廃プラスチック油化ケミカルリサイクルとは?特徴や各企業の取り組み
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アジア各国において「海洋プラスチック問題」が深刻化している中、中国をはじめとするアジア諸国では、廃プラスチックの輸入禁止もしくは廃プラスチックの規制厳格化が決定されました。
そこで今回は「廃プラスチック油化ケミカルリサイクル」について解説します。これは、使用されたプラスチックをプラスチックに戻す「水平(ホリゾンタル)リサイクル」として注目を集める廃プラスチック処理方法で、プラスチック問題を解決に導く1つの手段です。定義や方法、特徴を紹介しています。
廃プラスチック油化ケミカルリサイクルとは?
はじめに、廃プラスチック油化ケミカルリサイクル(以後、「廃プラ油化」)の基礎知識を解説していきます。
廃プラスチックを油化して再資源化すること
廃プラ油化とは、『「熱分解」で廃プラスチックから分解油を製造するプロセス』を意味します。 廃プラスチックから製造した「熱分解油」を製油所や化学プラントといった既存設備に供給し、化石燃料由来の原料と合わせて処理(Co-processing)をすると、「廃プラスチックの再資源化」に繋がるという仕組みです。
さらに廃プラ油化は、同じ資源を繰り返し使用できる「水平(ホリゾンタル)リサイクル」の一種です。
本来であれば焼却処分・燃料利用される廃プラスチックですが、プラスチックからプラスチックへと再資源化することにより、新たに掘り起こす石油量が減らせるメリットがあります。それだけでなく、熱分解において生じるCO₂を踏まえたとしても、廃プラスチックの単純燃焼や燃料利用と比べて「CO₂排出量の削減」が期待できます。
廃プラ油化が注目される理由
廃プラ油化の技術は1970年代に既に注目を集めており、さらに1990年代には容器包装リサイクル法(容リ法*)の施行に向けてプラスチックの処理設備が求められ、そこで、廃プラ油化への注目度が上がったという歴史があります。(ただし当時には現在のような「資源循環」という考えはなく、原油の代替として油化したプラスチックを燃料にとして使用する目的が大半でした。)
* 市町村のみが全面的に容器包装廃棄物の処理の責任を担うという従来の考え方を改め、消費者は分別排出、市町村は分別収集、事業者は再商品化という新たな役割分担の下でリサイクルを推進しようとするもの。(引用元:環境省「容器包装リサイクル法の概要」)
また2017年末には、環境や人体への悪影響の懸念から、中国が廃プラスチックの輸入禁止をおこない、これに端を発して、東南アジア諸国で規制強化の動きが広がってきました。さらに近年は、有害廃棄物の定義や輸出入を規制するバーゼル条約が改正され、汚れた廃プラスチックが輸出の規制対象になりました。つまり自国で出た廃プラスチックは、輸出などせずに国内で処分・処理する必要性が高まっているのです。
さらに2022年4月1日に施行された「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」(以下、プラ新法)では、排出される廃プラスチックの可能な限りの再資源化が求められており、廃プラ油化の技術のニーズは今後も高まっていくと予想されます。
(※プラ新法について詳しく解説しています。合わせてご覧ください。)

廃プラ油化の特徴
廃プラスチックのリサイクルにはさまざまな方法がありますが、廃プラ油化にはどのような特徴があるのでしょうか。ここでは、2つのポイントを解説します。
リサイクル率の大幅向上に寄与する
廃プラ油化技術は、リサイクル率の大幅な向上をもたらす技術として期待されています。
まずリサイクルには「マテリアルリサイクル(プラスチック製品の原料として再利用すること)」と「ケミカルリサイクル(化学製品の原料として再利用すること)」、そして「サーマルリサイクル(廃プラスチックを燃焼した際に発生する熱を回収)」の3種類があります。
そのうちの1つ、マテリアルリサイクルは工程が比較的簡易ですが、新品同様には再生することができないため、リサイクル後の製品用途が限定されています。また処理可能な廃プラスチックの質に「不純物の少なさ」が求められるものの、回収される廃プラスチックのなかには異種素材や不純物が含まれていることも見受けられます。
しかし油化プロセスは、処理可能な廃プラスチックの質の許容度が大きく、ある程度不純物を含んでいても処理が可能です。
マテリアルリサイクルが難しい異種素材や不純物が含まれるプラスチックを、廃プラ油化により熱分解すると、ナフサ等の化学品原料に再生することができます。多くの廃プラスチックが再資源化の対象となることでケミカルリサイクルが可能になり、結果的にリサイクル率の向上に繋がります。それだけでなく、熱分解油にすれば製油所やエチレンセンターなどがそれを有効的に活用でき、初期投資額を減らせることもメリットとなるでしょう。
また、ウクライナ侵攻によるエネルギー危機に端を発するように、エネルギー資源の乏しい日本にとって再資源化を推進し、エネルギーと資源の自給率を上げることは重要だといえそうです。
廃プラ油化の取り組みと今後について
2050年カーボンニュートラルの実現に向け、また廃プラスチックのリサイクルニーズに応えるため、多くの企業で廃プラ油化の取り組みが進んでいます。
ENEOSと三菱ケミカルは共同でケミカルリサイクル設備を建設し、年間2万トンにもおよぶ廃プラ油化の実現に取り掛かっています。また出光興産では、国内にある既存の石油精製装置を活用し、年間1.5万トンもの廃プラ油化を目指しています。これらの数値は、サーマル・償却処理に回っているプラスチックの量と比較すると小さいため、今後はケミカルリサイクルを推進していくことが大切といえそうです。
そして海外においてはフランスが年間1.5万トンの廃プラ処理プラント稼働を、イギリスが年間8万トンの廃プラ処理プラント稼働を目指しています。さらに欧州では、再生プラスチック比率の規制化や、拡大生産者責任*を課す動きがあります。これらを踏まえると、日本と比較した際、リサイクルの推進を社会システムとして図るアクションは、欧米の方が先行しているといえるでしょう。
* 拡大生産者責任とは:生産者が、その生産した製品が使用され、廃棄された後においても、当該製品の適正なリサイクルや処分について一定の責任を負うという考え方 (引用元:経済産業省「3R政策」)
日揮グループの廃プラ油化技術
このような状況において、日揮グループは廃プラ油化を実現するために取り組みをおこなっています。
通常の油化設備で油化できるプラスチックは、「PP(ポリプロピレン)」・「PE(ポリエチレン)」・「PS(ポリスチレン)」の3種類であり、これらは「3P」と呼ばれていますが、廃プラの廃棄時には様々な種類のプラスチックが混ざっていることが多いため、通常であれば塩化ビニル(PVC)が混入しないように排出元を制限しています。
一方で日揮グループが保有する油化プロセス技術は、他社の油化プロセス技術では事前除去する必要がある「PETや塩化ビニル(PVC)」も同時に処理することができるため、幅広い原料の受け入れが可能です。
また日揮グループの油化プロセス技術は国内で唯一、10年の運転実績を有する年間処理量1万5千トンの大型商用装置の技術をベースとしていることから、長期安定運転に関する知見とノウハウを蓄積しています。廃プラスチックはいろいろな不純物を含んでいるため原料性状が安定しないこと、原料中にバッテリーなどの発火源が混入していたり、得られた熱分解油が火災を引き起こしやすいことから、油化プロセスにおいて運転実績に基づいた対策が重要だといえます。
まとめ
今回は、廃プラスチック油化ケミカルリサイクルについて解説をしました。
プラスチックの不法投棄が増えるとそれらは雨や風によって海まで流され、やがて海の環境を汚染し生態系にも悪影響を及ぼします。一方、正しいフローのもとプラスチックを回収して廃プラ油化をおこなえば、資源としての再利用が可能となり、いわゆる資源小国である日本において新たな化石燃料の輸入削減にも繋がります。
廃プラ問題は企業だけでなく個人でも取り組むことができるため、私たち一人一人の日々の活動がプラスチック回収率を高め、「ゴミを資源にする活動」へ結びつくでしょう。