脱炭素とは?各国の目標から日本の現状まで、基礎知識を解説
サステナビリティ入門 カーボンニュートラル
私たちの経済活動や日常生活に伴って排出されている温室効果ガス。気候変動の原因の一つであると言われている温室効果ガスの削減に向け、世界各国で様々な取り組みが進んでいます。
今回の記事では、温室効果ガス排出量の削減のために注目されている「脱炭素化」について解説。脱炭素の定義から世界の現状、脱炭素化に向けた具体的な取り組みまで紹介します。
「脱炭素」とは
はじめに脱炭素の定義と、取り組みが求められるようになった背景について解説します。
温室効果ガスの排出を「実質ゼロ」にする取り組み
脱炭素とは、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出を「実質ゼロ」にすることを指します。
深刻な気候変動を食い止めるために、温室効果ガスの排出量を削減しようと世界各国が取り組んでいますが、人間が生活や経済活動を行う上で、排出を完全になくすことはできません。そこで温室効果ガスの排出量をできる限り抑制するとともに、森林などによる「吸収量」や技術を活用した「除去量」を高め、両者を均衡させることで排出を「実質ゼロ」にすることが目指されているのです。
脱炭素化が求められる理由
全世界で脱炭素化が求められるようになった背景には、地球温暖化の急速な進行という課題があります。近年では気候変動が原因とみられる自然災害が頻発し、農作物の収量の不安定化による食糧危機が起こるリスクも懸念されています。
こうした事態が深刻化することを防ぐためにも、特定の国や地域だけでなく世界共通の課題として温室効果ガスの排出削減に取り組む必要性が認識されてきているのです。
2015年のパリ協定では「産業革命後と比較して世界の気温上昇を2℃以内に抑える」という長期目標が設定され、かつて掲げられていた「低炭素社会」以上に温室効果ガスの排出を抑えた「脱炭素社会」が目指されるようになりました。
脱炭素化を目指す世界の現状
2015年に締結されたパリ協定には、米国や中国といった主要排出国を含む159の国と地域が参加し、世界全体の温室効果ガス排出量の86%をカバーする規模となりました。パリ協定を機に、各国はどのような目標を掲げて取り組んでいるのでしょうか。
世界各国の目標
世界の主な国々では、脱炭素化に向けた温室効果ガスの排出量削減目標を次のように定めています。
国名 | 目標 |
日本 | ・2030年度までに▲46.0%(2013年度比) ・2050年カーボンニュートラル |
アメリカ | ・2050年までの温室効果ガス排出ネットゼロ |
イギリス | ・2030年までに少なくとも▲68.0%(1990年比) ・2050年に少なくとも▲100.0%(1990年比) |
EU | ・2030年に少なくとも▲55.0%(1990年比) ・2050年カーボンニュートラル |
中国 | ・2030年頃に二酸化炭素排出のピークを達成 ・2030年までにGDPあたりの二酸化炭素排出量を60~65%削減(2005年比) ・2060年までにカーボンニュートラルの実現を目指す |
アメリカはトランプ政権時にパリ協定から離脱していましたが、2021年2月に復帰が認められました。従来、米国は「2005年比で▲26〜28%」という目標を掲げていましたが、パリ協定への復帰と同時に目標が見直され、当初よりもより厳しい削減目標が掲げられています。
脱炭素社会の実現に向けた日本の現状
日本は2050年までに脱炭素社会を実現するために、中期目標として「2030年度までに、2013年度比46%削減する」という大きな数値を掲げています。現時点での進捗と実現に向けた取り組みについてみていきましょう。
温室効果ガス排出量は減少傾向に
出典:環境省「2020年度(令和2年度)の温室効果ガス排出量(速報値)について」(最終アクセス 2022/12/9)
日本の温室効果ガス排出量は、2013年の14億800万トンをピークに減少を続けてきました。 2020年の排出量は11億4,900万トンで、2013年比で18.4%、前年比では5.1%もの削減に成功しています。
日本が掲げる5つの戦略
温室効果ガスの排出量は順調に減少を続けているものの、2050年を目処に排出量ゼロを実現するためには、さらなる取り組みの加速が不可欠です。そこで、日本では「エネルギー」「産業」「運輸」「地域/くらし」「吸収源対策」の5つの領域で戦略を掲げ、取り組みを進めています。
エネルギー
日本の温室効果ガス排出量のうち、火力発電をはじめとしたエネルギー起源CO₂が占める割合が約9割におよんでいることから、エネルギーは5つの中でも特に重要な分野といえます。
エネルギー起源の温室効果ガス排出を抑制するために、「エネルギー供給の低炭素化」と「省エネルギー化」の2つが大きな柱として掲げられました。
特にエネルギー供給の低炭素化では、再生可能エネルギーや原子力発電など非化石電源比率の引き上げや低炭素燃料への転換などを中心に取り組み、2030年には非化石電源の比率を44%にまで引き上げるとしています。
産業
多くの産業分野では、技術・経済的な観点から既存の製造プロセスを代替できるものが存在しない課題があります。そこでこれまでの技術の延長線上ではなく、イノベーションを通じて新たな生産プロセスを確立し、「脱炭素化ものづくり」を実現することが目指されています。
具体的な方策としては「CO₂フリー水素」を活用し従来の化学反応による大量排出を抑えることや、温室効果ガスを「カーボンリサイクル」などによって原料として活用することが検討されています。
運輸
自動車からの温室効果ガス排出量を抑制するために、日本ではこれまで公共交通機関の利用促進や物流の効率化、次世代自動車の普及促進などに取り組んできました。しかし国は、脱炭素社会を実現するために “Well-to-Wheel(油田からタイヤの駆動まで)”、つまり走行時だけでなく「ガソリンや電気などを製造する過程」まで含めた脱炭素化を進める必要性に言及。全過程トータルでのCO₂削減を目指す方針を掲げています。
地域・くらし
人口減少が進む日本においては、地域住民が永続的に住み続けられるような「地域循環共生圏」を創造していくことが重要です。具体例として、バイオマスや営農型太陽光発電といった再生可能エネルギーを地域内で活用し、近隣地域へも供給することなどが挙げられています。
吸収源対策
日本の国土のうち7割を占める森林は、温室効果ガスの吸収源としても重要な役割を果たします。そのため、自然環境の保全は脱炭素化に向けて重要な取り組みの一つであり、間伐や再造林といった森林整備を進めていく必要があります。また山間部だけでなく都市部から排出される温室効果ガスを抑えるためにも、都市緑化の活用も重要な対策として位置付けられています。
国・地域・企業で取り組みを推進
5つの戦略をはじめとして、国では脱炭素化に向けて様々な取り組みを推進しています。また県や市区町村といった自治体においても、脱炭素化に向けた動きは加速しており、2050年二酸化炭素実質排出量ゼロに取り組むことを表明する「ゼロカーボンシティ」の自治体が増えています。
さらに世界の投資家の間では、「環境・社会・ガバナンス」の3要素を考慮したESG投資が注目されており、この潮流を受けて脱炭素化に向けた戦略や取り組みを経営に組み込む企業も少なくありません。

クライアント企業の要望が高まる中、脱炭素に対応していない企業は取引ができなくなる可能性もあるほか、税金が高くなるケースもあることなどを背景に、企業における脱炭素化に向けた取り組みは今後更に加速していくと見られています。
まとめ
脱炭素とは、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出「実質ゼロ」を目指す取り組みのことです。
日本では「2030年度までに46%削減、2050年に脱炭素社会の実現を目指す」ことが目標として掲げられており、国や地域、企業で様々な取り組みが進められています。
気候変動による自然災害が頻発している昨今、更に地球温暖化が進めば農作物の収量が低下し深刻な食糧問題にまで発展する可能性があります。このような問題を回避するためにも、すべての企業が自分ごととして捉え、脱炭素化に向けて積極的に取り組んでいく必要があるのです。