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ゴミは宝の山だ!埋めず、燃やさずに「ゴミ」を「資源」に変える -第3話-

バイオマス
目次

はじめに

最近、肥料価格の高騰によって、農家の経営が圧迫され、大きな社会問題となっています。2022年5月31日に放送されたNHKニュース*でこの問題が取り上げられ、全農(全国農業協同組合連合会)によれば、多くの種類の肥料で、価格は2005年以降、過去最高であり、その理由は、世界的な穀物需要の高まりで肥料の需要が増えていること、ロシアのウクライナへの軍事進攻をうけて、尿素や塩化カリウムの生産国であるロシアからの供給が滞っていること、さらに、中国が2021年10月から尿素など肥料の輸出制限をかけている影響などがあると報じられています。そして、全農としては、今後、生産者に対して堆肥などの活用を推進していくとのことです。 

(参照:NEWS WEB NHK「肥料価格 多くの種類で過去最高に ロシアの軍事侵攻などが影響」

これまでの本稿では、水熱分解技術(Hydro Thermal Treatment *HTTが略称)による燃料製造に焦点を当てて、研究開発の現状を紹介してきましたが、本最終話では、まずは、堆肥製造にどのように水熱分解技術が活用できるのかを説明します。そして、水熱分解処理の普及の障害となっている発生する廃液の有効利用と処理法について解説したいと思います。

※第1回/第2回は以下からご覧ください。


ゴミは宝の山だ!埋めず、燃やさずにゴミからお金を生む -第1話-|サスティナビリティハブ

今、世界中で適切なゴミ処理が大きな問題となっています。私たちは、ゴミは燃やすのが当たり前と思っていますが、実は世界的に見ればゴミの焼却処理はマイナーで、ゴミの多くが埋め立て処理あるいは単なる屋外投機されているのが現状です。そこで今回は東京工業大学 の吉川教授にお話を伺いました。

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ゴミは宝の山だ!埋めず、燃やさずに「ゴミ」を「資源」に変える -第2話-|サスティナビリティハブ

第1話では、あらゆる可燃性廃棄物を石炭に近い燃料に変えることができる「水熱分解技術」を紹介しました。石炭火力からのCO₂排出削減策として、「バイオマス混焼」という技術があります。この技術については、株式会社三井物産戦略研究所発行の「国内で注目を集める石炭火力発電でのバイオマス混焼の今後の見通し」というレポートの中で詳しく解説されています。

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水熱分解の堆肥製造への活用

有機性廃棄物の堆肥化については、生成されるアンモニアによる悪臭の発生と窒素分のロスおよび、堆肥化に長期間を要することに伴う堆肥化施設の大型化等の問題が普及の妨げになっています。また、リグノセルロース系の廃棄物は、その堆肥化の過程で、ヘミセルロースとリグニンの結合物によって、主要な成分であるセルロースへの微生物のアクセスが阻害されるため、堆肥化に非常に長い期間を要します。そこで、筆者の研究室では、リグノセルロース系の廃棄物として有効利用が進んでいない稲わらに注目し、水熱分解処理がその堆肥化の促進にどのような効果があるのかを調べました[2]。

この論文の中で、稲わらは、リグニンが多糖ヘミセルロースと互いに絡み合い、化学結合しているため、微生物による分解がより困難であり、セルロースの分解を促進するためには、50%以上のヘミセルロースを除去する必要があると述べられています。 

そこで、図1に示す、内容積200Lの水熱分解設備を用いて、2~3cm程度に破砕された稲わらを水熱分解処理し(反応温度:180℃、反応圧力:1.0MPa、反応時間:30分)、この前処理が堆肥の安定度と熟度に与える影響を検討しました。図2には、堆肥化に使用した設備を示します。

稲わらの水熱分解に用いた内容積200Lのパイロット規模の水熱分解設備図1 稲わらの水熱分解に用いた内容積200Lのパイロット規模の水熱分解設備堆肥化反応実験設備図2 堆肥化反応実験設備

水熱分解を行った場合と行わない場合の、堆肥化過程での堆肥化反応器内の温度変化を図3に、CO2の発生量の変化を図4に比較して示します。堆肥化反応器内の温度は、微生物の活動の活発化に伴って上昇しますが、図3より、水熱分解を行うことによって、反応器内の温度が早く上昇し、また、短期間で温度が低下しており、堆肥化に要する期間が大幅に短縮されていることがわかります。また、CO2の発生量も同様な傾向を示し、水熱分解を行うことで、短期に微生物の活動が終了して、CO2の発生量が減少し、安定度や熟度の高い堆肥が生成されていることがわかります。

水熱分解を行った場合と行わない場合の堆肥化反応器内温度変化の比較グラフ図3 水熱分解を行った場合と行わない場合の堆肥化反応器内温度変化の比較

水熱分解を行った場合と行わない場合の堆肥化工程のCO2発生量の比較グラフ図4 水熱分解を行った場合と行わない場合の堆肥化工程のCO2発生量の比較

さらに、竹に対して水熱分解を行うことで、堆肥化過程でのアンモニアの生成にどのような影響があるのかを調べました[3]。この研究では、内容積500mLのオートクレーブ装置を用いて、竹を水熱分解処理し(反応温度:180℃、反応圧力:1.0MPa、反応時間:30分)、図5に示す、小規模な堆肥化実験装置を用いて、窒素含有量が多いくずに、水熱分解を行った竹を混合させた場合(Treated)と水熱分解を行わない竹を混合させた場合(Control)について、堆肥化の過程でのメタン発生量を比較しました。

小型堆肥化実験装置図5 小型堆肥化実験装置

堆肥化の過程でのアンモニア発生量の変化図6 堆肥化の過程でのアンモニア発生量の変化

この図から、葛に、水熱分解を行った竹を加えることによって、水熱分解を行わない竹を加えた場合に比べて、大幅にメタン発生量が減少していることがわかります。その理由は、竹の水熱分解によって、糖類が生成され、それによって微生物の活動が活発化して、堆肥化過程で、有機性窒素の無機性窒素への固定化が促進され、アンモニアの発生が抑制され、より窒素含有量の高い堆肥が製造されたためと考えられます。 

以上より、水熱分解処理は、堆肥化が困難な有機性残渣の堆肥化を促進し、同時に堆肥化の過程でのアンモニア発生を抑制し、良質な堆肥の製造を可能とすることがわかります。 

水熱分解廃液の液肥としての活用 

水熱分解処理に伴って発生する廃液の処理は、水熱分解技術の普及の大きな障害となっています。特に、第1話の図9に示すように、汚泥や畜糞など、高含水率の原料を水熱分解処理した場合、生成物の固液分離の過程で、通常の水処理技術では処理が困難なBODやCODの値が極めて高い脱離液が生成されます。そこで、筆者の研究室では、下水汚泥から生成されるこうした脱離液の液肥として利用可能性を研究しました[4]。

この研究では、内容積500mLのオートクレーブ装置を用いて、下水汚泥を水熱分解処理し(反応温度:180℃~220℃、反応圧力:1.0~2.3MPa、反応時間:60分)、生成物の固液分離を遠心分離機で行い、固液分離後に得られた脱離液で、小松菜の栽培試験を実施しました。脱離液の主要な栄養素は窒素であり、その半分以上が有機性窒素であることから、液肥としての利用が可能ではないかと考えました。栽培試験では、各ポットに400gの土を入れ、窒素、燐、カリウムがそれぞれ100mgずつ配合されるように、一般に使用されている化学肥料(硫酸アンモニウム、過燐酸石灰及び塩化カリウム)と脱離液を混ぜて施肥しました。

化学肥料のみの場合を”Control”、25mg分の窒素を脱離液から供給し、残りの75mg分の窒素を硫酸アンモニウムで供給した場合を”1time”、50mg分の窒素を脱離液から供給し、残りの50mg分の窒素を硫酸アンモニウムで供給した場合を”2times”、100mg分の窒素全量を脱離液で供給した場合を”4times”と名付けました。各ポットには、20粒の種を撒き、50日間、25±3℃の温度に保持して、栽培を行いました。

栽培試験の様子を示す写真を図7に、各水熱反応温度で得られた脱離液を用いた場合の茎の長さと葉幅の結果を表1と2にそれぞれ示します。また、ポットあたりの小松菜の収量を図8に示します。 

小松菜栽培試験の様子小松菜の栽培試験の様子表1 茎の長さの比較葉幅の比較表表2 葉幅の比較

収量の比較グラフ図8 収量の比較

表1、2から、各ケースとも茎の長さや葉幅にはほとんど差異がなく、図8から、各水熱反応温度で生成されたどの脱離液ついても、2timesの場合がcontrolとほぼ同じ収量が得られていることがわかります。以上より、下水汚泥の水熱分解処理によって得られた脱離液が液肥として、化学肥料に代替しうることが示されました。

水熱分解凝縮廃水の処理

水熱分解反応終了後、反応器から水蒸気を抜き出し、減圧しますが、その抜き出された水蒸気は冷却され、凝縮水となります。上記の脱離液は、高含水のバイオマスの水熱分解時にのみに発生する廃液ですが、この凝縮水は、水熱分解処理に伴って必ず発生する廃水であり、第1話の図2のプロセス図に示したように、この廃水は浄化した後に、ボイラー給水として再利用できることが望まれます。

しかし、このニーズに合う妥当なコストで設置可能な廃水処理技術がなかなかなく、それが、水熱分解技術の普及を阻害する大きな要因の一つとなっていました。しかし、筆者は最近、この問題を解決してくれるECOクリーンLFPと呼ばれる面白い廃水処理技術を知りました。そこで、この技術の開発企業である株式会社流機エンジニアリングの山内仁氏(アジア・アフリカ環境ソリューション室長)から頂戴した原稿を基に、本技術を紹介したいと思います。 

活性炭は粒子サイズが小さいほど比表面積が大きくなり、また、粒子内拡散距離が短くなることから、吸着速度や吸着量が向上することが知られています[5]。しかし従来の水処理では、粉末活性炭の飛散、水との分離、沈殿活性炭の後処理または再生などに問題が多く、下水や産業排水のように連続処理を必要とする場合には粉末活性炭に代わり、粒状活性炭による処理法が主流になってきました[6]。ECOクリーンLFPは、この粉末活性炭の取り扱いの煩雑さを解決しました。 

この技術では、「フィルター表面に粉末活性炭を展着」させます(図9)。まず、使用するフィルターですが、プリーツフィルターと呼ばれ、山折りした襞が放射状に開いた円筒型の成形フィルターで、ベッセル内に格納されています。標準フィルターの面積は1本あたり40~50㎡、大きさはφ400×1,200mmです。フィルター膜のろ過精度は0.15μm×99.95%となっています。

フィルター1本あたりの水処理量は5〜15㎥/時間で、処理量を増やす場合にはフィルターおよびこれを格納するベッセルを増やすことで実現できます。「活性炭を添着する」とは、フィルター(図9では平膜、実機では円筒状のプリーツフィルターを使用)に粉末活性炭の厚さ1mm程度の膜(粉末活性炭添着層)を貼るイメージです。活性炭の添着層で水をろ過することにより、溶存物質が活性炭に接触し、吸着除去されます。ろ過する際の原水が添着層を通過する時間は5~25秒程度です。薄い添着層であるにもかかわらず、ろ過水はゆっくりと添着層内を通過します(図10)

フィルター単体と粉末活性炭を添着したフィルター図9 フィルター単体(左)と粉末活性炭(黒)を添着したフィルター(右)

LFP法でのプリーツフィルターと粉末活性炭添着層図10 LFP法でのプリーツフィルターと粉末活性炭添着層

活性炭が細粒化すると活性炭の体積あたりの表面積が広くなります。一般的な直径5mmの粒状活性炭に比べ、LFP法で使用されている直径12μmの粉末活性炭では、単位体積あたりの表面積はおよそ500倍になります。また、粉末であることで空間中に存在する活性炭粒子の密度は高く、粒子と粒子の間隙が狭くなります。 

活性炭は吸着を続けると徐々に吸着能力は低下します。吸着能力が一定水準まで下がったときには、適度な力を加えると粉体は液体や気体のように流動、分散、添着するといった性質を利用して、フィルター表面の機能性粉体の入れ替えを行います。図11には、実際の装置を示します。ECOクリーンLFPの主な装置構成はプリーツフィルターと同フィルターを格納するベッセルで、その運転は、前処理(多少の凝集や殺菌)→ECOクリーンLFP→後処理(脱水など)が自動で行われます。 

ECOクリーンLFP本体のプリーツフィルターとベッセル、ろ過・浄化の仕組み図11 ECOクリーンLFPの本体のプリーツフィルターとベッセル、ろ過・浄化の仕組み 

【前処理】 

1.対象原水に浮遊物質やコロイド成分がある場合には、フィルターに目詰まりを起こさないよう、少量の凝集剤添加やオゾンマイクロバブル処理などを行います。また、長期運転を行う場合にはバイオファウリング(フィルターに微生物が繁茂して、目詰まりさせる現象)によるフィルターの目詰まりを防止するために、次亜塩素酸ナトリウムなどで原水の殺菌を行います。

【ECOクリーンLFPによる処理】 

2.予め調製した粉末活性炭懸濁液をプリーツフィルターでろ過し、粉末活性炭をフィルター表面に添着させて、粉末活性炭の薄層をフィルター表面に形成します(以下、添着層と呼びます)。活性炭量は標準300g/㎡〜700g/㎡で、添着層の厚さは約0.6㎜〜1.4mmになります。 

3.原水を添着層でろ過して汚染物質を吸着除去します。ろ過する際の透過流束(Flux)は標準100〜400LMH(L/㎡/h)です。活性炭量が300g/㎡、Fluxが200LMHの場合で、ろ過水が添着層を通過する時間は約10秒です。 

4.粉末活性炭は汚濁物質を吸着するにつれ、その吸着能力は低下します。活性炭が十分な吸着能力を喪失した状態を「破過」といいます。この破過のタイミングは、事前に活性炭の対象物質吸着容量を知った上で、処理水の濃度や処理量により把握します。 

5.活性炭が破過するタイミングで、自動で活性炭の入れ替えを行います。圧力水を添着層へ噴射することにより、フィルター表面から使用済み粉末活性炭を洗浄剥離・排出します。次に、再び新たな粉末活性炭をフィルター表面に添着させて添着層をフィルター表面に形成します。 

【後処理】 

6.使用済み活性炭は脱水し容器に封入して、産業廃棄物として処分または肥料などとして有効利用されます。 

最後に、第1話で紹介した、医療廃棄物の水熱分解処理を行っている株式会社輝陽の工場で採取した水熱分解凝縮水の処理実験を行った結果をご報告します。水処理の手順は以下のとおりで行いました。 

  1. 凝集沈殿:PAC200ppm添加、コロイド物質および浮遊物質の凝集 
  2. オゾンマイクロバブル処理:O3 9g/h 15分バブリング、有機物の酸化分解 
  3. ECOクリーンろ過(LFPの膜だけでろ過):①での凝集物をろ過で除去 
  4. LFP法(粉末活性炭量500g/m2)

処理の結果を図12に示します。褐灰色・非常に強く感じる臭気であった原水が、無色透明・弱い臭気まで浄化されています。FI値(原水が膜の目詰まりにどの程度影響するかを示す数値)は1.07と大幅に改善されました。以上のプロセスを装置化した場合のフロー図を図13に示します。凝縮水をボイラー給水として再利用するためには、ECOクリーンLFP装置の後段にRO膜を設置する必要があります。 

原水と処理水図12 原水と処理水(原水→凝集沈殿+オゾンマイクロバブル処理→LFPの膜だけでのろ過→LFP法処理の順に、水の色調が無色透明化) 

装置化する場合の水処理フロー図13 装置化する場合の水処理フロー 

おわりに

これまで、廃棄物処理の主流となっている焼却処理に代わりうる、廃棄物の資源化が可能な水熱分解技術を3回に分けて紹介してきました。筆者の研究室では、この研究テーマで20名近い博士号取得者を輩出しています。その結果、水熱分解技術の応用の可能性が広がり、実用化する上での主要な技術的な課題は解決の道が開かれたと考えております。現在、筆者は、多くの企業の協力を得て、この技術の様々な分野での事業展開を推進しております。そうした事業化の成功例をまた皆様にご紹介できる日が来ることを楽しみにしております。

吉川教授の最終講義_集合写真多くの卒業生が集まった筆者の最終講義 

水熱分解処理試験前の廃棄物の性状分析の様子水熱分解処理試験前の廃棄物の性状分析の様子(企業との共同研究) 


【出典】

[2] Bakhtiyor Nakhshiniev, Muhammad Kunta Biddinika, Hazel Bantolino Gonzales, Hiroaki Sumida and Kunio Yoshikawa, Evaluation of hydrothermal treatment in enhancing rice straw compost stability and maturity, Bioresource Technology, 2014, 151, 306-313 

[3] Bakhtiyor Nakhshiniev, Chamila Perera, Muhammad Kunta Biddinika, Hazel Bantolino Gonzales, Hiroaki Sumida, Kunio Yoshikawa, Reducing ammonia volatilization during composting of organic waste through addition of hydrothermally treated lignocellulose, International Biodeterioration & Biodegradation, 2014, 96, 58-62 

[4] Xiao Han Sun, Hiroaki Sumida and Kunio Yoshikawa, Effects of Liquid Fertilizer Produced from Sewage Sludge by the Hydrothermal Process on the Growth of Komatsuna, British Journal of Environment & Climate Change, 2014, 4, 261-278 

[5] 安藤直哉・松井佳彦・松下拓・大野浩一・佐々木洋志・中野優、活性炭の超微粉化が活性炭吸着に与える効果、環境工学研究論文集、2008、第45巻、309-315

[6] 浦野紘平、活性炭による排水処理、有機合成科学、1975、第33巻第5号、333-341 

吉川 邦夫 | Kunio Yoshikawa
東京工業大学 名誉教授
吉川 邦夫 | Kunio Yoshikawa

東京都出身。東京工業大学の助手・助教授・教授を経て現在は名誉教授・研究員。主たる研究分野は、エネルギー変換、廃棄物管理、環境工学。原著論文250編、博士課程修了生57名。米国航空宇宙学会、米国機械学会、日本機械学会等より多くの受賞歴有り。趣味はテニスと合唱。

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