前編【プラント建設の未来を支える技術者たち #08】計装制御エキスパート
目次
海外におけるプラントの設計・調達・建設を事業の柱とする日揮グローバルでは、幅広い分野の技術エキスパートが事業の根幹を支えています。彼らの持つさまざまな専門技術は、プラント建設だけでなく、サステナブルな社会を実現するうえで欠かせないものです。そこでサステナビリティハブでは、チーフエンジニア*の方々に、専門技術や最新トピックなどを開設してもらうインタビュー記事を連載しています。
第8回となる今回のテーマは、「計装制御」。プラント内のさまざまな機器を、センサーで状態を確認しながら自動でコントロールする技術です。 計装制御分野のチーフエキスパート(CE)を務める菅沼伝さんに、進化する安全技術の最前線や、デジタル化によって変革期を迎えている計装エンジニアリングについて詳しく聞きました。(インタビュアー:サステナビリティハブ編集部)
*エキスパート制度は、日揮ホールディングス、日揮コーポレートソリューションズ、日揮グローバル、日揮が対象
**チーフエンジニアは、チーフエキスパートとリーディングエキスパートの総称

プラントの計装制御の仕事とは?
――本日はよろしくお願いします。まずは、菅沼さんの専門分野である「計装制御」について教えていただけますか。専門外の方にもわかるような、身近な例はありますか?
身近な例でいうと、お風呂の「湯張り」が分かりやすいかもしれません。お風呂にお湯を溜める時、「42度のお湯を、浴槽のこの位置まで溜めたい」というような設定しますよね。蛇口からお湯が出て、目標の温度と水位になったら自動で止まる。あれも設定した目標に対してプロセスをコントロールする「計装制御」なんです。
――なるほど、お風呂の給湯システムも同じ仕組みなんですね。かなり難しい話になると思っていましたが、急に身近に感じられるようになってきました。
はい、ロジックは同じです。ただ、これがプラントのような大規模施設になると、扱う流体が危険物で爆発性があったり、毒性を持っていたりします。温度もエチレン分解炉のような1000℃を超える高温からLNGのマイナス162℃の極低温まで様々です。設定すること自体は簡単ですが、それを制御するためのバルブやモーターには、過酷な環境や繰り返しの動作に耐えられる特殊な材料と設計が求められます。そこがプラントにおける計装制御の特殊性ですね。

──温度や圧力、毒性の有無…など考慮すべきことが膨大になりそうですね。
そうですね。我々としても、できるだけ設計を標準化して効率化したいと思っていますし、メーカーさんも、標準化して同じものを作ったほうが生産性も上がります。ですが、なかなかうまくいきません。
というのも、やはりプラントは「一品一様」なんです。プラントごとに、流量も違えば、圧力も違う。結局、プラントごとの要求に合わせてカスタマイズしていく必要があります。
そこで、ガイドラインを作って、必ずおさえるべきポイントは出来る限り標準化する取り組みを進めています。
――ガイドラインの策定は、ずいぶん前から取り組まれているとか?
はい、個人の「暗黙知」を文書化し、誰もが使える「形式知」にするという意味でも、ガイドラインの作成は非常に重要だと感じており、この活動をかれこれ10年ほど継続しています。
計装制御分野の最新トレンド
「安全計装」へのパラダイムシフト
──近年の技術トレンドのひとつとして「安全計装」があるそうですね。従来の計装技術とは何が違うのでしょうか?
これまでは、プラントが危険な状態になりそうだったら「止める」「遮断する」「圧力を逃がす」といった、単純な事後対応的な装置としての役割が主でした。
しかし2000年頃から、欧米のオイルメジャー主導で考え方が変わってきました。設計から製作、検査、そして稼働後の保守に至るまで、プラントのライフサイクル全体を通じて安全を管理しようという国際標準が浸透してきたんです。
──ライフサイクル全体、とは具体的にどういうことでしょうか?
まず設計段階で「HAZOP*」というスタディを行い、プラントのどこにハザード(危険・リスク)が潜んでいるかを洗い出します。そしてそのリスクに対し、「SIL(シル)*クラシフィケーション」のプロセスを経て、そこで決定した信頼性レベルに見合った機器を選定し、納入します。計装エンジニアはそのSILクラシフィケーションの過程において、制御システムとして適正で実現可能な信頼性レベルの決定に貢献することも求められます。
*HAZOP(Hazard and Operability):安全性および運転性を評価する手法の1つ。化学プロセス産業で1960年代から用いられており、現在ではプロセス危険解析手法の標準とされている。
*SIL(Safety Integrity Level):安全関連システムの機能安全を評価する指標で、「安全度水準」とも呼ばれる。SILにはレベルが1~4まであり、レベルが高いほど安全度も高くなる。
【関連記事】HAZOPとLOPAの違いなど、プラントのリスクアセスメントについての詳しい解説はこちら▼
その後、納入した機器が仕様書通りに製作されているかを検査して工場出荷し、現場に到着します。現場では、機器をすべて繋いで、正しく機能するかを確認する「アセスメント」を複数のステップでおこないます。ここで重要なのは、現場でのアセスメントを、プラントが稼働した後も定期的に実施し続けることです。
我々はEPCコントラクターとしてプラントを納めますが、お客様はその先20年、30年と運転を続けます。その間、安全機能が確実に維持されているかを確認し続ける。この「安全計装」の手法がここ5年ほどで業界全体に定着してきました。

──「安全計装」の手法が定着したのは比較的最近の話なのですね。
そうですね。「安全計装」の考え方は昔からありましたが、それを実際にどう取り込んでいくかという部分は、お客様側もそこまで明確になっていない状態でした。それがこの5年くらいで随分とクリアになってきたため、私達も、お客様の目指す方向性を理解し、どうすれば実現できるかという部分までかなり整理されてきました。この状態になるまで、20年くらいかかりましたね。
似たような話で、今は「サイバーセキュリティ」がホットな話題です。プラントは国の重要インフラですから、「どう守るか」という設計が非常に重要になってきます。まだ、お客様も手探りの部分も多いですが、我々は常にお客様のニーズにフィットさせていく必要があるため、最新情報への目配りが欠かせません。
デジタル化とバーチャル化がもたらす変化
──IT技術の進化による計装制御の分野への影響もありそうですが、いかがですか?
はい、ITの世界でのデジタル化技術や仮想化技術が、プラントの制御監視システムである「OT(Operation Technology)」の世界にも急速に普及してきています。
本来、計装制御の世界は非常に保守的で、何十年も実績のある信頼性の高い技術が好まれる傾向にありました。ですが最近は、IT由来の技術が急速に入り込んできています。例えばコントローラー。これまでは専用のハードウェアでしたが、今はサーバーの中に「仮想化」されたコントローラーが入っていることもあります。ネットワークもバーチャル化されていて、物理的なケーブルを見ただけでは通信経路が判別できないほどです。
──エンジニアに求められるスキルも変わりそうですね。
そうですね。こんな風にプラントの計装の世界にもデジタル化・バーチャル化が入ってきているので、我々も、その知識レベルに追いついておく必要があります。メーカーさんが提案してくるものを適切に評価して、お客様のシステムにどうフィットさせるかを見極めるのが我々の仕事ですから。

――お客様側からも、デジタル化・バーチャル化に対応したいという要望が増えてきているのでしょうか?
積極的に対応したいというお客様と、保守的なお客様、そして一部は最新のものを取り入れたいというミックスタイプのお客様もいらっしゃるので、本当にお客様ごとに違います。
ただ、ひとつ言えるのは、「『デジタルツイン*』や意思決定へのAI活用によって、今後を見据えて色々なデータを吸い上げて蓄積し、信頼のあるデータプラットフォームを作りたい」という思いを持っているお客様は多いということです。
*デジタルツイン:現実世界の環境から収集したデータを使い、既存の構造物を仮想空間に再構築したもの。日揮グループのブラウンリバース社は、デジタルツイン技術を活用したプラント設備管理のクラウドサービス「INTEGNANCE VR」のサービスを展開中。
▼ デジタルツイン技術を活用した「INTEGNANCE VR」について詳しく知りたい方はこちら▼
最新技術・製品の組み合わせで、配線工事の負荷削減も
──最新技術を導入し、現場が大きく変わった例はありますか?
従来は、現場にある計器から制御室まで、それぞれ太い銅線のケーブルを引いていました。信号の種類によってケーブルも違い、膨大な量になります。現場から制御室まではだいたい300~400m離れていますから、ケーブル敷設の負担だけでも相当なものです。
それがメーカーさんのイノベーションによって、「ユニバーサルI/O*」で信号を集約できるようになり、さらに、現場側に「スマートJB*(Junction Box)」を設置すれば、そこから制御室までは光ファイバーケーブル1本で繋ぐだけで済むようになりました。
*I/O:Input/Output(入力/出力)の略で、制御システムでは外部信号と内部処理をつなぐ役割を持つ
*ユニバーサルI/O:ソフトの設定により「入力・出力」や「デジタル・アナログ」信号を自由に切り替えられる技術。専用カードを個別に用意する必要がなく、配線設計の簡略化が可能になる。
*JB:Junction Boxの略で、配線同士を結合・分岐・中継する際に使用される保護箱のこと。
*スマートJB:従来のJBに通信機能や制御知能を持たせた装置。ユニバーサルI/Oなどを搭載し、現場の機器構成をソフト上で自由に変更できるほか、稼働状況の診断や遠隔監視も可能にする。
──数十本のケーブルの束が光ファイバー1本になるのは劇的な変化ですね。
はい。工事の手間もコストも削減できますし、光ファイバーならノイズも入らないので、良いことづくめです。ただ、「屋外で作業するのを避けたい」などメンテナンス保守の部分でこの方法を選ばないお客様もいらっしゃいます。砂漠に建っているプラントなどでは、外での作業は本当に過酷ですから。
今お話しした「ユニバーサルI/O」と「スマートJB」はあくまで一例で、最新技術や製品の組み合わせで、実に様々なことができるようになってきました。無線技術やAI活用、デジタルツインなど、技術の進化は止まりません。先見の明を持って技術を評価し、プロジェクトに実装していく姿勢が求められています。実際に、プラント建設のワークシーケンスの中でどのように新しい設備・技術をフィットさせるかという点について先導して社内検討を進めています。
――こうした変化は、エネルギー産業が直面しているサステナビリティ課題の解決にもつながってくるのでしょうか?
はい、そう考えています。メーカーが提供する製品・技術そのものが変化すると、それに伴って当社の設計手順やEPC遂行手法への影響や、管理するデータ量の増大が発生します。これらをうまく我々のEPC業務へ取り込む事ができれば、例えば制御システムの据え付け建屋サイズの縮小、輸送費削減、現場施工費削減、設計・検査期間の短縮などが可能になります。こうした意味で、最新技術の導入は、サスティナビリティ課題を解決する方法の1つになり得ると考えています。

まとめ
今回の記事では、「計装制御」技術のチーフエキスパートに、専門技術や最新トピックスなどについて話を聞きました。インタビュー後編では、ターニングポイントとなった出来事や、計装制御エンジニアの仕事のやりがい、プライベートの過ごし方などについてお伺いしました。是非合わせてご覧ください。
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