前編【プラント建設の未来を支える技術者たち #09】スケジュールコントロールのエキスパート
目次
海外におけるプラントの設計・調達・建設を事業の柱とする日揮グローバルでは、幅広い分野の技術エキスパート*が事業の根幹を支えています。彼らの持つさまざまな専門技術は、プラント建設だけでなく、サステナブルな社会を実現するうえで欠かせないものです。そこでサステナビリティハブでは、チーフエンジニア*の方々に、専門技術や最新トピックなどを開設してもらうインタビュー記事を連載しています。
第9回となる今回のテーマは、EPC*プロジェクト遂行の要である「スケジュールコントロール(プランニング)」。国や地域ごとに異なる環境下で、設計・調達・建設のすべての工程を見つめて最適化し、納期通りにプラントを完成に導くスケジュールの専門家です。
40年以上にわたり、スケジュールコントローラーとして数々の海外プロジェクトを牽引してきたエキスパートである伊達信幸さんに、スケジュールコントロール業務の概要や、デジタル技術の普及がもたらす変化などについて聞きました。(インタビュアー:サステナビリティ ハブ編集部)
*エキスパート制度は、日揮ホールディングス、日揮コーポレートソリューションズ、日揮グローバル、日揮が対象
*チーフエンジニアは、チーフエキスパートとリーディングエキスパートの総称
*EPC:Engineering(設計)・Procurement(調達)・Construction(建設)の頭文字をとったもので、主にプラントやインフラ等の建設プロジェクトにおいて、設計から建設までを一気通貫で請負う方式のこと

EPCにおけるスケジュールコントローラーの役割とは?
――本日はよろしくお願いいたします。最初に、伊達さんの専門分野である「スケジュールコントロール」とは、どのような業務なのか教えていただけますか。
建設工事の管理をおこなう人はほかにも、サイトマネージャーやコンストラクションマネージャーなどがいます。彼らはアドミニストレーション(管理業務)から設計、調達の調整を含めて、工事全般を統括します。
一方で、私たちの業務は「プランニング」とも呼ばれ、プロジェクト全体のスケジュールを俯瞰してEPC*全体を統括します。つまり、建設だけではなく、その前段階である設計・調達のスケジュール調整も業務に含まれますし、建設フェーズにおいては工事施工の詳細なステップや戦略の策定などもおこないます。

──ビルや土木などの一般的な建設会社と日揮グローバルのようなEPC事業会社でのスケジュールコントロールの仕事で大きく違うところはありますか?
最も大きな違いは、「範囲の広さ」と「技術の多様性」と言えるかもしれません。ゼネコンさんがビル(建屋)を中心とするなら、私たちはそれに加えて、海沿いの巨大な港湾設備や大規模な土木工事、さらには複雑な電気計装やプラントの運転領域までカバーします。
もちろん、建屋単体の高度な技術においてはゼネコンさんにはかないませんが、扱う設備の広範さや複合的なシステム全体を統括するという意味では、やはりEPCのスケールは非常に大きくなります。
プランニングにおける重要なポイントは?
──スケジュールのプランニングにおいて、一番大変なのはどのようなところでしょうか?
「一つ一つのプロジェクトで前提条件が全く違うこと」ですね。建設する国が違えば、気象条件も労働条件も変わってきますし、同じ国でも時期によって状況が変わることもあります。こうした特殊な状況をまず把握し、前提条件を整理した上で、スケジュールを最適化する必要があります。
例えば、雨季の時期。東南アジアのタイなら10月から5月までですが、南アジアのインドなら逆に5月から10月までが雨季になります。一方で、中東では雨はほとんど降りませんが、日中は気温が40度を超える過酷な暑さになることを考慮に入れなければなりません。
──天候による作業時間帯の制限や、宗教的な行事への配慮も必要になりそうですね。
もちろんです。中東では現地の労働基準に従い、猛暑の11時から14時までは作業をストップさせたり、昼間の作業を避けるかわりに夜18時から朝方までのナイトシフトを組んだりします。
イスラム教の国ではラマダンの時期、中国では旧正月の時期に長期休暇を取ることが多く、この時期は作業員が激減します。ですから、あらかじめ「この期間は進捗が進まない」という前提でスケジュールを組みます。
雨季にしても、本来なら道路工事などの掘削工事は雨を避けておこないたいものですが、工期上どうしても工事を進めなければならない場合があります。その時は「雨が降る」という前提条件のもと、水中ポンプを大量に用意して水を汲みだしながら作業をする、といった対策を講じます。
――ボトルネックになりそうなことを事前に把握して、その対策も織り込んで計画を立てる、ということなんですね。
その通りです。「大小様々な環境の壁をいかに克服して、前提条件を作り出すか」が、プランニングの難しさであり、腕の見せ所でもあります。
――最適なスジュールを作れるようになるには、かなりの経験が必要そうですね。
もちろん、経験があるに越したことはないですが、長年やっていても全ての環境・すべてのコンディションを経験できるわけではありません。私も40年以上この仕事をしていますが、30代までは東南アジアの現場中心でしたから、中東での経験はありませんでした。それでも、社内には色々な専門家の方がいますから、そうした方の知見も借りながら進めていける体制になっています。
スケジュール遅延の要因と対策
──スケジュールコントローラーの立場として、一番避けたいのは「スケジュールの遅延」だと思いますが、スケジュールが遅延すると具体的にはどのような影響があるのでしょうか?
スケジュールが遅延すると、我々スタッフが現場に長く留まることになり、プロジェクト規模にもよりますがプロジェクトのランニングコストだけでも月に億単位で膨らむケースがあります。
さらに大きな影響が、お客様に対するペナルティである「遅延損害金」です。1日あたり数百万円から数千万円規模になる場合もあり、スケジュール遅延はコスト面で非常に大きなインパクトがあります。
このようなことから、スケジュール遅延はプロジェクトに与えるコストインパクトが非常に大きいのです。

──遅延の原因としては、どのようなケースが多いのでしょうか?
大きく分けて、「設計の遅れ」「調達の遅れ」「建設の遅れ」の3段階があり、これらが連鎖して効いてくるケースもあります。
例えば、過去の事例でいうと、中東のあるプロジェクトでは「調達」が大きく遅延したことがスケジュール遅延の原因でしたし、東南アジアのプロジェクトでは完全に「設計」の遅れが原因でした。そのほかにも、JVを組んでいるパートナーの建設工事の遅れが原因になることもあります。このように、遅れの原因も多岐に渡ります。
――スケジュールに遅延が発生した、もしくは発生しそうだという場合は、どのように対応するのでしょうか?
もちろん、全てがオンスケジュールで進むのが理想ですが、現実にはどこかで遅れが生じます。「とにかく遅れないように、常日頃から管理する」ことは大前提として、「遅れた場合に、いかに速く原因をつきとめ、挽回する方法を考えるか」という姿勢が非常に重要です。
設計が始まった瞬間から、図面は遅れていないか、調達品は納期通りに届くか、建設現場の進捗はどうか…と、プロジェクトの最初から最後まで気を抜くことはできません。
業務を取り巻く環境の変遷
IT技術の進化がもたらした変化
──IT技術の発展と普及によって、スケジュールコントロールという伊達さんの業務で変化したことはありましたか?
最も大きな変化は、「データを細かいところまで瞬時に見られるようになったこと」ですね。それは良い面でもありますが、同時に「大枠を捉えづらくなる」というマイナス面も感じています。
例えば、我々が使用しているスケジュール管理ツール「Primavera*」は、もともとNASAで使用されていたもので、1日単位で非常に細かくスケジュールを設定できます。
*Primavera(プリマベーラ):大規模で複雑なプロジェクトを管理・実行するための、世界標準とも言えるエンタープライズ・プロジェクト・ポートフォリオ管理ソフトウェア
しかし細かく分解されすぎた結果、印刷すると30~40枚にも及ぶ膨大なデータになってしまい、「プロジェクト全体として順調なのか、遅れているのか。遅れているなら、原因は何なのか」という大枠がパッと見で判断できなくなってしまいました。
本来、我々は「まずざっくりとした大枠のスケジュールを作り、そこから細かく分解していく」スタイルを得意としていました。ですが今のツールは最初から細かく作り込んで、積み上げていくスタイルで、これが世界的な潮流になっています。

──詳細なデータを把握できる反面、全体を俯瞰して見ることが難しくなっているわけですね。
はい。もちろん、スケジュールを詳細に作ることもできますが、それぞれのスケジュールの「確からしさ」というのは、実は細かくすればするほど、逆に不正確になってくるという面もあるんです。
社内で昔から使われている「BIRD-EYE VIEW(鳥瞰図)」という言葉があります。詳細を掴むことも必要ですが、理想のスケジュールから外れていないかどうかを瞬時に見極めるには、やはりこの視点で全体スケジュールを掴むことが大事になってきます。このような感覚をうまく伝承できないかを試行錯誤しているところです。
ビジネス環境の変化
──40年のキャリアの中で「ビジネス環境」の面で大きく変わった」と感じる部分はありますか?
IT技術が浸透しビッグデータの活用により可視化が進んだことで、顧客から要求されるレベルも厳しくなりましたね。私が入社した1980年代は、お客様も「このタイミングで工事が終わればいいよ」というようなスタンスで、図面や検査も我々に任せて関与しない、ある意味大らかで牧歌的な時代でした。
しかしここ20年ほどでIT化が進み、例えば設計フェーズでは精巧な3Dモデルをつくるのが当たり前になりました。昔のミニチュアモデルと違い、細かい部分まですべて画面上で見えるようになるので、お客様側からのより詳細なレビューによるコメントも増加します。そうすると、設計期間にさらに時間を費やすことになり、結果として納期を守るために建設工事期間を圧縮する必要が出てきます。このような経緯で、より緻密な建設計画が求められるケースが増えてきているのではないかと思います。
──メーカー側の状況も変わってきているとお聞きしました。
はい。この20~30年で大きく変わりました。例えば回転機を扱うメーカーは吸収合併が進み、昔は数社で競合していたものが今は寡占状態になっていたりします。
寡占化が進むと、納期や技術要件の交渉の余地が狭まり、スケジュールへの影響も少なからず出てきます。このような変化がある今、“木を見て森を見ず”にならない、全体最適の視点が求められていると感じます。
まとめ
今回の記事では、スケジュールコントロールのチーフエンジニアに、プラント建設におけるスケジュールプランニングの業務の概要や重要なポイント、IT化による業界の変化などについてお伺いしました。インタビュー後編では、40年のキャリアを振り返っていただきながら、転機となったプロジェクトや、組織を動かすための仕事哲学、趣味のお話などについて幅広くお伺いします。
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