• HOME
  • コラム
  • (前編)【プラント建設の未来を支える技術者たち #04】燃焼器エンジニア インタビュー
インタビュー わたしの仕事と日常
テクノロジー プラント

2025.06.05

(前編)【プラント建設の未来を支える技術者たち #04】燃焼器エンジニア インタビュー

(前編)【プラント建設の未来を支える技術者たち #04】燃焼器エンジニア インタビュー

目次

    プラントの設計・調達・建設を事業の柱とする日揮グローバルでは、幅広い分野の技術エキスパート*が事業の根幹を支えています。彼らの持つさまざまな専門技術はプラント建設だけでなく、サステナブルな社会を実現するうえでも欠かせないものです。そこでサステナビリティハブでは、チーフエンジニア**の方々に専門技術や最新トピックなどをなどを解説してもらうインタビュー記事を連載しています。第4弾となる今回のテーマは、「燃焼器」。是非ご覧ください。(インタビュアー:サステナビリティハブ編集部)

    *エキスパート制度は、日揮ホールディングス、日揮コーポレートソリューションズ、日揮グローバル、日揮が対象
    **チーフエンジニアは、チーフエキスパートとリーディングエキスパートの総称

    プロフィール

    「燃焼器」とは?

    燃焼器の概要・種類

    ――山田さんは火熱機器のチーフエキスパートとのことですが、「火熱機器」とは何なのか、という基本の部分から教えていただけますか。

    「火熱(かねつ)機器」というのは、「バーナで燃料や廃棄物を燃焼させたり、蒸気を発生させたりする装置」の総称です。身近なものでいうと、ボイラ設備や焼却炉がそれにあたります。当社では、火と熱を扱う機器として「火熱機器」と呼んでいますが、一般的には「燃焼器」と呼ぶことが多いかもしれませんね。ですので今日は、「燃焼器」という言葉を使って説明していきたいと思います。

    プラント内の「燃焼器」活用事例

    ――プラント内ではどのような「燃焼器」が使われているのでしょうか。

    製油所や石油化学プラントなどで使われている代表的な燃焼器は、その機能で大きく4つに分類できます。

    1つ目は、加熱炉(Fired Heater)です。加熱炉は、プロセス流体としてのガスや油をバーナで加熱して、その工程で必要な温度に到達させるための機器です。熱を与える燃焼バーナ、加熱される流体が流れるチューブ(伝熱管)、それを取り囲む耐火材や炉枠で構成されています。チューブ内を流れるガスや油を、チューブ外部からバーナでの燃料の燃焼によって加熱します。

    2つ目は、ボイラ(Boiler)です。ボイラは、動力としての蒸気をプラントへ供給する機器です。プラントの蒸気需要に応じて、途切れることなく必要な蒸気量を供給するためには、ボイラシステムの信頼性、運転制御性や運転追随性*が重要になります。

    *運転追随性:装置の中で蒸気を必要とするものが起動した際、それに追随してボイラ運転を調整し、途
    切れることなく必要とされる蒸気流量を供給すること。

    3つめは、焼却炉(Incinerator)です。焼却炉は、廃ガスや廃液を燃焼によって無害化する機器です。例えば、酸性ガスや廃液を酸化焼却し、排ガス処理を行います(排煙中の有害物質を分離・除去して無害化)。処理された排ガスを排出規制に基づいて煙突から排出します。

    4つめは、フレア(Flare)です。フレアは、プラント機器の緊急脱圧*で排出する煙突で、可燃ガスや毒性ガスを排出した際に、煙突上部で燃焼焼却し無害化するための装置です。これはプラントの起動停止時や緊急時のみ使用し、プラントの通常運転では緊急時に備え、種火のみで運転します。プラントの煙突から炎が出ているのを見たことはありませんか? あれが「フレア」です。

    *緊急脱圧:プラント装置が制御不能な緊急時に、塔槽や熱交換器などの機器内部の流体を短時間で外部に排出し、内圧を下げることで機器を破損から保護すること。プラントの重大事故を防止する。

    左から順に、水蒸気改質炉(左側の白い屋根の四角い箱)、加熱炉内のバーナ燃焼、フレア

    今挙げた4種類のほかに、近年クリーンエネルギーとして注目を集めている水素・アンモニア製造にかかわる「水蒸気改質装置」や「アンモニア分解炉」も、燃焼器として扱っています。

    燃焼器エンジニアの仕事とは?

    プラント建設における燃焼器エンジニアの仕事・必要な知識

    ――プラント建設の中で、燃焼器エンジニアはどのような仕事をしているのでしょうか。

    私が入社した 1980 年代は、燃焼器エンジニアの主な仕事は、加熱炉の設計・調達・製作でした。プロセス要求に基づいて加熱炉を基本・詳細設計し、チューブやバーナ等の部品を調達し、製作工場で炉枠やチューブを製作して、それを現場で据付・組立てて、運転・性能確認するところまで、文字通り “機器の設計から運転まで” を担当していました。
    入社から約 15 年間で燃焼器の設計から運転までの業務全体を経験し、それぞれの部品や製作に必要な納期や要素、関係者との繋がり、そして運転性能達成までの苦労と完成した際の充実感を体感することができました。

    1990 年代の終わりごろから、燃焼器をパッケージとして一括購入するようになり、それに伴って燃焼器エンジニアの仕事も変化しました。まずスペック(要求仕様)を作成して調達部経由で燃焼器専門メーカーに見積の引合をし、省エネや排熱有効利用、大気汚染物質の排出削減、最近では CO₂排出抑制などを考慮して、設計や機器構成を考えます。この
    際、各メーカー見積の技術評価をおこない、メーカーを選定するのも重要な業務のひとつです。

    発注後はメーカー図書のレビューや社内他部門への設計情報の提供など、メーカー設計品質の維持やスケジュール管理に重点を置き、メーカー対応や管理をおこないます。業務範囲としては、燃焼器の FOB(出荷港渡し)までですが、建設やコミッショニング部門の要請があれば、建設現場での試運転の対応もおこないます。エンジニアの経験や設計への改善点の反映を考えると、現場対応も必要と考えています。最近は、プロジェクトの規模が大きくなり、機器の設計から試運転まで、トータルで4、5 年といったスパンで関わります。

    ――燃焼器エンジニアは幅広い知識や技術が求められそうですね。

    はい、多岐に渡る知識・技術が必要になりますが、特に重要なのは「燃焼」と「放射伝熱」です。

    「燃焼」については、対象となるガスや液体の燃焼性、空気比、燃焼温度、助燃の要否、燃焼方法といった燃焼に必要な条件、窒素酸化物(NOx)等の燃焼生成物の発生機構などの知識が必要です。「燃焼」といっても、ただ単に燃料を燃やすだけではなく、燃焼器の運転を適性に制御しながら、適正な燃焼条件を維持することが重要になります。近年では、水素・アンモニア燃焼も扱っています。

    「放射伝熱」というのは、高温物体から低温物体へ空間を通して熱が伝わる現象のことで、例えば太陽から受ける熱やキャンプファイヤーで炎に向かった手のひらが暖かく感じるのが、それです。装置を設計する際には、バーナ火炎から伝熱管チューブへの伝熱計算やフレア火炎から周囲への熱影響を「放射伝熱」として考慮する必要があります。今挙げた「燃焼」と「放射伝熱」以外にも、高温に晒される耐火材や金属材料、適正で安全な燃焼条件を維持する燃焼制御、大規模な燃焼器を支える構造力学などの幅広い知識・技術も求められます。

    燃焼器の最新技術・トレンドとは?

    ――近年、エネルギー分野における脱炭素に向けた動きが加速していますが、燃焼器の分野では、どのような動きがあるのか教えていただけますか。

    燃焼器の分野でも、脱炭素に向けてエネルギーとしての水素アンモニア活用に対応するための技術開発およびプロジェクト対応への準備が着々と進められています。私のチームでも、2つのプロジェクトに取り組んでいます。

    アンモニア熱分解による水素製造

    1つ目は、「アンモニア分解による水素製造技術の開発」です。
    これは NEDO「競争的な水素サプライチェーン構築に向けた技術開発事業」で採択された研究開発テーマで、水素キャリアとして期待されているアンモニアを熱分解して水素を取り出し、需要者に水素供給するプロセス開発のプロジェクトです。プロセスのメイン機器がアンモニア分解炉であることから、本開発のリーダを務めています。

    ――アンモニア分解炉を使うと、どのような流れでアンモニアから水素を取り出すことができるのか、もう少し詳しく教えていただけますか。

    アンモニア分解炉は、触媒を充填した分解管、熱を供給する燃焼バーナ、そしてこれらを囲む耐火材・炉枠で構成されています。原料の液体アンモニアを気化・予熱して分解炉に導入し、熱分解をおこないますが、その際、アンモニアは触媒上で外部から熱を受けることで、水素と窒素の分解ガスを生成します。液体アンモニアを使用するのは、輸送の利便性を考慮してのことです。発生した分解ガスは精製装置を通して純度の高い製品水素に精製されます。また、精製装置からのオフガスをアンモニア分解炉の燃料として再利用することで、CO₂を排出せずに効率よく水素を製造することができます。

    (出典:NEDO「水素・燃料電池成果報告会2024」

    ――この装置はすでに商用化されているものなのでしょうか。

    いいえ、アンモニア分解炉はまだ商業化はされておらず、今まさに国内外の複数の企業が、それぞれ装置の開発を進めている状況です。当社も分解管の材料選定やアンモニアや水素燃料でのバーナ燃焼試験などのデータを収集し、アンモニア分解炉の設計およびアンモニア分解による水素製造プロセスの開発を進めています。

    燃料用大型ブルーアンモニア製造装置

    もう1つは、「燃料用大型ブルーアンモニア製造装置」の FEED-EPC 業務への準備です。
    ブルーアンモニアは、天然ガスを水蒸気改質して水素を生成し、その際に発生した CO₂をCCS などで分離し、生成した水素に窒素を合成して作ります。このプロジェクトはアンモニア製造で独自技術を持つ米国 KBR 社のライセンスの下、東洋エンジニアリングと当社でアライアンスを組んで FEED-EPC の受注を目指しています。アンモニア合成の原料になる水素製造装置の大型化に関して評価をしました。

    天然ガスから水素を製造するには、水蒸気と天然ガスを混合して触媒上で高温加熱する水蒸気改質 SMR 法(Steam Methane Reforming )と天然ガスを酸素で部分燃焼させる部分酸化 POX 法( Partial Oxidization )、そしてその両方を組み合わせた ATR 法(Autothermal reforming )の3種類の方法があります。

    今、世の中にある大型のアンモニア製造装置は、肥料用にとどまります。もし大型の燃料用アンモニア製造装置が完成すれば、燃料アンモニアの利活用が大きく前進します。そこで、日本における海外アンモニアの受け入れ開始が予定されている 2030 年頃までに、ぜひパートナーである東洋エンジニアリング(株)と協力して FEED-EPC を受注できるよう
    に準備を進めていきたいと考えています。

    技術伝承・人材育成のポイントとは?

    ――技術開発に加えて、技術伝承・人材育成もチーフエキスパートの重要な業務だと聞いています。技術伝承・エンジニア育成において、特に大事にしていることはありますか?

    技術伝承・人材育成の面では、隔週で新技術である水素・アンモニアに関する勉強会を対面で実施しています。また、社内・関連会社からの問い合わせやトラブル対応には、若手または中堅エンジニアを入れて議論対応することで、経験の底上げを図っています。

    ――山田さんが理想としているエンジニア像はありますか。

    目指すエンジニア像はありませんが、「自分の経験や考えを論理的に伝えること」を心がけています。

    ――社外活動として、新化学技術推進協会(JACI)の戦略提言部会で「戦略提言書(基本戦略 2.0)」を執筆されたとのことですが、どのような内容なのでしょうか。

    資源・環境・エネルギー分野において、2050 年の標準シナリオと望ましいシナリオを作成し、そのギャップを埋める将来技術を深堀りしました。整理した未来社会は、サーキュラーエコノミー社会・省エネ、次世代エネルギー社会、カーボンネガティブ社会の3つで、私は「カーボンネガティブ社会」について執筆しました。

    2050 年に GHG 排出を最大限に削減できたとしても、最終的に CO₂ の排出が避けられない分野があります。それを相殺する手段としてカーボンネガティブ技術の活用が必要になります。提言書の中では、DAC、BECCS、バイオ炭などの技術を取り上げ、実用例や実施するための組織を含めた提案をおこないました。

    まとめ

    今回の記事では、「燃焼器」のチーフエキスパートに、専門技術や最新トピックスなどについて話を聞きました。インタビュー後編の次回記事では、仕事のやりがい、燃焼器のチーフエキスパートとして活躍するに至った経緯や、休みの日の過ごし方など、プライベートに近い内容をお伺いします。是非ご覧ください。