プラント建設現場の作業負荷を低減する「モジュール工法」とは? メリット・事例も紹介 0

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近年、プラント建設における作業員の労働環境の整備や周辺環境への負荷の低減がより一層求められています。そこで関心が高まっているのが、専用施設でプラントを構成するユニットを製作し、現場で迅速に組み立てる「モジュール工法」です。今回の記事では、施工効率を向上させながら、作業員の労働環境や自然環境への負荷を低減できる「モジュール工法」について、メリットや考慮すべきポイント、事例を含めて詳しくご紹介します。
モジュール工法とは?
「モジュール工法」とは、プラントの立地する建設現場以外の専用施設で製造されたモジュール(プラント設備の構成ユニット)を建設現場に輸送して組み立てる、または直接据え付ける建設手法のことをいいます。この方法は、建設現場で一から資材を組み立てる従来の「スティックビルド工法」と比べ、建設現場での作業を削減できるのが特徴です。
モジュールを製造する専用施設は「モジュールヤード」と呼ばれ、中国やインドネシア、タイなどの大規模モジュールヤードでは、世界各地のプラント建設プロジェクト向けにモジュールが製造されています。
【7ステップ】モジュール工法の流れ
モジュール工法は、次の7つのステップでおこなわれます。

1. 設計
最初のステップは「設計」です。モジュール単位での設計をおこない、施工計画を策定します。モジュール化によるプラント立地の建設現場における工期短縮やコスト削減を考慮するのがポイントになります。
2. 資材調達
次におこなうのが、「資材調達」です。設計に基づいて、必要な建材・機器を事前に調達し、モジュール製造に備えます。ここで資材供給の安定性を確保することは、モジュール製作・施工リスクの低減につながります。
3. モジュール製造
資材調達の次は、「モジュール製造」です。モジュールヤードでモジュール単位のユニットを組み立てます。モジュールヤードでは現場への出荷前に高精度な品質管理をおこなうため、品質が担保されるとともにプラント立地の建設現場での作業量が大きく軽減されます。
4. 建設現場における土木工事
モジュール到着前に、現地で進めておきたいのが「土木工事」です。基礎工事や地下に埋設される多様なインフラ整備を実施しモジュール設置の準備を整えておき、スムーズな施工につなげます。
5. モジュールの海上輸送
製造されたモジュールは、船舶(多くの場合はモジュール専用の輸送船)で建設現場近傍の既存港湾やモジュールや他の重量貨物の荷下ろし専用に準備する設備(Module Offloading Facility: MOF) に「海上輸送」します。この工程では、物流戦略を考慮し、コストや輸送の最適化を図るのがポイントです。
6. 荷下ろしと陸上輸送
モジュールを専用の港湾設備やMOFで「荷下ろし」し、建設現場まで「陸上輸送」します。現場では自走式搬送車両(SPMT:Self-Propelled Modular Transporter)を使用し、効率的にプラント立地の建設現場で配置(必要に応じて事前の組み立てを含む)・設置します。
7. 建設現場でのモジュール接続
建設現場にモジュールを設置後、必要に応じて設計要求に従ったモジュール同士の接続を実施し、モジュール設備の据え付け寸法の最終調整を行います。その後、モジュール間を跨ぐ電気や計装のケーブル敷設・配管工事などを実施し、稼働準備を進めます。
モジュール工法のメリットと考慮すべきポイントとは?

モジュール工法にはどのような特徴があるのでしょうか。この章では、モジュール工法の特徴をメリットと考慮すべきポイントの観点から整理したうえで、モジュール工法が適しているケースを解説します。
モジュール工法の4つのメリット
モジュール工法のおもなメリットとして挙げられるのが次の4つのポイントです。
1. 人件費の削減
最終建設地における人件費が高い地域では、モジュール化によって現場作業を減らすことでコストの削減が可能になります。
2. 工事現場における安全性リスクの低減
厳しい気候条件の現場でも、事前に製作されたモジュールを持ち込んで組み立てることで、現場作業を低減しながら建設することが可能です。これは、作業員の安全性確保につながります。
3. 工期の短縮
モジュール製作の間に、並行して現場の基礎工事を進められるため、建設現場の工期が短縮できます。そのため、モジュール工法を採用しない「スティックビルド工法」と比べ、建設現場における工事着手後、プラントの早期稼働も可能になります。
4. 作業員の技術習得の早期化
モジュールヤードの作業員は定置型であることから、各国の建設現場でその都度作業員を雇用する場合と比べ、技術の習得が速いというメリットもあります。
モジュール工法を採用する際に考慮すべき3つのポイント
一方で、モジュール工法を採用する際には、次の3つのポイントも考慮する必要があります。
1. 設計の柔軟性
プラントを構成するユニットとして規格化されているモジュールの特性上、現場での設計変更が難しいことです。そのため、初期段階での設計確定と設計変更の最小化が重要となります。
2. 輸送費・資材費
大型モジュールは特別な船舶や重量物輸送時の海象条件を考慮した輸送ルートの確保が必要な場合があったり、遠隔地への輸送ではコストが増加する場合があったりするため、全体コストを最適化する事前の検討が必要になります。また、モジュール輸送時の耐性を確保する為、使用する鉄骨重量が増える傾向があります。
3. モジュール工法に適したプロジェクトマネジメント
プロジェクト遂行全体のマネジメントや調整の難易度が高いことにも、注意する必要があります。例えば、大型モジュールの輸送船やSPMT*の手配、輸送航路の選定、モジュールヤードの選定もモジュール工法採用に特化したマネジメントの範囲に入ります。また、現場ではモジュール同士の接続や最終調整も不可欠で、時には追加の調整作業や予期せぬ追加工事が発生することもあります。
*SPMT:Self-Propelled Modular Transporterの略で、非常に重い構造物や大型の機材を輸送するための自走式の輸送車のこと。
モジュール工法が適している4つの条件

前述の通り、モジュール工法にはメリットだけでなく、考慮すべきポイントも存在します。では、従来工法よりもモジュール工法が適しているのはどのようなケースなのでしょうか。一般的に、次の4つの条件を満たす場合には、モジュール工法が適していると考えられています。
人件費が高いプラント立地
人件費が高い地域で建設する場合、モジュールヤードで制作したモジュールを現地で組み立てることで現場作業を減らし、全体の建造・建設コストを抑えることが可能になります。
環境条件が厳しいプラント立地
極寒地や高湿度地域など、自然条件が厳しく作業効率が下がる場所や、セキュリティリスクが大きい地域にプラントを建設する場合、モジュールを持ち込むことで現場作業が少なくなり、作業者の負担を減らすことができます。自然条件が厳しい地域では、現地で作業員を十分に集めるのが困難なことも少なくありません。現場での作業を減らすモジュール工法は、こうした課題の解決にもつながります。
短納期のプロジェクト
プラント建設完工までの工期が短い場合、建設現場における施工の効率化により、従来工法と比べて建設現場工事期間を短縮できるモジュール工法は強みになり得ます。
港へのアクセスが良好
モジュール輸送後の荷下ろし計画の観点から、プラント建設サイトに船舶がアクセスしやすいことも重要な条件のひとつです。
モジュール工法で実現できるサステナビリティとは?

モジュール工法は、プラント建設における環境負荷の低減や資源の有効活用、さらに作業員の労働環境の整備を実現できるサステナブルな工法としても、近年注目を集めています。どのような点がサステナブルなのか、3つのポイントを具体的に見てみましょう。
資源の効率利用とロス削減
調達資材を個々に直接プラントが立地される建設現場へ輸送するケースと比較して、機材・資材の総輸送距離の最適化・低減が期待され、固定された建設建機や余剰機材のリサイクル環境が整った工場での規格化された製造工程によって、資源ロスや余剰資材を最小限にすることができます。
周辺環境への負荷低減
現場作業の大幅削減により労働者向けの一時的な生活インフラ構築が最小化でき、建設現場での自然環境への負荷や、現場周辺の交通・生活インフラへの負担も軽減できます。
作業員の安全性リスクの低減
事前に製作されたモジュールを持ち込んで組み立てることで、現場作業による作業員の安全性リスクが低減し、働きがいのある職場環境の整備につながります。
このように、モジュール工法は建設プロジェクトにおける環境負荷軽減や資源効率化、安全な労働環境づくりなど、持続可能な建設手法として多方面で貢献できる手法です。
【日揮事例紹介】プラント建設におけるモジュール工法

最後に、プラント建設において導入されているモジュール工法の具体例として、日揮グローバルの事例をご紹介します。
プラントエンジニアリングを事業の柱とする日揮グローバルは、モジュール工法の先駆者として、世界各地で数多くの大規模プラント建設プロジェクトを成功させてきました。

【事例1】ヤマルLNGプロジェクト
世界の天然ガス埋蔵量の20%超が存在すると言われている北極圏のヤマル半島におけるLNGプラント建設プロジェクトです。北緯71度、冬期の最低気温は零下50度にも達する極地での建設工事を短納期で達成するため、本プロジェクトではモジュール工法が採用されました。
(リンク:LNGプラント | プロジェクト | 日揮ホールディングス株式会社)
【事例2】ペトロナス社FLNGプロジェクト
マレーシア国営石油公社のペトロナス社が、ボルネオ島沖合いの深海ガス田向け(水深1,000メートル超)に、同国2基目となる洋上LNGプラントを新設するプロジェクトです。本プロジェクトではモジュール工法を採用し、限られた工期内で船上へのLNGプラント搭載を実現しています。
サステナビリティを実現する日揮グローバルの独自技術とは?
日揮グローバルのモジュール工法には第2章で挙げたメリットがあるだけでなく、プラント建設現場のサステナビリティを向上させる以下のような独自技術が活用されています。
1. 現場作業の工数を大幅に削減できる「J・I・Module™」

「J・I・Module™」は、モジュールのレイアウト設計を最適化し、品質・安全性を高めたプラントを提案する技術です。予算、生産量、運転方法、敷地面積などを考慮して、膨大な組み合わせの中から最適なモジュールレイアウトを設計します。これにより、現場作業の工数を大幅に削減したり、気候条件の変化にも柔軟に対応したりすることが可能になります。
2. プラントの再利用を可能にする標準化モジュール

海底の天然ガス田から算出される天然ガスの性状はさまざまなため、通常、FLNGは各ガス田に合わせてオーダーメイドで建設します。そのためFLNGは工期が長く、他の天然ガス田での再利用も難しいという課題があります。そこで、天然ガスの性状に応じて組み換え可能な「前処理用モジュール」と、再利用可能な「標準化モジュール」を備えたFLNGコンセプトを考案しました。これにより、異なる天然ガス田においても、前処理用モジュールを組み替えるだけで、再びFLNG船として利用することが可能になりました。
3. 現場での溶接作業を削減する配管同士のダイレクト溶接

「ダイレクト溶接」とは、モジュール配管の端部同士を直接連結する技術です。これを可能にしているのが、モジュール据付時の配管端部同士の位置関係を正確に算出する独自技術である「Single Weld Hookup」です。
従来手法では、2つのモジュール配管の間に短管を挟み、モジュール配管と単管の両端とを溶接していました。そのため、1本の配管に対し2か所の溶接が必要でしたが、Single Weld Hookup 技術により、溶接個所を1か所に削減させることが可能になりました。プラント建設では、溶接しなければならない配管の数は膨大ですが、この技術によって、作業工数の低減や作業員の負荷削減を実現しています。
まとめ
モジュール工法は、工期短縮・作業員の安全性リスク低減など、サステナビリティ向上の側面でも多くのメリットがあります。一方で、輸送コストなどの課題もあるため、各プロジェクトの要件に応じて適用を検討することが重要だといえるでしょう。
日揮グループのモジュール工法を詳しく知りたい方は、こちらのページをご覧ください。
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