脱炭素社会を目指して|国・地域・企業の取り組みを紹介
カーボンニュートラル サステナビリティ入門
温室効果ガスの排出などによる気候変動が問題になっている今、「脱炭素社会」の実現が世界的な課題として認識されるようになりました。日本においても、国や自治体が脱炭素社会に向けた取り組みに着手し始めています。
今回は、脱炭素社会とは何かを解説するとともに、国や地域、企業における取り組みの事例を紹介します。
脱炭素社会とは
脱炭素社会とは、二酸化炭素をはじめとした温室効果ガスの「排出量」と「吸収・除去量」を相殺して「実質ゼロ」にする、脱炭素を実現した社会のことを指します。
脱炭素の定義や世界・日本の現状については以下の記事で詳しく解説しているので是非参考にしてください。

「低炭素社会」とはどこが違う?
脱炭素社会と似た意味を持つ言葉に「低炭素社会」があります。低炭素社会とは、温室効果ガスの排出を「できるだけ低く抑える」社会を指します。
かつては地球温暖化対策の指針として低炭素社会の実現が挙げられていました。しかし地球温暖化が予想以上に深刻化していることを受け、2015年に採択されたパリ協定では低炭素社会から脱炭素社会へと対策の指針が大きく変化したのです。
【国】脱炭素社会の実現へ向けた取り組み
脱炭素社会の実現に向けて、パリ協定で世界の国々が目標を設定し取り組みをスタートさせています。日本ではどのような取り組みがおこなわれているのか、6つの事例をもとに解説します。
地球温暖化対策にまつわる法整備
脱炭素社会の実現に向けた取り組みやイノベーション、投資を加速させると同時に、地域の再生可能エネルギーの活用や企業の脱炭素経営を推進するため、2021年に「改正地球温暖化対策推進法」が成立しました。法律には、2050年までに脱炭素社会を実現することが明記されています。ゴールを見据えた政策の継続性を高め、地域や企業が取り組みを推進しやすくなることが期待されます。
具体的な施策としては、再生可能エネルギー事業の認定制度整備による導入促進や、温室効果ガスの排出量情報をオープンデータ化する利便性向上の取り組みなどが挙げられています。
地域脱炭素ロードマップの策定
地域脱炭素ロードマップとは、「地方からはじまる、次の時代への移行戦略」をキーメッセージとし、地方創生にもつながる脱炭素を国全体として取り組むうえで、特に2030年までに集中しておこなう内容を示したものです。
脱炭素を地方創生の成長戦略の一つに位置づけ、「地域脱炭素」の具体策とその工程を示していることが特徴です。具体的な施策の一つに「2030年度までに少なくとも100か所以上の『脱炭素先行地域』をつくる」ことを掲げており、そのために自家消費型太陽光発電や省エネ住宅、電気自動車などの重点施策を全国各地で実施する方針となっています。
脱炭素化事業支援
脱炭素経営を実現するために、気候変動に対応した経営戦略の開示(TCFD)や、SBT、RE100といった国際的な目標に取り組む企業も増えています。日本ではTCFDの賛同企業が世界で最も多く、SBTやRE100といった枠組みへの加入企業数もトップクラスを誇ります。
政府としても企業の脱炭素化を積極的に支援しており、具体的な取り組みを促進するために環境省では「中小規模事業者のための脱炭素経営ハンドブック」を策定しました。さらに、「TCFDに沿った気候リスク・機会のシナリオ分析支援事業」や「サプライチェーン全体の脱炭素化に向けた支援事業」「中長期の温室効果ガス削減目標に向けた支援事業(中小企業向け)」なども実施しています。
(参照:環境省「脱炭素経営の広がり」)
グリーンファイナンスの推進
脱炭素経営へ取り組む企業に対する具体的な支援として、環境省では「地域炭素投資促進ファンド事業」や「グリーンボンド発行促進体制整備支援事業」など、環境に良い効果を与える投資への資金提供を実施しています。
「令和4年度財政投融資計画」では、これらの支援事業を実施する機関へ200億円もの予算が計上されました。
カーボンプライシングの検討
カーボンプライシングとは、CO₂に一定の価格を付与することを指します。
具体的にはCO₂の排出量に応じた「炭素税(地球温暖化対策税)」を徴収したり、企業ごとに一定の排出量上限枠を定め、上限を超過した場合に企業間で排出権を売買する「国内排出量取引」を実現したりする方法があります。
2050年までに脱炭素社会を実現するためには、現行の施策だけでは対策が不十分であることから、経済産業省と環境省が連携しながらカーボンプライシングの導入に向けた検討を行っています。

国際交渉
脱炭素社会の実現は地球規模の課題であることから、日本だけが取り組んでも十分な成果は得られません。そこで、パリ協定をはじめとした国際的な交渉の場へ積極的に参画しながら、世界の国々と歩調を合わせ具体的な方向性を共有しています。
また日本の低炭素技術の普及を通じて世界規模でCO₂排出削減に貢献する「二国間クレジット制度」も、温暖化対策の一つとして挙げられています。ここでは、プロジェクトの実施によって削減されたCO₂排出量が、日本の目標達成に活用される仕組みになっています。
【地域】脱炭素社会の実現へ向けた取り組み
脱炭素社会を目指した具体的な取り組みは、市区町村といった地域単位でも行われています。地域による具体的な取り組みとして、2つの例をご紹介します。
ゼロカーボンシティ表明
「ゼロカーボンシティ表明」は、自治体が、それぞれの地域に適した条件に応じて「温室効果ガスの排出を抑制するための総合的な施策を計画・実施すること」を表明する取り組みです。2022年1月31日時点では、ゼロカーボンシティを表明した都道府県は40、全国の市区町村は490以上に達します。
各都道府県および市区町村が実施している具体的な取組内容については、環境省が取りまとめた「2050年二酸化炭素排出実質ゼロに向けた取組等」で詳細を確認できます。 カーボンニュートラルに関する基礎は以下の記事を参考にしてみてください。

脱炭素先行地域の推進
「地域脱炭素ロードマップ」で掲げられる、「脱炭素先行地域」の推進。再生可能エネルギーによる発電設備の導入をはじめとして、省エネ住宅の普及促進、EVおよびプラグインハイブリッド車の積極導入など、地域の気候特性も加味した施策を複数実行することで、地域の脱炭素モデルを全国に広げる役割を担います。
【企業】脱炭素社会の実現へ向けた取り組み
脱炭素社会の実現にあたっては、国や自治体だけでなく、民間企業の協力や連携も欠かせません。 ここでは企業の取り組みを見ていきましょう。
企業のカーボンニュートラル宣言
グローバル企業がサプライチェーン全体に対して脱炭素化を要請する動きが進んでいる中、国内企業も変化に合わせた対応を求められています。
アメリカの大手IT企業の一つであるAppleも「今後自社製品のサプライチェーン110社以上に対して再生可能エネルギーへの切り替えを促進すること 」を発表しており、今後サプライチェーン全体で脱炭素の動きを推進することが求められるようになると考えられます。
グローバル企業が続々とカーボンニュートラルを表明する中、日本国内では214社の企業が2050年までのカーボンニュートラル目標を宣言しています。(2021年8月時点)
(参照:Apple「Apple、サプライヤー110社以上の再エネへの課題解決に協力」、経済産業省「世界全体でのカーボンニュートラル実現のための経済的手法等のあり方に関する研究会 中間整理」)
RE100やSBTを通じた脱炭素経営
RE100とは、企業が自社の事業で使用する電力をすべて再生可能エネルギーで賄うことを目指す国際的な枠組みです。これにはAppleをはじめとした世界的な企業も多く参画しており、日本の参画企業数はアメリカに次ぐ56社(2021年7月時点*)となっています。
また科学的な観点から中長期の目標設定を促す枠組みであるSBTにも、日本ではアメリカに次ぐ117社(2021年7月時点*)が参画しています。
(*参照:環境省「脱炭素経営の広がり」、「企業の脱炭素経営への取組状況」)
現在、ESG投資は世界の投資家から注目されており政府も推進している立場にあります。企業が脱炭素経営に取り組むことは、持続可能な成長を遂げられる企業であるとステークホルダーにアピールし、企業価値を高める意味合いもあるといえます。

環境設備・技術の導入
太陽光発電などの再生可能エネルギー発電設備の導入をはじめ、ビル内の電力監視とエネルギー消費内訳を分析し、ピーク時間帯の消費電力を削減する技術を導入した企業もあります。
さらに身近な例としては、屋根や外壁へ遮熱性の高い塗料を塗布することで空調効率を高めたり、二重ガラスを採用することで断熱性を高めるなど、設備の改善に取り組む方法もあります。
オフィス環境や業務の見直し
拠点ごとのCO₂排出量の可視化やペーパーレス化、LED照明導入、センサーによる照明・空調の制御、照度や室温設定の見直しなど、様々な取り組みがオフィスの脱炭素化につながります。
なお、各業界における具体的な取り組み事例については、こちらの記事をご覧ください。

まとめ
脱炭素社会とは、二酸化炭素の排出「実質ゼロ」を実現した社会を指し、地球規模の気候変動を防ぐためにも世界全体で取り組む必要がある目標です。脱炭素社会を実現するための施策として、国は地域・企業の取り組みを推進する仕組みづくりの検討を進めています。
こうした状況を背景に、企業においては脱炭素経営の目標および戦略策定から業務の見直し、技術開発まで、様々な取り組みをサプライチェーン全体で実施していく必要があるでしょう。