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カーボンニュートラルLNGとは?メリットや価格、導入事例をご紹介

LNG カーボンニュートラル サステナビリティ入門
目次

2015年にパリ協定が採択され、120以上の国と地域が「2050年カーボンニュートラル」を宣言しました。国や企業では、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラルを実現するための取り組み」が進んでいます。

そして、企業が事業を継続するためにはエネルギーの確保が欠かせませんが、温室効果ガスの削減や排出抑制を実現するソリューションの1つとして注目を集めているのが「カーボンニュートラルLNG(CNL)」です。

そこで今回は、カーボンニュートラルLNGについての基礎知識・LNGとの違いや企業が導入するメリット、実際の導入事例なども紹介します。

カーボンニュートラルLNGとは?

お椀上にした両手のひらの中で育つ木「カーボンニュートラルLNG(CNL)」とは、天然ガスの採掘から燃焼までの工程で発生する温室効果ガスを、カーボンクレジット*で相殺することにより(カーボン・オフセット)、「CO₂排出量を実質ゼロとみなせる液化天然ガス(LNG)」のことです。

そのため、このLNGを使用したとしても、「地球規模では二酸化炭素が発生しない」ということになります。

*カーボンクレジット:CO₂の排出権のこと。CO₂の削減量および排出量に応じて、クレジット(排出権)を売買できる仕組み

※プロジェクトの環境価値を数値化する「カーボンプライシング」の取り組みについては以下の記事もご参考にしてください。


社内でカーボンプライシングのワーキンググループを立ち上げてみた~第1回~企業の「環境価値」を高める取り組みとは?|サスティナビリティハブ

昨今、企業による脱炭素への取り組みは不可欠となりました。しかし、企業・団体にとって初めての取り組みとなることも多く、担当者に任命されたものの何から手をつけたら良いのか分からない・・・そのような悩みを持っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。 「サステナビリティ ハブ」を運営する日揮ホールディングスでも、時には手探りながらもサステナビリティへの取り組みをおこなっています。今回は、その取り組みのひとつとして社内でカーボンプライシングのワーキンググループを立ち上げ、活動をしているメンバーにお話を伺いました。

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社内でカーボンプライシングのワーキンググループを立ち上げてみた~第2回~「事業開発の当事者」だからこそ気付けるワーキンググループの良さとは?|サスティナビリティハブ

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カーボンニュートラルLNGの導入で得られるメリット

では、LNGからカーボンニュートラルLNGへの切り替えには、どのようなメリットがあるのでしょうか。

温室効果ガスを帳消しにする

天然ガスの採掘から燃焼において発生する、温室効果ガスを相殺するためのカーボンクレジットは、「認証機関に登録されている世界各地の森林保全・植林などのプロジェクトによってCO2排出量の削減効果が得られた場合」に創出されます。そのため、LNGからカーボンニュートラルLNGに切り替えることにより、温室効果ガス相殺に貢献でき、社会的責任を果たすことにつながります。

ESG投資の誘引につながる

近年、環境(Environment)・社会(Social)・企業統治(Governance)に配慮したESG経営が注目されています。

カーボンニュートラルLNGの導入は、統合報告書やCSRレポートなどへの記載も可能です。環境や社会へ配慮した経営に取り組んでいることを対外的にアピールでき、ESG投資を呼び込みやすくなるでしょう。

カーボンニュートラルLNGの課題

LNG輸送船

一方で、カーボンニュートラルLNGには課題も残されています。

1.クレジットの信頼性

まず、カーボンニュートラルLNGのカーボンオフセットに使用される「クレジットの信頼性」です。クレジットが紐づいているプロジェクトの内容や価格にはバラつきがあり、ユーザー側にも「質」を見極める”目”が求められます。

例えば、国内で販売されたカーボンニュートラルLNGに適用されたクレジットでカバーされているCO2排出の範囲が「天然ガスの採掘から燃焼まで」ではなく、「天然ガスの採掘から販売まで」であったため、実際にはカーボンオフセットされていない可能性がある事例や、実際のCO2削減量より過大に発行した疑いのあるプロジェクトのカーボンクレジットが使用された可能性がある事例などが、過去に指摘されています。

※企業が自社のCO2排出量について価格付けする「インターナルカーボンプライシング」については以下の記事もご参考にしてください


インターナルカーボンプライシングとは?導入事例や価格の目安を解説|サスティナビリティハブ

インターナルカーボンプライシングは企業内部で独自に設定・使用する炭素価格のことで、自社の経営を低炭素、脱炭素にシフトしていくためのツールとして注目されています。この記事ではインターナルカーボンプライシングの基礎知識、導入方法や企業による事例について解説します。自社での導入を任された方や、インターナルカーボンプライシングを導入している事業者向けに自社ソリューションを提案したい方は、是非参考にしてみて下さい。

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2.価格

また、カーボンニュートラルLNGはLNGと比べて価格が高い(*)ことも、導入を進めるうえでの課題のひとつといえるでしょう。  さらに、カーボンオフセット需要が増加していることから、カーボンクレジットの確保が難しくなり、価格高騰につながる恐れがあることも指摘されています。

* 温室効果ガス削減のためのクレジット分が上乗せされるため、カーボンニュートラルLNGの価格は LNGよりも割高になる。

3.CO2排出量・吸収量の算出・測定

LNGサプライチェーン全体で排出されるCO2量の算出が複雑であることや、森林保全・植林等で吸収されるCO2量の測定・算出が難しいこともまた、カーボンオフセットを正しくおこなう上での課題となっています。 

CO2排出量については、国が中心となり実態に見合った算出基準の策定を進めているほか、複数の企業がCO2排出量を測定するサービスを開始しています。また、CO2吸収量については、森林保全プロジェクトに対する第三者機関による検証の実施や、森林の炭素貯蔵量をモニタリングする技術や算出方法の確立が進められています。

カーボンニュートラルLNGの国内販売状況と導入事例

LNGターミナルのイラスト国内では、東京ガスが2019年に初めてカーボンニュートラルLNGを受け入れ、「カーボンニュートラルLNG都市ガス」の販売を開始しました。2021年3月には東京ガスが中心となり、同社が調達したカーボンニュートラルLNG都市ガスを自社のオフィスや工場で使用する15の加盟企業とともに「カーボンニュートラルLNGバイヤーズアライアンス」を設立し、カーボンニュートラルLNGの普及拡大と利用価値の向上に向けた取り組みをスタートしています。

2020年11月には、日本ガス協会が「カーボンニュートラルチャレンジ2050」を策定し、そのなかでカーボンニュートラル LNGの普及・促進に取り組むことを明記しました。

こうした背景のもと、カーボンニュートラルLNG都市ガスの販売事業者の裾野は広がりつつあり、脱炭素経営への関心の高まりに伴って採用企業も増加傾向*にあります。

*2023年3月現在「カーボンニュートラルLNGバイヤーズアライアンス」における「卸先ガス事業者」は13社、「加盟企業数」は51社(設立時は15社)

「カーボンニュートラルLNGバイヤーズアライアンス」に参画しているガス事業者のほか、北海道ガスや静岡ガス、大阪ガス、四国ガス、北陸電力などもカーボンニュートラルLNG都市ガスの販売を開始しています(2023年3月現在)。

(参照:カーボンニュートラルLNGバイヤーズアライアンス「卸先ガス事業者」・北海道ガス「北海道初、カーボンニュートラルLNGの導入について」・静岡ガス「カーボンニュートラルLNGの初導入について」・大阪ガス「カーボンニュートラルLNGの導入を開始!」・四国ガス「カーボンニュートラルLNG売買に関する基本合意書締結について」・北陸電力「カーボンニュートラルLNGの販売開始について」)

では、カーボンニュートラルLNG都市ガスは、オフィスや工場でどのように使われているのでしょうか。カーボンニュートラルLNGバイヤーズアライアンスに参画する企業の導入事例をご紹介します。

丸の内ビルディングと大手町パークビルディング

丸の内ビルディングのSOFC(固体酸化物形燃料電池 )および大手町パークビルディングでは、ガスコージェネレーションシステム*(GCS)で使用する都市ガスの全量に、カーボンニュートラル都市ガスを採用しました。

*ガスコージェネレーションシステム:クリーンな都市ガスを燃料として、必要な場所で電気をつくり、同時に発生する熱を冷房・暖房・給湯・蒸気などに利用できるシステムのこと。

(引用元:東京ガス「ガスコージェネレーションシステム」)

丸の内ビルディングはSOFCとマイクロガスタービンを組み合わせた高効率な発電システムを採用しており、同ビル内での使用電力の一部を供給することで、電力使用時のCO₂排出量を削減。また大手町パークビルディングは、GCSでの発電に伴い発生する熱を有効活用することによりCO2の排出量の削減を実現しています。

(参照:丸の内熱供給「国内最⼤規模となるカーボンニュートラル都市ガス導⼊〜 丸の内エリアを中⼼に地域冷暖房ネットワークを活⽤した脱炭素の推進 〜」)

学校法人玉川学園

玉川学園は2021年に、学園内で使用する都市ガスの全量をカーボンニュートラル都市ガスに切り替えました。カーボンニュートラル都市ガスの導入は、学校教育施設初の取り組みで、契約期間の3年間で合計約7,000tのCO₂削減に貢献するとしています。

(参照:玉川学園「学校教育施設初となるカーボンニュートラル都市ガスの供給開始について」)

上智大学

上智大学四谷キャンパスでは、2021年12月からキャンパス内で使う都市ガスについて、カーボンニュートラル都市ガスの導入をおこないました。そのため、キャンパス全体で使用する都市ガス量すべてにあたる、年間約910千㎥(※2020年度の使用実績)が、「実質的にCO₂を排出しないエネルギー」に切り替わりました。

(参照:上智大学「上智大学四谷キャンパス 電気・ガスエネルギーの脱炭素化を達成」)

ヤクルト本社中央研究所

ヤクルト本社では、東京都国立市にある社屋に供給する都市ガスの全量をカーボンニュートラル都市ガスに切り替え、5年間で約11,500tのCO₂削減に貢献するとしています。

(参照:東京ガス「飲料業界初!カーボンニュートラル都市ガス導入◆ヤクルト本社様」)

まとめ

今回はカーボンニュートラルLNGについてご紹介しました。皆さまの参考になれば幸いです。 

サステナビリティハブ編集部
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