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【製造業のDX】プラントの設備保全の現状と課題、スマート保安の事例を紹介

サステナビリティ入門 事例 日揮グループの紹介
目次

近年、脱炭素社会の実現や労働力不足といった社会課題の解決に向け、さまざまな業種・領域でDXが進められています。製造業においても、プラントの設備保全にまつわる管理の効率化や高度化、運用の最適化、省エネルギー化といった課題解決を実現する技術開発に期待が寄せられています。今回の記事ではプラントの設備保全の分野に焦点を当て、現状と課題、プラントにおけるスマート保安のデジタルツインの導入事例などをご紹介します。

プラントの設備保全とは?

プラント内部の点検

石油精製や石油化学分野のプラント内は、複数の設備で構成されており、さまざまな機器が複雑に張り巡らされた配管でつながれています。プラントを安定的に稼働させるためには、この複雑な設備の全容を把握し、適切な設備保全をおこなう必要があります。

プラントの設備保全には次の3つがあります。

  • 事後保全:不具合が出てから、原因を突き止め、故障を修理すること
  • 予防保全:点検・修理・部品交換を計画的に行い、故障を予防すること。
  • 予知保全:機械が壊れるのを予知して保全すること。

設備保全の方法は、設備が壊れたら直す「事後保全」から、壊れる前に手を打つ「予防保全」、そしてデータを解析やシミュレーションで予測して保全する「予知保全」へと進化を続けてきました。そして現在は、これら3つの方法を組み合わせておこなうのが、設備保全のあるべき姿とされていますスタンダードになっています。

また近年では、設計時につくられる情報を、設計業務だけでなくプラントの操業や、設備保全の業務においても活用していく考え方が主流になってきています。

例えば、海外の大型エネルギー関連プラントの建設プロジェクトでは、プラントの引き渡しとともにデジタルツインの基盤となる3D CADモデルと設計属性データの納品も求められます。日本でもBIM(Building Information Modeling)や、3D CADで作成した3Dモデルから工事・施工図面を自動出力するなどして、設計業務から施工業務への効率化が図る動きが進んでいます。 

プラントの設備保全の現状と課題

点検

現在、国内にある多くの石油精製・石油化学プラントでは1970~80年代の高度経済成長期につくられた設備が今も稼働しており、老朽化が進行しているケースも少なくありません。さらに、経験豊富なベテランスタッフの減少や、作業者の減少もプラントの安定稼働に影響を与えています。

プラントの工事や検査といった保全作業には、プラント内の機器や配管がどのように配置されているのかという全体像の把握が欠かせません。しかし、何十年も前に建設されたプラントは紙ベースの図面しか残っていないことも多く、改造をおこなった場合は最新の図面が存在しないこともあります。そのようなエリアにおいて工事や検査をおこなう場合、作業員による事前の計測と手書きによる図面起こしが必要となり、人員不足の問題を抱える現場にとって極めて大きな負荷がかかりあます。また定期補修などを外注する際に、現場状況の情報共有が難しいことから、見積り・作業計画・実施の各プロセスにおいて障害となる可能性があるのが現状です。

こうした状況に加え、脱炭素への対応も急務となっている今、多くの製造業がプラントの維持管理の問題に直面し、DXによる作業の効率化や最適化を模索しています。 

設備保全の新コンセプト「スマート保安」とは?

経済産業省は、課題を抱えるプラントの維持管理において、最先端のITテクノロジーを活用し設備保全をおこなう「スマート保安」のコンセプトを提唱しています。

スマート保安が目指すのは主に 

  • 膨大・リアルタイムなデータの取得による事後・予防保全 
  • AIの分析による予知保全
  • ドローン・ウエアラブル端末による危険作業の肩代わり 

の実現です。

令和2年6月には、日本の「スマート保安」を官民が連携して強力に推進することを目的として「スマート保安官民協議会」が設置され、取り組みが進められています。

プラントのスマート保安を推進するDX事例

ドローンによる点検

では、プラントのスマート保安を実現するためのDXにはどのようなものがあるのでしょうか。この章では、実際にプラントへの導入が進められているITテクノロジーと、それを活用したDX事例をご紹介します。(参照:経済産業省 産業保安グループ「スマート保安先進事例集」

スマートデバイスの活用

プラント内の保安作業において、ウェアラブルグラスやタブレット端末といったスマートデバイスを活用し、作業効率を向上させる動きが進んでいます。

【事例】三菱ケミカル株式会社

三菱ケミカルは、富山事業所内のユーティリティ製造設備に対する巡回点検の記録業務にスマートデバイスを導入しました。これまでは作業者が現場で1日3回の記録業務をおこなう必要があり、少ない人員で巡回業務と異常発生の対応をする負荷の高さや、点検結果を手書きで紙面に記録していることによる業務工数の多さ、過去データの活用をしづらいことが課題でした。スマートデバイスを導入したことで、管理者による遠隔支援や、計器指示値の音声入力・手入力によるデータ化が実現しました。これにより、巡回業務の省力化や異常発生時の迅速・確実な対応、人員育成の高度化、データ活用による保守の質の向上が見られました。(事例の詳細はこちらをご覧ください)

無線センサーの活用

プラント設備に無線センサーを設置し、常時モニタリングできる仕組みをつくることで、点検業務の効率化や保守対応の迅速化を実現します。

【事例】中国電力

中国電力は水力発電設備の状況確認のため、センサーとセンサーデータを分析するエッジデバイス、センサーデータを格納するクラウドによるIoTプラットフォームを導入しました。従来は巡視や定期点検のタイミングや故障警報が鳴った際に現地での状況確認を実施していましたが、センサー等の導入により山間部にある発電所まで行かなくても設備状況をリアルタイムに把握することができるようになりました。これにより、異常の兆候が見られた段階での対処や、異常検知後の迅速な原因究明や対処が可能になったといいます。(事例の詳細はこちらをご覧ください)

ドローンの活用

プラント保全へドローン導入によって、高所点検作業の容易化や、大型石油貯槽タンク等の日常点検の頻度向上につながります。これにより作業員の安全確保や事故の未然防止、災害時の迅速な現場確認が可能となり、 プラントの保安力・利便性の向上や労働災害の減少に繋がることが期待されています。また、ドローンによって収集されたデータを蓄積し活用することで設備点検の質の向上も期待できます。

【事例】株式会社Liberaware

Liberaware(リベラウェア)は、粉塵対策用モータや暗所用カメラなどを搭載した狭小空間用手動点検ドローンを開発し、貯留施設や航路内部、煙突など有人点検が難しかった場所での点検業務の遠隔化・省人化を可能にしました。ドローンの導入により、有人点検時に発生していた死角による見落としや高所からの落下リスクの減少、目視点検によるコストの大幅な削減が実現しました。(事例の詳細はこちらをご覧ください) 

防爆ロボットの活用

プラント内の危険な場所での巡回点検業務においては、防爆ロボットの活用が期待されています。防爆ロボットの導入により、従来は人がおこなっていた巡回、情報収集、データ処理・蓄積プロセスをロボットがおこなうことになり、作業員の安全確保や業務時間の削減につながります。また、デジタルデータの蓄積による高度なデータ分析が可能となることで、業務の質の向上も期待されています。

【事例】三菱重工業株式会社

三菱重工は石油ガスプラント内における巡回点検業務に、防爆ロボット「EX ROVR」を導入しました。従来は点検員が稼働中のプラントにおいて直接、状況確認・データ取得・入力等を実施していましたが、自動運転や点検業務(目視点検・熱計測・音収集・ガス濃度計測・マニピュレータによる作業等 )が可能な防爆ロボットを導入したことにより、作業員の安全性の向上や人手不足への対応、設備稼働率の向上などを実現しました。(事例の詳細はこちらをご覧ください) 

AIの活用

AIシステムの導入により、従来は人がおこなっていた異常判断に係るプロセスを短縮・削減することができるようになります。また、AIの判断を活用することで保全作業員の負荷を低減するだけでなく、経験の浅い保全作業員でも高水準の保安レベルを維持することも可能になります。ドローンやセンサーとAIを組み合わせれば、高頻度かつリアルタイムに設備の状態を把握できるようになり、点検の的確さや効率の向上にもつながります。

【事例】 ENEOS株式会社

ENEOS(エネオス)は、製油所内の常圧蒸留装置とブタジエン抽出装置における運転業務にAIを導入しました。高従来は運転員が24時間体制で運転監視と操作判断をおこなっていましたが、高齢化により運転ノウハウを持つ熟練運転員の減少が課題となっていました。AIを導入することで、リアルタイムのプラントデータを監視し、安定かつ最適なバルブ操作を導き出すことが可能になり、運転操作ミス等の人的要因による装置トラブルの削減につながりました。また、運転の自動化によってリソースが生まれたことで、有事の際に少人数でプラント運転が可能な体制の構築も期待できるようになりました。(事例の詳細はこちらをご覧ください)

デジタルツインの活用

ドローンやセンサーなどで収集したデータを活用して「デジタルツイン」を構築し、プラント保全の現場における課題解決を実現するサービスの開発や導入も進んでいます。

【事例】ブラウンリバース株式会社

日揮グループのブラウンリバース社は、360度撮影が可能な3Dレーザースキャナーで撮影した結果をウェブ上で閲覧・管理できるクラウドサービス「INTEGNANCE VR」を開発しました。アノテーション(関連データがタグ付け)された各機器や部材の相関関係が3Dビューア上で可視化され、ストリートビューのような操作感で視覚的にプラント全体の情報を把握することができるため、プラントの広大な敷地を保全する実務者の運用・保守業務を大幅に効率化することが可能です。

本サービスはデジタルツインの技術を用い、プラント全体を掌握することを主眼に置き、“ファスト”デジタルツインと称してあえて簡易的な3Dモデルを迅速に提供しているのが特徴です。ブラウンリバース社の代表取締役CEOの金丸剛久氏はその理由について「“ファストデジタルツイン”は、粗い3Dモデルを360度写真のリアリティで補うものですが、エンドユーザーにとってはモデルの不完全さは運用上さほど気になりません。我々は、3Dモデルの精緻さと引き換えに、コストと時間の圧縮を追求し実現しました。これにより、時間や価格がネックでなかなか進んでこなかったデジタルツイン構築のハードルを、ぐっと下げることができました。例えば、のべ床面積1万平米の施設で精緻なデジタルツインを構築しようとした場合、3D CADモデル作成に700万円・60日ほどかかりますが、ファストデジタルツインを採用した当サービスでは100万円・3日間で撮影から実際の運用までを完了することができるのです」と説明しています。

「INTEGNANCE VR」には「空間シミュレーション」「デスクトップ現況測量」「配管ナビ」の3つの機能が備わっており、それらを利用することで保全業務の効率化を図ることができます。(詳細はこちらのサイトでご確認ください)

まとめ

今回の記事では、プラントの設備保全に焦点を当て、現状と課題、プラント保全の現場で活用されているITテクノロジーとDX事例をご紹介しました。ご参考にしていただけましたら幸いです。

サステナビリティハブ編集部
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