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「目指すのは、誰もが対等に働ける社会」 | 日揮パラレルテクノロジーズ社長 阿渡健太

インタビュー 企業×サステナビリティ 働き方 日揮グループの紹介
目次

日揮パラレルテクノロジーズ(以下、JPT)は、日揮グループの障害者雇用を担う日揮ホールディングスの特例子会社として2021年1月に設立されました。同社は障害者雇用の考え方を根本から見直し、「IT戦略人材雇用」という新たな軸を定め、まだ歴史の浅い分野であった精神・発達障害者雇用の可能性を大きく拡げました。今回の記事では、パラアスリートとして活動を続けながら、当時副社長としてJPT設立にかかわり、2024年2月にJPTの社長に就任した阿渡健太氏に、JPT設立の経緯から今に至るまでの取り組みや成果、今後の展開についてお話をうかがいました。(インタビュアー:サステナビリティハブ編集部) 

日揮パラレルテクノロジーズ設立の経緯とは

――阿渡さんは日揮HDの人事部に在籍しながら、前任者とともに2021年1月に「日揮パラレルテクノロジーズ(以下JPT)」を設立されたそうですね。設立に至った経緯をお話しいただけますか。

私たちは人事部の採用グループで障害者採用を担当していたのですが、従来の障害者雇用の枠組みの中での採用活動に行き詰まりを感じていました。というのも、当時は他の多くの企業と同様に、軽度の障害を持つ方をバックオフィス業務で採用するケースが主だったので、他社との競争になってしまい、なかなか人材を確保できない状況が続いていたのです。ちょうどその頃、仕事でかかわりのあった障害者雇用の支援会社から「先端ITスキルに長けた精神障害の人材が存在する」という話を聞き、「この観点を突き詰めていけば、新しい障害者雇用の可能性が拓けるのではないか?」と感じ、事業計画を練り始めました。 

また、当時の日揮グループは2019年の分社化の影響で、障害者雇用の従業員が偏在してしまったことから、事業会社における法定雇用率の改善が喫緊の課題となっていました。その根本的な解決策として、特例子会社の設立を提案しました。こうしたいくつものタイミングが重なり、JPTの設立を通して、社会課題の解決に取り組むことになったのです。


――会社を設立するにあたって掲げたJPTのミッションや、会社経営において重視していることを教えてください。

JPTでは「障害の有無に関わらず、全ての人が対等に働ける社会の実現を目指す」ことをミッションに掲げています。このミッションを実行するために何よりも重視しているのが、「従来の障害者雇用の制度や慣習を引き継ぐのではなく、ゼロベースで検討し、実践と試行錯誤を重ねて、本当に必要な制度を一からつくっていく姿勢」です。この前提があるからこそ、障害者雇用の可能性を拡げることができると考えているからです。

また、障害者雇用の現場では「障害者には、誰でもできる簡単な作業を割り当てる」という慣習が根強くありますが、JPTは「障害者が自らのスキルを武器に、戦力となって成果を出すことができる事業モデル」にすることを当初からの目標にしていました。

JPTの障害者雇用の特色と提供するサービス

男性が話しているところ

――従来とは違う視点での障害者雇用を実現したのですね。JPTの障害者雇用にはどのような特色があるのでしょうか。

障害を持つ方を「IT戦略人材」として雇用しているのが、当社の障害者雇用の特長です。日揮グループの事業の主軸となるプラントエンジニアリング業界では、IT導入の遅れや人材不足が課題となっていました。そこで、IT・DX分野に特化して、働く機会を得られていないエンジニアを受け入れ、グループに生じるIT関係の困りごとへの対応を特例子会社のJPTで請け負う体制にすれば、うまく機能すると考えたのです。

ですが、これを実現するためには、従来型雇用における“厚すぎるセーフティネット”をそぎ落とす必要がありました。正社員として採用すると、年単位での休職や手当も保証する必要が出てくるため、どうしても精神・発達障害者の雇用がリスクとして捉えられてしてしまい、採用に至らないケースが少なくなかったのです。そこでJPTでは、“休職期間は3か月、ノーワーク・ノーペイ”という原則にしました。これにより、雇用のハードルがぐっと下がり、IT人材の障害者雇用が大きく進みました。今は結果的に精神・発達障害の方の雇用が多くなっていますが、決してそれに特化しているわけではありません。障害の種類を問わず、ITスキルがある方に来ていただきたいと考えています。


――JPTは具体的にはどのようなサービスを提供しているのでしょうか。

JPTでは、おもに日揮グループ内に向けたIT業務支援をおこなっています。今まで蓄積してきた膨大なデータをITの力を活用することで、作業工数の減少や人件費の削減などを実現できますが、そのIT化の一部を担っています。

例えば、Web系では、独身寮の食事予約や寮費などが閲覧できるアプリや、建設現場のTo Doと画像データをアプリで一括管理する「Jstagram」などの開発をおこない、現場リリースが目前の案件もあります。AI系では、サバの陸上養殖事業の“魚サイズ推定AIモデル”構築などを手掛けています。最近では、Unityを活用したXRコンテンツ制作(プラント研修ゲームやメタバース資料館)や、Microsoft office365のツールを使ったベビーシッター派遣事業割引券の運用ツールも開発しました。これまでに遂行した案件は、大小含めて100以上にのぼります。


JPTの就業規則と従業員へのサポート体制は?

インタビュー中の写真

――冒頭に「従来の制度や慣習を引き継ぐのではなく、ゼロから見直した」というお話がありましたが、JPTの採用条件や就業規則はどのような内容になっているのでしょうか。

採用条件については、①職歴・病歴不問 ②育児者・介護者もOK ③年齢不問 としています。職歴にブランクがあったり転職を繰り返していたりしても、正社員になる際のハードルにはなりませんし、既往歴や既往症があっても今仕事ができるのであれば問題ありません。育児・介護中であることを理由に面接してもらえないという話や、40代になってからの転職は同業種でも難しいという話も耳にしますが、JPTはそうではありません。

就業規則については、①誰でも時短 ②フルリモートワーク可能 ③勤務時間はフルフレックス の3つが大きな柱です。「集中できる環境で本来の力を発揮してもらう」ことを第一に考えた結果、このスタイルにたどり着きました。

育児・介護中ではなくても誰でも正社員として時短勤務を選ぶことができ、能力や成果に対して給与を決定します。フルリモートワークができるので、オフィス内の音やにおい、光、などに敏感な方も自分の適性に合わせて執務環境を整えることができますし、通勤ラッシュなどのストレスもありません。フルフレックスなので、9:00~18:00(12:00~13:00が昼休憩)という働き方にこだわらず、働くタイミングも休むタイミングも原則自由です。例えば、昼の13時から夜の22時まで働き、明け方に眠ってお昼に起きるという昼夜逆転の生活をしている従業員もいますが、しっかりと成果を出しています。

我々は障害者雇用の会社をつくっているという意識はありません。障害者に限らず、育児や介護をしている人など、誰にとっても働きやすい会社がJPTの目指す姿です。その上で、正社員になることも、正社員として働き続けることもどちらのハードルも下げるため、法律で定められている以上に多様な働き方を実現するための制度を整えています。


――入社後の受け入れ体制も整っていると聞きましたが、その内容を具体的に教えていただけますか。

コミュニケーション面では、1on1ミーティングを週1ペースでおこないます。ここでは主に体調面と業務面の進捗や悩みを共有し、大きな問題に発展する前に課題解決するよう心掛けています。また、最近の取り組みとして、外部のコーチングスタッフに協力を仰ぎ、従業員の課題の深堀りや言語化の整理に役立てる体制を整えています。

環境構築の面では、JPTは全員フルリモート勤務ということもあり執務環境の整備のため入社後5万円の手当や、災害時に備えた災害備蓄手当として3万円(3年ごと)を支給しています。さらに、従業員にはこれまでの業務経験や業務内容への希望などを記載した“自身の取扱説明書”を作成してもらいます。それを顧客と共有し、特性に合った業務や働き方を検討してもらうことで、受け入れがスムーズに進むようにしています。

設立から3年間の成果と今後の展望

男性の立ち姿

――JPTを設立して丸3年が経ちましたが、どのような成果が上がったと感じていますか。

定量的な面では、まず日揮グループ4社(日揮HD、日揮グローバル、日揮、JPT)において法定雇用率(2.3%)を上回る2.46%を達成したことが一つの大きな成果だといえるでしょう。この数字は、大企業として社会的責任を果たすことができているという証でもあるからです。また、会社設立時は5人だった従業員数が29人まで増え、事業の拡大と組織の強化も順調に進んでいます。

加えて言えば、自己都合による退職者がまだ一人もいないことも、特筆すべき点だと思っています。厚生労働省の統計によると、精神発達障害者の6カ月以内の離職率は約40%、1年以内の離職率は約49%と非常に多いのが現状です。これを踏まえると、JPTでは従業員の満足度や職場環境、働きやすさを実現できていると考えても良いのではないでしょうか。


――数字では測れない部分での成果としては、どのようなものがありますか。

ひとつは、精神・発達障害者といういわゆる“未開拓人材”に対する新たな雇用を生み出し、社会における包摂(インクルージョン)と多様性の推進の道筋を示すことができたことです。また、JPTの従業員が戦力としてJGCグループ内での価値を発揮し、貢献している点も大きな成果だと考えています。

日揮グループがおこなっていた従来の障害者雇用では、他社との採用競争になっていましたが、今回、JPTを設立した際に業務内容を刷新してIT分野に特化したことで、企業としてのブランディングもしやすくなりました。

また、経済産業省が主導している「イノベーション創出加速のための企業における『ニューロダイバーシティ』導入効果検証調査事業」の先進取組みとして、当社の事例が紹介されたことも、嬉しいニュースでした。JPTが、新しい雇用のあり方を社会に発信する企業として存在感を増していることを実感しました。


――精神・発達障害者を雇用する流れは、今後加速していきそうですか。

最近は、障害者雇用の講演会に登壇してJPTの事例を紹介する機会が増え、精神・発達障害者の雇用への関心は高まっているように感じます。ですが、当社と同じように「フルリモート・フルフレックス」での雇用をおこなう会社はなかなか増えてきません。適切に人材をマネジメントできるのか確証を持てないからだと思います。

JPTでは、日々の管理は日報と勤怠ベースで、評価は成果物ベースでおこなっていますが、十分に機能していると感じています。当社はまだ成長段階なので、今後しっかりと実績を挙げ、成功事例として社会に発信できるようにしていきたいですね。そうすれば、精神・発達障害者の雇用も加速するのではないかと期待しています。


――ゼロから会社を設立した3年前と現在を比べて、阿渡さんご自身の変化を教えてください。

JPTの立ち上げを決めた時は、会社経営自体が初めての経験だったので「自分にできるのだろうか?」という不安もありましが、前任者と二人三脚で議論し、調べ、形にしていく過程はとても新鮮でやりがいがあり、最終的にJPTの設立を実現することができました。たとえスタート時点では立場に見合った知識や経験がなくても、ゴールに向けて試行錯誤する過程で、自然と求められる姿に近づいていくのだなと感じています。

従業員との関わり方についても、当初は「精神・発達障害」というバイアスがあったため、変に気を遣ってしまっていましたが、今では気負わず自然に接することができるようになりました。それは、「障害の種類や有無に関係なく、人は十人十色」だということを本当の意味で理解したからだと思っています。


――今後、JPTを発展させていくためには、どのような課題がありますか。また、今後の展望も教えてください。

JPTには現在2つの課題があると感じています。1つ目は、約3年で会社規模が大幅に拡大したため、社内整備が追い付いていない部分があることです。いわゆる成長痛が発生している状態なので、これからはしっかりとした骨や筋肉をつけるような段階だということを意識して、しっかりと基盤整備に取り組みます。

2つ目の課題は、業務の創出です。日揮グループ内のIT業務支援を推進するためには、グループ内にそのような課題感を持った管理人材がいることが重要です。その人材を増やしていくことで、JPT従業員の価値の最大化につなげていきたいですね。

まとめ

今回の記事では、特例子会社である日揮パラレルテクノロジーズ(JPT)の社長であると同時にパラテコンドーの選手としても活躍する、阿渡健太氏に、おもにJPTにおける障害者雇用の取り組みについてお伺いしました。パラアスリートとしての活動や、YouTuberとしての活動、プライベートの過ごし方などについてはこちらのインタビュー後半記事をご覧ください。


「障害の有無を意識せず、共生できる世の中を目指して」| 日揮パラレルテクノロジーズ社長 阿渡健太|サステナビリティハブ

日揮パラレルテクノロジーズは障害者雇用の考え方を根本から見直し、「IT戦略人財雇用」という新たな軸を定め、まだ歴史の浅い分野であった精神・発達障害者雇用の可能性を大きく拡げました。今回の記事では、JPTの社長でありパラテコンドーの選手としても活躍する阿渡健太氏に、パラアスリートとしての活動やYouTuberとしての活動、仕事とプライベートの両立などについてお話をうかがいました。

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サステナビリティハブ編集部
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