務を発注し、2017年に日揮グループのコンソーシアムがEPCIC役務を受注しました。

    本プロジェクトは水深2,000メートルを超える大水深ガス田向けFLNGプロジェクトとして世界初の事例となり、設計・建造にはモジュール工法を採用しています。

    今後も注目されるFLNG

    エネルギートランジションの一環で注目を浴びるLNGに後押しされ、現在世界中で、約30件ものFLNGプロジェクトが計画・遂行されています。

    2022年2月には、欧州委員会が「脱炭素化に寄与するエネルギー源」として、天然ガスを公式に認定する方針を発表し、様々な場面で天然ガス・LNGが注目されています。エネルギー需要が伸びるなか、FLNGは洋上中小規模油ガス田の開発スキームとしてCCS*(Carbon Caputure Storage)などの低炭素化をしながら、今後も更に発展していくことが期待されています。

    *CCS:天然ガス田にはCO2が含まれている場合があります。天然ガスを液化する際に、CO2を 除去します。除去したCO2を地下に貯留する技術をCCSと言います。

    まとめ

    洋上のFLNG

    天然ガス(LNG)は過渡期にある再生可能エネルギーの供給を補完する位置づけにおいて、注目を浴びている燃料です。LNGを安定的に供給するためには、FLNGによる海洋油ガス田の開発が不可欠です。

    エネルギートランジションの役割を担う、大海原に浮かぶFLNGの数はCCSなどの低炭素化をすすめながら、これからも増えていくでしょう。

    FLNGに関するお問い合わせはこちら  
    加賀美 幹 | Miki Kagami

    日揮グローバル株式会社

    加賀美 幹 | Miki Kagami

    日本(横浜)に生まれアジア諸国で育つ。大学で帰国し、2021年に日揮二世代目として新卒入社、営業本部に配属。若手営業部員としてLNGや製油所、水素・アンモニア等について勉強する中で業界の面白さに魅せられる。夢は働きながら海外で子育てすること。