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テクノロジー 安全

2025.05.20

「ヒヤリハット」の重要性とは?業界別の事例や対策方法を紹介 0

「ヒヤリハット」の重要性とは?業界別の事例や対策方法を紹介

目次

    作業現場では、重大な事故に発展する可能性があった「ヒヤリハット」と呼ばれる事案が発生することがあります。ヒヤリハット事例を組織で共有し、対策を練ることは、重大事故の発生を未然に防ぐことにつながります。この記事では、ヒヤリハットの重要性や原因、事例、対策について紹介します。

    ヒヤリハットとは

    ヒヤリハットとは、「事故には至らなかったものの、ヒヤリとした、ハッとした事例」を指す造語です。

    「ハインリッヒの法則」から見えてくるヒヤリハットの重要性

    ヒヤリハットの重要性を端的に示しているのが「ハインリッヒの法則」です。ハインリッヒの法則とは、米国の損害保険会社の安全技師であったハーバード・ウィリアム・ハインリッヒが5,000件以上の事故調査から導き出した法則です。

    「重大事故1件の背後には29件の軽微な事故が存在し、さらにその背後には300件の異常が存在している」というもので、「1:29:300の法則」とも呼ばれています。災害の背後には危険有害要因(行動、状況など)が数多く潜んでいることを指摘したこの法則は、「現場の安全を確保するには、ヒヤリハットの背後にある危険有害要因に対処しておく必要があること」を示唆しています。ヒヤリハットからの学びを得ることにより、安全性を高めていく組織文化を醸成していくことが大切です。

    ヒヤリハットが発生する原因

    作業現場におけるヒヤリハットの発生には、いくつかの原因が考えられます。対策を適切に講じるには、主な原因を把握しておくことが大切です。

    5Sの不徹底

    1つ目の原因は「5S」が徹底されていないことです。5Sとは「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「しつけ」の5項目のことを指します。点検の不徹底や安全装置の欠落など、基本的な事項が守られていないことにより、危険な状況で作業がおこなわれているケースは少なくありません。

    5Sの不徹底が放置される原因としては、教育が十分におこなわれていないことや、現場でのルールが適切に定められていないことなどが挙げられます。たとえば、現場に道具や資材が散乱しているような状況は、ヒヤリハットにつながる直接的な原因となりかねません。

    ヒューマンエラー

    2つ目の原因はヒューマンエラーです。「いつもやっているから大丈夫だろう」という慣れや過信から安全な作業手順やルールを守らなかったり、思い込みで行動したり、「これくらいなら大丈夫だろう」と無理な作業をおこなったりしてしまう人間の特性(ヒューマンファクター)が、ヒューマンエラーを引き起こします。そのため、失敗した人を責めるのではなく、失敗の原因となったヒューマンファクターを見極め、失敗しにくい作業環境を整えていくことが重要です。

    現場でのコミュニケーション不足

    3つ目の原因は、現場でのコミュニケーション不足です。関係者間でのコミュニケーションが充分に図られていないことにより、必要な作業やその流れが正確に理解されておらず、ヒヤリハットの発生につながる恐れがあります。

    ヒヤリハットは労働災害クラスの事案とは異なり、報告義務がありません。そのため、現場監督が過去の事例を把握しておらず、類似のケースを繰り返していくうちに重大な事案に発展する可能性があります。現場において適切にコミュニケーションを図り、必要な情報を共有していくことが重要です。

    【業界別】ヒヤリハットの事例と対策

    ヒヤリハットの具体的な事例を見ていきましょう。労働安全衛生総合研究所が運営する「職場の安全サイト」には、2024年4月26日時点で計441件の事例が紹介されています。ここでは、具体的なヒヤリハット事例を業界別に紹介します。

    製造業での事例と対策

    事例1:アルカリ液による火傷のおそれ

    70〜80℃のアルカリ液が容器内に残った状態で排出弁を開けたところ液が抜けなかったため、作業員が長さ1.5mの棒で突いて液を抜こうとしました。すると残液が突然排出されたため、作業員は右脚に火傷を負うところでした。高温・化学物質から身を守るため、保護衣、保護メガネ、手袋などを必ず着用し、周囲や階下に人が立ち入らないよう安全確保の措置を講じる必要があります。
    (出典:職場のあんぜんサイト:ヒヤリ・ハット事例(有害物との接触) (mhlw.go.jp)

    事例2:機械への巻き込みのおそれ

    製麺機の清掃をおこなう際、機械を運転させたまま実施したため、カット箇所に指を挟まれそうになりました。対策としては、作業手順書を作成し、製麺機の電源を切った状態で作業することを作業者に周知させることなどが考えられます。
    (出典:職場のあんぜんサイト:ヒヤリ・ハット事例(はさまれ・巻き込まれ) (mhlw.go.jp)

    事例3:暖房用ジェットヒーターからの引火

    工場内にて休憩中、暖房用のジェットヒーターを作業員が背後に設置して暖を取っていたところ、作業着に引火しました。火はすぐに消し止められたため、火傷を負わずに済んでいます。視できる位置にジェットヒーターを設置する、暖房機に接近しすぎないたことなどの対策が必要です。
    (出典:職場のあんぜんサイト:ヒヤリ・ハット事例(高温・低温の物との接触) (mhlw.go.jp)

    建設工事現場での事例と対策

    事例1:クレーン車から降車する際の転倒

    ラフテレーンクレーン*から作業員が降車しようとした際、運転席でつまずき転落しそうになりました。降車の際には手すりをしっかりと握るとともに、クレーンのステップに背を向けずに降車しなければなりません。
    *ラフテレーンクレーン:自走式クレーンの一種で、走行とクレーン操作を1つの運転席でおこなえるのが特徴。
    (出典:職場のあんぜんサイト:ヒヤリ・ハット事例(墜落・転落) (mhlw.go.jp)

    事例2:資材の搬入作業における積み荷の倒壊

    給水ポンプユニットを運送中に台車の車輪位置を変えようとしたところ、積んでいた給水ポンプユニットが倒れて作業員が下敷きになりかけました。重量物を運送・設置する際には、作業方法を十分に検討するとともに、運搬物の形状に適した台車を使用しなければなりません。
    (出典:職場のあんぜんサイト:ヒヤリ・ハット事例(崩壊・倒壊) (mhlw.go.jp)

    事例3:足場解体作業中に足場材が崩落

    ビルの屋上に平面上に設置した足場解体作業中、足場材を誤って落下させてしまいました。落下した足場材が歩行者に接触することはなかったものの、地上まで落下しています。本来は落下防止ネットを適切に設置し、屋上から物が落下するスペースをつくらないようにする必要があります。
    (出典:職場のあんぜんサイト:ヒヤリ・ハット事例(飛来・落下) (mhlw.go.jp)

    プラント現場での事例と対策

    事例1:作業中の転倒のおそれ

    プラント点検中、グレーチング(網目状の蓋)上を通行したところ、グレーチングが固定されておらず上に乗った作業員が足を取られて転倒しそうになりました。グレーチングの取り外し作業を実施した際には、作業後にグレーチングが固定されているか確認する必要があります。
    (出典: 広島県公式ホームページ「ヒヤリハット事例集 清掃事業場編事例54

    事例2:確認漏れによる事故のおそれ

    プラントの反応塔の下部に転落防止用の防護網を設置していたところ焼却前に外し忘れ、砂がガス化炉低部へ抜けず、点検中の不燃物排出装置へと逆流してしまい、重大な事故を引き起こしかけました。防護網の設置に関する申し送りと、焼却開始時に防護網を取り外したことを確認するための指差し呼称が徹底されていなかったことが原因と考えられます。防護網の設置に関する申し送りと、焼却開始時に防護網を取り外したことを確認するための指差し呼称を徹底するなどの対策が必要です。
    (出典:広島県公式ホームページ「ヒヤリハット事例集 清掃事業場編 事例56」

    事例3:機材の破損による事故のおそれ

    ガス切断機のバルブを開けた際、ガス漏れと思われる音が聞こえたため確認したところ、レギュレータとホース結合部分が破損していたことがわかりました。前回使用した作業者がガス切断機を転倒させた事実を自己申告しなかったことが原因とみられます。対策としては、作業開始前の点検と転倒させた作業者が自己申告するような仕組みを構築することが考えられます。 
    (出典:広島県公式ホームページ「ヒヤリハット事例集 清掃事業場編 事例59」

    ヒヤリハットを把握するには?

    災害の発生を未然に防ぐためには、ヒヤリハットを把握するだけでなく、今後の対策に繋げる必要があります。そのためには、まず体験者や発見者がヒヤリハットを報告しやすい環境をつくり、安全担当者がその存在を知ることが第一歩です。ここでは、ヒヤリハットその報告の流れと効果的な報告書の書き方について解説します。

    【6ステップ】ヒヤリハットの報告の流れ

    ヒヤリハットが発生した場合、次の6つのステップで報告から対策の周知までをおこないます。

    1. ヒヤリハットの体験・発見: 作業員がヒヤリハットを体験、またはヒヤリハットにつながる可能性のある状況を発見します。
    2. 報告書の作成: 体験者または発見者が、いつ、どこで、どのような状況だったか、原因、考えられる対策などを具体的に記述した報告書を作成します。
    3. 報告書の提出: 作成した報告書を、職場の安全担当者や上司に提出します。
    4. 内容の確認とコメント: 安全担当者が報告書の内容を確認し、必要に応じてコメントや改善案を追記します。
    5. 安全対策の検討・決定: 提出された報告書をもとに、関係者(安全担当者、現場責任者など)が集まり、具体的な再発防止策を検討し、決定します。
    6. 対策の周知: 関係者間で決定した安全対策の内容と実施方法を、組織全体(関連部署や全従業員)に明確に周知します。

    この一連の流れにより、ヒヤリハットの経験が個人の体験にとどまらず、組織全体の安全意識の向上と具体的な事故防止策につながるようになります。

    報告書の書き方

    ヒヤリハット報告書を書く際は、厚生労働省が提供するテンプレートを活用するとよいでしょう。その際、客観的な事実と再発防止策を明確に記述することが重要です。 

    (出典:ヒヤリハット事例・想定ヒヤリ 報告制度の導入について(例)|厚生労働省 ) 

    まず、「いつ」「どこで」「誰が」「どのような作業中に」ヒヤリハットが発生したのか、5W1Hを意識して具体的な状況を詳細に記述します。次に、その原因を分析し、なぜそのような状況に至ったのかを記載します。最後に、同様の事態を防ぐための具体的な対策案をまとめます。状況、原因、対策を簡潔に分かりやすくまとめることで、組織全体での情報共有と再発防止を効果的に促進することができます。 

    ヒヤリハットを報告しやすい職場を作る方法

    ヒヤリハットのように、自身の失敗や危なかった経験を含む事案を報告するのは、心理的な抵抗を感じやすいものです。特に、評価への影響などを懸念して報告をためらうケースは少なくありません。ヒヤリハットの報告を促し、今後の安全対策につなげるためには、従業員が安心して情報を共有できる環境が不可欠です。この章では、心理的な安全性が確保された風通しの良い職場環境づくりのアイディアを2つご紹介します。

    ピアボーナス等で活発なコミュニケーションが生まれる環境を作る

    1つ目は、ピアボーナス制度の導入です。従業員同士が日々の業務における感謝や称賛を、専用のツールやアプリを通じてポイントなどと共に送り合うことで、職場内のポジティブなコミュニケーションが活性化されます。これにより、報告に対する心理的な抵抗感が薄れ、ヒヤリハットを共有しやすい文化が育まれます。

    設現場向けピアボーナスアプリの中には、ヒヤリハット報告機能がついたものもあります。(詳細は、こちらからご確認ください)

    上司が積極的に報告書を提出する 

    2つ目は、上司が自らのヒヤリハット体験を率先して報告する姿を見せることです。これにより、「報告は特別なことではなく、組織の安全を守るために必要な当たり前の行動である」というメッセージを部下に明確に伝えることができます。 

    さらに、「報告しても評価が下がるわけではない」「むしろ安全確保のために重要な貢献である」という認識が職場全体に浸透し、部下が安心して報告できる文化が醸成されます。結果として、報告に対する心理的なハードルは大きく下がり、潜在的なリスクの早期発見と対策につながる、より安全な職場環境が実現するでしょう。 

    まとめ

    ヒヤリハットが発生する原因は1つだけとは限りません。複数の危険要因が絡み合っていることも想定されるため、対策を講じずにいると重大な事故につながる恐れがあります。一方で、ヒヤリハットには報告義務がないため、現場の危険有害要因を特定する意味でも事例の把握が非常に重要です。

    ヒヤリハットの未然防止を強化したい事業者様は、ヒヤリハット事例を組織内で共有できるツールの利用を検討してみても良いかもしれません。ヒヤリハットの対策を強化することで、安全な作業環境をつくっていきましょう。

    建設現場の安全管理については、以下の関連記事もあわせてご覧ください。

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