2023.06.13
ESG経営とは?|成功のポイント・事例を紹介
目次
ESG経営とは?
「環境(Environment)」・「社会(Social)」・「企業統治(Governance)」の3要素を重視した経営
ESG経営とは、「環境(Environment)」、「社会(Social)」、「企業統治(Governance)」の3つの要素を重視した経営のことです。
2005年に国連が発表した機関投資家向けの指針「責任投資原則(PRI)」のなかで、「投資分析と意思決定のプロセスにESGの課題を組み込むこと」が提唱されたことをきっかけに注目されるようになりました。
企業がESGの要素を経営に取り入れることによって期待されるのは、投資家からの評価向上や、企業イメージの向上、経営の持続性といわれています。
さらにESGの各要素にまつわる取り組みとしては、以下のようなものが挙げられます。
環境(E) | 温室効果ガスの排出削減や自然資源の保護、リスク管理などの環境活動 |
社会(S) | 労働者の待遇や人権、健康・安全管理、地域社会との関係、製品の品質・安全などの社会活動 |
企業統治(G) | 経営者のリーダーシップ、企業倫理、取締役会の構成や開示、報酬などの企業統治活動 |
SDGsとESG経営の違い
「SDGs(持続可能な開発目標)」は国連が定めた17の目標と169のターゲットを具体的に達成することを目指しているのに対し、「ESG経営」は企業の経営において環境・社会・企業統治の3つの観点を重視することを目指しています。この点が主な違いである一方で、SDGsとESG経営は環境や社会に配慮する点で共通しています。そのため、ESG経営をおこなうことが結果としてSDGsの目標の達成につながるケースも少なくありません。
例えば、企業が温室効果ガス削減に取り組むことはSDGsの「13. 気候変動に具体的な対策を」と関連しており、ダイバーシティ推進に取り組むことは「5. ジェンダー平等を実現しよう」などの目標達成につながります。
ESG経営に期待できる効果
企業がESG経営に取り組むことで期待できる点はどのようなものなのでしょうか。
将来的なキャッシュフローの増加につながる
ESG経営に取り組むことで、企業は長期的な視野で経営をおこなうことができます。
ESG投資家は責任投資原則(PRI)に基づき、ESG評価が高い企業に投資する傾向があるため、ESG評価が高い企業は資金調達において有利になります。
またESG経営をおこなうことで、環境や社会に対する責任を果たすことができ、顧客や社会からの信頼を得ることができます。これにより「企業価値」が向上し、将来的なキャッシュフローの増加が期待されます。
リスク管理につながる
企業が環境に配慮した経営をおこなうことは、環境規制違反による罰金や訴訟リスクの回避となり、さらに労働環境の整備は、労働災害や過労死などのリスク回避となります。
このようにESG経営をおこなうことは企業のリスク管理にも良い影響を与えるといえるでしょう。
ブランド力の強化につながる
ESG経営をおこなうことで、企業は社会的責任を果たしていることをアピールすることができます。これにより、顧客や社会からの信頼を得ることができ、ブランド力を強化することができます。
企業のブランド力の向上が従業員のモチベーション向上につながり、従業員の定着率の向上にもつながります。このような好循環が起きることで、企業は人材を確保しやすくなります。
ESG経営を導入する上での課題
一方で、ESG経営には次のような課題も存在します。
短期間では効果が出にくい
ESG経営による効果は長期的なものであり、企業によっては効果が現れるまでに時間がかかることもあります。
ESG経営を取り入れる企業は、株主や投資家に対して透明性・信頼性のある情報を提供しながら十分に説明をすることが大切です。
方向性を見極めにくい
ESGの評価基準は明確に定められていないため、経営者はESG評価の向上に取り組む際に、何を重視すべきか迷うことがあるかもしれません。
主流である考え方は「ESG経営をおこなうことで社会的責任を果たせる」ではあるものの、社会的責任をしっかり果たしていると周囲から評価されるかどうかは、各国や地域の文化・法律、倫理観によって異なり、曖昧な側面も存在します。そのため方向性が決めにくい部分も見えてくる場合があります。
ESG経営成功のためのポイント
では、ESG経営を成功に導くために大切なポイントはどのようなものがあるのでしょうか。
目標設定を明確にする
ESG経営の目的や目標を明確に設定し、全社員に共有することが求められます。具体的なアクションプランを策定し、組織全体で取り組むと良いでしょう。
組織体制の整備をしっかりとおこなう
ESG経営を実施する上では、企業の業務内容や規模、業界の特性を考慮した取り組みをおこなうことが大切です。他企業の取り組みを参考にするだけでなく、自社に合った方法でESG経営を実践することや、経営トップがESG経営の推進役となり、社内外に対してコミットメントを示すことが効果的です。
情報開示を心がける
ESG経営の成果を定期的に評価・検証し、継続的な改善をおこなうことが大切です。外部からの評価も受け入れ、透明性のある情報開示を心掛けましょう。
知財との連携を重要視する
2021年のコーポレートガバナンス・コード*改訂により、知財投資に関する補充規則が追加されました。これにより、知財マネジメントの体制づくりや、競合相手との差別化を図るための特許ポートフォリオの構築に注目する投資家も出てきており、企業統治における知財戦略の重要性は高まりを見せています。
知財部門と経営部門が相互に連携し合いながら、ESG経営に取り組んでいくことも必要といえます。
* 企業が株主をはじめ顧客・ 従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定をおこなうための仕組みである「コーポレートガバナンス」を実現するための主要な原則を取りまとめたもの
ESG経営の実施事例
世界の主要企業においても、ESG経営への取り組みが進められています。以下に、その事例をいくつか紹介します。
トヨタ自動車
- 環境(E)
気候変動への対応として、車が走行時に排出するCO2だけではなく、素材・部品製造、車両製造、 物流、エネルギー製造、廃棄・リサイクルなど、車のライフサイクルの全てのプロセスにおけるカーボンニュートラルに取り組んでいます。また、廃車を適正に処理する資源循環型の社会システムの構築や、生物多様性の保全活動にも力を入れています。
- 社会(S)
「国連ビジネスと人権に関する指導原則」に基づき 人権尊重の取り組みを推進しており、同社の従業員は「トヨタ自動車人権方針」、サプライヤー各社には「仕入先サステナビ リティガイドライン」に基づいて人権の尊重を求め、人権デューデリジェンスや教育を実施しています。また、ダイバーシティ&インクルージョン推進や、従業員の健康や安全面にも配慮した取り組みをおこなっています。
- 企業統治(G)
コーポレートガバナンス体制の整備や取締役会や監査役会の適切な運営などをおこない、持続的な成長と長期安定的な企業価値の向上を支えるガバナンス体制の確立に取り組んでいます。また、リスクマネジメントの推進体制の整備や、コンプライアンス教育を強化しコンプライアンスの周知・徹底もおこなっています。
ソニー
- 環境(E)
省エネルギー製品の開発や再生可能エネルギーの利用による環境負荷の低減や、廃棄物の削減やリサイクルによる循環型社会の実現に向けた取り組みをおこなっているほか、水資源の管理や森林保全など、自然環境保全にも力を入れています。
- 社会(S)
グループ全体の事業活動とバリューチェーンにおける人権リスク分析・モニタリングや 人権デューデリジェンスを継続して実施しているほか、ダイバーシティ・インクルージョン、社員エンゲージメントに注力し、多様な人材が活躍できる場の創出や成長機会の提供に注力しています。
また、事業活動をおこなう世界の各地域において、製品・コンテンツ、テクノロジーを用いてさまざまなグローバル課題の解決に取り組んでいます。
- 企業統治(G)
ESG・サステナビリティに関する事項について取締役会に対する定期的な報告の実施や、社外取締役の活用、内部監査の強化によりコーポレートガバナンス体制の強化をおこなっています。また、グループに損失を与えうるリスクの管理や、情報セキュリティ管理の体制の強化にも取り組んでいます。
丸井グループ
- 環境(E)
環境負荷低減のため、2030年までに使用電力の再生可能エネルギー比率を100%にすることや、スコープ1~2のCO2の排出量を2030年までに80%、2050年までに90%削減することを目標としています。
具体的には、使用電力の再生可能エネルギーへの転換や節電の実施、効率化などに取り組んでいるほか、グループ会社で太陽光発電設備を設置し、年間一般家庭100世帯分の発電量を創出しています。
- 社会(S)
サプライチェーンの管理による「責任ある調達」の実現や、労働者・顧客の多様性の確保、女性雇用の促進、出産までのサポートや育児のサポート、障害者雇用の促進などをおこなっています。
また、社員に最適な労働環境を提供するため、職種変更制度や残業削減なども実施しています。募金活動や震災地復興支援活動といった社会貢献活動にも取り組んでいます。
まとめ
今回は、企業の持続可能な成長につながるESG経営についてご紹介しました。皆さまの参考になれば幸いです。