ACTION取組み

オルガノイド培養技術で培養肉を生産する|「オルガノイドファーム」の挑戦

企業×サステナビリティ 日揮グループの紹介 バイオものづくり
目次

動物から取り出した少量の細胞を、動物の体外で人工的に増やして作る「培養肉(クリーンミート)」をご存知でしょうか。食肉の需要増加や地球環境の悪化を背景に注目が集まり、世界中で企業や研究機関による研究・技術開発が進められています。

今回は、そんな培養肉をめぐる日揮グループの社内ベンチャー「オルガノイドファーム」の取り組みを中心にご紹介していきます。 

クリーンミートの商業化に向け「オルガノイドファーム」を設立

会社設立時の集合写真

日揮株式会社は、2021年11月29日(いい肉の日)に培養肉の商業化に貢献することをミッションとして、社内ベンチャー「株式会社オルガノイドファーム」を設立しました。

オルガノイドファームでは、主に細胞培養による食料生産技術の開発を実施しています。 

日揮グループがライフサイエンス領域で培ってきた細胞培養にまつわる技術や、大量生産を可能にするエンジニアリング技術を活かし、培養肉の「生産コストを下げ・生産規模を拡大する」ことや、その先で「栄養改善などを実現する高機能・高付加価値な培養肉の生産技術を確立する」ことを目指しています。

オルガノイドファームを設立した背景

オルガノイドファームを設立した背景にあるものは、人口の増加や新興国の経済発展、食習慣の変化などによって食肉の需要が急速に高まったこと、さらには今後の需要の伸びによって、需給バランスが崩れかねないことです。

さらには食肉の生産過程において、以下のような負荷が地球環境にかかっていることも理由です。

  • 温室効果ガスの排出(温室効果ガス総排出量の約14%が畜産由来) 
  • 広大な農地面積の利用(地球上の農地の約75%が畜産用) 
  • 大量の水の使用(家畜飼料作物の栽培に大量の水が必要) 
  • 水質汚染(家畜排せつ物による水質汚染) 
  • 大気汚染(家畜からのアンモニアの排出、工業会に伴うPM2.5の排出など)

これらの課題を背景に、現在は「食料確保」と「環境保護」の観点から【少量の細胞から効率よく大量の肉を作り出せる“培養肉生産”】への注目が集まっています。培養肉はまだ開発の途上ではあるものの、将来的には世界の食肉生産を支える技術、産業になる可能性もあります。

「培養肉」の基礎について知りたい方はこちらをご覧ください。


「培養肉」でサステナブルな食を実現する 基礎知識から今後まで解説|サスティナビリティハブ

SDGsの15個目に掲げられている「陸の豊かさも守ろう」の目標達成に向け、世界各国で様々な取り組みが進められています。 国土面積の約2/3を森林が占める森林大国・日本においても森林の減少を食い止め、持続可能な自然を守ることはとても重要です。 その中で、企業はどのように貢献できるのでしょうか。今回は日本の森林の現状や森林分野における企業の取組事例、また実際の活動についてご紹介します。

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オルガノイド培養技術の活用

オルガノイドファームによる開発イメージ

オルガノイドファームならではの特徴には、どのようなものがあるのでしょうか。 

それは、創薬研究や再生医療などの領域で注目を集める「オルガノイド培養技術」を、世界で初めて食料生産に応用することです。ちなみにオルガノイドとは「器官(organ)」と「〜に類似したもの(-oid)」を組み合わせた造語で、細胞を培養して作られた立体組織 ≒ ミニチュアの臓器のことを意味します。

横浜市立大学 武部貴則特別教授と順天堂大学 赤澤智宏教授が開発した、特定の幹細胞を自己組織化させて食肉の素「食肉オルガノイド」を作成する技術を応用することで、効率よく培養肉を生産できると考えられます。

この技術の応用により、培養肉を商業化するにあたっての課題である「生産コスト低減」と「生産規模拡大」を叶え、サステナブルな食料生産を実現することを目指しています。

大量生産に向けたプラント最適化も

培養肉の商業化に向けて「生産コスト低減」と「生産規模拡大」を実現するには、細胞培養に関する要素技術だけでなく、プラント技術も欠かせない要素になるとご存知でしょうか。医薬品・再生医療領域に多くの実績を持つ日揮グループは、 

  • 施設や設備のレイアウト最適化 
  • 無菌製造法や自動化の最適化などの関連技術 
  • 動物細胞培養培養用バイオリアクターの開発 
  • 省エネルギー検討 

といった、培養肉生産と技術的な親和性が高い関連設備や技術を有しています。これらを活かし、細胞培養設備の大型化や培養コストの削減、安全性の向上といった課題解決に向け取り組んでいます。

培養肉の商業化に向けて

商業化に向けた課題

2022年7月段階では、日本で培養肉の商業販売がなされた実績はまだありません。 

培養肉の商業化に向けては、 

  • 従来の食肉と比べて生産に高いコストがかかること 
  • 大量生産の方法が確立されていないこと 
  • 「安全性の確保」に向けたさらなる研究や基準の設定、消費者理解が必要なこと 

などの課題が残されています。 

また本当に「サステナブルな食料生産」を実現するためには、細胞を培養する過程で多くのエネルギーを使う点など、生産過程における環境面での課題も解決する必要があります。

オルガノイドファームの今後の展望

オルガノイドファームの今後のマイルストーン図オルガノイドファームは培養肉の商業化、そしてその先での海外進出に向け、まずは「2030年に商業プラントの運転を開始」することを予定しており、そのために必要となる要素技術の開発やパイロットプラント(※)の建設・運転、プラントの運転ノウハウの獲得などを着実に進めていきます。

※パイロットプラント:プラントの設計や最適化を行うための、水先案内人(pilot)としての役割を担う試作・予備プラントのこと 

まとめ

世界各国でさまざまな企業が培養肉製造の取り組みを進める中、日揮グループは「オルガノイド技術」を活用したこれまでにない手法で、商業化に向けた挑戦の道を歩みはじめました。

培養肉は単なる代替たんぱく質というだけでなく、新しい食の選択肢を増やし、豊かな食性活を育てることにもつながります。株式会社オルガノイドファームは、食糧危機の解決と、地球と人と動物の持続可能で豊かな未来に向けて、培養肉の社会実装に貢献してまいります。

※ 株式会社オルガノイドファーム Organoid Farm Inc. ホームページ

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