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建設現場の施工管理とは? 必要な安全管理についても解説

企業×サステナビリティ 働き方
目次

サステナブルな働き方の実現に向けて、さまざまな業界が取り組みを進めていますが、建設業界もその一環です。建設現場において安全かつ円滑に工事を進められるように工期全体を管理する役割を担っているのが「施工管理」です。なかでも作業員の健康と安全の確保を目指す「安全管理」は、職場環境の整備のためだけでなく工期内の工事完遂を実現するための要素としても重要視されています。

今回は、建設現場における施工管理とその中の安全管理について詳しく解説します。

施工管理とは

施工管理とは、品質管理・コスト管理・工程管理 ・安全管理・環境管理の総称で、建設現場において安全に配慮しつつ作業員を指揮監督し、工事全体を管理する業務のことです

施工管理の業務内容は、工事ごとのスケジュール管理、業者との打ち合わせ、作業員の調整、建設資材の発注・納期管理、品質管理のほか、書類の作成や役所への手続き、工事依頼者への対応など、多岐にわたります。安全な作業環境を確保するため、建設現場を巡回することも施工管理の重要な役割のひとつです。

施工管理の仕事をするにあたり資格は不要ですが、将来的に施工管理者として働きたい場合は、現場で経験を積みながら「施工管理技士」の資格を取得するのが一般的です。施工管理技士とは、建設業法27条に基づいた「施工管理技術検定」に合格した人に与えられる国家資格で、施工管理の知識や技術を証明するものです。未経験からでも工事現場で実務経験を積むことで、受験資格を得られます。

「建築施工管理技士」の資格には1級と2級があり、それぞれ業務範囲が異なります。「2級建築施工管理技士」であれば、すべての工事現場に配置が義務付けられている「主任技術者」の業務を担うことができます。

また「1級建築施工管理技士」であれば、主任技術者に加え、特定建設業(総額4,500万円以上、建築一式工事の場合は7,000万円以上の下請契約を締結した工事)に設置しなければならない「監理技術者」として認められます。

施工管理の5つの要素【QCDSE】とは

施工管理 では、定められた工期内に高品質な建物を予算内で建設することが求められます。さらに作業員の安全や建設現場周辺への配慮も欠かせないことから、「QCDSE」が重要視されています。

「QCDSE」とは建設業界でよく用いられる言葉で、施工管理で特に重要とされる5つの要素、Quality(品質)・Cost(原価)・Delivery(工程)・Safety(安全)・Environment(環境)の頭文字をとったものです

■ 品質管理(Quality)

建物の品質や安全性を確保するために重要になるのが「品質管理(Quality)」です。仕様書や設計図書に基づいて、耐震性や耐火性などの法令基準を満たした建物を建設するよう管理します。指定された材料を正しい手順で使用しているか、強度やゆがみに問題がないか、正しい工法を守っているか、寸法に間違いがないかなどを確認するほか、要所で施工状況を撮影し、適切な工事ができているか確認することも重要です。

■ 原価管理(Cost)

高品質な建物を建設しても、コストがかかり過ぎれば利益を確保できません。そこで必要になるのが「原価管理(Cost)」です。人件費や資材費などの原価を計算し、予算内で工事を完了できるように調整します。工事を始める前に、工事の規模や内容などを考慮して予算書を作成し、削減できる費用はないか考えることも必要です。

■ 工程管理(Delivery)

期限までに工事を完了できるよう、スケジュールを作成し、進捗状況を確認しながら工期を管理します。建設現場では天候やアクシデントにより、期限の日程変更を余儀なくされることがあります。このような場合はスケジュールを組み直し、作業員の人数・配置を変更するなどの対応が必要です。

■ 安全管理(Safety)

危険な作業の多い建設現場において、安全に工事を進めるための環境を整える業務が「安全管理(Safety)」です。作業現場をパトロールして危険な場所や作業を把握し、起こりうるリスクを作業員に周知したり、機械や工具を定期的に点検し不具合があれば修理をしたりします。その他、作業員への安全教育として、ヒヤリハット事例の共有や危険予知トレーニングなどを実施します。

■ 環境管理(Environment)

環境管理(Environment)とは、主に「周辺環境」「自然環境」「職場環境」への配慮や対策を意味します。建設工事によって周囲に騒音や振動の被害を与えないように、また、工事によって自然環境を損なうことがないように対策を講じる必要があります。

  • 周辺環境:
    工事の騒音や振動で近隣の人々に迷惑をかけないように配慮します。車両や重機による排気ガスや粉塵にも注意が必要です。
  • 自然環境:
    工事が原因で土砂崩れなどの自然災害を引き起こさないように管理を徹底します。また、空気や水質、土壌、地盤などを汚染しないように注意します。
  • 職場環境:
    作業員が働きやすい環境を整えることも、施工管理の大切な仕事です。作業員と十分にコミュニケーションを取り、信頼関係を築くことで、快適な現場づくりを目指せます。作業員の健康管理や暑さ・寒さ対策のほか、休憩時間や休日の管理にも配慮が必要です。

どの環境を重視するかは建設現場によって異なります。施工管理者はあらかじめ各現場や周辺を調査して状況を把握し、それぞれに必要な対策・措置を検討することが求められます。

施工管理の中でも重要な安全管理【12選】

大型の建設機械やクレーンを取り扱い、高所での作業が多い建設現場では、高所からの転落・墜落、重量物の崩壊や落下、建設機械での挟まれ、クレーンからの重量物の落下など、さまざまな災害が想定されます。

厚生労働省発表の「令和4年労働災害発生状況」によると、令和2年以降、建設業の死亡者は増加傾向にあり、事故型では「墜落・転倒」が最多で「激突」が前年比42.1%増、「飛来・落下」が前年比60%増となっています。

建設工事で何よりも重要なのは、無事故で工期内に工事を完了させることです人命がすべてにおいて優先されるのはもちろんのこと、それに加えて、施主・工事業者を始め、工事にかかわる企業にとって「安全」が経済的なメリットにもつながっているからです

もし事故が発生すれば工事が停止し、不稼働による損失や納期遅延が発生するおそれがありますが、もし工事が安全におこなわれれば、工事の早期完工も視野に入ってきます。そうなれば、請負会社はコストや人的資源を次のプロジェクトに投じることができますし、施主は早期操業で投資回収を早めることができるというわけです。

こうした観点からも、工事現場における安全意識は年々高まりを見せており、施工管理における安全管理もさらに重要性を増しています

安全管理では、どの場所でどのようなシチュエーションで事故が発生しやすいかを予測し、作業員が安全に働けるように対策を講じます。具体的には、作業のフェーズごとに次のような方法があげられます。


■ 事前準備

1. 安全衛生管理計画の作成
建設現場における、安全衛生管理の基本方針や目標、労働災害防止対策などの安全衛生管理計画を作成します。

2. 作業手順書の作成
労働災害防止に配慮した作業手順書を作成します。

■ 作業場所の安全対策

3. 高所作業での安全対策
現場環境を考えて、安全で使いやすい設備機械を使用するようにします。開口部周辺には囲いや手すり・養生ネット・蓋などを設け、足場上で作業する作業員や工具、材料などの落下を防止する安全ネットや手すりなどを設置します。墜落・転落のおそれがある場所で作業する作業員に対しては墜落制止用器具の使用を徹底し、その扱い方や機能についての特別講習を実施します。

4. 滑り転倒防止対策
作業通路の段差や凹凸、継ぎ目などを解消し、階段に滑り止めテープを貼り、転倒の注意喚起をする看板などを設置します。常に整理、整頓、清掃を徹底することで、物につまずいて転倒したり、床面の水濡れで滑ったりなどの事故を未然に防ぐことができます。

5. 季節や天候に応じた安全対策
屋外での作業が多い建設現場では、猛暑や雨天、強風など季節や天候に応じた対策が必要です。外に置いている資材が雨に浸水したり、強風で飛ばされて落下したりしないように注意します。また、悪天候により墜落などの事故が予測されるときは、作業を中止する判断も必要です。

■ 定期点検

6. 安全パトロールの実施
作業現場に潜む危険要因を見つけるため、毎作業日1回以上巡視し、問題を発見した場合、改善を図ります。

7. 決められた手順・工法を守っているかを確認
事前に作業手順を検討して、作業者に周知します。また、決められたルールや作業手順を守り、正しい工法で作業しているかを巡視して確認します。

8. 使用する機械や設備、器具の安全点検
作業を開始する前に、機械に誤作動や故障がないかを点検し、修理などを実施します。足場や型枠支保工などの仮設設備については工事中も点検・整備を励行します。また、墜落制止用器具の 点検・保守、保管や安全ネットの損傷確認なども徹底します。

■ 作業員への対応

9. 作業員の体調や睡眠のチェック 
ヒューマンエラーを防ぐため、作業員の日常の健康状態を把握するとともに、作業開始前に、風邪をひいていないかなどの作業員の体調や睡眠不足の状態のまま現場に立っていないかなどをチェックし、状況に応じて適正な配置を行います。作業中も頻繁に巡視して、作業員の体調に異常はないかを確認し、作業員同士での声掛けを促します。

10. 作業開始前の打ち合わせ
毎日、作業開始前に作業員を集めて打ち合わせを実施します。

11. 作業員への教育の強化 
現場に新しく配属された作業員だけでなく、ベテラン作業員も含めて、リスクを予知・回避するための教育をします。新規作業員に対しては、初めて建設現場に入場する際に実施する「新規入場者教育」の場所や資料提供などの支援をします。

12. ヒヤリハットの共有
重大な事故には至らなかったものの、その恐れがあった事例を「ヒヤリハット」といいます。どこでどのようなときにヒヤリハットが起こったかを記録し、作業員に共有することで、事故を未然に防ぐ効果が期待できます。事故や災害が発生した場合は、工事施工や安全管理、現場の責任者や事故の関係者とともに原因を追究し、再発防止対策を立てます。

※ 建設現場での安全活動について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください


建設現場での安全活動まとめ|5S・KY活動など事例も紹介|サステナビリティハブ

危険と隣り合わせの環境で作業することの多い建設現場では、労働災害を未然に防ぐための環境づくりがおこなわれています。今回の記事では、建設現場における安全衛生活動や作業員に対する安全教育について詳しくご紹介します。

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施工管理に求められるさまざまな能力【4選】


前章では安全管理について詳しくお伝えしましたが、施工管理のQCDSEはどれも重要であり、ひとつとして欠かすことはできません。業務内容が多岐にわたる施工管理には、次に挙げるような幅広い能力が求められます。

■ コミュニケーション力 

施工管理の仕事では、工事現場の作業員や職人、会社の上司、関連会社の人など、少なくとも数十人もの人とやり取りを行います。現場での人間関係が良好であれば相互理解が進み、チームワークが高まり円滑 な作業につながります。性別や年齢、経験値が異なる人が混在する現場だからこそ、どのような人とも円滑にコミュニケーションを図れるスキル が求められます。

■ マネジメント力

施工管理ではプロジェクト全体を把握し、作業員のモチベーションを保ちながら業務を進行する能力が必要です。

■ 問題解決力

 建設現場は機器の不具合や資材の納品遅れ、作業員の欠如や事故・災害、近隣からの苦情など、予期せぬトラブルが発生します。施工管理では起こりうるリスクを察知し、対策をとれる危機管理能力が必要です。また、発生してしまったトラブルに対して適切に対処できる判断力や問題解決能力も欠かせません。

■ スケジュール管理能力

工事を期限まで完了するためのスケジュール管理能力も重要です。悪天候や作業員不足などで予定通りに作業が進まない事態も考慮したうえで、進捗状況を確認しながら工期内に完了させる能力が必要です。

まとめ

施工管理は、建設現場にかかわる人たちを取りまとめ、安全な環境で期日までに工事を完成させる重要な役割を担っています。危険性をともなう建設現場では作業員の安全の確保が何よりも重要です。そのため、「安全管理」は最優先事項であり、安全な環境の確保は、工期内に安全に工事を完了するだけでなく、作業員が安心して、やりがいをもって働き続けることができる職場環境の実現にもつながるでしょう。

倉田 浩二郎| Kojiro Kurata
日揮ホールディングス株式会社 サステナビリティ協創オフィス
倉田 浩二郎| Kojiro Kurata

横浜市出身。元々化学工学を専門とし、LNG受入基地を中心にプロセス設計に従事。2016年よりデジタル系事業開発に携わり、事業企画・データ分析を行うほか、ITGP2030の立案・遂行を担当。現在は建設現場の安全文化作りを支援するアザス事業を推進している。趣味は歴史・城・寺社仏閣など。最近はYoutube「山田五郎 オトナの教養講座」にもはまっている。

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