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2025.12.17

後編【プラント建設の未来を支える技術者たち #07】プラント材料の腐食・防食エキスパート

後編【プラント建設の未来を支える技術者たち #07】プラント材料の腐食・防食エキスパート

目次

    海外におけるプラントの設計・調達・建設を事業の柱とする日揮グローバルでは、幅広い分野の技術エキスパートが事業の根幹を支えています。彼らの持つさまざまな専門技術は、プラント建設だけでなく、サステナブルな社会を実現するうえでも欠かせないものです。
    そこでサステナビリティ ハブでは、チーフエンジニアの方々に専門技術や最新トピックなどを解説してもらうインタビュー記事を連載しています。

    今回は、プラントに使われている金属材料の腐食・防食エンジニアへのインタビュー後編です。エンジニアとしての「キャリア」や「仕事への想い」についてお伺いしました。(インタビュアー:サステナビリティハブ編集部)

    腐食・防食技術について詳しく解説いただいたインタビュー前編はこちらをご覧ください。

    *エキスパート制度は、日揮ホールディングス、日揮コーポレートソリューションズ、日揮グローバル、日揮が対象
    **チーフエンジニアは、チーフエキスパートとリーディングエキスパートの総称

    キャリアパス|材料の腐食・防食エンジニアのやりがいとは?

    ――津田さんは入社後、どのような経緯で材料の腐食・防食のエキスパートになられたのでしょうか。

    学生時代から研究室で腐食・防食の研究をしていて、博士号を取得しています。そのまま大学に残る道も考えましたが、これまで培ったことを活かして社会の役に立ちたいという思いから、幅広い分野に関われる日揮(当時)に入社しました。

    入社後は、茨城・大洗にある技術開発センターに配属になり、HiPACT®関連の試験、材料・腐食トラブル調査などに携わりました。それ後、横浜本社のエンジニアリングテクノロジーセンターに異動し、原子力分野の腐食試験業務をおこなったのち、海外EPC PJのカソード防食や材料選定・コーティング業務も担当してきました。入社後一貫して、材料の腐食・防食に携わってきた結果、この分野のエキスパートを拝命しました。

    ――研究所での開発や、プロジェクト対応など幅広い業務をご経験されてきた中で、特に印象に残った業務はありますか。

    2011年、英国の防食会社に半年間の海外企業派遣に行ったことが、特に印象に残っています。カソード防食については大学時代に研究していたため、ある程度の知識はありましたが、プラントにおける設計や施工などの実務経験はなく、いわば頭でっかちの状態でした。そうした中で、防食会社で実務経験を積むことができたことは、その後の大きな自信につながり、今でも私の技術的な骨格の一部となっています。

    海外企業派遣中、牧草地の地下に埋まっているパイプラインの腐食調査をしている様子

    技術者として自信がついてきた頃、中東でのある案件ででカソード防食に関するトラブルが発生しました。仕様から若干逸脱しているものの技術的には問題ないと判断し、修正工事は不要であると説明するため現地に赴きました。

    しかし、説明を始めて5分ほどで「技術的に問題ないことは理解できるが、仕様逸脱は許容できない。修正工事をおこなってください。本日の打ち合わせは以上です」と言われ、話し合いは終了しました。日本から20時間近くかけて移動し、打ち合わせはわずか5分。準備万全で臨みましたが、思い通りにいかないことがあるという現実を痛感した経験、苦い思い出です。

    ――仕事でやりがいを感じるのはどんな時ですか。

    これまで経験のない分野や仕事に取り組む際、どう進めるかを考え、試行錯誤を重ねる過程に最もやりがいを感じます。レゴに例えるなら、完成した作品そのものよりも、組み立てていく過程に面白さを感じるタイプです。難しい課題に直面したとき、それをどう解決するかを考え、試しては修正を繰り返す時間が、私にとって一番楽しく、充実した瞬間です。

    エンジニア育成への想い

    ――プロジェクト業務に加えて、社外活動にも積極的に取り組まれていると聞きました。

    はい、昨年からチーフエンジニア(CE)に就任したこともあり、これまで蓄積してきた知見を、学会発表という形で外に出していこうとしています。2026年3月にはAMPP(Association for Materials Protection and Performance)という国際学会で、フランジの一時防錆やカソード防食についての発表を予定しています。

    ――CEの大事な役割の一つにエンジニアの育成がありますが、昨年CEになられてから津田さんはどのようなことを大切にしていますか。

    まだまだ模索中の段階なので、偉そうなことは言えませんが、人財の育成においては、こちらの考えや理想を一方的に押し付けるのではなく、それぞれの個性や価値観を尊重しながら、その人の長所を最大限に引き出せるような形で技術を伝えることを大切にしています。

    プライベートの過ごし方・今後の目標は

    ――平日は仕事がメインの生活になってしまうと思いますが、週末や休日はどのように過ごされていますか。

    趣味はいくつかありますが、習慣として続けているのはランニングです。朝4時過ぎに起きて、週に数回走っています。大会に出たり、タイムを縮めたりすることが目的ではなく、疲労感や充実感を楽しむために、無理のない範囲で続けています。長距離を走った後に飲むアイスコーヒーは、もう最高ですね。

    最近は、NHKの将棋番組を見るのも好きです。AIが最善手を示してくれるようになったことで、プロ棋士があえて最善手を外す場面や、時間制限による焦りなど、人間らしい駆け引きが見えてくるようになり、将棋の新しい面白さを発見しました。

    ――最後に、今後の業務で挑戦したいことや目標を教えていただけますか。

    これは常に心にあることですが、「腐食によって事故を起こさない、人命を損なわない」。それが、私の仕事における唯一の目標です。実際の業務では、どうしてもコストやスケジュールに追われがちですが、そんな時こそ少し立ち止まって、「このまま進めて本当に安全は守れるのか?」と自問するようにしています。

    日揮グループが掲げる「Enhancing planetary health」というパーパスには、「これまで培ってきた技術力を活かして社会課題を解決し、地球の健康を守る」という想いが込められていますが、これは私自身の考えとも重なり、非常に共感しています。これからも「腐食」という分野を通じて、社会の安全に貢献していきたいと思っています。

    まとめ

    今回の記事では、プラント材料の腐食・防食のチーフエンジニアに、ターニングポイントとなった出来事や、仕事のやりがい、プライベートの過ごし方などについてお伺いしました。プラント材料の腐食・防食技術の概要や最新技術の動向などについては、インタビュー前半の記事をご覧ください。

    サステナビリティ ハブ 編集部

    サステナビリティ ハブ 編集部

    サステナビリティ ハブは、日揮ホールディングス株式会社が運営する、企業のサステナビリティ活動を支援するオウンドメディアです。SDGsの達成に不可欠なソリューション、国内外の先進的な事例、サステナビリティ経営のヒントなど、課題解決に繋がる多様な情報を発信しています。長年、プラントエンジニアリングや社会インフラ構築に携わってきた日揮グループの知見を活かし、専門性を持ったメンバーが信頼性の高いコンテンツをお届けします。