後編【プラント建設の未来を支える技術者たち #06】HSEのエキスパート
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海外のプラントの設計・調達・建設を事業の柱とする日揮グローバルでは、幅広い分野の技術エキスパート*が事業の根幹を支えています。彼らの持つさまざまな専門技術はプラント建設だけでなく、サステナブルな社会を実現するうえでも欠かせないものです。そこでサステナビリティハブでは、チーフエンジニア**の方々に専門技術や最新トピックなどを解説してもらうインタビュー記事を連載しています。今回の記事は、第6弾となる「HSE(安全衛生)」のチーフエンジニアのインタビュー後編です。是非ご覧ください。(インタビュアー:サステナビリティハブ編集部)
「HSE」の基礎知識やHSE分野の最新トレンドなどについてお伺いしたインタビュー前半はこちらから。
* エキスパート制度は、日揮ホールディングス、日揮コーポレートソリューションズ、日揮グローバル、日揮が対象
** チーフエンジニアは、チーフエキスパートとリーディングエキスパートの総称

HSEエンジニアとしてのキャリアパス
――入社後はどのようにHSEに携わってこられたのでしょうか。
学生時代は安全工学の研究室にいたため、そのままの流れで入社時にテクニカルHSE部に配属になり、現在も所属しています。ただ、私が入社した当時はまだHSEという分野がエンジニアリング業界に根付く前でしたので、HSEの業務として何をしなければいけないのか、すべきなのかが体系化されておらず、手探りで進めているような状態でした。そんな中、入社2年目頃にプロジェクトのタスクチームの中でHSEを担当するプロジェクトエンジニアとして働くようになりました。
お客様とエンジニアリング部署の界面を調整するのが主な業務で、基本的にはHSEに関係する部分を取りまとめるのですが、HSEの仕事がないときはプロジェクトの他の仕事をやらせてもらっていたので、色々なことを経験させてもらえました。今はHSE部門の業務量が増えてこのようなことは滅多にないので、HSE黎明期だったからこそのメリットですね。

当初はHSEについてもエンジニアリングについても知識が乏しく、本当に稚拙だったと思います。ですが、こうしてプロジェクト内のHSEに関する全ての事に対応する中で、少しずつ知識を蓄積していきました。プロジェクトで新しい課題に直面する度に、段々と「こういうフレームワークが必要なんだな」ということが実感として分かるようになり、それに合わせて学んでいくという形でしたね。
――プロジェクトで課題に直面しながら、ひとつひとつHSEの仕組みを整えていったというお話でしたが、どういったことを意識して取り組んでいましたか。
直面した課題に対処していく際には、1つひとつの技術やリスクに対して「背景や目的を深く理解すること」を大切にしていました。今もそうですが、背景や目的も含めて自分の中で納得できる形で集め、その上で「HSE」や「プロセス安全」といわれる技術のフレームワークに落とし込むことを意識して取り組んでいます。最終的に、多国籍なメンバーのそれぞれの長所をうまく引き出して、安全なプラント設計を達成することを目標にしています。
――入社以来、HSEに従事してこられたということですが、ターニングポイントとなった、特に印象に残っている業務上の経験はありますか。
入社7年目くらいの頃に、初めて「エンジニアリングHSEマネージャー」というポジションでインドネシアでのLNGプロジェクトに従事した時のことです。FEEDまでに決まっていたHSE要求の設計への反映の仕方に多数不備が見つかってしまい、EPCのバジェットおよび契約要求と照らしながら、どのように解決するかを日々悩みながら対応したことが、最も印象に残っています。その経験から、EPC時点ではHSEの要求を反映した設計を始めるのには遅すぎるので、その前のフェーズまでにEPCでの失敗につながらないような設計思想を固めることを強く意識するようになりました。
ほかにも、派遣制度を使って博士課程に挑戦したことや、原子力プロジェクトの「セーフティケースマネージャー」などを務めさせていただいたことも、HSEエンジニアとして成長につながったと思っています。
HSEエンジニアのやりがいとは?

――HSEの仕事をしていてやりがいを感じるのはどのような時ですか?
HSEを設計の中でどのように実装するかは、個人間、客先とコントラクター間、同じ組織内でも部署間などによって考え方に大きな相違が出てくるものです。これは各自の専門性や置かれた立場の違いがあるので当然なのですが、そういう状況で全員が満足する方向を見出すのはとても難しいです。ただ時間はかかりますが、お互いの意見を何度も話し合っていく中で、共通の方向性を見出せることがあります。顧客も含めてそのような満足してもらえる方向性を見出せて、かつ合意できたときにはやっていて良かったなと思えます。
――立場の異なる人や組織に納得してもらえる方向性を示すというのは、実際には非常に難しいところだと思いますが、HSEエンジニアとして意識していることはありますか。
HSEという分野は人によって考え方や感じ方が大きく変わってくるものであることはお伝えした通りなのですが、だからこそ、お客様にとって経済性だけでない価値を生むものでもあると思っています。ですから、お客様にとっての課題を背景も含めてよく理解したうえで、お客様にとって最も良いソリューションを提示することを意識しています。そのソリューションはもしかするとお客様にとっては受入れにくいものかもしれませんが、最終的に本当に良いものを作ってもらえたと思ってもらえることが理想です。
――エンジニア育成という観点では、どのようなことを大事にしていますか。
メンバーにはHSEやプロセス安全のフレームワークや、目指しているゴールなどを共有した上で、出来るだけ自由に考えてもらい、行き詰った時にはアドバイスするという姿勢を大事にしています。また、大学での教育活動や社外活動に取り組む姿を通して、エンジニアとしてこういう風に活躍できる道もあるんだよ、というロールモデルの一例を示すことが、後輩の何かの参考になれば良いなと思っています。
プライベートの過ごし方・今後の展望
――プライベートや休日はどのように過ごされていますか。趣味や最近の関心ごとなどありましたら教えてください。
休日は、大学の講義資料作りや研究会の活動に充てることが多いですね。最近は生成AIやデータ分析を活用して様々な分野の動向を調べたり、技術の可視化やデザイン支援を試してみるのが個人的な興味になっています。ここ1年の生成AIの進化は目覚ましく、私の専門分野についてもかなり詳しくなってきているのを実感します。一方で、学生さんに教える立場として、自分の方が優れている部分は何だろう?と自問自答する場面も増えました。
――ワークライフバランスはとれていると感じますか?仕事とプライベートの両立において、特に意識していることがあれば教えてください。
仕事漬け気味の日々かもしれませんが、自分なりに切り替えながら無理なく続けることを大事にしています。会社でのEPC業務とCoreSafety開発、大学での研究活動や講義、安全工学会での委員活動とタイプの違う仕事に携わっているので、一つに息詰まると、違う仕事に手をつけるなどすることが気分転換になっています。仕事で感じた不足部分を研究のタネにしてみるなどの相乗効果もあるのかなと感じており、仕事が趣味のような状況ですね。
強いて言えば、自然に触れながら、今までやってきたことなどを、ゆっくり思考を巡らしながら整理できる時間をつくりたいなと思うことはあります。特に明確な計画があるわけではありませんが、静かな場所で本を読んだり、思索にふけるような過ごし方に憧れはあります。
――最後に、HSEやプロセス安全に携わる方々や、興味・関心を持っている方々に向けて一言お願いします。

日揮グローバルは海外で大きなプロジェクトで先端の技術に触れる機会が非常に多く、若い人たちもそこでの経験を通して技術が伸びていきます。その先には、社外に出て活躍できる場があると思います。
私も、これまでの実務や研究を通して得た知見を、できるだけ大学の講義などで若い方に伝えていきたいと思っています。「HSE」や「プロセス安全」が認知され、優秀な方がこのカテゴリーの勉強やその後の技術者としての専門分野として選択してもらえるような社会にしていきたいですね。
まとめ
今回の記事では、「HSE」のエキスパートとして活躍するチーフエンジニアに、キャリアパスや転機となった出来事、仕事のやりがい、プライベートの過ごし方などについて話を聞きました。HSEの概要や最新トピックスについて聞いたインタビュー前半は、こちらの記事をご覧ください。
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