2023.11.14
成功の循環モデルとは?ダニエル・キムの理論を組織作りに活かす方法 0

目次
組織が持続的に成長していくうえで、組織内のメンバー間の良好な人間関係は欠かせない要素のひとつです。しかしながら「良好な人間関係」は幅広く解釈することができるため、具体的にどのような組織づくりを目指せばよいのか判断に迷うケースも少なくありません。
今回は、組織が優れた成果を上げるために必要とされるポイントと、その関係性を示した「成功の循環モデル」について解説します。成功の循環モデルが注目されている背景や、この理論を組織作りに活かすメリット、人間関係構築のベースとなる「心理的安全性」についても触れていますので、ぜひ参考にしてみてください。
成功の循環モデルとは
はじめに「成功の循環モデル」の概要を紹介します。このフレームワークを理解する上で重要なポイントとなる、人間関係における「4つの質」とともに見ていきましょう。
ダニエル・キム氏が提唱したフレームワーク
成功の循環モデルとは、MIT(マサチューセッツ工科大学)組織学習センターの共同創始者であるダニエル・キム氏が提唱したフレームワークです。「組織が優れた成果を上げ続けるには、組織を構成するメンバー間の『関係性の質』を高める必要がある」という考え方に根差しています。
メンバーがお互いを尊重し合っている組織では、前向きなアイデアや気づきが生まれやすくなります。その結果、一人ひとりが自ら考え行動するようになり、高い成果をもたらしやすくなるというのが「成功の循環モデル」の基本的な考え方です。
組織の人間関係における「4つの質」
成功の循環モデルでは、組織内の人間関係を「4つの質」に分類しています。
関係の質 | メンバーが相互に交流し、信頼関係を気付いているか |
思考の質 | メンバーの考え方や意識が前向きなものになっているか |
行動の質 | メンバーが自発的かつ効果的に行動しているか |
結果の質 | 組織として目指す成果を着実に上げているか |
それぞれの「質」は独立しているわけではなく、相互に影響を与え合っています。そのため、優れた成果を持続的に上げていくには、「良い循環を醸成すること」が重要なポイントとなります。
組織における「良い循環」と「悪い循環」
前述の「4つの質」は、どの要素を起点とするかによって「良い循環」にも「悪い循環」にもなり得ます。組織における良い循環と悪い循環について見ていきましょう。
良い循環(グッドサイクル)
良い循環(グッドサイクル)とは、メンバーの「関係の質」を起点とするサイクルのことです。
メンバー間の関係性が良好に保たれている組織においては、前向きな考えや気づき、良いアイデアが生まれやすくなります。これにより、一人ひとりが自発的に行動したり、協力し合ったりする組織風土が形成されていきます。
その結果、組織全体で優れた成果を上げられたと実感したメンバーは、さらにお互いへの信頼関係を深めていくという好ましいサイクルが実現できている状態です。
悪い循環(バッドサイクル)
悪い循環(バッドサイクル)とは、目先の結果を追い求めることを起点とするサイクルのことです。
目前の成果を重視することで短期的には結果につながる場合もあるものの、求められる結果を出そうとするあまりメンバーが追い込まれたり、疲弊したりする原因になるケースも少なくありません。一人ひとりが自ら考えることをやめ、思考が受け身になることで行動の質も低下しがちです。その結果、肝心な成果も出にくくなるという悪循環に陥ってしまいかねません。
優れた成果を持続的に上げ続けていくには、遠回りをするようでも「関係の質」の向上を第一に考えることが重要です。
成功の循環モデルが注目されている背景
成功の循環モデルが注目されるようになった背景として、次の 2つの要素が挙げられます。
- 組織のウェルビーイングへの関心が高まりつつあること
- 高い成果とコンプライアンスを両立させる必要があること
それぞれ詳しく見ていきましょう。
組織のウェルビーイングへの関心の高まり
ウェルビーイング(well-being)とは、「人が肉体的、精神的、社会的に満たされている状態」のことを指します。1946年の世界保健機関(WHO)設立時に、世界保健機関憲章前文にて提唱されました。
組織においても、ウェルビーイングを重要視する動きが加速しています。ハーバード大学の研究では、「人々の幸福度や健康を高める重要な要素の1つは“良好な人間関係”にある」と結論づけられました。また、イリノイ大学の心理学研究では、「幸福度の高い社員はそうでない社員と比べて、創造性は3倍高く、生産性は31%、売上は 37%高い傾向にある」と、幸福感と組織でのパフォーマンスの関連性が報告されています。
一人ひとりが自分らしく健やかに働き、メンバー同士の人間関係も良好な職場は、実力を発揮しやすい環境といえるでしょう。組織が持続的に成果を上げるためにも、ウェルビーイングの実現は重要な要素のひとつとなっているのです。
多様性を可視化することで組織のウェルビーイング向上を図る方法についてはこちらの記事をご覧ください。
高い成果とコンプライアンスの両立
近年では、企業には高い倫理観が求められるようになってきています。特にその傾向が顕著に表れているのがコンプライアンスの徹底です。企業には法令遵守をはじめ、企業倫理や社会規範に則って事業を推進していくことが求められています。高い成果とコンプライアンスを両立させていくには、良好な人間関係と強固な信頼関係が欠かせません。
例えば、チームにおいて各営業担当者に目標が示されているケースを考えてみましょう。この目標が必達ノルマとなっており、理由や経緯を問わず未達は許されない空気がチーム内に漂っていた場合、担当者が精神的に追い込まれる原因となりがちです。結果として顧客の利益を度外視して強引に営業活動を進めたり、不正な手段を講じて契約を取り付けたりする行為に走ることにもなりかねません。仮に短期的な成果に結び付いたとしても、長期にわたって安定した成果を出し続けるのは困難でしょう。
成功の循環モデルを取り入れるメリット
成功の循環モデルを取り入れることによって、組織にどのようなメリットがもたらされるのでしょうか。主な4つのメリットについて解説します。
組織の現状を客観視しやすくなる
1つめのメリットは、組織の現状をより客観視しやすくなることです。前に挙げた「4つの質」に当てはめて自社の状況を捉え、良い循環がもたらされているか分析することで、自社の状態を第三者の視点から分析することが可能になります。どの「質」が課題となっているのかが明確になれば、講じるべき対策を検討しやすくなるでしょう。
こうした分析結果を組織内で共有することによって、目指すべき組織像に向けて各メンバーが心がけるべき思考や行動も明らかになります。組織のあるべき姿の実現に向けてトップダウンで方針を示すだけでなく、現場レベルで望ましい思考や行動を根付かせていくことにつながります。
社内コミュニケーションが活性化する
社内コミュニケーションの活性化につながることもメリットのひとつです。メンバー間の相互理解や相互尊重が促されることにより、健全なコミュニケーションが自ずと生まれやすくなります。良質なコミュニケーションの積み重ねが成果につながることを実感したメンバーは、さらに相互の理解・尊重に努めるという好循環がもたらされるでしょう。
この点は、上長と部下の関係性においても同様です。成果次第で上長から叱責されたり、排除されたりする不安が払拭されることにより、部下が追い込まれて成果を上げにくくなるリスクが軽減されます。コミュニケーションの活性化が信頼関係の強化をもたらし、さらにコミュニケーションの質が高まっていく好循環を生み出せるのは、組織にとって大きなメリットです。
社内コミュニケーションと商品・サービス品質の関係性については、こちらの記事をご覧ください。
コミュニケーションの質がサービス品質を左右する!? 事例も紹介
従業員エンゲージメントが向上する
成功の循環モデルを具現化することは、従業員エンゲージメントの向上にも寄与します。「関係の質→思考の質→行動の質→結果の質」の良い循環がもたらされることで、従業員にとって自分らしく健やかに働ける職場環境が体現されていくからです。これにより、現状よりもさらに高い成果を望めるチーム/組織であることを従業員一人ひとりが実感するようになるでしょう。
また、現在の組織に所属していることが自己成長につながっていると感じられれば、組織を離れたいと考える従業員は少なくなり、離職の抑制にもつながります。
自走する組織を築くための素地となる
成功の循環モデルは、いわゆる「自走する組織」を実現するための素地にもなり得ます。「関係の質」はメンバー間の信頼関係に根差しているため、一人ひとりが失敗を恐れることなく発言・行動しやすい組織づくりにつながるからです。未知の状況や急激な変化に直面した際にも、一人ひとりが自律的に思考・行動できる組織が形成されていくでしょう。
昨今はVUCA時代とも呼ばれるように、将来の予測が困難な状況になりつつあります。自走できる組織を構築していくことは、事業環境のめまぐるしい変転に対応していく上で不可欠な要素です。変化に対応できる組織を築けることも、成功の循環モデルを取り入れるメリットのひとつといえます。
「関係の質」に影響する「心理的安全性」
ここまでに見てきたとおり、成功の循環モデルを体現するには「関係の質」を起点としたグッドサイクルを目指すのがポイントです。では、関係の質を高めるにはどのような点に留意すればよいのでしょうか。関係の質に大きく影響する「心理的安全性」について解説します。
心理的安全性とは
心理的安全性とは、「組織のなかで自分の意見や考えを発言してもとがめられず、安心して自分をさらけ出せる状態」のことをいいます。1999年にハーバード大学教授のエイミー・C・エドモンドソン氏によって提唱された概念です。
心理的安全性のレベルは高い・低いという言葉で表されることがあります。「心理的安全性が高い状態」は、いわば、成功循環モデルにおけるグッドサイクルです。自分が発言してもその内容について非難されない環境 であれば、安心してメンバー同士が意見を交換し情報を共有し合えるからです。メンバー同士のコミュニケーションが活発になれば、組織の知識やノウハウが増えていくだけでなく、ミスが生じた場合も改善策を建設的に話し合えるでしょう。
心理的安全性を高めるには
心理的安全性を高めるための方策として、次の3つが挙げられます。
コミュニケーション機会の確保
メンバー間の良質なコミュニケーションを促すには、相互の接点を意識的に増やす工夫が求められます。たとえば、ピアボーナスやサンクスカードなどの仕組みを取り入れ、お互いに感謝や尊重の念を伝え合ったり、インセンティブを送り合ったりする制度を導入するのも、コミュニケーション機会を創出するための1つの方法です。
思いやりを重視する組織文化の醸成
お互いに感謝し合い、助け合う風土を醸成していくことも重要なポイントです。企業としての理念や方針に思いやりを重視する文言を取り入れるほか、相互扶助によって優れた成果を上げたメンバーが高く評価される評価制度を導入することで、思いやりを重視する組織文化が形成されていくでしょう。
ピアボーナス制度については、こちらの記事をご覧ください。
組織のレコグニション文化を育むピアボーナス制度とは?事例・ツールとあわせて紹介
管理職やリーダークラスを対象とした定期的な研修の実施
メンバーにとっての心理的安全性は、直属の上長や責任者によって左右されるケースが少なくありません。部下との良質な関係性を築く管理職やリーダーを育成するには、定期的な研修の実施をおすすめします。管理職やリーダークラスが自身の部署・チームの状況を定期的に振り返るとともに、課題抽出と改善策の考案・実行を促す機会を設けることが大切です。
まとめ
組織の成功のためには、持続的に成長できる基盤づくりが重要といえます。そのためには、「関係の質」を起点としたグッドサイクルを生み出し、心理的安全性の高い状況を整えることが効果的です。その一方で、「関係の質」は一朝一夕に改善するものではないため、地道な取り組みを継続していく必要があるでしょう。
今回紹介した取り組みの中でも、ピアボーナス制度は心理的安全性の向上に寄与する有効な施策といえます。ピアボーナスの導入に役立つツールを活用して、関係の質向上を実現するための第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
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