• HOME
  • コラム
  • (後編)【プラント建設の未来を支える技術者たち #04】燃焼器エンジニア インタビュー
インタビュー わたしの仕事と日常
テクノロジー プラント

2025.06.12

(後編)【プラント建設の未来を支える技術者たち #04】燃焼器エンジニア インタビュー

(後編)【プラント建設の未来を支える技術者たち #04】燃焼器エンジニア インタビュー

目次

    プラントの設計・調達・建設を事業の柱とする日揮グローバルでは、幅広い分野の技術エキスパート*が事業の根幹を支えています。彼らの持つさまざまな専門技術はプラント建設だけでなく、サステナブルな社会を実現するうえでも欠かせないものです。そこでサステナビリティハブでは、チーフエンジニア**の方々に専門技術や最新トピックなどを解説してもらうインタビュー記事の連載をスタートしました。今回の記事は、「燃焼器」エンジニアのインタビュー後半です。40余年のエンジニアとしてキャリアで印象に残っている経験や、業務の面白さ・やりがいなどについてお伺いしました。是非ご覧ください。(インタビュアー:サステナビリティハブ編集部)

    *エキスパート制度は、日揮ホールディングス、日揮コーポレートソリューションズ、日揮グローバル、日揮が対象
    **チーフエンジニアは、チーフエキスパートとリーディングエキスパートの総称

    「燃焼器」の概要や最新トピックスなどについて聞いたインタビュー前半は、こちらの記事をご覧ください。

    プロフィール

    燃焼器エンジニアとしてのキャリア形成

    ――山田さんは入社後、どのような経緯で燃焼器のエンジニアになったのでしょうか。

    入社後に火熱部(入社当時 加熱炉設計を行っていた部署)に配属され、その後は社内ローテーションでプロセス部に所属した1年間を除くと、一貫して燃焼器の設計に従事してきました。

    ――学生の頃も、燃焼技術に関連する研究をしていたのですか。

    そうですね、大学では内燃機関の研究をしていたので、今の仕事と通じる部分もありました。もともと大きな船をつくりたいと思っていたのですが、研究室の担当教授に紹介されて日揮(当時)の面接を受け、縁あって働くことになりました。具体的なイメージを持たないまま入社しましたが、実際に業務に携わってみるとエンジニアリング会社の燃焼器の仕事は奥が深く、気が付けば40年以上経っていました(笑)。

    ――40年以上の長きにわたって燃焼器エンジニアとしてキャリアを積んできた中で、ターニングポイントとなった経験はありますか。

    初めてリードエンジニアとして参画したGTL(Gas to Liquids)プラント建設プロジェクトは、今でも強く印象に残っています。水素製造用の水蒸気改質炉、フレアスタック、廃液インシネレータ、熱媒加熱炉の4種類の燃焼器を自分で設計し、部品の調達、製作管理までのすべての工程をおこない、現場建設と運転開始にも立ち合いました。もともと私の業務範囲はジョブ受注前の見積りまででしたが、自分が見積設計したものを最後まで見届けたいという思いから、上司に頼み込んでリードエンジニアとして携わらせてもらったのです。このGTLプラントは運転開始の数年後に事故があったのですが、その復旧プロジェクトでは現場の破損状況を把握した上で、当時担当した燃焼器の修復もおこないました。自分が設計したので部品の細部まで把握していたことも、部品一つ一つの健全性の確認や破損部品の交換手順の立案に役立ちましたね。

    通常、リードエンジニアは入社10年目くらいで任されるのですが、入社4~5年目の20代でリードエンジニアとしてプロジェクトに携わり、自分が設計した機器が実際に動くところまで見届けることが出来たこの経験は、40年以上のエンジニア人生での一番の思い出です。

    また、この新技術であるGTLプロジェクトがきっかけで水素製造用の水蒸気改質装置への理解が深まり、この時の経験が、現在おこなっているアンモニア分解による水素製造装置の開発や燃料用大型ブルーアンモニア装置の水素製造方法の評価にもつながっています。

    燃焼器エンジニア業務の面白さ、やりがいとは?

    ――燃焼器エンジニアの業務は非常に多岐にわたりますが、特に“腕の見せ所”だなと感じるのは、どんな時でしょうか?

    省エネや排熱の有効利用、大気汚染物質の排出削減、最近では CO₂排出抑制などを考慮して、設計や機器構成を考えるところですね。

    「燃焼」と一口に言っても、天然ガスや廃油、石炭、バイオマスなど燃やす燃料は色々あり、燃焼温度や速度などの燃焼に適した条件も異なり、燃やした際に出てくるNOx*生成量もまたそれぞれの燃料で特徴があります。そのNOxの排出を抑制しながらどうやって燃焼適正領域にうまく持っていくのか、また燃焼器の運転をどうやって立ち上げていくのか、運転をどうやって止めていけば安全なのか、そうしたところまで考えて環境や設備構成を設計するのが、腕の見せ所かもしれません。燃焼器は現場で火をつけて初めてその善し悪しが分かるため、そこがこの仕事の面白いところです。

    *NOx:物が高温で燃えた時に空気中または燃料の酸素と窒素が結びついて発生する窒素酸化物のこと

    ほかにも、問い合わせへの対応、トラブル対応などをしているときにもやりがいを感じますね。

    ――トラブル対応というと、具体的にはどんなことをするのでしょうか。

    トラブル対応にも色々ありますが、基本的には建設時や運転時に不具合が発見された際に、その原因を突き止めて、どのように対応するのか方針を決め、対応するといった流れです。例えば、とあるプロジェクトでは機器と機器の本体をつなぐ接続部がASME(アメリカ機械学会)の規格を満たしていないことが分かり、急遽、ASMEの権威である米国の研究所に現場を見てもらい、これで問題がないということをお客様に説明してもらったこともありました。そのプロジェクトでは他にも運転上のトラブルが発生し、3か月の予定で行ったところが最終的には3年弱駐在しました(笑)。

    ――トラブルを解決しないとプラントの操業が止まってしまう、というプレッシャーの中でのトラブル対応は本当に大変そうですね。特に意識している心構えなどはありますか。

    もう起こってしまったことは仕方がないので、「限られた期間の中で出来ることは何だろう?と考えて、最善に向けて工夫していく」。そんな気持ちで取り組んでいます。例えば、以前、試運転後にボイラが壊れてしまったことがありましたが、その時はすぐに現場からボイラメーカーの社長さんのもとに向かい、「こういうものを、このスケジュールで大至急作ってほしい!」と話しに行きました。

    EPCを生業とする当社は、残念ながら自分たちではものを作れませんから、周りの人・会社に動いてもらえるように働きかけるのも我々の大事な仕事だと考えています。専門家としての人のつながりは大切で、アンモニア分解の開発で燃焼試験を行った水素・アンモニアのオフガス燃料バーナは、30年以上前に知り合ったバーナメーカのシニアエンジニアと議論を重ねて採用しました。

    プライベートの過ごし方

    ――海外での長期滞在の時は、休日はどのように過ごしていましたか?

    基本的にはサイトの周りのキャンプに滞在します。ずいぶん昔の話になりますが、マレーシアのプロジェクトではすぐ近くにジャングルがあったので、休日はよく探検していましたね。ワニがすぐそこにいたりして、面白かったですよ。

    ――プライベートの時間はどのように過ごしていますか。最近の関心ごとや、趣味などがあれば教えてください。

    2年前に引退するまで、20年くらい少年サッカーチームの監督をしていましたが、その頃は、週末は朝から夕方まで小学生とサッカーをしていましたね。今は、ジョギングや散歩をしたり、数カ月に1度は山歩きをしたりしています。料理をするのも好きなので、週末は家族にリクエストされた料理を作ることも多いですね。

    同僚と登った丹沢の塔ノ岳山頂での一枚(右が山田さん)

    今後の展望

    ――今後、業務を通して実現したいことはありますか。

    「アンモニアを利活用した脱炭素社会」を実現したいですね。今ちょうど、燃料アンモニアの2030年受け入れに向けた拠点整備が動き始めているので、そこに向けて技術開発を進めています。まずは工場などでの水素・アンモニア活用が進み、ゆくゆくは家庭でも水素を燃料として使える日も来るはずです。

    ――最後に、燃焼器のチーフエキスパートとしての今後の目標や、燃焼器エンジニアの方々に伝えたいことがあれば教えてください。

    当社の仕事は「技術の力で世の中を良くすること」だと思っています。世の中に必要とされる技術を提案し、より良い世の中を実現していくためにも、エンジニアひとりひとりが、そこにうまくフィットする関連技術を主体的に学ぶ姿勢を持ち続けて欲しいですね。

    まとめ

    今回の記事では、「燃焼器」のエキスパートとして活躍するエンジニアに、キャリアパスや転機となった出来事、プライベートの過ごし方などについて話を聞きました。燃焼器の概要や必要とされる技術、最新トピックスについて聞いたインタビュー前半は、こちらの記事をご覧ください.