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カーボンニュートラル アンモニア・水素

2026.01.28

水素社会推進法とは?低炭素水素等の供給・利用促進と支援制度・海外動向まとめ    0

水素社会推進法とは?低炭素水素等の供給・利用促進と支援制度・海外動向まとめ   

目次

    経済産業省によって、通称「水素社会推進法」が 2024 年 10 月 23 日に施行され、25 年9 月から同法に基づく、価格差支援制度対象プロジェクトの採択が発表され、日本でもクリーン水素社会の実装が本格的に始まります。

    そこで今回は水素社会推進法の意味や概要、また国内でも注目の高い価格差支援制度および拠点整備支援制度について分かりやすく解説します。

    水素社会推進法 とは

    低炭素水素等の供給及び利用促進に関する法律

    水素社会推進法とは、水素を利用した社会づくりのために低炭素水素等の供給・利用を広げ、事業計画の認定や事業者の支援などを進める法律です(正式名称:脱炭素成長型経済構造への円滑な移行のための低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する法律)。

    主務大臣に対して「低炭素水素をどのように供給・利用していくか」という基本方針の策定が義務付けられており、基本方針には①低炭素水素等の供給・利用に関する意義や目標、②「GX(グリーントランスフォーメーション)」* の実現に向けて重点的に実施すべき内容、③低炭素水素等の自立的な供給に向けた取組などが定められています。(出典:経済産業省 資源エネルギー庁「 水 素 社 会 推 進 法 の 概 要 」

    *GX(グリーントランスフォーメーション)…産業革命以来の化石燃料中心の経済・社会・産業構造を、クリーンエネルギー中心に移行させることで、経済社会システム全体を変革すること(経済産業省)。

    さらに国・自治体・事業者が、供給・利用の促進において担うべき役割が、それぞれ下記のように示されています。

    低炭素水素等の供給を広げ、利用を促す責任を担う。また規制の見直しなど、必要
    な事業環境の整備や支援措置を行なう。
    自治体国の施策に協力し、低炭素水素等の供給・利用を広げる取り組みを推進する。
    事業者低炭素水素等の供給・利用の促進に繋がる設備投資等を積極的に行なう。

    このように、水素社会推進法は低炭素水素の社会実装を本格的に進めるための法律であり、成立は 2024 年 5 月 17 日、公布は 2024 年 5 月 24 日、施行は 2024 年 10 月 23 日です。(出典:経済産業省資源エネルギー庁「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行のための低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する法律(水素社会推進法)」)

    法律が定められた背景

    2050 年カーボンニュートラルの実現には、エネルギーの安定供給以外に、温室効果ガスの排出削減と経済成長の維持の両立も課題とされています。

    脱炭素化が難しい分野(産業や輸送など)においても GX が求められていますが、この中でも既存の手段では対応し難い分野に対する選択肢の1つが、「低炭素水素等」です。

    しかしクリーン水素は発展途上のエネルギーであり、石油・天然ガスなどの既存燃料と比較するとコストが高い点が課題です。事業者にとっては初期投資や運営費の負担等が足かせとなる状況を踏まえ、国は事業者が必要な支援措置や制度を円滑に活用できるよう環境整備のための仕組みを構築することにしました。(出典:経済産業省(資源エネルギー庁)「目前に迫る水素社会の実現に向けて~「水素社会推進法」が成立 (後編)クリーンな水素の利活用へ」

    活用が進められる「低炭素水素等」とは

    定義と概要

    水素社会推進法において対象とされる「低炭素水素等」とはどのようなものなのでしょうか? 
    低炭素水素等は、経済産業省(資源エネルギー庁)によって以下のように定義されています。 

    低炭素水素等とは 
    水素等*であって、 
    ①その製造に伴って排出されるCO2の量が一定の値以下  
    ②CO2の排出量の算定に関する国際的な決定に照らしてその利用が我が国のCO2の排出量の削減に寄与する等の経済産業省令で定める要件に該当するもの  

    *水素等…水素及びその化合物であって経済産業省令で 定めるもの(アンモニア、合成メタン、合成燃料を想定) 

    つまり低炭素水素等とは、「製造過程で排出される CO2 の量*が国の定める基準より少なく、さらに国際的に合意された算定ルール(例:IPCC ガイドラインなど)に照らした際に日本の CO2 排出量削減に貢献すると認められる水素およびその化合物のこと」です。
    *炭素集約度のこと。「炭素集約度」は、2023 年の「G7 気候・エネルギー・環境大臣会合」(G7 札幌)の成果文書にも記載された、新しい概念とされている。(引用:経済産業省(資源エネルギー庁)「目前に迫る水素社会の実現に向けて~「水素社会推進法」が成立(後編)クリーンな水素の利活用へ」

    また低炭素水素等として認められるかどうかは具体的な排出基準値によって判断され、経済産業省は参考値として下記を示しています。(※いずれも2024年6月時点での値であり、今後見直される可能性があります。)(引用:経済産業省(資源エネルギー庁)「合成燃料におけるGHG排出量の基準等について」2024年6月 ) 

    水素 3.4kg-CO2e/kg-H2 
    アンモニア 0.87kg-CO2e/kg-NH3 
    合成燃料 39.9g-CO2e/MJ 
    合成メタン 49.3g-CO2e/MJ 

    【注釈】本表の基準値は、燃料の性質に応じて設定されています。
    (出典:経済産業省「水素社会推進法について」 )

    ●水素(3.4 kg-CO2e/kg-H2)、アンモニア(0.87 kg-CO2e/kg-NH3)は、Well to Gate * でグレー水素およびグレーアンモニア * と比べて約7割削減に相当する基準値。 

    ●合成燃料(39.9 g-CO2e/MJ)、合成メタン(49.3 g-CO2e/MJ)は、水素製造部分で約7割削減を確保した上で、合成・輸送等に要するエネルギーも含めたサプライチェーン全体での基準値。 

    *Well to Gate…製造した水素・アンモニアの輸送に伴う燃料変換(液化水素やMCHなど)、及び船舶燃料や消費地での燃料消費は含まれない。一方でEUの基準ではサプライチェーン全体を基準の範囲としている。 

    *グレー…化石燃料から作られ、製造時に排出されるCO2を処理せず放出している状態のことを指す。 

    価格差支援制度とは

    価格差支援制度(正式名称:価格差に着目した支援)とは、水素社会推進法に基づいて経済産業省主導によって創設された仕組みであり、低炭素水素等と既存燃料の価格差を国が補填する制度です。 

    第3章でも解説したように水素は発展途上のエネルギーであり、その購入価格の高さが水素を利活用する事業者にとって普及促進の足かせとなっています。そこで国は、認定された事業者に対して助成金の支援をおこなうことで、水素製造事業者が一定期間安定的かつ低廉に水素を供給できる環境を整えるための制度を設けました。 

    ●対象 

    価格差支援制度では、認定を受けた低炭素水素等供給事業者は供給開始から最長15年間の支援を受けられ、かつ支援終了後10年間、低炭素水素等の供給を継続する義務が課されます。 

    こうした長期支援を受けるには、低炭素水素等を国内で製造、もしくは輸入して供給する事業者が、低炭素水素等の利用事業者と共同で事業計画を策定し、経済産業省に提出する必要があります。 

    初回公募は2025年3月31日に終了しており、2025年9月30日には初めての「認定供給等事業計画」が経済産業省(資源エネルギー庁)より公表され、制度が本格的に始動しました。また、第二弾として2025年12月19日に2件の認定供給等事業計画が採択され、価格差支援制度は政策の方向性や予算に応じて継続的に活用される可能性があります。 (出典:経済産業省(資源エネルギー庁)「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行のための低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する法律(水素社会推進法)」 ) 

    拠点整備支援制度の仕組み

    拠点整備支援制度とは 

    拠点整備支援制度は、水素社会推進法に基づいて設けられた支援措置の1つであり、国内における低炭素水素等の供給基盤となる施設(低炭素水素の貯蔵や輸送をおこなう施設)のうち、複数の低炭素水素等利用事業者が共同で使用するものの整備に、必要な資金を国が支援する制度です。(※2025年6月30日に初回公募が締め切られ、採択者は現時点で未発表です。) 

    具体的には、国内輸送のためのパイプラインや関連インフラの整備、液化水素やアンモニアを貯蔵するタンク、港湾での受け入れ設備の整備等をおこなう事業に対して、国がその費用の一部を助成します。事業者は初期投資負担を軽減でき、早期に水素の流通体制を構築することが可能となります。 

    拠点整備支援制度の特徴は、価格差支援制度と役割を分担している点です。価格差支援が「水素そのものの価格差を補填する」仕組みであるのに対し、拠点整備支援は「水素を流通させるための基盤整備を支援する」仕組みです。さらに、拠点整備支援は単なるインフラ整備にとどまらず、エネルギー安全保障の観点からも重要です。

    日本はエネルギー資源の多くを海外に依存しているため、水素についても多様な調達先を確保することが不可欠です。輸入水素を安定的に受け入れる拠点を整備することは供給リスクを分散し、国内での水素利用拡大の基盤となります。 

    したがって拠点整備支援制度は、価格差支援と並ぶ「二本柱」として、日本の水素社会を支える中核的な役割を担っています。

    拠点整備支援制度が必要な理由

    低炭素水素等を国内で普及させるためには、供給をおこなう地点から利用する地点までの広範囲の輸送サプライチェーンが重要です。しかし実現には新たな貯蔵または輸送設備の整備が必要であり、供給基盤の開発には多くのコストがかかることから、こうした課題を支援するための「拠点整備支援制度」がつくられました。 

    また日本が水素社会を実現するためには、国産水素以外にも目を向ける必要もあります。国内での水素製造には再生可能エネルギーの供給量や立地条件に制約があり、製造コストも依然として高水準です。そのため政府が策定した「水素基本戦略」においては、”国産水素”を最優先としながらも当面は海外からの調達が必要とされています。 

    実際に、日本はオーストラリアでの液化水素実証プロジェクトや中東諸国との水素・アンモニア協力を進め、輸入を前提とした国際的なサプライチェーンの構築を始めました。輸入の実現には港湾での荷揚げ設備や液化水素・アンモニアの貯蔵タンク、国内輸送のためのパイプラインなど、受け入れインフラの整備が必要不可欠であり、拠点整備支援が重要な意味を持ちます。

    物流上の課題にとどまらず、エネルギー安全保障や水素社会の実現を支える基盤として今後の国内外の取り組みを後押しする制度といえるでしょう。 

    海外の水素支援制度との比較 

    アメリカ:インフレ削減法と水素ハブ構想

    アメリカにおけるバイデン政権時点の方針では 、水素社会の実現に向け、州単位で以下の支援施策が進められていました。
    しかしながら2025年1月以降のトランプ政権においては、制度自体の見直しが示唆されており、今後の動向に注目が集まっています。 

    “米国エネルギー省(DOE)は2022年成立の「インフレ削減法(IRA)」に基づき、クリーン水素を製造する事業者を対象に最大3ドル/kgの生産の税額控除(Clean Hydrogen Production Tax Credit, Section 45V)を提供。この控除額はクリーン水素の生産量や1kgあたりの温室効果ガス排出量(カーボンインテンシティ)に応じて段階的に設定され、施設の稼働開始から10年間にわたって適用される。制度全体では総額約160億ドルの支援規模の見込み。

    さらに、超党派インフラ法に従い「地域クリーン水素ハブ(Regional Clean Hydrogen Hubs)」の整備が進められ、全米7か所の拠点所在地が発表。この構想では5年間で総額95億ドルの予算投入を予定。水素ハブの拠点地が明確になることで、企業・自治体・研究機関が地域に集まりやすくなり、製造や輸送、利用などの一体的な連携が期待される。 

    また2011年以降、カリフォルニア州・ワシントン州・オレゴン州は、燃料供給事業者を対象に、燃料に含まれる温室効果ガスの排出量低下を義務付ける規制「ローカーボンフューエルスタンダード(Low Carbon Fuel Standard)」を導入。

    たとえば水素などの低炭素燃料を供給すると、炭素収約度に応じたクレジット(排出権)が州政府から与えられる。発行されたクレジットは市場で売買することができ、事業者にとって経済的なインセンティブとなり、水素の製造や供給の拡大を後押しする仕組み。(出典:経済産業省(資源エネルギー庁)「水素を取り巻く国内外情勢と水素政策の 現状について」) “ 

    ドイツ・オランダ:H2Globalによる差額補填制度

    ドイツでは、ドイツ連邦経済・気候保護省(BMWK)が海外から調達した水素や水素由来製品を10年間決まった価格で購入し、実際の販売価格との差額を政府が補填するという制度「H2 Global」を2022年から運用しています。2023年に実施された初回入札(購入及び売却の差額補填)ではグリーンアンモニアの契約が成立しており、9億ユーロが投入されました。またオランダでも、 気候政策・グリーン成長省(KGG)がドイツに続いて3億ユーロ の補助金を投入しています。 

    また、ドイツにおいては水素を利用する産業向けの支援制度として「気候保護契約(CCfD)」も導入されています。気候保護契約(CCfD)とは、鉄鋼や化学などの工場が脱炭素化に向けた取り組みをおこなう際に、追加で発生する費用を国が支援する制度です。
    2023年には初回入札が実施され、予算額は40億ユーロだったことが明らかになっています。 

    ドイツでは2038年までに石炭火力の段階的な廃止が予定されており、水素をはじめとする脱炭素エネルギーへの意向が進められています。(出典:経済産業省(資源エネルギー庁)「水素を取り巻く国内外情勢と水素政策の 現状について」   Ccs&S:Climate change solutions &Sustainable Report「 EUのH2Globalへの30億€承認により、グリーン水素のEU流入チャネルが確立へ」 )

    EU:欧州水素銀行による差額補填

    欧州委員会(European Commission)は、水素の普及促進に向けて「欧州水素銀行(European Hydrogen Bank)」という資金支援の枠組みを2023年に創設しました。
    欧州水素銀行(European Hydrogen Bank)とは、EU域内でのグリーン水素の普及を促進するため、水素1kgあたり一定額(最大4.5ユーロ)を10年間補助する「固定プレミアム制」の資金支援制度です。 

    2024年には第1回の入札をおこない、10年間にわたる支援(総額7.2億ユーロ)の支援を見込んでいます。2025年の第2回入札では、新たに水電解槽の総容量に対して中国からの調達を制限する要件が追加されました。
    今後も定期的な入札を通じて域内の水素市場を育成する方針です。 

    またEUではグリーン水素を製造する際に、「追加性(additionality)」という原則を求めています。
     製造には既存の電力ではなく、新たに建設された再生可能エネルギー設備からの電力を使うことが義務づけられ、水素を作ることでかえってCO₂排出が増えてしまう逆転現象を防ぐ目的で作られました。 

    さらに産業分野で使用される水素についても、再生可能エネルギー由来の水素の比率を法的に義務づける方針を打ち出しています。2030年には42%、2035年には60%をグリーン水素にすることが求められています。
    これにより、化石燃料由来の水素(グレー水素)からの脱却が期待されています。(出典:経済産業省(資源エネルギー庁)「水素を取り巻く国内外情勢と水素政策の 現状について」) 

    まとめ

    今回は、水素社会推進法について解説しました。皆さまの参考になれば幸いです。 

    サステナビリティ ハブ 編集部

    サステナビリティ ハブ 編集部

    サステナビリティ ハブは、日揮ホールディングス株式会社が運営する、企業のサステナビリティ活動を支援するオウンドメディアです。SDGsの達成に不可欠なソリューション、国内外の先進的な事例、サステナビリティ経営のヒントなど、課題解決に繋がる多様な情報を発信しています。長年、プラントエンジニアリングや社会インフラ構築に携わってきた日揮グループの知見を活かし、専門性を持ったメンバーが信頼性の高いコンテンツをお届けします。

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