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【日本・南アの共同研究開発】グリーンアンモニア製造: 地理学的特性と技術のベストマッチによるCO2排出ゼロへ向けて

カーボンニュートラル 事例 再生可能エネルギー
目次

化石燃料を再生可能エネルギーに転換し脱炭素化を進める動きが世界的に加速している中、燃焼の過程でCO2を排出しない水素やアンモニアは、化石燃料に代わる次世代燃料として注目されています。そこで今回は、東京工業大学の秋鹿研一 名誉教授に、日本と南アフリカによって共同研究が進められている「ナミブ砂漠でのグリーンアンモニア製造」についてご紹介いただきました。

はしがき

この数十年、地球の平均気温が毎年わずかながら増加し、ここ数年世界各地で豪雨、山火事増加など異常気象が顕著になっています。その最大の原因が化石資源の燃焼、CO2増加によることは、気象データの解析など科学的データの理解が進み、ほとんどの人が疑問を持たない状況にあります。一方、私たちにとって、気象物理学者による「地球の気温を10万年周期での地球公転軌道変動(楕円離心率変動)が支配」がどの程度であるのかは分かりにくいのが現状です。「短期間に温暖化しても、長期的には寒冷化へ向かってゆく」という意見も影響力を持っています。著者はこの原稿の準備中に、この考えを捨てるべきこと、CO2増加が取り返しのつかない事態を引き起こすことも学んだので、はじめにそのことを簡単に紹介します。

CO2と氷期-間氷期サイクル図1 人為起源CO2濃度と氷期-間氷期サイクル:過去データと未来予測、Archerらの論文(1)図3の1部を抽出して作図
Archerらは複数の要因を総合した気温の長期変化シミュレーションを行っています(1)(図1)。これによると、現在進んでいるCO2増加が現在のレベル(400ppm)で止まれば、数万年後から徐々に氷河期へ戻ってゆくが、一旦1,000ppmを超えると、数十年わずかな低下を続けるのみでCO2濃度は数十万年たっても低下せず、気温も高いまま、氷河期に至ることがないと計算しています(図1)。現在進んでいるCO2増加は数十万年スケールで取り返しのつかない引き金となっていると考えられます。もはや待ったなしの温暖化対策をあらゆる努力で進めなければいけないことを改めて実感しました。

日本と南アの再エネ環境の特徴と国の施策

日本、南アフリカ共和国(以下、南ア)とも1次エネルギーの大半を化石資源に頼り、発電燃料、移動体燃料、産業燃料に利用してきましたが、世界的な脱炭素の動きに呼応して、電力をソーラー、風力などの再エネから得る施策を進めています。特に日本では、ソーラー、風力の適地が少ないこと、時間変動が大きく需要に対応できないこと、高価であることなどの理由で再エネ電力は十分には伸展できていません。水素に変換して貯蔵し、燃料電池(自動車)などで利用することも展望されていますが、安価なグリーン水素を供給するまでには至っていないのです。

このような状況下、水素の化学的貯蔵形態の1つであるアンモニアの利用技術が開発されてきました。アンモニアは水素に比して貯蔵エネルギー密度がはるかに高く、運搬も容易であり、すでに各国で流通のインフラが整備されています。余計なNOx(窒素、酸素出口濃度から計算される平衡濃度以上の窒素酸化物)を排出せず石炭火力に混焼できること、船舶の燃料となることなど、(水素に分解することなく)水素の代替として利用できることが明らかとなってきました[2]

南アの水素ロードマップからの抜粋図2 南ア政府の水素ロードマップ(3)の76頁:大西洋に近いNORTHERN Cape州(北ケープ州)でグリーン水素、グリーンアンモニア製造の構想が見えます

日本政府(後に南ア政府も)はエネルギーロードマップを改定し、水素利用の項にアンモニア利用を加えました。製造の過程で生産されるCO2を埋め戻したブルーアンモニアをサウジアラビア、UAEから輸入し始めており、オーストラリア、米国からの輸入も実現に向けて動き出しています。これらは天然ガス産出国でもあり、ブルーアンモニアは現行ビジネスの延長ですが、CCS(Carbon dioxide Capture and Storage:二酸化炭素回収・貯留)適地には容量限界があるでしょう。最終的にはグリーンアンモニア(グリーン水素)に代わるべきで、徐々に価格の低下も進んでいます。太陽エネルギーに終わりはありません。南アの水素ロードマップ[3]の1部を図2に示します。

水素サミットでのスナップ図3 南ア・ケープタウンでの水素サミット(2023.11.28):ラマポーザ大統領とグリーンアンモニアについて会話、写真、JICA南ア事務所提供

2022年11月29、30日に南ア・ケープタウンで水素サミットが開催され、アフリカ各国と共に欧州、日本など多数の国が参加しました(図3)。隣国ナミビア共和国(以下、ナミビア)と共有するナミブ砂漠一帯の水素回廊開発が主テーマでした。大統領は水素回廊を所有する北ケープ州と協力協定を結び、グリーン水素(アンモニア)開発が自由にできる地域を紹介し、各国への投資を呼び掛けました。北ケープ州行政府のパンフレットによると、ナミビア国境付近の海沿い、太陽光に恵まれた3,000km2がNCEDA(Northern Cape Economic Development, Trade and Investment Promotion Agency)を通して利用可能とあります[4]。図4、写真は候補地、サイトビジットの様子です。

サイトビジットの様子図4 砂漠は海際まで続いており、海沿いに再エネ産業施設、港湾の建設を計画しています。写真、著者提供 

本稿では南アとの共同研究SATREPS*の一環として、この3,000km2(図8の緑枠を仮定、特定されていない)を利用してグリーンアンモニアを生産する事を仮定して、著者の提案を示したものです。NCEDA は大手化学・エネルギー企業SASOLの協力を得て、2023年10月に開発計画のマスタープランをまとめました[4]。これまでにない踏み込んだ計画案が記載されていますが、全方位的、総括的な内容であり[4]、本稿は(現在のところ)これとは独立した最終製品を全てアンモニアとする試案です。3,000㎞2は一辺55kmの正方形、鳥取県(3,507km2)より狭く、東京都(2,187km2)の1.37倍あります。この枠内でソーラーと風力から再エネ発電を行い、熱貯蔵で電力を平準化してグリーン水素/アンモニアを製造するケーススタディを試みてみました。
*Science and Technology Research Partnership for Sustainable Development:国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)がそれぞれ独立行政法人国際協力機構(JICA)と連携して、地球規模課題の解決に向けた日本と開発途上国の国際共同研究を推進するプログラム

グリーンアンモニア製造に向けた1km2ユニットモデル

1㎞平米ユニットモデル図5 1km2ユニットモデル: 1日当たりのアンモニアの平均製造量です。年11ヶ月稼働なので年平均値はこの値を11/12倍した値になります。MWは稼働時の最大電力(瞬間値)を示します

対象の土地は海に近い平坦な砂漠であり、その1km2でどの程度の電力が得られるか図5を参照しながら試算してみます。Global Solar Atlas [5]によると、北ケープ州(あるスポット)での1m2当たり太陽光(光軸垂直受光)エネルギーの年間積算量平均 DNI( Direct Normal Irradiance:直達日射量)は世界最高レベルで、3,164 kWh/m2/year(東京の2.4倍)と示されます。一方、その土地の面積に対する太陽光エネルギー積算値はGHI(Global Horizontal Irradiation:全天日射量) が基準とされ、北ケープ州では2,341 kWh/m2/year(東京の2倍以下)とされています[5]。これは1km2当たり年間8.4PJ(PJ(ペタジュール)はエネルギーの単位で、J(ジュール)の1,000兆倍)に相当します。この区画の80%にソーラーパネルを敷き詰め、その電力変換効率を23%(直交変換効率なども込みとする)と仮定すると、電力獲得量は1.55PJ/km2/yです。電力W単位に直すと49.2MWですが、この値は平均値であり、実際は昼間にピークがあり、夜間はゼロの山谷曲線を持ちます(図6)。

電力系統併用モデル図6 ソーラー電力の5/7を蓄熱し、夜間に電力へ40%戻し平準化する仕組み。電力の24時間変化とそのエネルギー変換。横軸は時間、縦軸はエネルギー(W)

この電力をほぼそのまま(昼間のみ)使って水素製造、アンモニア合成を行うと装置サイズが2倍以上の条件で、装置のスタートとストップを繰り返す事になり、経済的にも技術的にも難しい問題となります。そこで、ある程度のエネルギー(安さが特徴)を無駄にしながら電力の平準化を試み、24時間ノンストップ運転の可能性を探ってみました。昼のソーラー電力の1部を砕石蓄熱し、夜間に熱発電し平準化するものです。(図6) 

ここで砕石蓄熱について紹介します。これまで変動する再エネの弱点を補う技術として溶融塩などの蓄熱システムを併設した熱発電が開発されてきました。一方、欧州を中心としてソーラー、風力の変動補償として経済的に優れた砕石蓄熱が提案されています[6]。その特徴は蓄電池の1/10-1/5といわれる装置価格の安さです。ここでは火成岩(容積比熱:2.43 J/K*ml)を873K以上に加熱し、その熱を蒸気タービンで電力に変え、373Kで捨てる(カルノー効率55%だが、往復変換効率40%と仮定)ケースをモデルとしてみます(図7)。蓄熱発電技術は現在、経済的競争力から、普及を始めています。

図7 昼間ソーラー電力の1部を夜間へ移動する目的の砕石蓄熱とタービン発熱システム、文献6:岡崎徹 (2017) J. JWEA, p274:図2を転用

変換効率40%であることはかなりの熱損失を伴います。昼間に得たソーラー電力の2/7 (14MW)はそのまま水素アンモニア生産に使い、5/7 (35.1MW)を蓄熱します。蓄熱タンク(横置き)の容量は上記条件から2,289m3(直径6m、長さ81m)となります。蓄熱に向かった電力の40%(ソーラーの2/7)が夜間電力に戻りますが、その際3/7 (21.5MW)は廃棄されます。このようにして電力を日単位で平準化したモデルを図6に示します。熱貯蔵、電力戻しの過程で多くを失いますが、平準化された電力の経済的価値は大きいと考えます。

図5に戻り風力を試算してみます。北ケープ州は太陽光と共に風力も安定的に得られる世界有数の場所です[7]。ここでは敷地内1km2当たり7.5本の4MW風力タワー(翼直径120m)を設置します。風下の風力タワーに乱流の影響が出ないようにタワーをこの程度離して設置すべきとされています。風況に優れるため定格の35% (4MW*0.35*7.5: 10.5 MW/km2) が平均値として得られると仮定します。風力にも(ソーラーに比べれば小さな)変動がありますが、風力の予測値10.5MW/km2はソーラーの定常値28.1MW/km2に比べ小さいので、ここでは敢えて熱貯蔵との細かな連携をせず、直接利用に加えます(図6参照)。

北ケープ州3000km2での安定電力によるグリーンアンモニア製造モデル

前項ではこの敷地を3,000等分した1㎞2単位のユニットに、分散型のステーションを考えました(図5)。そこでは面積の80%にソーラーパネルが敷き詰められ、残りのスペースに風車7.5基、蓄熱タンク1基(内容積、直径6m、長さ81m)、水素製造入力電力38.6MWを受ける大型水電解ユニット2基、日産100トン(電力23.6MW相当:変換効率66.7%目標)の水素-アンモニア製造装置が置かれるでしょう。

このモデルを10年で完成させるには、年間300ユニットの建設が必要です。ユニットは互いに連携されるので、数が増すほど電力の平準化は進むと考えられます。基本的にはグリーンアンモニア大工業地帯の電力系統は外部から独立しています。一方、現実の運転を考えると、1年のうち平均1か月は故障修理、安全点検のため装置を休止させ、残りの11か月で装置を稼働させることが常識的でしょう。

図8 南アグリーンアンモニア製造提案(左)とモロッコでのグリーンアンモニア製造計画(右)の比較

3,000ユニットが完成した時点を想定してみます(図8)。この条件で年間合計100メガトン(2,233PJ相当)のグリーンアンモニア製造がおこなわれることになります。このエネルギーは2021年日本の1次エネルギー合計の11.7%に相当し、現行アンモニア世界生産量のおよそ55%に相当します。大西洋に面したBoegoebaaiの港から10万トンタンカーが日平均2.7回、南ア東部、欧州、東アジア、日本へ船出することになるでしょう。この計画を、最近発表されたモロッコでのグリーンアンモニア製造計画と比較し図8に示しました[8]。モロッコ計画より56倍大きいこと、風力よりソーラーの寄与が大きいことなどが分かります。

グリーンアンモニア製造コスト、季節変動などの課題への対応

太陽光発電、風力発電は世界的な成長を続け、大量生産の結果、施設価格は下がり、電力価格も下がってきていますが、再エネ獲得の条件に地域差が大きいこと、変動が大きく需要と供給がマッチしないことなど課題も多くあります。

グリーンアンモニア製造時のエネルギー当たり価格を次式: 

 グリーンアンモニア価格=(投入電力費/効率)+(設備費/寿命) 

で表してみます。

ここでは電力変動を平準化する事により、投入電力費は高くなる(ここでは約1.5倍)でしょうが、連続運転による製造効率の向上がこれをかなり打ち消すでしょう。また、設備費は半額程度(水素/アンモニア製造設備0.36倍+熱貯蔵設備)になり、総体として著しく安価になると考えています。 

この原稿に手を入れている時、2023年10月、UAEのギガソーラーの売電価格(昼)がこれまでの最安値1.35セント(2円)/kWhで落札されました。この昼価格を昼夜フラット電力に変換するとエネルギー価格では1.5倍だが、蓄熱装置など勘案して4円/kWhのフラット電力が(おそらく南アでも)可能でしょう。高価な水電解PEM施設を勘案しても、グリーン水素は6.9円/kWh、グリーンアンモニアは9.0円/kWh(56250円/t)程度で製造できるでしょう。この値段はよく耳にするブラウンアンモニア国際価格(400ドル/t)に匹敵します。グリーンアンモニアが現実味を帯びてきました。ただし、この提案は出発点であり、専門家によるさらなる検討がなされると考えます。

これまでの記述では日変動への対応技術を示し、系統電源とは独立にこれらの施設が一定条件で年11ヶ月生産することを提案しました。しかし、南アにおいても1~1.2倍程度の弱い日照季節変動(日本では1~2倍)があると言われます[5]。その場合には分散型施設の1部(老朽部品交代が必要なサイトなど)を数か月止めるなどの統合的な運営も必要でしょう。また、海水淡水化、系統電力など関連インフラや関連企業についても別途計画されると想定されるので、現実的にはこれらの系統との融合もあると思いますが、ここでは触れません。

エネルギーの視点から見た水素/アンモニア製造技術

まず、グリーンアンモニア製造の概略をエネルギー的見地から概説します[2] 。窒素と水からアンモニア、NH3、1モル製造に必要なエンタルピーは382.6kJ (22.5GJ/t-NH3)ですが、電気エネルギー1.32Vが熱に変わった値に対応します。前項でアンモニア合成エネルギー効率66.7%を目標値としましたが、これは電気エネルギー1.99Vに対応します。水電解の電気エネルギーは1.23V、熱中立の水素製造428.7kJ/1.5H2には1.48V必要です(図9、右側)。現実の水電解には過電圧(1.8V程度)が必要であり、発熱反応です。また、エネルギー不要のはずのアンモニア合成にもポンプ動力など電気的エネルギー投入が必要となるので、1.99V(効率66.7%)は適当な目標数字と言えます。

私たちはこれらの値を目標として、新しいグリーンアンモニア合成技術を用いて実証しようとしています。初期段階のベンチプラントは3kg-NH3/dとしており、上述の実ユニット(100t-NH3/d)のおよそ3万分の1であることをご承知おき下さい。

日本と南アの共同研究開発SATREPSについて

水電解システム図9 南アNWU研究施設(HySA)(左)とグリーンアンモニア製造反応のエネルギーダイアグラム(右図)、写真、NWU web-siteより

南ア文科省は再エネ水素技術を支援しています。4大学にHySA (Hydrogen South Africa)センターを設置していますがその1つNorth West University (NWU) にはHySA Infrastructureセンターがあり、Dmitri Bessarabov教授の元、燃料電池、水電解を中心とした研究が行われています(図9)。

日本側は外務省JICA,文科省JST支援の下、地球規模課題の解決にむけた国際共同開発事業「SATREPS」の枠組みで6大学の研究室がNWUと共同研究を始めました[9] 。その組織、テーマ等を図10に示します。再エネ水素製造はNWUと東大(高鍋研)、アンモニア合成触媒開発は沼津高専(稲津研)と名古屋大(永岡研)、アンモニア吸収分離材開発は千葉大(劉研)と熊本大(杉本研)、システム統合は東工大(松本研)と宇都宮大(古澤研)が担当するとともに、秋鹿(沼津高専)が全体を統括します。


図10 SATREPSグリーンアンモニア製造の研究題目と課題間の連携 


水電解の技術課題は多々ありますが、複数の方法を検討しながら対象を絞っています。陽イオン交換膜(PEM)の場合酸素電極に高価かつ、貴重なIr金属が必要とされ、この量をいかに減らすかが重要です。Nafionなどフッ素含有高分子の環境問題などもあります。触媒にニッケルなど安価な金属を用いることの出来る陰イオン交換膜や、隔膜を使ったアルカリ水分解もいくつかの課題を抱えながらも話題となっています。また、酸、アルカリが濃いと装置の腐食が問題となるので、中性に近い塩を電解液として電解する方法なども検討されています。電圧変動による電極触媒の劣化防止、短絡電流の防止なども重要な課題です。最終的には抑制された過電圧下で高電流を得られるシステムの構築、耐久性の維持を目標としています。南アNWU Besarrobov研究室では10cm角サイズのベンチプラント用電極をスタックまで自力で製造できます(図11)。

図11 左上より時計回り:D Bessarabov 研究室製作の10cmサイズ水電解装置>水電解国際会議2023南アで著者による発表>prof D Bessarabov と著者>水電解会議の様子、写真、著者提供 

合成触媒は南アで資源的に有利なルテニウム系触媒の開発を狙います[10]。本グループの担当者らの1部はSIPエネルギーキャリアプログラムにおいてグリーンアンモニア製造にも参加しました。この経験を生かして、更に発展した触媒と合成塔を設計する予定です。


図12 開発中のアンモニア合成分離装置の概念図 

一方、今回のプロジェクトで最もユニークな点は合成塔出口のアンモニア分離を深冷分離(液化)でなく吸収材により行う点[11]です(図12)。通常のアンモニア合成条件(10MPa、623-673K)下ではアンモニア収率は20-30%であるため、アンモニアを分離回収し未反応ガスを再循環します。従来技術では、再循環ガスは623Kと(液化分離の場合)230K(400Kの温度差)を往復します。新しい技術を用い、473K程度で吸収分離できれば温度差は(200K以内)半減でき、エネルギー効率を上げることができます。 

図13 アルカリ土類金属ハロゲン化物によるアンモニア吸収モデル(左)と各種材料によるアンモニア吸収平衡図(右、アンモニア圧の温度依存性) 

この吸収剤開発はアルカリ土類ハライドを中心に、著者らの研究室で劉により始まりました[12]が、現在はミネソタ大[13]、オックスフォード大など[14]が材料開発やシステム開発をリードするに至っています。この方法はグリーンアンモニア製造に適切であるとして世界的に拡がりつつあり、日本チームも新材料を開発し、捲土重来を目指しています。アンモニアを多量に吸収する材料は分子化合物であることが多く、吸収により形態が変化することが課題です。材料の種類により吸収温度依存性が異なります(図13)。より高温で多量のアンモニア吸収が高い速度で行われ、高性能状態を長く保つべく形態変化の少ない材料の開発が展望されています[12]

図14 日本側研究チームの反応、同定装置などと参加研究者、写真、著者提供 

図12に示した触媒反応器と吸収剤の性能は材料特性によることは当然として、温度、圧力、流速により異なります。そのデータをもとにシステムグループはアンモニア収率を変数(触媒量、吸収材量、温度、圧力、流量)で表し(関数化)パイロットプラント設計(最適化)を行います。ベンチプラントはプロジェクトとしては最終目的ですが、終了後もこのパイロットで様々なデータを取り、関連企業の協力により実用化装置設計が始まると考えています。

共同プロジェクトの課題と展望

本稿は南ア水素回廊での平準化再エネ電力獲得モデルを前半に、それに基づいた再エネ水素、アンモニア製造をエネルギー的見地から後半で考察しました。この組み合わせは、おそらく、世界で最も経済競争力のあるグリーンアンモニア多量製造に繋がると考えます。日本では再エネ密度の低さ、メガソーラーの場所さえない[15]ことから産業立地は不適切です。北ケープ州の提案する地区3000km2だけで、世界のアンモニアの55%をグリーン化する、あるいは日本の1次エネルギーの11.7%をグリーン化できる可能性があります。この壮大な計画は1km2サイズ(日産100t-NH3)の小型サイトの集合であり、順次、技術を確かめ、改良しながら進めることができます。壮大な計画には多数の企業の協力が必要です。SATREPSの成果はその引き金となるでしょう。この技術は南アに特化したものとして出発しますが、実績を踏まえて世界の脱炭素エネルギー革命に役立つことを信じています。


文献

[1] Archer D, Ganopolski A (2005) A mobile trigger: Fossil fuel CO2 and the onset of the next glaciation, Geochemistry Geophysics Geosystems 6(5) 1-7; Omori S, Hosoda S (2021) Dynamic Earth, The Open University of Japan 139-147

[2] Aika K (2022) Brief review of the Japanese Energy Carrier Program and an energy science view of fuel ammonia, in CO2 free ammonia as an energy carrier - Japan's insights, Aika K, Kobayashi H eds., Springer 3-16; Aika K (2016) “Expecting LCA Data of “Energy Carrier”: CO2 free Hydrogen and ammonia as examples” J. LCA Japan, 12 (3) 1. 

[3] https://mric.jogmec.go.jp/news_flash/20220225/166267 >87345_south_african_hydrogen_society_roadmapv1.pdf > p.76 (read on Dec 30, 2023)

[4] https://www.ncgh2.co.za > Northern Cape GH2 Strategy Masterplan; (read on Dec 30, 2023)

[5] Global Solar Atlas (https://globalsolaratlas.info/map); (read on Sep 13, 2023)

[6] https://www.siemensgamesa.com/en-int/newsroom/2019/06/190612-siemens-gamesa-inauguration-energy-system-thermal; https://tanaka-preciousmetals.com/jp/elements/news-cred-20210719/ (read on Aug 8, 2023); Okazaki T (2017) Wind heat power review, Journal of JWEA, 273; Okazaki T, Applied Physics in Green trans formation (https://www.jsap.or.jp/columns/gx/e1-9; read on Aug 8, 2023) 

[7] Global Wind Atlas (https://globalwindatlas.info/en); (read on Sep 13, 2023)

[8] Ammonia energy news, July 5th 2023

[9] https://www.jst.go.jp/global/English/kadai/r0304_southafrica.html 

[10] Sato K, Nagaoka K, et.al. (2020) Surface Dynamics for Creating Highly Active Ru Sites for Ammonia Synthesis: Accumulation of a Low-Crystalline, Oxygen-Defect Nanofraction, ACS Sus. Chem. Eng. 8 2726-2734.

[11] Aika K (2022) Importance of separation unit in green ammonia synthesis systems, in CO2 free ammonia as an energy carrier - Japan's insights, Aika K, Kobayashi H eds., Springer 287-304

[12] Liu CY, Aika K (2002) Absorption and Desorption Behavior of Ammonia with Alkali Earth Halide and Mixed Halide, Chem. Lett. (8): 798-799; Liu CY, Aika K (2004) Effect of the Cl/Br Molar Ratio of a CaCl2-CaBr2 Mixture Used as an Ammonia Storage Material, Ind. Eng. Chem. Res., 43(22): 6994-7000; Chun Yi Liu and Ken-ichi Aika (2004) Ammonia Adsorption on Alkaline Earth Halides as Ammonia Separation and Storage Procedure, Bull. Chem. Soc. Jpn., 77: 123-131

[13] Reese M, Marquart C, Malmali M, Wagner K, Buchanan E, McCormick A, Cussler E L (2016) Performance of a Small-Scale Haber Process, Ind. & Eng. Chem. Res., 55: 3742-3750; Malmali M, Reese M, McCormick A V, Cussler E L (2018) Converting Wind Energy to Ammonia at Lower Pressure, ACS Sustainable Chemistry & Engineering, 6(1): 827-834; Ojha D K, Kale M J, McCormick A V, Reese M, Malmali M, Dauenhauer P, Cussler E L (2019) Integrated Ammonia Synthesis and Separation, ACS Sustainable Chemistry & Engineering, 7: 18785-18792

[14] Smith C, Torrente-Murciano L (2021), Exceeding Single-Pass Equilibrium with Integrated Absorption Separation for Ammonia Synthesis Using Renewable Energy—Redefining the Haber-Bosch Loop, Adv. Energy Mater., 2003845, 1-12

[15] Nakajima M, Tachibana K, Honbu K (2022) How to increase Japanese Solar Power, GraSPP Working Paper Series, U Tokyo, GraSPP-DP-J-22-001

まとめ

今回の記事では、日本と南アフリカによって共同研究が進められている「ナミブ砂漠でのグリーンアンモニア製造」について、東京工業大学の秋鹿研一 名誉教授にご紹介いただきました。

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秋鹿 研一 | Kenichi Aika
東京工業大学 名誉教授
秋鹿 研一 | Kenichi Aika

東工大・尾崎研でアンモニア触媒研究を開始し、新しいルテニウム系触媒開発、作用機構解明などに従事。3年間の米国での研究を経て、帰国後はオランダ・トゥウェンテ大学との研究交流を20年以上続ける。退任後、放送大学特任教授として市民向け科学教育の重要性を知り、身の回りの機能材料を解説しながら基礎を学ぶテレビ授業に挑戦。2013年文科省ALCAエネルギーキャリアプログラムの研究統括となり、翌年同プログラムが内閣府SIPエネルギーキャリアプログラムへ発展するに伴い、研究開発責任者(副統括)を継続。この活動中、再エネ重要拠点と認めた南アと2020年より共同研究企画を始め、同時に沼津高専グリーンアンモニア研究センター長に就任(本稿参照)。現在、沼津中央高校理事長も務めながら、テニスとゴルフで健康維持に努めている。趣味は日記代わりのスマホ自撮り。

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